腹腔鏡下肝切除とは?~施術内容とメリット・デメリットの総まとめ~

2018年8月7日 肝胆膵外科

手術風景の写真

はじめに;
腹腔鏡手術は消化管領域など他領域(胆嚢摘出術、胃切除術、大腸切除術など)ではすでに一般的に普及しており、開腹手術に比べて体にやさしい低侵襲な手術として知られています。それに比べて腹腔鏡下肝切除の歴史はいまだ浅く、2010年に腹腔鏡下肝部分切除・外側区域切除術という限定した術式が保険適応となり、2016年になってからより大きな範囲の肝切除や複雑な肝切除に対して、一定の施設基準を満たす施設でのみ保険が認められるようになったばかりです。まだまだ限られた施設で行われているにすぎません。その理由は、肝臓内を走行する大きな血管を露出あるいは切離しながら手術を進める必要があるため、安全かつ確実に行うには高度な技術が必要となるからです。
そのような状況の中で、腹腔鏡手術が果たして本当に安全なのか、メリットがあるのかという疑問や心配をお持ちの方々は多いと思います。
今回は、患者さんが少しでも安心して治療を受けて頂けるように、腹腔鏡下肝切除について詳しく解説します。

目次

肝臓の手術についてのお話

まずは肝臓という臓器に対する手術や治療についての基本事項についてお話します。

①手術対象となる疾患

肝切除術の対象となる疾患は、肝細胞癌、胆管細胞癌(=肝内胆管癌)、大腸癌を中心とする転移性肝癌、肝門部胆管癌などの悪性腫瘍(いわゆる“がん”)や、肝内結石症、症状を有する巨大な血管腫などの良性疾患が挙げられます。

②手術や手術前検査について

疾患によって、あるいは病変の大きさや場所によって、肝切除の方法や切除範囲は異なります。したがって、術前に正確に診断し、適切な治療方法・切除方法を決める必要があります。たとえば、肝門部胆管癌では、肝臓から外に出て十二指腸に繋がっていく胆管を切除する必要があります。転移性肝癌では同時に多数の病変が発生することがあり、複数箇所の切除を行わなければならない場合があります。病変についての情報を詳細に得るために、造影CTや造影MRI検査はほぼ必須の検査となります。
手術後に残る肝臓の機能は、もともとの肝臓の状態と残った体積によって決まります。肝臓が一定以上の機能を失うと、人間は生きていけません。手術前に詳細な検査を行って、患者さんの肝臓の状態を把握し、許容される肝切除量を評価したうえで手術適応を決定します。

③手術以外の治療について

肝細胞癌に対しては、皮膚を通して肝臓の病変を針で刺して焼灼する治療(ラジオ波焼灼療法;RFA)や、癌を栄養している肝動脈内にカテーテルを挿入して抗癌剤や塞栓物質をつめて行う治療(肝動脈化学塞栓療法;TACE)などの代替治療があり、どの治療を選択するか、患者さんごとに適した治療を決定していくことになります。転移性肝腫瘍に対しては、化学療法を行うのがよいのか、肝切除を選択するべきか、また手術のタイミングはいつが最も適しているかを考えながら治療を行っていきます。

腹腔鏡下肝切除についてのお話

一般的に、肝臓の手術は大きな手術と考えられています。その理由として、肝臓は血流が非常に豊富であるため、出血が多くなりやすいことが挙げられます。もう一つの理由は、体における肝臓の位置の問題です。肝臓はおなかの中の最も頭側に位置し、右の肋骨に覆われ、横隔膜に固定された臓器です。安全に手術を行うためには、十分に肝臓が見える状態で操作を行う必要があるため、開腹手術ではどうしても大きな切開が必要であり、時には肋骨の間を切り開く必要があります。それでは、腹腔鏡下肝切除はどのように行っていくのでしょうか。腹腔鏡下肝切除の方法やメリット・デメリットについてお話します。

