肝臓は沈黙の臓器といわれ、がんが小さなうちは症状がありません。腹部膨満感、上腹部痛、背部痛、下肢や全身のむくみ、食欲の低下、体重減少、黄疸などは進行した大きながんの症状であることが多く、症状がでてからでは治療も困難です。また、がんが進行すると黄疸、腹水など終末期の症状がでてきます。
肝臓がんは慢性肝炎や肝硬変から発生しやすく、とくに、B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、肝硬変はがんが発生しやすい状態です(高危険群)。したがって定期的な検査を受けることが早期発見の近道です。慢性肝炎なら6ヶ月毎に、肝硬変なら3ヶ月毎に検査を受ける必要があります。また、慢性肝炎を治療すれば肝硬変、肝臓がんへの進展が阻止されます。
血液検査と腹部超音波(エコー)検査やCTまたはMRI検査が主になり、これらを組み合わせて行なわれます。
1. 血液検査
AST(GOT)、ALT(GPT)、ALP、γ-GTP、血清アルブミン、凝固能(プロトロンビン活性)などの項目がよく用いられます。B型、C型などの肝炎ウイルスの検査も重要です。また、腫瘍が産生するタンパクを腫瘍マーカーといい、アルファフェトプロテイン(αFP)、PIVKA-IIなどの測定が、肝細胞がんの発見に役立ちます。しかし、小さながんでは腫瘍マーカーは正常範囲のことが多く、2cm以下のがんで腫瘍マーカーが陽性になるのは3割程度です。
2. 超音波検査(エコー)
最も簡便で、解像力の高い検査です。体に害がなく苦痛もありません。正常な肝臓と腫瘍などの組織での音波の反射の差を映像化して描出します。魚群探知機の原理です。数ミリ程度の小さながんも診断できます。しかし、体の浅いところ、深いところ、胃や腸にガスの多い患者さんでは病変がみえにくくなるため、CTやMRIなどの検査が必要となります。最近は、超音波専用の造影剤を用いて、腫瘍の描出、鑑別や治療効果の判定を行っています。手術中にも超音波検査が行なわれ(術中超音波検査)、術前に診断できなかった小さな病変を発見することができます。
3. CT検査
X線を用いた断層撮影で、人体を輪切りにした像を映しだします。1cm程度の小さながんを診断できますが、早期の肝細胞がんは映らないことがあります。ヨード(造影剤)アレルギーのある人は、MRIなど他の検査を受けたほうがよいでしょう。
CTは検査時間が短く、情報量が多いため腹部エコー検査とともによく利用させています。成熟した典型的な肝細胞がんであれば描出可能であり、病気の拡がり、鑑別診断などが可能です。
CTは検査時間が短く、情報量が多いため腹部エコー検査とともによく利用させています。成熟した典型的な肝細胞がんであれば描出可能であり、病気の拡がり、鑑別診断などが可能です。
4. MRI(核磁気共鳴画像)検査
磁場を利用した画像検査です。ヨードアレルギーの人でも受けられ、放射線に被曝しない利点があります。CTと同様に造影剤(ヨードではありません)を使うと、より小さな病巣が描出されます。検査時間がやや長いのが欠点ですが、CTで診断がつかない場合には必要な検査で、CTと同等度の正確さを有する検査です。
5. 血管造影
大腿のつけ根の動脈(大腿動脈)から、カテーテルと呼ばれる細い管を肝臓の動脈に入れて造影剤を注入しながらレントゲン撮影を行ないます。肝臓がんは血液が豊富な腫瘍なので、注入した造影剤によりがんが濃く染まってきます(図)。血管造影と同時にCTを撮るとがんの場所が正確に同定でき、腫瘍の鑑別にも役立ちます。
さまざまな治療法がありますが、がんの大きさ、個数、部位、拡がり、肝予備能(肝機能)、全身状態を考慮して治療を選択します。
1. 手術療法
