遺伝性大腸癌の治療

家族性大腸腺腫症(FAP)

本邦での頻度は約1/17000出生とされています。APC遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする常染色体優性遺伝性の疾患であり、若年より大腸に多発ポリープを認め、放置すればほぼ100%に癌が発生するのが特徴です。また、FAPには大腸以外に様々な随伴病変を認めることが知られています。
治療の基本は癌化するまえに大腸全摘術を行うことです。一般的には20歳代で手術を受けることが推奨されています。

主な術式は以下のとおりです。

a.大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術
b.結腸全摘・回腸直腸吻合術

術式はポリープの数や部位、年齢などを考慮して決定しますが、最終的には患者様と手術前によく相談した上で決定しています。当院ではいずれの術式も腹腔鏡下手術で施行しています。

リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌)

ミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患です。家系内に大腸癌、子宮内膜癌をはじめ、様々な悪性腫瘍が発生することが特徴の一つです。いわゆる遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)とリンチ症候群は同一疾患です。
治療は通常の大腸癌に準じて行いますが、当院では腹腔鏡下手術が第一選択です。
確定診断には、ミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列における病的変異を同定すること(遺伝子検査)が必要とされますが、現在のところ保険収載されていません。
スクリーニングに用いられる診断基準としては、改定ベセスダガイドラインやアムステルダム基準IIがあります。

アムステルダム基準II(1999)

少なくとも3人の血縁者がリンチ症候群関連癌(大腸癌、子宮内膜癌、腎盂・尿管癌、小腸癌)にりかんしており、以下のすべてを満たしている。

  1. 1人の罹患者はその他の2人に対して第1度近親者である。
  2. 少なくとも連続する2世代で罹患している。
  3. 少なくとも1人の癌は50歳未満で診断されている。
  4. FAPが除外されている。
  5. 腫瘍は病理学的に癌であることが確認されている。

改定ベセスダガイドライン(2004)

以下の項目のいずれかを満たす大腸癌患者には、腫瘍のMSI検査を行うことが推奨される。

  1. 50歳未満で診断された大腸癌
  2. 年齢に関わりなく、同時性あるいは異時性大腸癌あるいはその他のリンチ症候群関連腫瘍(注)1がある。
  3. 60歳未満で診断されたMSI-Hの組織学的所見(注)2を有する大腸癌。
  4. 第1度近親者が1人以上リンチ症候群関連腫瘍に罹患しており,そのうち1つは50歳未満で診断された大腸癌。
  5. 年齢に関わりなく、第1度あるいは第2度近親者の2人以上がリンチ症候群と診断されている患者の大腸癌。

(注)1 大腸癌、子宮内膜癌、胃癌、卵巣癌、膵癌、胆道がん、小腸癌、腎盂・尿管癌、脳腫瘍(通常はTurcot症候群にみられるglioblastoma)、Muir-Torre症候群の皮脂腺腫や角化棘細胞腫。
(注)2 リンパ球浸潤、クローン様リンパ球反応、粘液癌・印環細胞癌様分化、髄様増殖。

最終更新日:2018年2月28日