眼科 - 専門分野

当科では白内障をはじめ、網膜硝子体疾患涙道疾患(涙道閉鎖)緑内障ぶどう膜炎など、幅広い範囲の疾患に対し、外科的な治療を重点的に行っています。

白内障

カメラに例えると、レンズに相当する水晶体が濁ってくる状態です(図1)。年齢とともに誰にでも生じますが、眼外傷、糖尿病やアトピー性皮膚炎などの全身疾患、副腎皮質ステロイドなどの薬剤使用、その他の眼の病気に随伴して生じる場合もあります。進行性で薬剤は無効なため、治療は手術を行います。手術では濁った水晶体を除去し、代わりのレンズとなる人工水晶体、すなわち眼内レンズを挿入します。

<図1 白内障>

当院の白内障手術の特徴

最新の光学式眼軸長測定装置

良好な術後成績を得るために、手術を安全に遂行することは当然ですが、手術と同じくらい大切となるのが術前の準備です。白内障手術では濁ってしまった水晶体を取り除き、その機能を改善する「人工臓器」とも言える眼内レンズを挿入します。眼内レンズは眼球の形状、併せ持つ疾患、ライフスタイルを踏まえて決めていきます。どのような見え方がその人にとって望ましいか、そのために屈折値をどうすべきか、担当医師との相談で決めていきます。そして目標にする屈折値との誤差を少なくするために、眼軸長を正確に測定すること、角膜屈折力を正しく評価することが重要なのです。

当科では、Swept Source光源により眼軸長を多点で測定するフーリエドメイン方式を採用した光学式眼軸長測定機器OA2000®を導入しています(図2)。従来の測定装置と比較して、進行した白内障眼でもより正確な測定を迅速に行うことが可能です。さらに、角膜トポグラフィー機能を搭載しているため、角膜不正乱視を検出することが可能です。

<図2 光学的眼軸長測定装置 OA2000>

短時間で正確な眼軸長測定ができ、角膜形状解析による角膜不整乱視も測定が可能です

低侵襲手術

ほとんどの症例で、2.4mm切開による超音波乳化吸引術を行っています(図3)。また、当科では眼内圧の変動が少なく前房の安定性が改善し、効率的な核処理ができため、より低侵襲の手術を可能となったアルコン社製CENTURION®を2台導入しています(図4)。

<図3 超音波乳化吸引術>

2.4mmの創口から白内障を除去し、眼内レンズを挿入します

<図4 白内障手術装置 CENTURION®>

術中イメージガイドシステムによる乱視矯正

乱視矯正を行うトーリック眼内レンズの適応となる患者に対しては、術中イメージガイドシステムと呼ばれるアルコン社製VERION®を導入しています(図5)。この術中イメージガイドシステムは、術前に測定した患者データを、手術中に顕微鏡で観察される結膜血管・虹彩紋理と照合することで、乱視軸をリアルタイムに確認することができる画期的なシステムです。これにより、乱視矯正において最も重要なステップとなる、正確な乱視軸の軸合わせが可能となりました。

<図5 白内障手術イメージガイドシステム VERION®>

難症例に対する手術

超音波では破砕できないほど進行した白内障(図6)や、水晶体を支えるチン氏帯が弱い患者、炎症性疾患のために茶目(虹彩)が癒着した患者などの合併症がある患者については、手術の安全性を重視し、状態に即した手術手技を適用しています。

<図6 計画的嚢外摘出術>

進行した白内障は超音波で破砕できないため、摘出に必要な大きさの創口が必要となります

手術件数

年間約900件で、ほとんどの方では日帰り手術で行っています。
通院が難しい患者、反対眼の視力が非常に悪い患者など、日帰り手術が難しいについては、安全性を考慮して短期間の入院についてご相談させて頂いております。

眼内レンズ偏位・脱臼

眼内レンズが偏位、脱臼、落下した患者に対する眼内レンズ摘出術、二次挿入術(眼内レンズ縫着術、または強膜内固定術)の紹介を受け入れています。
病状によって、硝子体手術との併施が必要となることがあります。

クリニカル・パスの導入

すべての患者にクリニカル・パスを用いて、治療の流れをわかりやすく説明しています。

医療連携

近隣の連携医からご紹介いただいた患者に関しては、病状が安定した時点でご紹介いただいた施設に逆紹介を行い、早期に日常生活へ戻ることができるよう心掛けております。

網膜硝子体疾患

網膜は眼球の内側にある神経組織で、カメラに例えると光を感じるフィルムに相当する機能をもちます。従って網膜に病変が生じると、不可逆的な視機能低下となる場合があります。
近年、糖尿病や高血圧症といった生活習慣病の増加に伴い、網膜病変を持つ患者が増加しています。健康診断で「眼底出血」と診断された場合、このような生活習慣病が隠されていることが多く、自覚症状がない場合でも注意が必要です。また、網膜剥離に代表されるように、早急に治療を行わないと失明に至る場合もあります。当院では、様々な網膜硝子体疾患の診断・治療-特に、外科的な治療が必要な状況に対応できる診療体制を整えています。

