乳がんになっても乳房を失わない!

2018年10月12日 形成再建外科

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投稿者:形成再建外科 部長 寺尾 保信 (形成再建外科のページ

目次

乳房再建って知っていますか?

乳房再建は乳がん手術を受けた患者さんが乳房を取り戻すための手術です。がんを治すだけでなく自分らしく健やかにお過ごしいただくために、がんの治療の一環として保険診療で行っています。
都立駒込病院は、日本における乳房再建手術の発祥の地です。1970年代から乳がん患者さんに再建手術を行ってきました。数年前まではごく限られた病院でのみ行われていた特別な治療でしたが、今では多くの病院で施行されるようになりました。

どんな人が受けられるの?

乳がんの治療で乳房切除術(全摘術)をこれから受ける人で、「乳房がなくなるのが嫌だな」、「今の自分のままでいたいな」と思う方が対象です。また、すでに乳がんの手術を終えた人で、「乳がんの治療中は再建を考える余裕がなかったけど、やっぱりこのままじゃ嫌」と思う方、「乳がんの手術を受けた病院では再建をやっていなかった」という方も再建手術を受けることができます。体調が悪い方は、体調を整えてから手術が安全に行えるか判断いたします。

何のために受けるの?

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再建を受ける理由は人それぞれです。特にはっきりした理由はなくても、「女性だから」、「今の自分の姿が変わるのが嫌」、「自信をもって生きていくため」というのも大切なお気持ちです。お子様のために、愛する家族のために、これから出会う人生のパートナーのために、とお考えになる方もいらっしゃいます。その他「温泉に行きたい」、「趣味のダンスの衣装が着られるように」、「孫とお風呂に入りたい」と若い方からご高齢の方まで、それぞれの理由で乳房再建を受けていらっしゃいます。すでに乳房切除術を受けた人の中には、「体のバランスが悪くなった」、「服がずれてしまう」などの生活上のご不便を理由に挙げる方もいらっしゃいます。
その一方で、「乳房がなくなるのは嫌だけど再建するほどではないかな」、「今は乳がんの治療に専念したい」とお考えになる方、そして再建をしなくても幸せにお過ごしの方もたくさんいらっしゃいます。再建をするかしないかは、年齢には関係ありません。ご自身のお気持ちで決めていただくことになります。

いつ再建できるの?

「一次再建」

乳がんの手術と同時に再建を行うことを一次再建といいます。
全摘するなら「再建したい」と気持ちが決まっている方には、手術回数、入院回数、費用を抑えることができる、などのメリットがあります。乳がんの状態によっては二次再建が望ましい場合もありますのでご相談ください。

「二次再建」

乳がんの手術とは別にあとから再建を行うことを「二次再建」といいます。
乳がんの手術の前には「再建まで考える余裕がない」、「再建が必要かどうか分からない」という方は、無理に一次再建をする必要はありません。二次再建には乳がんの治療が終わってからゆっくり考えることができるというメリットがあります。二次再建をお考えの方は、抗がん剤治療や放射線治療が終わってからの手術となります。それらの治療がない方はいつでも手術を受けられます(ホルモン療法中でもOKです)。乳がんの手術から10年後でも30年後でも大丈夫。乳房が欲しいなと思ったタイミングで形成再建外科にお越しください。

乳がん治療に影響しない?

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再建手術が乳がんの治療や乳がんの進行に影響することはありません。しっかり治す「根治性」と、きれいに治す「整容性」を両方目指すのが乳房再建ですが、「整容性」のために「根治性」を犠牲にすることはありません。
こまごめコラム_形成再建外科
一次再建を行った患者さんと行わなかった患者さんで、乳がんの治療成績に差はありません。

どの病院で受けられる?

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乳房再建手術が普及したとはいえ、乳がんの治療を行っているすべての病院で再建手術が受けられるわけではありません。乳房再建術が受けられない病院で乳がんの治療を受ける方は、乳がんの治療が一段落したのちに乳房再建を行っている病院での二次再建となります。ご希望の病院をリクエストすることもできますので主治医に紹介状を書いてもらって下さい。一次再建をご希望の場合は、術前に一次再建ができる病院に転院する(乳がんの主治医を変える)ことになり、乳がんの状態によってはお薦めできないこともあります。
駒込病院では、当院乳腺外科で治療を予定している方でも他院からの紹介の方でも同様に、乳がん手術および一次再建手術を受けていただくことができます。すでに乳がんの治療を終えて二次再建をご希望の方も当院、他院を問わずに手術を行っています。

当院での治療までの流れ

駒込病院の乳腺外科におかかりの患者さんで、これから乳房切除術(全摘術)を受ける方には主治医から再建のご案内があるかと思います。また、乳房温存療法(がんの部分だけを切除して、残った乳腺に放射線治療を行う方法)の適応がある方でも、乳房切除術(全摘術)と乳房再建術を受けることができますので、乳腺外科の主治医にご相談ください。一次再建ご希望の方、再建の説明を聞きたい方、乳癌治療後に二次再建をご希望の方には、乳腺外科の主治医が形成再建外科の「乳房再建初診外来」に予約を入れます。「とりあえず話だけ聞いてみたい」という方も、ご遠慮なくいらしてください。
他院から一次再建のために転院された方は、乳腺外科を受診していただいた後に形成再建外科の外来に来ていただくことになります。二次再建のご希望で他院からいらっしゃる方は、予約センターで形成再建外科の初診の予約をお取りください。相談だけでも大丈夫ですのでお気軽にお越しください。外来でお待ちしております!

どんな方法があるの?

