第6号 血管外科

患者向け広報誌「OKUBO
第6号 血管外科

血管外科  豊福崇浩 医長

大久保病院
血管外科 豊福崇浩 医長

自覚症状のない「サイレント・キラー」、腹部大動脈瘤

心臓から全身に血液を送る重要な器官である、大動脈。中でも肝臓や胃、腸管、腎臓などに血流を送る動脈に枝分かれしていく腹部大動脈は、直径およそ2cm、体の中で最も太い血管のひとつです。その血管の壁が、高血圧や動脈硬化、感染症、外傷などによってもろくなったり傷付いたりすると、血管そのものが膨らんだり、風船のような瘤ができたりすることがあります。これが腹部大動脈瘤で、全大動脈瘤の3分の2を占めるとされています。
瘤の直径が5cmを超えると破裂する危険性が高まり、万一破裂してしまうと8割以上が亡くなってしまう恐ろしい病気です。しかし、瘤ができただけでは自覚症状がほとんどないため、「サイレント・キラー」とも呼ばれています。

命に関わる血管の瘤を、開腹手術せずにカテーテルで治療

破裂前に瘤が発見された場合、その大きさや全身状況から治療法を判断していきます。破裂の危険性が高い場合、開腹手術をして人工血管に置換するのが標準的な治療となります。数多くの実績がある確立された治療法であり、手術後の状態も安定しています。
しかし、15cm〜30cmの切開が必要なため傷が残りやすく、また4〜5時間に及ぶ大手術となり、高齢者や他の疾患を持つ患者さんには負担が大きい面があります。そこで近年、施術数が増えているのが、足の付け根の血管からカテーテルを挿入して患部に人工血管を装着する**「ステントグラフト内挿術」**です。金属製の網のような骨組みを持つ人工血管を、細い筒状に畳んだ状態で患部まで挿入し、そこで膨らませて、傷んだ血管を内側から覆ってしまう、というものです。当院でも2019年から取り組みを開始しました。
この方法ですと、足の付け根の血管に直径7mmほどの針を刺すだけで切開の必要がなく、施術も2時間程度で終了します。術後の経過観察とCTによる確認が必要なため、一週間は入院していただきますが、多くの患者さんが施術の2〜3日後には院内を自由に散歩するほどに回復します。

血管外科

ステントグラフト内挿術なら、高齢者でも治療可能

身体への負担が少ない一方で、2006年に厚生労働省が承認した治療法であり、日本では開腹手術ほど多くの長期の経過観察実績がありません。器具や技術の急速な進歩により安全性は日進月歩で高まっているものの、傷んだ血管を完全に交換する従来の治療法に比べれば、血液の漏出や瘤の増大が起きるリスクは残ります。長期にわたり、フォローアップのCT検査を必要とするため被曝の心配もあります。そのため、比較的若く体力のある患者さんには、長期的な観点から開腹手術が推奨されています。当院の実績でも、「ステントグラフト内挿術」を受けた患者さんの平均年齢は80歳を越えています。
逆に言うと、以前なら開腹手術そのものが難しかった高齢の患者さんでも、この方法なら治療が可能だということです。海外では、年齢にかかわらず「開腹手術からステントグラフト内挿術へ」という流れが顕著になっており、日本でも治療実績が蓄積されることで、さらに多くの方がより負担の少ない手術を選択できる可能性も高まっています。

早期発見が治療のカギ。喫煙経験者はぜひ検査を

腹部大動脈瘤にならないことが何より重要なのは言うまでもありません。ほとんど自覚症状がなく、いざ破裂したら生命の危機に直結する病気ですので、予防と早期発見が非常に重要となります。
この病気は、「喫煙経験のある高齢男性」の発症が目立って多いことがわかっています。たとえ禁煙していても、過去に喫煙歴がある場合は要注意です。遺伝も関係しており、女性でも発症します。当院で治療した事例の、およそ4分の1は女性です。喫煙経験のある方、高血圧の方、親族に動脈硬化や突然死などがあった方は、60歳を過ぎたら健康診断等で腹部エコー検査を受けることを強くお勧めします。
瘤の成長は年間1〜2mmですので、たとえ直径3cmの瘤が見つかっても、破裂が危惧される直径5cmになるまでには10年以上の猶予があります。投薬による血圧のコントロールや生活習慣改善などを行って経過を観察し、仕事や家庭の状況を考慮しながら治療のスケジュールを組むことができます。早期発見すれば、必要以上に恐れる病気ではありません。当院では、3名の医師がチームを組み、外来から手術までを一貫して担当するため、臨機応変な素早い対応ができるのが大きな強みです。健康診断などで血管の不安が見つかった方は、ぜひご相談ください。


★詳しくは、血管外科のウェブページをご覧ください。