分野 肝胆膵外科

当科では肝胆膵領域の良性疾患(胆石症や先天性胆道拡張症など)から悪性疾患(癌や膵嚢胞性腫瘍など)まで幅広く扱っています。低侵襲手術に力を入れており、ロボット支援下膵切除も保険診療で行っております。また、2023年1月より、ロボット支援下肝切除も開始しております。当院は都内で22施設(23区以外では3施設)しかない日本肝胆膵外科学会高度技能専門医認定修練施設(A)に認定されています。

 外科、消化器内科、放射線科、病理検査科の合同で、毎週、術前・術後カンファレンスを行っており、患者様にベストな治療が提供できるよう努めています。術後の振り返りも行っており、肝胆膵診療チームとして常にレベル向上を目指しています。消化器内科では超音波内視鏡下穿刺吸引法や、胆道内視鏡下生検などが施行されており、胆膵悪性疾患の正確な診断が可能です。また、他の診療科との密な連携により、合併症のある患者様にも十分な評価の上、対応しています。

肝がんについて

肝癌には、肝臓自体から発生する原発性肝癌と他臓器の癌(大腸癌や胃癌など)が肝臓に転移してできる転移性肝癌があります。原発性肝癌には肝細胞から発生する肝細胞癌と、胆管より発生する胆管細胞癌があります。

肝細胞癌

肝細胞癌は、原発性肝癌の大部分(およそ9割)を占め、その多くは肝硬変や、B型肝炎、C型肝炎などの慢性肝疾患がある人に発症します。治療は様々な方法がありますが、肝機能がどの程度保たれているか、腫瘍の数やその大きさ、部位によって方針が決まります。当院で施行している治療についてご説明します。

1. 外科的肝切除

肝機能が保たれていて、腫瘍の数が少ない場合に選択されます。最も根治性(病気が根本的に治る可能性)が高い治療です。最近では、安全に切除できると想定される患者さんについては腹腔鏡下肝切除が行えるようになり、手術によるご負担を軽減できるようになりました。また、今まで手術が難しいとされていた肝機能の悪い患者さんにも、腹腔鏡の低侵襲性を生かして治療を行えるようになって来ました。

2. ラジオ波凝固療法

肝機能がやや低下している方で、腫瘍の大きさが小さく(3cm以内)、数も少ない(3個以下)場合に選択されます。超音波検査で確認しながら、安全に穿刺できる経路があれば、皮膚から治療用の針を刺入して、高周波電流による加熱により腫瘍を凝固させる治療です。また、皮膚からのアプローチが困難な場合には、腹腔鏡を用いて治療を行うこともあります。焼灼した局所での再発や、播種性(肝内に散らばってしまうこと)の再発の可能性があることや、場所によっては隣接する胆管などの損傷の可能性があることなどより、適応を慎重に決めています。

3. 肝動脈塞栓化学療法、化学療法、肝移植

肝機能がやや低下している方で、腫瘍の大きさが大きく、数が多い(4個以上)場合に選択されます。肝細胞癌は肝動脈の枝から養分をもらっています。この腫瘍を栄養する動脈から抗がん剤や塞栓物質を注入し、治療する方法です。肝機能や腫瘍の状態で、手術や局所療法が難しい場合にも治療ができます。当院では熟練した放射線科医が治療にあたります。足の付け根部分に動注用の小さい容器を埋め込んで、ここから比較的短期間に動注化学療法を繰り返す治療なども行っています。また最近ではソラフェニブ(内服薬)という分子標的治療薬も保険適応となり、切除が困難な方などへの選択肢の一つとなっております。
この他、上記の治療ができないほど肝機能が不良な場合に肝移植が選択されることがありますが、当院での対応は困難なことから、他院に紹介させて頂くことになります。

胆管細胞癌

肝細胞癌と異なり、手術治療が主たる治療法になります。

転移性肝癌

転移性肝癌とは他の臓器(原発巣といいます)に発生した癌細胞が血液の流れに乗って肝臓に転移した状況です。肝切除を行うことによって治癒を期待出来る場合があります。

1. 外科的肝切除

肝切除の効果がエビデンスとして確認されているのは大腸癌、神経内分泌腫瘍の肝転移です。その他、胃癌、乳癌、胆道癌、膵癌、婦人科がん、泌尿器科がんなどからの転移にも切除を行うことがあります。正常な肝機能であれば肝臓は70%まで切除可能です。切除が不可能な場合には後述する化学療法によって切除が可能となるよう試みる、あるいは切除予定肝の門脈を塞栓し残る予定の肝臓を肥大させて安全性を確認してから手術を行うなどの方法を用います。手術法には開腹手術と腹腔鏡下手術がありますが、転移性肝癌は肝部分切除で対応出来るため、腹腔鏡下肝切除の割合が多くなってきました。