当院の網膜硝子体疾患に対する検査機器・手術機器の特徴

光干渉断層計(OCT)

網膜病変を非侵襲的に観察できる検査機器です。網膜の病変をミクロン単位で描出でき、網膜硝子体境界面の病態、さらに網膜下病変についても詳細な観察が可能であるSD-OCT、ニデック社製RS3000®を取り入れています(図7)。

<図7 光干渉断層計 RS3000®>

超広角走査型レーザー検眼鏡
(Ultra-wide Field Scanning Laser Ophthalmoscope)

近年の眼科検査機器で最も発展・普及したものが、広角眼底撮影カメラです。当科では、ニデック社製Mirante®を導入しています(図8)。通常の眼底カメラと異なり、赤・緑・青の3色のレーザー光を使い高画質で色彩豊かな像を得ることができ、アダプターを装着することで広角眼底撮影ができます。また、蛍光眼底造影も広角で撮影できるため、循環障害の診断に非常に有用です。

<図8 超広角走査型レーザー検眼鏡 Mirante®>

超音波断層観察装置

進行した白内障や、硝子体出血などで眼底病変が確認できない場合、網膜硝子体病変を超音波装置で動的に観察・記録ができるトーメー社製UD-8000®は、疾患の病態把握に欠かせません。眼底を透見できない場合でも、超音波画像診断によって網膜剥離などの緊急疾患が確認されれば、手術を決断する重要なデータとなります。

硝子体手術機器

アルコン社製CONSTELLATION®(図9)を導入し、全例25または27ゲージの小切開手術を施行しています。眼内にガスを留置しない場合や、腎不全のために透析が必要で入院継続が難しい患者には、安全性を考慮した上で日帰り手術も対応しております。

<図9 硝子体手術機器 CONSTELLATION®>

左上が硝子体手術機器本体。27Gという非常に細い器具であっても、膜処理のための鉗子、
レーザープローブなどのアクセサリー類も充実し、ほぼすべての疾患に対応可能です。

広角観察システム

Carl Zeiss社製手術顕微鏡Lumera 700®(図10)に、非接触広角観察システムRESIGHT®(図11)を備え、良好な視認性を確保できる環境で手術を行っています。
特に、網膜剥離に対する硝子体手術では、眼底全体を確認できるため、安全に手術を行うことが可能です(図12)。

右:図10 Carl Zeiss社製Lumera 700®。左:図11 広角観察システムRESIGHT®

<図10 Carl Zeiss社製Lumera 700®>   <図11 広角観察システムRESIGHT®>

<図12 硝子体手術の画像>

広角観察システムRESIGHT®で眼底全体を確認しながら、手術を進めています
網膜下液を吸引し、復位のために空気と置換しますが、視認性が良く安全な手術が可能です

糖尿病網膜症

日本人における失明の約2割を占めるのが、糖尿病網膜症です。血糖が高い状態が続くと、網膜の細い血管が損傷・閉塞し、慢性的に網膜に酸素が不足した状態となります。こうなると、酸素不足を解消しようと新しい血管(新生血管)が発生しますが、新生血管は非常にもろいため破綻しやすく、眼球内に出血が生じます(図13)。一旦このような変化が始まると、新生血管は増殖組織として発達し、これが網膜剥離を引き起こし、難治性の網膜症に進行します(増殖糖尿病網膜症)。
糖尿病網膜症は、糖尿病の発症から数年以上経過して顕在化しますが、病状が進行するまで自覚症状がありません。従って「気が付くと既に手遅れだった・・・」ということが、未だに後を絶ちません。日本に限らず、世界における大きな問題であることが、WHOからも報告されています。
治療の大前提として、糖尿病の治療-内科医の指導による血糖コントロールが基本となります。血糖コントロールが改善しなければ、決して網膜症は停止しません。つまり、糖尿病網膜症は「糖尿病という全身疾患で、眼に生じた合併症の一部」ということを、しっかりと認識して下さい。
健康診断では眼底検査が行われますが、その理由は自覚症状が出た時点では手遅れであるためです。時期を逃さずに必要な治療(レーザー治療、硝子体手術、そして何よりも正しい血糖管理)を受けること、失明を防ぐために、現在の病状に向き合って頂くことが必須なのです。

