分野 肥満・減量外科

当院は肥満症外科手術認定施設(日本肥満症治療学会)です。

http://plaza.umin.ne.jp/~jsto/index.html(外部リンク)

はじめに

肥満症・メタボリックシンドロームは世界的に流行しており、生命予後を短縮する病気です。
日本では体重(kg)を身長(m)の2乗で割ってえられるBMI(Body Mass Index)25以上を肥満と呼びます。BMI25以上に加え肥満が原因でおこった健康障害が1つ以上ある、あるいは内臓脂肪が過剰に蓄積している、このいずれかがあれば肥満症と診断されます。肥満関連健康障害は脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群、骨・関節疾患、月経異常、不妊、肥満関連腎症など多岐にわたり、中でもメタボリックシンドロームとして代表的な耐糖能異常・2型糖尿病、脂質異常症、高血圧は心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病合併症(網膜症・腎症・神経障害)へとつながります。大腸癌や乳癌などの悪性疾患にもかかりやすくなります。日本も例外ではなく着実に肥満人口は増加しています。また特徴として日本人は欧米人よりも軽度の肥満で糖尿病に移行することが知られており、糖尿病人口も上昇の一途(日本人の6人に1人)をたどっています。そういった肥満症に対する治療として図1のピラミッドが提唱されています。生活習慣の改善を基本とし、BMIが増加(体重増加)するにつれ、薬物療法、それらが有効でない場合、手術治療が選択肢として挙げられます。いわゆる高度肥満(注)(BMI35kg/m2以上)に対する手術治療は欧米を中心にスタンダードな治療であり、日本でも2014年4月より保険収載されました。英語でBariatric and metabolic surgery、日本語で減量・肥満・代謝外科(メタボリックサージェリー)といいます。

高度肥満とは?

図1 肥満症治療のピラミッド
肥満症治療を説明したピラミッド図です。上から「手術」「薬物療法」「生活習慣の改善(食事療法・運動療法)」となっています。

減量・肥満・代謝手術とは?

1950年代からこの手術が行われている欧米ではBMI35kg/m2以上の肥満症に対する外科手術は一般的であり、高い治療効果が証明されています。現在米国では、年15万件以上行われています。過剰体重の50-80%を減らし、糖尿病の55-95%を著明に改善することがわかっています。その他、脂質異常症、高血圧、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群などに対しても高い治療効果をもたらします。医療技術の発展により可能となった腹腔鏡により低侵襲(体への負担が少ない)手術が可能となっています。具体的には腹部に5-15mmの穴を5-6箇所あけて、カメラや手術器具を挿入して行う手術です(図2)。従来の開腹手術に比べて痛みが少ない、回復が早い、美容的に優れているなどのメリットがある反面、技術的に困難であり、十分なトレーニングと経験を積んだ医師の執刀が必要です。代表的な手術の方法は、図3のように様々ありますが、2014年4月より日本で医療保険の適応となった手術は腹腔鏡下スリーブ状胃切除(図3:赤枠)です。胃の外側部分を80%程度切除し管状に形成する手術です。

スリーブ状胃切除術のメリット

  • 胃が小さくなることにより摂取カロリーが制限されます。初期の体重減少につながります。
  • 消化管ホルモン(グレリン、GLP-1など)の分泌が変化することにより、食欲抑制や糖代謝の改善がみられます。体重減少効果の維持につながります。
  • バイパス手術と異なり、栄養吸収経路は変わりません。
  • 術後に胃や胆管の検査が通常通り行えます。
  • 治療効果、安全性ともにバンディング術、バイパス術の間に位置し、良好な短期成績が報告されています。

