外傷

主に、救命救急センターとの協力体制のもと、重篤な外傷の受け入れを行っております。

  1. 熱傷(やけど)
  2. 顔面外傷
  3. 手指の切断
  4. 四肢、体幹の表面外傷
  5. 外傷後、術後瘢痕

熱傷(やけど)

当科は東京都熱傷連絡協議会の参加施設であり、広範囲重症熱傷患者も救命救急センターとの協力体制のもとに受け入れています。小範囲~中等度の範囲の熱傷に対しては、可及的に早く治癒させ、熱傷治癒後の瘢痕(傷跡)や瘢痕拘縮を最小限にとどめるために、それぞれの熱傷創(熱傷深度)、熱傷部位に応じた治療法(外科的手術(植皮術)、保存的治療法(水治、軟膏療法等))を形成外科学会専門医、熱傷学会専門医の判断の元に適切に治療しております。
特に小児の熱傷に関しては、急性期はもちろん、熱傷創が安定した後も、熱傷後の瘢痕拘縮等や成長に伴う変化に対し長期観察を行い、時期に応じた治療を家族、患者さん本人の立場に立った治療を行なっております。

顔面外傷

当科では体表面外傷(切り傷、擦り傷)はもちろん、顔面骨骨折の治療を行なっております。損傷された顔面形態を可能な限り受傷前の状態にもどすように努力しています。

顔面軟部組織損傷

顔面の軟部組織損傷は損傷している部分を、いかに受傷前の状態に戻せるか、すなわち表面の傷跡をいかに目立たなくさせるかということが重要です。特に涙小管、顔面神経などの損傷に対しても受診時に適切な処置が施されなければなければ、思わぬ傷跡等の後遺症を残すことになるので注意が必要です。当科では傷に対しても適切に対応を行い、また傷が回復した後の瘢痕に対するアフターケアも行なっております。

鼻骨骨折

鼻骨の骨折は当科で扱う顔面骨骨折の中で、最も多い骨折です。症状としては、鼻の変形と鼻出血があります。受傷してから約2週間以内の新鮮例であれば全身麻酔下に、皮膚に新たな傷をつけずに整復することができます(鼻骨徒手整復術)。治療に際しては骨折による変形の程度、整復後の評価を適切に行うために、当科では術前にCTにより評価するとともに、術中に超音波検査を併用して整復位をその場で評価し正確な整復を行うようにしています。ただし、鼻骨は顔面の中でも最も薄い骨の一つであり、完全に元どおりに整復することは困難です。

頬骨骨折

頬部を強打すると頬骨前頭縫合(眉毛の外側付近)、頬骨弓(頬の側面付近)、上顎骨(頬の正面)と3箇所で骨折するいわゆる「tripod 骨折」を来すことがあります。頬骨骨折の症状としては

  1. 頬部の平坦化
  2. 知覚障害:頬部〜上口唇に歯医者さんで麻酔をされたような感覚を生じます。歯を噛み締めた時に、違和感を感じることもあります。
  3. 開口障害:口を大きく開けようとすると引っかかるような違和感を感じます。

など挙げられます。
治療はCT検査等で精査したのちに、偏位した頬骨の整復と固定を行わなければなりません。一般的には眉毛外側、下眼瞼縁もしくは眼瞼結膜および口腔内などを切開して骨折部を露出し、直視下に整復して金属プレートまたは吸収性プレートなどで固定します。

眼窩骨折

眼球の収まっている眼窩は下壁と内壁が薄く、眼球に強い衝撃が加わると、薄い下壁、内壁に骨折を生じ、壁の後ろにある空洞である副鼻腔に眼窩内容(脂肪等)が飛び出すことがあり、このような骨折は「眼窩底(内壁)骨折、ブローアウト骨折」ともいわれています。
眼窩骨折の症状としては

  1. 複視:骨折部に眼球周囲の筋肉が挟まることによる眼球運動障害が生じ、物が重複して見える症状、すなわち複視を生じることがあります。
  2. 眼球陥凹:眼窩内容が服鼻腔に出てしまうことにより眼窩内容の容積が減りまぶたがぶつけてない方より凹んでしまうこと。
  3. 頬部の知覚障害:歯医者さんで麻酔をされたような違和感を上唇周囲に生じることがあります。

などが挙げられます。

治療は主に経結膜切開(下瞼の内側を切開します)から直視下に骨折を整復し、吸収性プレートを骨折部に挿入して壁を作成します。症例によっては口腔内切開から内視鏡を上顎洞内に挿入して吹き抜けた骨折を整復して、バルーンにより骨折部を持ち上げ、固定することもあります。

多発顔面骨骨折

交通事故や、重度の顔面外傷により顔面の様々な部位に骨折を生じることがあります(Lefort骨折等)。頭部や頚椎等に外傷を合併していることが多いため、全身状態が安定したのちに手術を行うこともあります。
顔貌の可能な範囲での復元はもちろん、咬合(かみ合わせ)の修復も大切です。当科綿密な画像検査を行った上で、咬合のより良い修復のために歯科口腔外科等と共同で手術を行っております。

