遺伝性乳がん・卵巣がんを知る~遺伝子から選択する薬オラパリブ~

2018年9月18日 乳腺外科

こまごめコラム アピアランスケア

日本では乳がんと診断される患者さんは年々増加しており、女性が罹患するがんの第一位となっています。
最近、乳がんの患者さんにオラパリブ(リムパーザ®)という新しい抗がん剤が認可されました。この薬を使用するには遺伝子検査を受けて、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の体質があると診断を受ける必要があります。
ここでは遺伝性乳がん卵巣がん症候群について、遺伝子検査について、どのような方にオラパリブが適応となるのかなどを説明していきます。

目次

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)について

日本人と乳がん

日本人女性が乳がんとなるリスクは、食の欧米化や妊娠・出産の機会の減少、初潮年齢の低下などの要因により高くなってきています。日本において、毎年約9万人が新しく乳がんと診断されており、女性の約1/12人が一生涯のうち乳がんになると言われています。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)

すべての乳がんのうち遺伝要因が発症に強く関係しているものは約5~10%と言われており、その多くが遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)という遺伝性腫瘍です。
HBOCは乳がんや卵巣がんだけではなく、すい臓がん、男性乳がん、前立腺がんなどに罹患するリスクが、一般の方よりも高くなるという報告があります。

<HBOCにおける乳がん・卵巣がんのリスク>

HBOCコンソーシアムHPより引用(http://hboc.jp/index.html)

上の図はHBOCの体質を持つ方が生涯乳がん及び卵巣がんを発症する確率を示しています。一般の方と比べて、乳がんは6~12倍、卵巣がんは8~60倍罹患しやすくなると報告されています。

HBOCチェックリスト

HBOCの体質を持つ方はご自身を含めたご家族に以下のような特徴を持つ可能性が高くなります。

  • 若くして乳がんになられた方がいる
  • トリプルネガティブ乳がんと言われた方がいる
  • 両側の乳房、もしくは片側の乳房に複数回がんを発症された方がいる
  • 卵巣がんになられた方がいる
  • 男性乳がんになられた方がいる
  • 乳がんやすい臓がんになられた血縁者が複数名いる
  • これらの条件に当てはまっても必ずHBOCというわけではありません。

BRCA1/2遺伝子

HBOCに関係する遺伝子にBRCA1/2遺伝子があります。これらの遺伝子に病気に関連した変化がみられるかどうかを調べることで、HBOCかどうか診断をすることができます。
BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子はそれぞれ独立した遺伝子で、だれもが持っています。これらの遺伝子は、傷ついたDNAを修復する働きを持つBRCAタンパクを作ります。HBOCの体質の方は生まれつき両親から受け継いだ2つの1つがうまく機能していないため、乳がん及び卵巣がんをはじめとする特定のがんに一般の方と比べて発症しやすい体質となります。
これらの遺伝子は男女の差はなく50%の確率で親から子どもへ引き継がれます。

イラスト

アストラゼネカ株式会社(監修:大野真司):リムパーザ®を内服される患者様とご家族へ を参考に作成

BRCA1/2遺伝子に限らず、すべての遺伝子は両親から1本ずつ引き継がれます。

PARP阻害薬オラパリブ

オラパリブは、腫瘍細胞のDNA修復機構に着目し、損傷したDNAを修復するPARPというタンパクの働きを阻害することで、腫瘍細胞の増殖を抑制する抗がん剤です。オラパリブは、その作用機序から遺伝性乳がん卵巣がん症候群と診断された方の乳がんに対して効くとされており、2018年7月より日本でも特定の乳がん患者さんに対して認可されました。

オラパリブの作用機序 -BRCA遺伝子との関係-

私たちの身体の設計図であるDNAは、様々な刺激によって傷つきます。この傷ついたDNAを修復する働きを持つたんぱく質として、BRCAタンパクの他に、PARPタンパクが知られています。
オラパリブはPARPタンパクの働きを邪魔する抗がん剤です。HBOCの体質を持つ方が、がんを発症した場合、そのがん細胞はBRCAタンパクの働いていないがん細胞となり、PARPタンパクの働きのみでDNAを修するがん細胞となります。しかし、そのがん細胞がオラパリブによってPARPタンパクの働きを邪魔されると、がん細胞のDNAは修復できなくなり、がん細胞は細胞死を起こします。
HBOCの体質の方でも、がん細胞以外の細胞はもう一方のBRCAタンパクが機能しているため、基本的に細胞死を起こしません。

イラスト

アストラゼネカ株式会社(監修:大野真司):リムパーザ®を内服される患者様とご家族へ を参考に作成

Q&A よくある質問

Q1 オラパリブはどこから投与する薬なの?イラスト

イラスト

飲み薬です。
薬の働きに影響を及ぼす可能性があるため、内服期間中はグレープフルーツやセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワード)を含む食品は摂取しないようにしましょう。

Q2 オラパリブの副作用は?