スリーブ状胃切除術のリスクとデメリット

  • 胃を切除するため、元に戻すことはできません。
  • 形成した胃がねじれたり、狭くなったりすることで、食物通過障害がでることがあります。持続する嘔気や嘔吐が見られます。
  • 手術後に適した食事習慣が身につかないと、十分な体重減少が得られないことがあります。また栄養障害が起こることもあります。
  • 比較的新しい手術であり長期成績(5年以上)は不明です。
  • 胃バイパス手術ほどの体重減少効果、代謝疾患改善効果はないと考えられます。
  • 一般消化器手術の合併症がおこりえます。出血、縫合不全、感染、胃管狭窄、血栓塞栓症、肺炎、心・腎合併症、死亡などが報告されています。再手術が必要となる場合があります。
開腹による従来の手術の際の傷の位置を説明している図です。
図2 開腹による従来の手術
腹腔鏡による手術の際の傷の位置を説明している図です。
腹腔鏡による手術
胃バイパス術、胃バンディング術、スリーブ状胃切除術、胆膵バイパス術を説明している図です。
図3 減量・肥満・代謝外科手術

手術適応について

6か月以上の内科的治療によっても、十分な効果が得られないBMIが35以上で糖尿病、高血圧症、脂質異常症または睡眠時無呼吸症候群のうち1つ以上を合併している方、としています。

以下の場合手術が適当となりません。

  • 手術や全身麻酔が受けられない状態(重症心・肺疾患など)
  • 二次性肥満…病気や身体機能の異常によっておこる肥満
  • コントロール不良の神経・精神疾患がある場合
  • 薬物依存症
  • 手術前後の栄養療法がうまくいかないと判断された場合

これまでの治療成績

2016年までに当院で腹腔鏡下スリーブ状胃切除を受けられた患者さんの体重変化を以下のグラフに示しました。術後1年の平均で実体重の30kg以上、過剰体重の80%近くの減量治療が可能でした。肥満関連健康障害である糖尿病、高血圧症、脂質異常症、関節炎、睡眠時無呼吸症候群は全例で著明に改善し、「手術を受けてよかった」、という感想をいただいています。これから長期にわたり患者さんを支えていくと同時に、より多くの方にこの治療の恩恵を受けていただきたいと思っています。

術前〜術後1年の治療成績のグラフ画像です。
キャプション(編集は画像ボタンから)
  • 超過体重減少率(%)=(術前体重-術後体重)/(術前体重-BMI25体重)*100

肥満外科治療チーム

当院では、内分泌代謝内科と合同で肥満症の診療を行っており、管理栄養士・臨床心理士・看護師・精神神経科との連携による チーム医療(図4)を行っており、患者さんにとってベストな治療法を選択し、支えていきます。チーム医療ABCの概念を取り入れ、チームAはEBM(Evidence-based medicine)とコンセンサスに基づき直接の医療を提供します。チームBは対話型ケアを通して患者さんのニーズをサポートし、チームCは患者さん及びチームABを包括的にサポートします。このチーム医療と患者さんとの連携はとても大切です。 手術を受けただけで、体重が大きく減るということはありません。手術前から食事療法、運動療法を開始し、ライフスタイルを大きく変えることが治療の土台であり治療成功のキーとなります(図1:肥満症治療のピラミッド)。手術が「おおきなきっかけ」となることは確かであり、当院での肥満症治療専門チームが手術前後を通してサポートしますが、何より、患者さん自身の努力と周りの方々(家族、友人)の協力がとても大切です。当院では医療者だけでなく、患者さんを含めたチーム医療体制により患者さんをいろいろな角度から長期的にサポートし、治療成功へとつなげていきます。

図4 チーム医療のABC

手術までの流れ

手術までの流れを表した図です。「来院予約→初診(減量・肥満・代謝外科)→内科診察・栄養指導・臨床心理士面談→術前検査→チームカンファレンス→術前減量のための栄養指導→手術」となっています。
手術までの流れを表した図

手術と入院

個々の患者さんの状況により異なりますが、手術後7-10日での退院となります。手術前の内科入院が必要な場合があります。手術翌日から水分摂取を開始し、流動食中心の食事を始めます。胃を小さくしていますので、一日に必要な水分量、食事量を摂取するためには練習と意識付けが必要です。管理栄養士による指導の下、十分な経口摂取ができることが退院のための一つの指標となります。