2. 化学療法

肝切除が不可能な場合には、化学療法を行って腫瘍を小さくし、切除が可能となるよう試みます。この治療によって切除が可能になった場合、もともと切除が可能だった患者さんと同程度の治療成績が期待出来るようになりました。たまたま、病院に来ていただくタイミングが遅くなり、病気が進みすぎてしまって手術が出来なくなった患者さんが、化学療法によって手術出来るところまで時間を遡るという、タイムマシーンのようなイメージです。

3. ラジオ波凝固療法

ラジオ波凝固療法は治療した場所の再発(局所再発)が問題となることから、当院では手術的治療を第一選択としていますが、状況によりラジオ波凝固療法をお薦めすることがあります。

胆道がんについて

胆道とは肝臓で作られた胆汁(脂肪の消化に関連する)が十二指腸に流れるまでの通り道であり、ここにできた癌を胆道癌といいます。
胆道癌はできた場所により、胆管癌、胆嚢癌、十二指腸乳頭部癌に分類されます。

肝門部領域胆管癌

肝臓に入る2種類の血管(肝動脈、門脈)と肝臓から出る胆汁の通り道である胆管が絡み合う部分の癌で、治療には、癌である胆管と一緒に肝臓も切除することが必要となります。肝臓側への癌の広がり具合で、右側の肝臓を切除したり、左側の肝臓を切除したり、真ん中部分の肝臓を切除したりといろいろな術式が考えられます。癌を取りきることが大切であり、状況により血管合併切除などを行うことがあります。切除後に残る肝臓の容積が不足している場合には門脈塞栓術(切除側の肝臓の門脈を詰めてしまうことで、残す肝臓を大きくする処置)を行って手術の安全性を高めるようにしています。

遠位胆管がん、十二指腸乳頭部癌

肝外胆管の中でも十二指腸への出口に近い胆管あるいは出口にできる癌で、膵臓の頭部(十二指腸側)とともに十二指腸も切除する、膵頭十二指腸切除術という手術が必要となります。消化管手術の中でも大きな手術です(当院ではクリニカルパスを導入しています)。 また適応が限られますが、中部胆管癌の場合は肝切除や膵頭部切除をせずに、胆管のみをリンパ節と一緒に切除することもあります。

胆嚢癌

胆汁の通り道である胆管についている袋状の臓器が胆嚢で、肝臓で作られた胆汁を一度ためて、脂肪の消化が必要なときに収縮して効率よく食べ物とまぜる働きがあります。この胆嚢にできた癌が胆嚢癌ですが、癌のできる場所や癌の拡がり方によって手術がことなります。

早期の胆嚢癌では胆嚢摘出のみで治癒が得られることが多く、負担も大きくありません。 しかし、癌が胆嚢壁の筋層を越えて拡がってしまうと急にリンパ節転移の頻度も高くなり、更に進行すると周囲の組織への浸潤も認められるようになります。この場合には肝臓やリンパ節、胆管も一緒に切除する手術が必要になります。肝門部領域胆管癌の部分でも述べましたが、肝臓を切除する量が多い場合には、門脈塞栓術などが必要になることもあります。

胆道癌の化学療法

近年、胆道癌に対して有効な化学療法が確立されつつあります。手術後の補助化学療法をお薦めしています。また、切除不可能な患者さんに対しては化学療法を行い切除が可能となるよう務めています。

膵臓癌について

膵臓はいろいろな消化酵素や内分泌ホルモンをつくる働きがある重要な臓器です。胆管に近い部位に発生した場合には黄疸が出ることがありますが、膵体尾部に発生した場合にはなかなか症状が出にくいと言われています。診断にはCT、MRIなどが行われますが、画像診断で確定診断がつかない場合、超音波内視鏡検査を行い診断を行います。治療法には手術、抗癌剤治療、放射線治療などがありますが、切除が可能と判断された場合は手術を第一に考えます。

手術治療

癌のある部位により(亜全胃温存)膵頭十二指腸切除術あるいは膵体尾部切除を行います。周辺の血管を合併切除しなければならない場合などもあります。病状によっては審査腹腔鏡(腹腔鏡を用いてお腹の中を直接観察し、術前検査で把握出来ないような微小な転移を発見すること)を予め行う場合があります。膵臓の手術の場合には膵液瘻と乳び瘻が重要な合併症で、これらの有無で退院までの日数が大きく異なります。膵液瘻による合併症に動脈が消化されることによる出血があります。この場合には、動脈塞栓術を行って止血を行います。膵液瘻の無い場合には術後18日前後で退院可能ですが、膵液瘻を生じた場合には1ヶ月前後の入院が必要になります。
膵臓の術後には、糖尿病や、下痢、脂肪肝、骨粗鬆症、消化吸収障害などが生じることもありますが、内分泌内科などとも連携し対応しています。