<図13 糖尿病網膜症>

網膜静脈閉塞症

高血圧・動脈硬化は全身の血管に関わり、もちろん眼の血管も例外ではありません。網膜の動脈と静脈は血管の膜を共有して接していますが、動脈硬化が起こると動脈が静脈を圧迫し、静脈内の血流が滞り、血栓によって閉塞します。これが網膜静脈分枝閉塞症です(図14)。その結果、閉塞した部位で血流が鬱滞し、出血や浮腫が生じます。特にものを見る中心部分(黄斑部)に出血や浮腫が生じると、著しい視力低下が生じます。
高血圧や動脈硬化に対する全身治療と並行して、網膜の浮腫を改善する治療や、酸素不足に陥った網膜組織に対するレーザー治療を行います。

<図14 網膜中心静脈閉塞症>

網膜剥離

眼球はゼリー状のコラーゲンを含む硝子体という組織で満たされていますが、年齢変化によって液化が生じます。硝子体はもともと網膜に接触していますが、徐々に網膜から剥がれていき、その際に硝子体と網膜に癒着が強い場所に牽引が生じると、裂け目(裂孔)ができることがあります。この網膜裂孔から、網膜下に水が入ると網膜剥離が発症します(図15)。
網膜剥離は狭い範囲でとどまる場合もありますが、時間経過とともに剥離の範囲が拡大する場合がほとんどで、一般的には自然治癒は望めず失明に至ります。従って、手術で原因となっている網膜裂孔を閉鎖し、剥がれた網膜を復位させることが必須となります。手術には大きく分けて二つの方法があり、眼球の外側からシリコン製のあて物を縫い付けて眼球を陥凹させることで裂孔を閉鎖する方法(強膜バックリング)と、硝子体を切除した後に眼内にガスを充填し内側から網膜を復位させる方法(硝子体手術)があります。術前の硝子体の性状、網膜裂孔の位置、網膜剥離の範囲などから、病態に適した術式を選択します。

<図15 裂孔原性網膜剥離>

黄斑上膜(黄斑前膜)、黄斑円孔

黄斑部は光を感じる網膜組織の中心部分で、ここに病変が生じると物が歪んで見えるようになります。代表的な疾患が、黄斑上膜(黄斑前膜)と黄斑円孔です。いずれも硝子体の年齢的な変化が原因ですが、硝子体の一部が黄斑部に残存し膜状の組織を形成するのが黄斑上膜、接線方向の牽引力によって裂隙が生じ、全層の孔を形成するのが黄斑円孔です。
黄斑上膜では、黄斑部の表面に存在する膜の存在が症状の原因ですので、手術で膜を取り除きます。術後視力の安定には通常数か月かかりますが、視神経細胞が障害されていなければ、徐々に改善することが期待できます。
黄斑円孔は黄斑部に働く接線方向の牽引力が原因なので、後部硝子体剥離を作成し、網膜の最表層にある内境界膜を剥離し、網膜が伸展できる状態にします。そして、眼内を気体に置換し、術後うつ伏せ体位を保つことで円孔を閉鎖させます。以前は発症から時間が経過した症例では閉鎖が困難でしたが、内境界を特殊な色素で染色することで可視化し、十分な剥離を行うことで、多くの症例で閉鎖が得られるようになりました(図16)。

図16の1 網膜の中心部分である黄斑部に円孔が開いている
図16の12 内境界膜を色素で染色し、剥離を行っている術中画像。黄斑部の牽引を取り除き、眼内をガスで置換し、術後うつ伏せ姿勢を保つことで円孔が閉鎖する
<図16 黄斑円孔>

涙道疾患(涙道閉塞)

自覚症状

涙道閉塞は、涙の通り道の一部が塞がっている状態です。このため、涙がたまる(涙目)、目やにがなかなか治らない、などの症状がよくみられます。

分類と原因

涙道閉塞は、その発症時期から、先天性と後天性の閉塞に分けることができます。

先天性鼻涙管閉塞

通常出生時までに開放する鼻涙管開口部(涙の通り道の鼻への出口)が閉塞したままであるため、出生後間もなく涙や目やにがたまります。

後天性涙道閉塞

原因として、ヘルペスをはじめとしたウイルス性結膜炎、抗がん剤や緑内障点眼薬など薬剤による涙点閉塞や涙小管閉塞、副鼻腔手術後の炎症による鼻涙管閉塞などがありますが、原因が特定できない閉塞がほとんどです。