頻度の高い副作用は、吐き気、貧血、疲労感です。
その他、嘔気、下痢、食欲減退、無力症、味覚異常などが報告されています。副作用が現れたら主治医に相談をしましょう。

Q3 オラパリブの値段はいくら?

リムパーザ®(オラパリブ)錠100㎎ 3996.0円/錠

リムパーザ®(オラパリブ)錠150㎎ 5932.5円/錠

  • 2018年8月時点

朝晩の2回内服、通常量は300mg/1回となります。
高額療養費制度など、医療費の自己負担を軽減する制度が利用できる場合があります。

Q4 オラパリブは乳がん以外には使えるの?

現時点ではプラチナ製剤(シスプラチン)感受性再発卵巣がんに対しても適応となっています。この場合には遺伝子検査は不要です。

Q5 遺伝子はどうやって調べるの?

イラスト

血液を使ってDNAを調べます。こまごめコラム
一般的な採血と同じ方法で、採血量も特別多いというわけではありません。血液中の細胞から得られるDNAを調べます。結果を返却するまで2~3週間ほどお時間を頂きます。

Q6 遺伝子検査はいくらかかるの?保険の適応は?

自費だと遺伝子検査のみの金額でおよそ20万円です。条件によって保険適応です。
リムパーザ®が適応かどうかを調べる目的で、かつ一定の条件に当てはまるかたのみ保険適応となります(3割負担で6万円ほど)

保険適応の条件 

  • 2つとも当てはまる方が対象です
  • 乳がんで抗がん剤治療歴がある方
    (アントラサイクリン系・タキサン系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法)
  • HER2陰性の再発乳がんもしくは手術不能の乳がんの方

Q7 オラパリブの適応目的以外でHBOCと診断を受けるメリットは?

ご自身やご家族の、がんの早期発見・予防などに役立てられる可能性があります。
HBOCの体質があることで、一般の方よりも乳がんや卵巣がんなどを罹患される確率が高いことがわかるため、市区町村や職場の健康診断ではなく、病院で専門医による検診を定期的に受けることをお勧めしています。HBOCと診断されたら家族歴や既往歴、生活のスタイルからご自身にあった検診のスケジュールを主治医と相談をして決めていきましょう。
HBOCと診断された方の中には、がんになる前に予防的に臓器を切除することを選択される方もいます。これらの選択は個人によってメリット・デメリットは違ってくるので、乳がんの専門家や遺伝の専門家によく相談をしたうえで決めましょう。

Q8 遺伝子検査を受けるにあたって注意することは?

イラスト

この遺伝子検査は、生涯変わらない生まれつきの体質を調べる検査になります。また、結果が陽性の場合には血縁者も同じ体質を持つ可能性が出てきます。
結果が陽性だった場合、オラパリブが適応となるだけではなく、ご自身やご家族のがん治療や予防に役立てられる可能性がある一方、そのことが心理的な負担となる可能性もあります。こまごめコラム
専門家による説明をよく聞いて、検査結果を聞いたときにご自身がどのようなお気持ちとなり、どのように行動するのかなどをよく考えてから受けるようにしましょう。

もっと詳しく知りたい方へ

駒込病院での取り組み

イラスト

駒込病院でもHBOCに関連した遺伝子検査を受けることができます。HBOCと診断をされても、専門外来として「遺伝性乳がん・卵巣がんカウンセリング外来」を設けてありますので、遺伝のことでお困りの患者さんのフォローを行う体制が整っています。

遺伝性乳がん・卵巣がんカウンセリング外来

ご予約専用電話:03-3823-4890

HBOC外来

また、遺伝性の大腸がんなどその他の遺伝性腫瘍に対しても、遺伝子診療科で診療を行っています。がんの遺伝のことでお困りのことがありましたらお気軽にご相談ください。
遺伝子診療科

さらなる情報が欲しい方へ

日本HBOCコンソーシアム 患者さん・一般の方向けHBOC情報

http://hboc.jp/public/index.html

遺伝性乳がん卵巣がん症候群当事者会 クラヴィス・アルクス

http://www.clavisarcus.com/(外部リンク)

AstraZeneca リムパーザ®(オラパリブ)

https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2018/2018070204.html(外部リンク)

都立駒込病院 こまごめコラム「がんと遺伝」

がんと遺伝の関係 ~がんが遺伝する可能性と遺伝性腫瘍について~

執筆者紹介

有賀 智之(あるが ともゆき)

写真
がん・感染症センター 都立駒込病院 乳腺外科 医長
専門分野:乳癌治療
資格:日本外科学会指導医・専門医、日本乳癌学会評議委員・指導医・専門医、マンモグラフィー読影認定医、日本がん治療認定医機構認定医、日本家族性腫瘍学会専門医

井ノ口 卓彦(いのくち たくひこ)

がん・感染症センター 都立駒込病院 遺伝子診療科 非常勤職員
専門分野:遺伝カウンセリング
資格:看護師、認定遺伝カウンセラー

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