神経難病ってどんなもの?

2018年12月11日 脳神経内科

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投稿者:脳神経内科 医長 三浦 義治 (脳神経内科のページ

目次

1.神経難病とは

神経難病とは、脳神経系を侵し、さらに根本的治癒が難しい病気のことです。
「難病」とは従来「不治の病」という社会通念に使用される言葉ですが、その歴史について解説します。
日本で「難病」と言われ始めたのは昭和40年代で、スモン病が最初です。
スモン病とはSMON;subacute myelo-optico-neuropathyの略称であり、整腸剤キノホルムに関連して発症する、視神経、脊髄の病気です。
当初の原因は不明でしたが、研究班形式によるプロジェクト研究が行われた結果、原因が判明し、当時の厚生省がキノホルムの発売を中止し、新規患者の発症が激減したことが知られています。

昭和47年には難病対策要綱が策定され、前述のスモン病に加え、ベーチェット病、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、再生不良性貧血、多発性硬化症、難治性肝炎が選ばれ、特にスモン病、ベーチェット病、重症筋無力症、全身性エリテマトーデスは医療費助成の対象としてスタートしました。

その後、難病研究は進展し、また研究対象となる疾患数も徐々に増加し、56疾患が特定疾患治療研究事業(医療費助成事業)の対象になり、平成12年には130疾患となりました。

平成26年に厚生労働科学省が「難病の患者に対する医療費などに関する法律」(難病法)が制定され、それまで特定疾患と呼ばれていた疾患群は指定難病と呼ばれるようになりました。
患者さんは指定難病であることを各都道府県に申請すると、特定医療費として医療費助成を受けることができます。(医療費助成の対象になるのは指定難病と診断され、かつ重症度分類等に照らし合わせて病状の程度が一定以上の場合です。)

平成30年4月1日現在厚生労働省の指定難病は331疾患あり、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、多系統萎縮症、多発性硬化症、重症筋無力症、慢性炎症性多発根神経炎(CIDP)、進行性多巣性白質脳症などの神経難病が約1/4を占めています。

神経難病では、神経後遺症を残すことが多く、療養生活は不自由、困難をきたしている場合が多いですが、しかし一方で近年医学の進歩、特に分子生物学や免疫学の進歩はこれらの疾患の病態解明に大きな手がかりを与え、それに伴い診断と治療法への開発へと着実につながっています。

続いて、当院に通院患者数が多い神経難病であるパーキンソン病、重症筋無力症、多発性硬化症、慢性炎症性多発根神経炎、進行性多巣性白質脳症について簡単にご説明いたします。

2.パーキンソン病とは

中脳にある黒質の神経細胞が障害されて,手の震え、動作や歩行の困難など、運動障害を呈する病気です。
現在、日常生活動作を向上させたり生命予後を延長し、運動症状や精神症状、自律神経症状などの非運動症状に対する治療や症状の進行を遅らせるための治療(神経保護薬による治療)が試みられるようになっています。
一部の大学では治験としてiPS細胞由来細胞の細胞移植治療がはじまっており、その効果が期待されています。

3.重症筋無力症とは

末梢神経と筋肉の間の神経筋接合部に病気です。
手足を動かすと筋肉がすぐに疲れて、力が入らなくなったり、まぶたが下がってくる眼瞼下垂(がんけんかすい)と、ものが二重に見える複視(ふくし)などの眼の症状を起こしやすい特徴があります。
発症年齢、眼筋型、全身型、重症度、自己抗体検査結果、胸腺画像異常の有無などにより治療法が選択されます。
内服薬による対症薬物治療や長期的病態改善治療、あるいは血液浄化療法や免疫グロブリン療法による即効性の短期的病態改善治療などがあります。
多くの場合これらを組み合わせた治療が行われます。

4.多発性硬化症とは

脳や脊髄、視神経に病巣ができ、様々な症状が現れます。
急性症状が出る「再発」(増悪)と、症状が治まる「寛解」を繰り返します。
多発性硬化症(MS)の症状が急に出ている再発期には、症状を速やかに抑えることが大切で、ステロイド剤を点滴注射する「ステロイドパルス療法」や「血漿浄化療法」が行われることもあります。
また、「再発や進行を抑えるための治療」が非常に重要で、疾患修飾薬と言われる注射剤や飲み薬、点滴剤を使います。

5.慢性炎症性多発根神経炎とは

主に手足の先の末梢神経の脱髄および炎症細胞の浸潤をきたす病気で、免疫グロブリン療法(免疫グロブリンを5日間連続して点滴投与する)、ステロイド療法が有効です。
ステロイド療法では内服とステロイドパルスの双方が行われます。
再発を繰り返す場合は免疫抑制剤の内服も検討され、症状の増悪を繰り返す場合は免疫吸着療法が行われる場合もあります。
純粋運動型やMADSAM型などの亜型もあります。

6.進行性多巣性白質脳症とは

極めてまれな疾患であり、元来エイズを背景におこってきた病気ですが、最近では抗がん剤や免疫抑制剤、分子標的薬や多発性硬化症再発予防薬の開発が進んできた影響もあって、様々な疾患を背景に起こってきています。
当院では感染症センターとしての多くのエイズ患者治療の背景もあり、この疾患の通院患者数は全国一位となっており、また一部患者さんには在宅往診も行っています。
JCウイルスという病原体が変異して脳で進行性の病気をおこします。
従来治療のない疾患でしたが、近年の研究成果もあり、塩酸メフロキンなどいくつかの薬剤で治療が試みられています。
また当院は厚生労働科学省研究班の分担研究にて全国疫学調査を行っており、情報収集の拠点となっています。

以上の神経難病についての相談・診療は、当院神経内科で対応しています。
他の神経難病についても対応しておりますので、ぜひご相談ください。

執筆者紹介

三浦 義治(みうら よしはる)

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がん・感染症センター 都立駒込病院 脳神経内科 医長
専門分野:神経感染症学、臨床神経学
資格:日本神経学会代議員・指導医・専門医、日本内科学会指導医・総合内科専門医、日本神経感染症学会評議員、東京医科歯科大学臨床教授、日本リハビリテーション医学会認定臨床医、身体障害者福祉法第15条指定医(肢体不自由、音声・言語機能障害 平衡機能障害、そしゃく機能障害)、難病指定医、医学博士

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