最も有効な治療法の一つです。3cm以上の腫瘍で、肝機能が良好で手術に耐えられる状態の患者さんに対して行われます。術後管理の進歩により、肝硬変を伴う肝がんの手術を安全に行なうことができます。
生体肝移植はがんの個数が数個以下で肝機能の悪く治療の選択肢がない患者さんで検討されます。ドナー(肝臓の提供者)は健康で比較的若い成人であることが多く、解決しなければならない問題が残されています。
生体肝移植はがんの個数が数個以下で肝機能の悪く治療の選択肢がない患者さんで検討されます。ドナー(肝臓の提供者)は健康で比較的若い成人であることが多く、解決しなければならない問題が残されています。
2. 肝動脈塞栓術(TACE)
肝臓がんは、栄養のほとんどを肝動脈から受けているので、その動脈をふさいでしまう方法です(がんの兵糧攻め)(図)。血管造影検査でカテーテルを目的の肝動脈に進め、そこから抗がん剤といっしょに塞栓物質(ジェルパート、リピオドール)を注入します。副作用として痛み、発熱がみられますが、治療直前に鎮痛剤を投与することで痛みを軽減させるができます。発熱は半数以上の患者さんでみられますが、1~2週間で自然消退します。適時、解熱剤を使用して症状緩和に努めます。
塞栓術はがんが多発している場合、がんが大きく切除やラジオ波焼灼術の適応がない場合に行われ、ラジオ波やPEITと併用して治療を行いことがあります。
塞栓術はがんが多発している場合、がんが大きく切除やラジオ波焼灼術の適応がない場合に行われ、ラジオ波やPEITと併用して治療を行いことがあります。
3. 肝動注化学療法
カテーテルを肝動脈に留置して、動注用ポンプを用い持続的に、抗がん剤を注入します。進行したがんの治療法として行われ、外来通院でも治療できます。
4. 化学療法
ソラフェニブという薬で、がん細胞の細胞内の代謝経路を阻害してがん細胞の増殖を抑えます。1日2回、朝、夕の2回内服するだけです。肝機能が良好な患者さんに使うように推奨されています。外来通院で治療が出来ます。この治療を受けた患者さんは受けない患者さんに比べ6ヶ月の延命効果がみられました。従来の治療とちがって肺や骨などの肝臓以外の臓器に転移がある時に使われますが、最近では他の治療と併用して使われることがあります。
患者さんにやさしい肝がんの治療
当院ではカテーテルを用いた肝細胞がん、転移性肝癌の治療に力をいれています。
1.2ミリという細いカテーテルを使用し、検査後の安静時間は1時間で、患者さんの苦痛を軽減しています。
5. ラジオ波焼灼術(RFA)
皮膚を通して肝臓に針を刺して高周波で熱を加え、腫瘍を壊死させます。エタノール注入と違い一回で治療が終了するため、入院期間を短縮できます。腫瘍径3cm以下、3個以下がよい適応です。腫瘍が肝臓の表面からとび出ているとき、胆嚢、消化管、心臓、肺、腎臓などの臓器に接している場合は危険であり、他の治療を選択することになります。
6. エタノール局注療法
超音波画像を見ながら肝臓に細い針を刺して、針の先が腫瘍の中に入ったらエタノール(100%のアルコール)を注入し、がん細胞を壊死(死滅)させます。皮膚麻酔をして行ないますが、注入直後はエタノールが漏れて痛みが生じます。腫瘍の大きさが直径3cm以下で、3個以内がよい適用で、とくに2cm以下のがんは手術と同程度の治療効果が期待できます。ラジオ波で焼灼ができない部位の治療にも有効です。
7. 放射線治療
近年、放射線治療は肝臓がんの重要な治療法のひとつと考えられています。従来、電子線(リニアック)治療が主体でしたが、陽子線や炭素線などの重粒子線による治療の有用性が認められてきました。とくに、重粒子線照射は短期間で終了できるという長所がありますが、治療は対象は肝のある部分に限局しているが制限されています。