治療

先天性鼻涙管閉塞では、1歳までに閉塞部が自然に開放する場合が多いですが、症状が続けば、閉塞部位を開放する治療を行います。後天性涙道閉塞では、ファイバーテック社製の最新の涙道内視鏡システムと、オリンパス社製のハイビジョン鼻内視鏡システム(図17)を用い、閉塞の範囲と炎症の程度により、涙管チューブ挿入術または涙嚢鼻腔吻合術を行います。

<図17>

涙管チューブ挿入術

涙点(目元にある涙の通り道の入り口)から挿入した涙道内視鏡ファイバー(図18)で閉塞部を確認・開放した後に、チューブ(図19)を挿入し、涙の通り道が安定するまで留置しておきます(図20)。

図18、19、20

抗がん剤による涙道閉塞

近年増加しているのがTS-1を始めとした抗がん剤の副作用による涙道閉塞です。涙点閉塞や涙小管閉塞が急速に進行して、治療が難しくなることが少なくありません。抗がん剤による涙道閉塞は、早期の涙管チューブ挿入術が有効です。

涙嚢鼻腔吻合術

涙嚢炎を合併するなど、涙道の閉塞や炎症が強いために、日帰り手術では改善が難しい場合は、新しいバイパスを作る涙嚢鼻腔吻合術(涙嚢を直接鼻腔につなぐ手術)を2泊3日の入院で行っています。

涙嚢鼻腔吻合術鼻内法

当院では、ほとんどの涙嚢鼻腔吻合術を、メドトロニック社製のIPCシステムを用い、顔に傷を作らない方法(鼻内法)で行っています。涙嚢鼻腔吻合術を鼻内法で行うことのできる施設は、全国でも限られています。

涙嚢鼻腔吻合術鼻外法

鼻腔が非常に狭い場合や、手術の際に病理組織検査が必要な場合は、皮膚を切開する鼻外法で行います。

涙道閉塞の原因として、まれに腫瘍や肉芽腫などが関係することがありますので、当院では、涙嚢鼻腔吻合術を行う前に、内視鏡による精査に加え、CTやMRIによる画像検査を行い、術式や適応を慎重に決めています。

緑内障

国内における後天的な失明の原因として最も多く、40歳以上の有病率は5%と言われています。眼圧の上昇に伴い視神経が障害され、それに伴って視野が狭くなる疾患です。今のところ眼圧を下げることが唯一の有効な治療方法とされています。

診断

前房隅角の状態を観察した上で、まずどの病型であるか判断します。
日本では多くの患者が開放隅角であり、尚且つ眼圧もさほど高くない正常眼圧緑内障と言われていますが、その場合はSD-OCTによって緑内障の初期病変である神経線維欠損の検出を行っています。

病期評価

ハンフリー自動視野計、ゴールドマン視野計を用い、病期の正確な評価を行います。

治療

緑内障治療の第一選択は、点眼治療とされています。
点眼を含めた内科的治療で眼圧のコントロールが難しい場合には、病態に即した外科治療を行っています(図21)。

<図21 様々な緑内障手術>

病型、目標眼圧、年齢などを考慮して、術式を選択します

ぶどう膜炎

眼に充血が生じる場合、結膜炎などの眼の表面の病気が多いのですが、まれに茶目(虹彩)や眼球の内部に炎症が生じている場合があります。そういった場合、充血だけでなく、痛み、まぶしさ、視力低下、飛蚊症など、他の症状を伴うことがあります。眼球の中で茶目と同じ層でつながっている組織-虹彩、毛様体、脈絡膜は色素や血管を含む組織ですが、ぶどうの房に似ていることから「ぶどう膜」と呼ばれます。そして、この部位に炎症反応が生じる疾患がぶどう膜炎です。
ぶどう膜炎は大変注意が必要な疾患であり、一般的な結膜炎などの充血を生じる疾患とは性質が異なります。急激に激しい充血と痛みを生じることもあれば、慢性的に静かに炎症が持続する場合もあります。自然治癒しない場合、放置すると徐々に組織の破壊が進行し、白内障、緑内障、網膜組織や視神経の不可逆的な障害などの合併症を引き起こすことがあるのです。
一般に診断・治療が難しく、ベーチェット病やサルコイドーシスといった、全身に病変を生じる難治疾患の場合もあります。

診断

どのようなタイプのぶどう膜炎か、問診、経過、臨床所見から診断を進めます。

専門施設との連携

一般的な検査では診断が難しく、眼内液を詳しく調べる特殊検査が必要な場合や、免疫抑制剤や抗体療法など、より専門的な治療が必要な場合は、ぶどう膜炎を専門的に診療している東京医科歯科大学附属病院眼科(外部リンク)と連携し、診療を行っております。

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