松沢病院看護部

看護部長あいさつ

松沢病院看護部長認定看護管理者 郷 由里子

 当院は、1919年に第5代呉秀三院長が患者一人に100坪の土地を要するとの考えのもと、自然豊かな荏原郡松沢村に移転してまいりました。精神科専門病院としての歴史は古く、2019年には創立140周年を迎えました。日本の精神科看護の礎を築いた石橋ハヤ氏は、1904年に呉院長の指名を受けて精神科看護の道に進み、「患者と対等な看護」という理念を全職員に浸透させ、患者や職員から「狂者の慈母」と慕われていました。また、1955年には国際赤十字委員会からフローレンス・ナイチンゲール記章を授与され、看護界のみならず医療界にとっても大きな励ましとなりました。

 さらに、石橋氏に指導を受けた浦野シマ氏は、『精神科看護77年』の著書の中で、閉鎖という状況は、自由を求める人間にとって大きく門を閉ざしているものであり、「看護の心はいつも患者の側に立って解決策を見出すことであり、精神科看護の原点である」と述べています。このように精神科看護師は、いつの時代においても精神に障害のある人への差別や偏見と真摯に向き合い、精神科医師と協働して施錠された閉鎖空間からの開放や身体拘束の解放を目指し、患者の声に耳を傾け、さまざまな課題に取り組んできました。

 さて、皆さんが考える「看護の原点」、「精神科看護」とは、どのような看護でしょうか。新卒時から精神科病院に勤務すると看護技術が習得できない、疾患や身体症状に関するアセスメント不足や身体的ケアが経験できないという意見を耳にすることがあります。ナイチンゲールは、「極めて初歩的な看護師の仕事は、患者の表情に現れるあらゆる変化の意味を、わざわざ患者に説明させるまでもなく、読み取り、患者の気持ちを理解することです」と記しています。松沢病院が求める看護師は心も身体も看ることができる、患者の意思を尊重し、人生の目標を共に考えて支援できる人です。心の中を見ることはできませんが精神科看護の経験を積み重ねながら、人として成長し、日々感謝の気持ちを忘れず謙虚に生きることにより、他者の心に寄り添い心優しいケアができると思います。

 当院は、東京都の精神科救急医療や精神身体合併症救急医療をはじめ、認知症看護、依存症看護、社会復帰に向けた看護など、専門的かつ幅広い精神科看護を実践することができます。看護部のビジョンは「患者と職員のために、一人一人が持てる力を発揮して行動する」とし、組織全体で行動制限最小化に取り組み身体拘束率は減少しています。2020年はナイチンゲール生誕200周年であり、世界中の看護師はナイチンゲールの業績を称えるとともに、私自身も「看護の原点」を再認識する機会となっています。今後、さらに地域に開かれた医療・看護を展開し、その人がその人らしく生活できるようにチーム医療を推進することにより、松沢病院が地域を支え、地域に支えられる病院となるよう努力してまいります。