多発顔面骨骨折の手術前後の画像

手術により骨折部分を整復し、チタンプレートで固定しています。
歯の欠損に対しては、後日歯科にて治療いたしました。

手指の切断

指が切断された場合、切れた部分をただ縫合しただけでは、切断された組織に血液が届かず壊死します。そこで切れた指の血管同士を顕微鏡下でつないで、切断された部位まで血液を循環させて生着させようとする手術を再接着術といいます。手指の場合、細い血管(直径1~0.5mmほど)や神経、腱、骨が損傷されているため、顕微鏡下での修復が必要となります。切断指はできるだけ早く再接着術をしなければ、生着率は徐々に低下するといわれています。
手術が成功し血液が再接着指に流れ、術後2週間ほどで循環が安定します。
切断の原因は様々で、鋭利な刃物による切断、プレス機等により鈍的な物にはさまれた切断、引きちぎられた切断、あるいは手袋が脱げるように皮膚が剥がされる切断などがあります。後に掲げた切断ほど、組織の挫滅が強く再接着が難しくなります。さらに、受傷してからの時間、切断指の保存状態、合併損傷の有無、年齢、既往歴(糖尿病、動脈硬化、喫煙歴)、術者の技量などが生着するか否かに影響します。状況によっては再接着が不可能な場合もあります。術後も再接着指の血流の安定のために約2週間程度の安静が必要です。生着したとしてもそれで治療が終わりと言うわけではありません。機能回復のためリハビリテーションが必要で、根気よく続けなければ、機能面での改善は難しいのです。軽い他動運動から始め、自動運動へと進みます。再接着後はしばらくは指の腫脹(むくみ)やしびれ、冷たさに対し敏感になることがあります。
切断指に対する再接着術は緊急を要し、高度な技術と経験、設備が整っている施設でのみ対応が可能です。

母指切断指に対する再接着術前後の画像所見。

術前のレントゲン所見: 末節骨遠位部にて(玉井のzoneⅠ、石川のsubzoneⅡ付近の切断)されていることがわかります。母指は手の中でも特に重要な指です。骨を固定後に動静脈を吻合しました。 術後のレントゲン、局所所見: 術後約1年の所見です。骨癒合の状態は良く、爪も特に問題なく生えており、良好な結果と言えると思います。

四肢、体幹の表面外傷

刃物で切ってしまった。転倒し裂けてしまった等の治療を主に行なっております。切り傷等の場合は縫合を、擦過傷や皮膚欠損に対しては主に保存的治療を行っております。治癒後の瘢痕に対しても傷跡をなるべくきれいな傷痕にするための治療法を行っております。

保存的療法

交通事故により皮膚が削れてしまっています(右足背外側)。
植皮術も検討しましたが、保存的に上皮化を認めました。幸いケロイド化や瘢痕拘縮は生じませんでした。

外傷後、術後瘢痕

外傷や、手術により生じた瘢痕、肥厚性瘢痕(ケロイド等)、瘢痕拘縮(ひきつれ)、その他の変形についてのご相談に対応します。
手術や外傷後には、創傷治癒過程における瘢痕化により傷跡が一時的に硬く感じるようになる、赤みが強いことがあります。これは傷が治る正常な過程で、3~6カ月間の経過観察と可能であればテーピング等を行うことで、比較的きれいな傷痕となることがあります。しかし、時間が経過した後に赤くもりあがり、痛みやかゆみをともなう症状を肥厚性瘢痕と言います。
これらは主に肩、前胸部正中、肘、膝、耳介などに発生しやすく、皮膚外傷、熱傷後、注射、ピアス痕などが原因となることが多くみられます。 治療法としては、保全的治療(圧迫、ステロイドを含んだテープや局所注射)と外科的治療(切除縫合)があります。非常に再発しやすく、気の長い治療が必要といといえます。
その中でも、傷の範囲を越えて増大、拡張する肥厚性瘢痕を狭義のケロイドと言います。体質が関与しており、増殖力が強く治療に抵抗性であることが多いです。
関節等に生じた瘢痕で、ひきつれにより関節の動きが悪くなっている場合は瘢痕拘縮と言われることがあります。治療法としては瘢痕と同様の保存的治療や、外科的な治療(瘢痕拘縮形成術)が適応となることがあります。

瘢痕拘縮形成術

腹部手術後の瘢痕、特に「ひきつれ」を生じるものが対象となります。 腰椎麻酔(もしくは全身麻酔)下に瘢痕を切除し、縫合しなおします。この際特殊な形成術を行います。 術直後は赤みが強く、瘢痕により硬さを感じますが、時間の経過とともに赤み、硬さも落ち着き、引き連れも解消します。

最終更新日:2018年2月28日