分野 下部消化管外科

下部消化管外科では、大腸がん診療を主体にしており、年間250-300例の初発大腸がん患者さんの手術を行っています。
手術治療は、大腸がんの進行度、患者さんの基礎疾患・意向を総合的に判断し、開腹手術、腹腔鏡手術のいずれかを選択し、安全で質の高い診療を心掛けています。
当科では、大腸がんに対する腹腔鏡手術を約8割の患者さんに行っており、手術症例数・腹腔鏡手術施行率ともに都内トップクラスにあります。
また、当院の特徴として救急診療にも力を入れており、大腸がんに限らず下部消化管関連の救急疾患に常時対応しております。他院では診療困難な高齢者、重篤な基礎疾患のある患者さん、精神疾患を有する患者さんに対しても、専門科と連携し、診療にあたっています。

大腸癌の詳細については、下記癌研究会ホームページの資料を参照ください。

大腸癌の治療を始める患者さんへ(PDF 3.5MB)
もっと知ってほしい 大腸がんのこと(PDF 5.1MB)

以下に当院の治療の特徴を示します。

腹腔鏡手術

普段大腸がんの治療を専門に担当している経験豊富なスタッフを中心に、安全で適切な腹腔鏡手術を実践しています。日本内視鏡外科学会の技術認定取得者2名。

救急診療

東京ER・救命救急センターの診療部門と協力し、常に救急疾患に対応しています。下部消化管の重篤な救急疾患である下部消化管穿孔に対しては、迅速な手術体制をとり、手術後も救命救急医と連携した集中治療を行い救命率の向上に努めています。

  • 大腸癌による腸閉塞や出血など緊急を要する場合は、緊急処置としてステント治療、イレウス管による減圧治療、緊急手術治療を適切に施行し、治療成績の向上に努めています。
  • 大腸ステント治療
    癌の進行で大腸が閉塞すると、便やガスなどが腸管内にたまりお腹がパンパンに張り、腹痛や嘔吐が起こります。放置すると腸が破裂して命に関わる場合もあります。従来は、こうした患者には緊急手術が行われ、一時的に人工肛門を造設することが一般的でした。しかし、緊急手術では術後合併症の危険性が高いことや人工肛門が負担になることがあります。これを回避するための治療が大腸ステントです。筒状の金網(ステント)を閉塞部に挿入し押し広げることにより閉塞症状が改善します。2012年から保険が適応されるようになり当科でも大腸ステント治療を行っています。

肛門機能の温存

癌が肛門の近くにある直腸癌の場合でも、癌の根治性を第一に、超低位直腸低位前方切除術や括約筋間直腸切除術などを行い、肛門機能の温存に努めています。

集学的治療

直腸の進行がんは術後再発率が高く、予後が悪い傾向があります。さらに永久的な人工肛門が必要となることもあります。当院では肛門に近い局所進行直腸がんに対して手術前に抗がん剤治療と放射線治療を行うこともできます。再発率を下げること、肛門を温存できる確率を高めること、不要な側方郭清を省略し排尿や性機能に関わる後遺症を少なくすることが期待できます。しかし放射線治療による肛門機能の低下、手術創や骨盤内感染が増える心配があり適応については慎重に判断しています。さらに腹腔鏡手術を取り入れ、より低侵襲手術を心掛けています。

進行が激しく現状では手術による根治が不可能でも腫瘍の縮小により手術が可能となる可能性がある場合は積極的な抗がん剤治療を行います。治療効果によっては手術ができるようになることもあります。

完治が望めない状況では生活の質を保ちながら苦痛を伴う症状を緩和しながらなるべく長期間体調を保つ目的の抗癌剤治療を行います。当科では大腸がんに対して標準的に用いられるすべての抗癌剤治療(イリノテカン、オキサリプラチン、5-FU、S-1、カペシタビン、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、TAS-102など)に対応できます。

遺伝性大腸がんに対する専門的な対応

大部分の大腸がんは環境因子(生活習慣、食生活など)の暴露が主な成因とされ、大腸に遺伝子変異が蓄積し、加齢とともに罹患率が高まりますが、親から子に遺伝することはありません。一方、大腸がんの中には遺伝するものがあり、遺伝性大腸がんと呼ばれています。50歳未満の若年発症、家族内に大腸がん、子宮体がん、胃がん患者さんが複数いる場合など遺伝性が疑われる方には専門スタッフによる情報提供、カウンセリングを行える体制を整えています。

ストマケア

  • ストーマ(人工肛門)ケア
    当院でストーマ造設術を受けられた方への支援の一環として、ストーマケアを外来で行っています。ストーマ造設後の処置や装具交換、皮膚トラブルの対処法、予防、スキンケアなどを認定看護師がご相談にお答えします。また、ストーマ造設術を行う入院中から退院後(外来)と一貫したストーマケアのフォローアップを行うことで、手術後の生活が手術前と大きく変わらないよう、安心して生活できるような支援を心掛けています。

具体的な治療方針

  • 粘膜内がん:原則として内視鏡治療(内視鏡的粘膜切除術)を行います。
  • 内視鏡治療の適応とならない早期がん:手術治療を行います。手術方法は腹腔鏡下手術です。
  • 進行がん(他の臓器や遠隔リンパ節への転移、腹膜播種がない方):手術治療および術後抗がん剤治療を行います。より重い病期(ステージ)の方には術前抗がん剤治療あるいは術前放射線化学療法をお勧めすることがあります。手術方法は腹腔鏡下手術・開腹手術を病状に合わせて選択しています。
  • 進行がん(他の臓器への転移、遠隔リンパ節転移、腹膜播種がある方):切除可能な場合は、抗がん剤治療と手術治療を適切に組み合わせて治癒を目指します。
  • 切除不可能な場合は、抗がん剤治療が中心となります。抗がん剤治療が奏効した場合は、治癒を目指した手術治療への移行する場合もあります。

当院の治療成績

手術件数 2006年から2015年までの手術件数は下記のごとくであり、経時的に腹腔鏡手術施行率が増加しています。

下部消化管 手術症例数

下部消化管 手術症例数

術後5年以上経過した症例での5年全生存率(2006~2010)を表に示します。
近年は治療技術の進歩(手術方法、治療効果の高い抗がん剤など)により治療成績が向上しています。

大腸癌(結腸癌、直腸癌)(1194例)

病理診断(ステージ)5年全生存率
90.3%
84.9%
Ⅲa76.4%
Ⅲb70.6%
17.7%
  • 全生存率(OS):すべての原因による死亡を対象とします