①腹腔鏡下肝切除の方法

腹腔鏡手術とは、お腹に小さな穴(5-15mm)を4-6か所ほど開け、その穴に手術器具を出し入れする筒を設置して、その筒を通してお腹の中を内視鏡(腹腔鏡)で観察しながら、専用の手術器具を挿入して行う手術法です(図1)。手術操作を行うスペースを確保するために、二酸化炭素を用いてお腹の中を膨らませながら手術を行います。そして腹腔鏡で得られた映像はモニターに映し出され、全員で同じ映像を見ながら手術を行うことができます。そして最後に切除した肝臓は、穴の1つを少し広げるか、新たに数cmの傷を加えて体外に摘出します。

写真
<図1A>
腹腔鏡下肝切除を実際に行っている様子
写真
<図1B>
腹腔鏡下肝切除中に映し出されている映像

切除する肝臓の場所や範囲については、上でも書きましたように病気の種類やできた場所によって決まるため、腹腔鏡手術だからといってこれが変わるわけではありません。あくまで、同じ肝切除を行うためのアプローチの仕方が異なるのみです。
更に最近では、患者さんそれぞれのCT画像データをもとにした3D画像を作成し、手術を行う際の参考にしています(図2)。肝臓の中には無数の脈管(動脈・門脈・胆管・静脈)が走行していますが、それを透かしてあらゆる角度から観察することができます。術前に腫瘍と脈管の位置関係を把握することで、安全な手術を行うことができるようになります。また切除するあるいは残存予定の肝容量の測定もより正確に行うことができます。このようなツールも利用しながら、安全かつ正確に腹腔鏡下肝切除術を行っていきます。

図
<図2>
3D画像構築を用いた術前シミュレーション

②腹腔鏡下肝切除の適応

適応疾患は、肝細胞癌、転移性肝腫瘍などの悪性疾患から、肝内結石症、血管腫などの良性疾患まで多岐にわたります。ただし、現時点(2018年6月)では胆管切除を伴う肝切除は保険適応として認められていません。したがって、胆管切除が必須の肝門部胆管癌は腹腔鏡手術の適応外となり、胆管細胞癌(=肝内胆管癌)や肝門部(肝臓に脈管が流入する入口の部分)に腫瘍が近接する場合についても、腹腔鏡手術の適応については慎重に判断する必要があります。
さて、腹腔鏡手術ができるからといって、何が何でも腹腔鏡手術が良いというわけではありません。多発病変や腹腔鏡下での病変の同定が困難な症例、手術の既往があり高度の癒着が予測される症例、腫瘍が非常に大きな症例などでは、開腹手術より大幅に時間がかかることがあるばかりか、手術の安全性や確実性を損なう可能性があります。また、心肺機能が不良な患者さんでは、気腹圧によって十分な換気が得られないことや、中心静脈圧や気道内圧を低く保てないことにより(気道内圧が高くなると、静脈が還流しにくくなり、静脈圧の上昇につながります)、肝静脈の圧が高まり出血の制御が困難になることがあります。
患者さんにとって、肝切除術を安全かつ確実に行うことができるかどうかが最も大切であることを常に念頭に置かなければなりません。その上で、開腹手術が適しているのか、それとも腹腔鏡手術の方が良いのかを判断していく必要があります。私たちはそれぞれの患者さんに適した最善の術式は何かを常に考えながら、慎重に手術適応を判断しています。