乳房再建には人工物(シリコン製の乳房インプラント)と自家組織移植があります。体の中に埋め込む人工物は総じてインプラントといいます(歯のインプラントもありますね)。自家組織移植は下腹部や背部、臀部などからご自身の脂肪や皮膚を移植する方法です。それぞれの方法に利点と欠点があり、患者さんの乳房の形や体形によっても向き不向きがあります。
再建方法を決める際は、実際に再建手術を受けられた患者さんの写真を見ながら、それぞれの特徴、利点と欠点、合併症などを詳しく説明いたします。患者さんのご希望に沿うように、時にはアドバイスさせていただきながら、最良の再建方法を決めたいと思います。
それぞれの方法を簡単に説明致しますが、詳しい内容は乳房再建のページをご参照ください。

①シリコン製乳房インプラントによる乳房再建

通常手術を2回に分けて再建を行います。1回目の手術では仮のインプラント(エキスパンダー)を挿入します。一次再建では乳房切除術と同時に行います。2回目の手術は初回手術から4か月以降に行い、エキスパンダーからシリコン製の乳房インプラントに入れ替えます。乳頭を切除した方は乳頭の再建も2回目の手術と同時に行います。乳がんの手術の傷跡だけで再建ができ、体のほかの部位に傷跡を残しません。体の負担が少なく早期に仕事や育児に復帰できる方法です。自家組織に比べて動きや温かみが少ないのが欠点です。

②下腹部からの組織移植(腹直筋皮弁、穿通枝皮弁)

下腹部から皮膚と脂肪を移植します。移植する組織に血液を通わせる血管を付けて移植し、この血管を胸の血管と吻合することで、腹部の組織が胸で生き続けることになります。血管を複数含む場合は腹筋を一部つけて移植(腹直筋皮弁)しますが、腹筋を全くつけずに移植する穿通枝皮弁と腹部の機能はほとんど変わりありません。腹部に脂肪がある方は、大きく柔らかい乳房を再建することができ、揺れるような動きも再現できます。腹部に傷跡が残ることと、術後2~3週は腹部の負担があることが欠点です。必要に応じて2回目の手術で形の修正と乳頭の再建を行います。

③背部からの組織移植(広背筋皮弁)

背部の皮膚と脂肪を広背筋という筋肉につけて移植する方法です。腹部ほど脂肪組織を採取できませんので大きな乳房の患者さんには向きませんが、傷跡は腹部程目立ちません。

乳房インプラント腹部位からの移植背部からの移植
再建に適した乳房の大きさ小さめ~中等大の乳房中等大~大きな乳房小さめ~中等大の乳房
再建に適した乳房の形態下垂が少ない乳房どんな形態でも可能下垂が少ない乳房
柔らかさ、温かみ
動き
乳房以外の傷なし下腹部に横方向の長い傷跡背部に正中を超えない傷跡
合併症など感染による抜去
(1%以下)
術後血腫、違和感、
破損
10~20年で交換します
移植組織の壊死
(3%以下)
腹壁ヘルニア(1%以下)
術後血腫、創感染
移植組織の部分壊死
(まれ)
創感染、術後血腫
背部の漿液腫
1回目の手術乳房切除
エキスパンダーの留置
乳房切除
下腹部の組織の移植
乳房切除
背部の組織の移植
1回目の手術の入院期間7日程度7~10日程度
1回目の術後の仕事復帰退院数日後から術後2~4週程度
2回目の手術インプラントへの交換
乳頭形成
(切除の場合)
形態修正
乳頭形成
(切除の場合)
形態修正
乳頭形成
(切除の場合)
2回目の手術時期と期間1回目の手術から4か月以降、3~4日の入院、全身麻酔か部分麻酔
2回目の術後の仕事復帰退院翌日から(バストバンド着用)
オプション脂肪注入による修正、健側の下垂修正・縮小
費用保険適用、高額医療制度の限度額(月ごと)
  • 術後の経過、患者さんの状態によっては上記の限りではありません

入院期間や仕事復帰までの期間は?

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一次再建では乳房切除術と再建術を同時に行いますが、術後7日から10日で退院となります。退院後は胸にバストバンドを付けていただきますが(下腹部から組織移植を行った方は腹部のバンドも必要になります)、動きの制限などはありません。痛みに対する感じ方や心配は患者さんによって異なりますが、体を使うような仕事であっても乳房インプラントの場合で術後2週、自家組織移植の場合で1か月あれば復職できることが多いです。

費用はどれぐらい?

いずれの方法も保険適応となります。一次再建の場合、乳がん手術の費用に加算されて高額になりますが、高額医療制度を利用することで再建手術にかかる費用は概ね還付されます(患者さんによって異なる場合があります)。

私たちからのメッセージ

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私たち都立駒込病院では、乳腺外科と形成再建外科だけでなく、病理科、放射線科、神経科、看護部、栄養科、薬剤科、アピアランス部門(抗がん剤治療中のウィッグや爪のケア、化粧の指導など)など多くの職種のチーム医療で乳がんの診療にあたっています。その中で形成再建外科は乳房を取り戻すお手伝いをしていますが、単に形を再建するだけでなく、乳房を再建することで術後も「あなたらしく」、幸せな人生を送っていただきたいと願っています。乳がんという難敵に、「あなた」を含めた私たちのチームで、力強く、そしてしなやかに立ち向かいましょう。

執筆者紹介

寺尾 保信(てらお やすのぶ)

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がん・感染症センター 都立駒込病院 形成再建外科 部長
専門分野:乳房再建、頭頚部再建、四肢再建、イクロサージャリー、形成外科一般
資格:医学博士、日本形成外科学会・形成外科専門医、日本形成外科学会・皮膚腫瘍外科指導医、臨床研修指導医、日本形成外科学会評議員、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会評議員、日本マイクロサージャリ―学会評議員、エキスパンダー/インプラント責任医師

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