化学療法

1. 術前化学療法

2019年の膵癌診療ガイドラインでは切除可能膵癌または切除可能境界膵癌に対し、手術前に抗癌剤治療などの前治療をすることが推奨されています。切除可能境界膵癌では放射線治療なども併施する場合があります。

2. 術後補助化学療法

手術後に再発予防のために行う抗癌剤治療を、術後補助化学療法といいます。膵癌は、目で見る限りの根治的切除ができた場合でも、再発することの多い病気です。最近になって、手術後に手術の効果を補助する目的で抗癌剤治療を行うことにより治療成績を改善出来ることが判ってきました。このことから、当院では手術後の抗癌剤治療をお勧めしています。

3. 切除不能膵癌に対する化学療法

手術治療が困難な場合には、抗癌剤あるいは放射線の併用による治療が適応となります。これらの治療により手術が可能となった場合には手術をお薦めしています。

その他の膵臓腫瘍について

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN:Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)

膵管(膵臓で作られた膵液が通る管)に粘液を作る腫瘍ができて膵管が拡張してくる病気です。高齢の男性に多いといわれています。主膵管型(主膵管が拡張するタイプ)と分枝型(膵管の分枝が拡張するタイプ)があります。良性か悪性かを100%診断することは困難ですが、主膵管型と一部の分枝型は、悪性の可能性が高く、手術治療が推奨されています。分枝型の手術適応を決めるには超音波内視鏡を施行することが推奨されており(2012年版国際ガイドライン)、当院では消化器内科で行っています。

粘液嚢胞性腫瘍(MCN:Mucinous Cystic Neoplasm)

嚢胞内に粘液が溜まる病気で、ほとんどが女性で、比較的若年(40-50歳代)に多いといわれています。悪性の可能性があり、原則は手術が推奨されます。膵尾部にできやすく、当院では腹腔鏡下手術を積極的に行っております。

膵神経内分泌腫瘍(NET:Neuroendocrine Tumor)

ホルモンを産生に関係する細胞からできた腫瘍で、症状を引き起こすホルモンが過剰に産生されるのが機能性、症状がでないものを非機能性と分類しています。また多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)という遺伝性疾患が関与している場合があり、治療方針も異なってきます。当院では外科、消化器内科、内分泌内科、放射線科などが連携して診断、治療を行っております。

手術症例数・治療成績

肝胆膵外科 ()内は腹腔鏡,ロボット2019年2020年2021年2022年
肝切除53(23)50(29)47(27)43(22)
亜区域切除、区域切除10(6)12(10)9(5)14(7)
2区域切除、3区域切除15(1)5(2)11(4)9(4)
膵頭十二指腸切除33(4)25(2)32(6,1)26(0.7)
膵体尾部切除(膵全摘含む)14(7)20(12)


17(9,3)


16(6.4)

肝胆膵癌治療成績3年生存率(%)5年生存率(%)
胆道癌
stage別
stageI63.1%33.7%
stageII44.8%29.3%
stageIII37.0%37.0%
stageIV33.3%16.7%
部位別
肝門部領域40.2%40.2%
遠位胆管45.3%23.0%
胆嚢56.6%48.5%
十二指腸乳頭部43.8%21.9%
胆道癌全体47.4%33.5%
膵癌
40.3%28.1%
転移性肝癌
肝転移グレード別
腹腔鏡下肝切除A76.2%68.5%
開腹肝切除A63.4%42.8%
B54.0%33.6%
C26.2%4.7%
肝細胞癌
腹腔鏡下肝切除90.4%73.0%

胆石症について

肝臓で作られた胆汁は十二指腸に流れますが、そのとおりみちを胆道(肝内胆管、胆嚢、総胆管)と言います。この胆道の中に胆石が出来る病気が胆石症です。

石のできる場所により肝内結石、胆嚢結石、総胆管結石などと分類します。この中で、胆嚢結石は一番頻度が高く、また多くの総胆管結石の原因となっており、胆石というと胆嚢結石を指すことが多いです。胆嚢結石は肥満、高脂血症、脂肪食をよく食べる人などがかかりやすく、近年の食事の西洋化も要因の一つになっています。一般にやや女性に多く、40から50代以降の年令の方に好発しましたが、最近は20代30代の若い方にも見られるようになりました。

症状はどんなものがありますか?