③腹腔鏡下肝切除術のメリット・デメリット

それでは、腹腔鏡下肝切除術の開腹手術と比較したメリット・デメリットについて解説していきます。

〇メリット

  1. 整容性・創痛の緩和;
    肝臓はお腹の中の奥まったところに存在し、肋骨や横隔膜で囲まれています。そのため、開腹手術においては安全に手術を行うために、大きくお腹を開けて肝臓を引き出してくる必要があります(図3A)。腹腔鏡手術においては数ヶ所の小さな穴から手術を行うため、傷が小さくてすみ、疼痛も軽減されます(図3B)。その分手術後の回復が早く入院期間も短い(通常5-10日)ため、患者さんの負担が少ない手術といえます。
    図
    <図3A>
    開腹肝切除術の創
    図
    <図3B>
    腹腔鏡下肝切除術の創​
  2. 腹腔鏡独特の視野と拡大視効果;
    腹腔鏡を利用して近接した映像を見ながら手術を行うことになるので、開腹手術での視野と比べて拡大された視野で観察することができます。それにより、微細な解剖を把握しながら精密な操作が可能となります。また開腹手術ではお腹側から見下ろして手術を行うことになりますが、腹腔鏡では通常の開腹手術では見ることができないような、背側から覗き込むような視野も得ることができます。とくに肝臓の手術においては、お腹を大きく開けても視野が十分に得られない場合もあるので、 腹腔鏡を用いることで本来見えにくいはずの背中側の視野が得られるのは非常に有用です。この視野の良さが腹腔鏡手術の最大の利点です。またモニターに映し出された映像により、参加しているもの全員で同じ視野を共有できることもメリットの一つです。
  3. 気腹圧による出血の軽減;
    腹腔鏡手術では、お腹の中に二酸化炭素を入れて、お腹を膨らませながら手術を行います。これにより8-10mmHg程度の圧を常にかけながら手術を行うことになります。常にお腹の中全体を圧迫している状態で手術を行っていることになるため、肝臓からの(特に圧の低い静脈からの)出血を減らすことができます。実際、当院では開腹肝切除術もほぼ無輸血で行っておりますが、腹腔鏡手術においては開腹手術以上に少ない出血量で手術を終えることがほとんどです。
  4. 癒着の軽減;
    肝切除の対象となる肝細胞癌や転移性肝腫瘍は、繰り返し肝切除を行うことも多い病気です。腹腔鏡手術は開腹手術と比較して術後の癒着が軽減されるため、2度目、3度目の手術の際に有利に働きます。

〇デメリット

  1. 技術的問題・動作制限;
    手術器具には通常いわゆる関節はありません。お腹に開けた穴を通して直線的に器具が挿入されることになります。よって、手術器具は手ほど自由自在に動かせるものではないので、どうしても動作制限があります。開腹手術でさえ難しいとされる肝切除を腹腔鏡で行うには、開腹肝切除術の十分な経験とともに、腹腔鏡手術の高度な技術が必要となります。
  2. 触覚の低下;
    腹腔鏡手術は直接手で触れて手術を行うことができないため、手の繊細な触覚は失われます。触覚の低下を良好な視野で補いながら手術を進めることになります。

  3. 俯瞰的な視野の欠如;
    腹腔鏡は拡大視野に適しており、全体を俯瞰的にみるのは時に困難で死角が生じ観察が十分でない場合があります。

  4. 手術時間の延長;
    とくに大きな肝切除、複雑な肝切除においては、開腹手術に比べると手術時間が長くなる可能性があります。しかし、手術部位によっては短い時間で手術を終えることができる場合もあります。

上記のようなメリットとデメリットを踏まえ、安全に手術ができるか根治性が損なわれないかを十分に考慮し、腹腔鏡手術の適応を判断して行っていきます。正しい適応のもとに行腹腔鏡手術が行われれば、肝臓は腹腔鏡手術のメリットが非常に大きい手術と考えています。

まとめ;
患者さんの病態に応じて最適な治療を行うための一つの選択肢として腹腔鏡手術は非常に有用です。安全性と根治性を落とすことなく、患者さんにできるだけ負担のかからない低侵襲な手術を提供していきたいと思います。

執筆者紹介

大目 祐介(おおめ ゆうすけ)

顔写真

がん・感染症センター都立駒込病院 肝胆膵外科 医員
京都大学 平成17年卒
資格:
日本外科学会 外科専門医
日本消化器外科学会 指導医
日本消化器外科学会 消化器外科専門医
日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本内視鏡外科学会 技術認定医
日本肝胆膵外科学会 評議員
駒込病院 肝胆膵外科のページ

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