退院後の生活・通院について

退院後の食事は、手術後2週間を目安に流動食中心のものから固形物の摂取を段階的に進めていきます。栄養素を補うため、毎日のサプリメント服用が必要です。管理栄養士による指導を受けていただきます。手術後は痛み止めの常用、喫煙により潰瘍ができる場合があるため、気を付ける必要があります。退院後は、1か月、2か月、3か月、6か月、9か月、12か月、18か月、24か月、36か月、48か月、60か月の定期外来受診をお願いします。

高度肥満とは?

高度肥満とはBMIが35kg/m2を超えた状態(例:身長160cm体重90kg)であり、内科的治療・食事制限・ダイエット・運動で十分に減量し、維持することは困難です。過剰に蓄積した脂肪組織が上記の様々な健康障害を引き起こし(病的肥満といいます)、QOL(生活の質)を低下させ、冠動脈疾患・脳梗塞などの心血管疾患により寿命が縮まる原因となります。様々な研究により、減量手術をうけることにより体重減少を維持し、糖尿病・心血管疾患・癌による死亡率が減少することが分かっています。

はじめて受診される方へ

手術を受けたい、もしくは手術に関心があり話を聞いてみたいという方は以下の要領でご予約ください。

  1. 紹介状有り
    当院予約センター(042-323-9200)を通じて予約をお取りします。減量外科(肥満手術)の診療と伝えてください。
  2. 紹介状なし
    当院予約センター(042-323-9200)にお電話をいただき、外科外来で対応させていただきます。減量外科(肥満手術)の診療予約の旨をお伝えください。いくつか質問をさせていただき、担当者より折り返しお電話をさせていただきます。

お問い合わせ

受診予約以外のお問い合わせは当院外科外来にてお受けしております。担当者より折り返しお電話をさせていただきます。

手術までの流れ

1. 初診

  • 外科診察
    問診、診察にて、体重評価、これまでの経過、既往歴、肥満関連健康障害の有無と程度などをお聞きします。また手術の動機、術後のイメージと目標についてもお聞きし、手術治療の実際をご説明します。
  • 内科診察
    肥満症・糖尿病治療を専門とする医師の診察を受けていただきます。二次性肥満の除外、肥満関連健康障害の診断と治療を行います。
  • 栄養指導
    食生活全般のアセスメントを行います。食行動、摂取カロリー、嗜好などを知ることで、手術前後の栄養指導を効果的に行います。
  • 臨床心理士面談
    心理社会的アセスメントを行い、現在の問題の評価、そして手術前後に患者様を支える体制が十分であり、治療が順調に進むようサポートしていきます。

2. 術前検査

  • 採血検査
    全身麻酔での手術を受けるための一般的な採血検査のほか、肥満症関連項目についても評価します。
  • 腹部CT検査
    脂肪肝、内臓脂肪量、皮下脂肪量の評価を行います。また腹部手術の際のスクリーニングとしても必要と考えています。
  • 上部消化管検査
    胃の手術となるため必須の項目です。胃病変の有無、食道裂孔ヘルニア、逆流性食道炎の有無を確認します。
  • その他
    手術に必要な心電図、呼吸機能の検査を行います。重要なものとして、睡眠時無呼吸症候群の検査があります。減量手術の適応となる多くの方が睡眠時無呼吸症候群を持っており、術後合併症の原因となります。術前に必ず検査いただき、必要であれば治療導入を行います。

3. チームカンファレンス

体の状態だけでなく、心理社会的状況も考慮し、手術がベストな選択肢となりうるかを専門チームにて検討します。

4. 術前減量のための栄養指導

術前の体重減少は手術リスクを低下させるために必須であり、カロリーを制限した栄養指導を行います。術前の栄養指導がうまくいかない場合、手術ができない場合があります。