胆石があっても全く無症状の方も沢山いらっしゃいます。

症状は胆石発作と呼ばれる腹痛が最も一般的な症状です。脂肪食や過労などが発作の誘因となりやすく、みぞおちや右上腹部に強い持続性もしくは間歇性の痛みが起こります。発作は短時間で自然に軽快することもありますが、痛み止めの注射が必要となることもあります。典型的な発作を起こさなくても、右上腹部の重苦しさ、右背部の鈍痛、右肩のこり感などが見られるかもしれません。急性胆嚢炎は胆石発作の重症化したものです。強い持続性の右上腹部痛を認め、発熱を伴います。 

発作に伴って胆嚢結石が総胆管に流れ出てしまう事があります。総胆管結石の状態になる訳です。そのまま十二指腸へ流れ出てしまえば自然に治ってしまいますが、総胆管に引っかかると痛み発作に加えて黄疸や肝機能障害などが起こります。急性胆管炎は胆石により総胆管が閉塞されると生じる事があります。上腹部痛や発熱および黄疸で発症し、急速に進行して敗血症やショックなど重症となります。緊急の治療が必要です。総胆管結石が膵管の出口を塞ぐと膵液がよどんでしまいます。こうして生じる膵炎が胆石膵炎です。胆石膵炎でも重症化する事があります。

どんな検査が必要ですか?

当院では腹部超音波検査とMRCPを胆石症の必須検査としています。

1. 腹部超音波検査(腹部エコー)

お腹にゼリーを塗って小さな装置をを腹部に当てるだけでお腹の中の様子が画面に示されます。肥満の方や胃や腸の中のガスの多い方は見にくいのですが、胆嚢結石の診断率は95%以上です。総胆管は少し見にくいので総胆管結石の診断率は低下します。まず行なわれる検査です。

2. MRCP

磁気を使って体の断層写真を取る検査(MRI)の1種で、条件の設定により胆管や胆嚢内の胆汁および膵管内の膵液を画像にします。胆汁の流れがわかり、総胆管結石の診断や胆嚢と胆管の位置関係の把握に有用で、手術の際の合併症を回避するために有用です。

治療法について

内科的治療

1. 胆石溶解療法

胆石を溶かす薬を飲む方法です。胆汁酸の1種であるウルソデオキシコール酸(ウルソ)などを内服します。純粋なコレステロール結石で胆嚢内だけにあり、大きさ1cm以下のものが対象です。薬は1年ないしそれ以上飲む必要がありますが、結石の消失率はおよそ20%といわれ有効性はあまり高くありません。また長期の観察では再発が多いとの報告もあります。

2. 体外衝撃波破砕療法(ESWL)

体の外から衝撃波をあてて石を砕く方法です。軽い痛みがありますが麻酔の必要はありません。この方法も石の種類により対象が限られ、有効性もあまり高くないこと、破砕した石による発作の誘発も見られること、再発も見られることに注意が必要です。

3. 内視鏡的乳頭括約筋切開術または内視鏡的バルーン拡張術

内視鏡を用いて、総胆管が十二指腸に開口する部分にある乳頭括約筋を切開もしくは風船を使って拡張し、総胆管内の石を取り出す方法です。胆嚢結石症と総胆管結石の両者がある場合には、総胆管結石の摘出を内視鏡的に行い、胆嚢結石に対しては日を改めて腹腔鏡下胆嚢摘出術を行います。

外科的治療

1. 腹腔鏡下胆嚢摘出術

胆石症の治療の主流となった方法です。小さな穴を計3〜4個あけ、カメラやいろいろな道具を用いて、テレビモニターに映った画像を見ながら胆嚢を取ります。胆のうはおへその傷から体外へ取り出します。麻酔は全身麻酔が必要です。開腹胆嚢摘出術より手術時間はかかりますが痛みが軽度で回復も早く、傷もほとんど目立ちません。患者さんの状況にもよりますが、入院当日に手術を行い、術後3日(合計4日)で退院となることが多いです。総胆管に石のある場合は術後7日以上かかることがあります。入院前には入院サポートセンターを受診していただき、薬剤チェック、麻酔科診察、看護師オリエンテーションを受けていただきます。ご希望がある場合にはおへそ1カ所の創で手術することも可能です。

2. 開腹胆嚢摘出術

基本的に腹腔鏡下手術で治療を計画していますが、炎症や癒着が強い場合には開腹術を行います。

3. 手術前に診断されなかった胆のうがんについて

手術前にはわからないような胆のうがんが見つかることがあります。早期の胆のうがんであれば、胆のうを取るだけでほぼ治りますが、ある一線を越えた場合には周囲への転移が起こっている可能性があり、再手術をして肝臓の一部、リンパ節などを追加切除した方が良いと考えられています。追加手術が必要か否かは顕微鏡による検査が必要になります。

4. 術後の後遺症について

胆のう摘出術を受けた患者さんの3割程度に食後の腹痛、下痢が起こるとされています。ほとんどの方は軽症ですが、ごくまれに下痢のために日常生活でお困りの方がいらっしゃいます。