松沢病院看護部

松沢病院の看護の実践

1.行動制限最少化の取り組み

 精神科病棟の行動制限は、「精神保健福祉法」に則り、患者さんの尊厳を守り、安心・安全な入院治療を行うために、「通信・面会の制限」や「隔離と身体的拘束」等を行う場合があります。私たちが大切にしていることは、この行動制限を、一人一人の患者さんの立場にたち、本当に必要なのか、ほかに代替方法はないのかを常に考え続けるということです。医療者側の理論でこの行動制限を正当化しない、「今の患者さんにとって何が最善か」「尊厳のあるケアとは何か」を多職種間で常に検討し、行動制限最小化に努めていくという姿勢です。

 患者さんが自己管理する生活に必要な物品を制限することも行動制限と考え、病院一律で制限する物品などを規定せず、一人一人の個別性と安全性をふまえ、患者さんの尊厳を守るように心がけています。患者さんの自由度や選択権を増やすことにより、患者さんの思いに寄り添い、人生の目標を共に考え、自立・自律を支援するために多職種で悩み相談しながら、患者さんにとって最善の方法は何かを考え、全力で取り組んでいます。

行動制限最小化看護分科会活動

 行動制限最小化看護分科会は、当院の「行動制限最小化委員会」の下部組織として設置され、委員会メンバーが協力して積極的に活動しています。看護分科会の活動は、身体拘束・隔離を減らす事が最終目的ではなく、患者さんの一人ひとりの人権擁護と安全の観点に立ち、行動制限最小化に至るまでのプロセスや、多職種と連携し倫理的合意形成を図るための取組みを大事にしています。そのため、各病棟が身体拘束・隔離を最小限にするための方策を検討する中で、対応困難な事例が報告された場合は、多職種で病棟訪問し意見交換することにより、院全体の行動制限最小化に取り組んでいます。

2.拘束最小化への取り組み

CVPPPの視点より

 松沢病院は患者さんと病院スタッフが互いに安心・安全にケアし合える関係を目指すために、包括的暴力防止プログラム(CVPPP:シーブイトリプルピー)に取り組んでいます。

 精神科の患者さんにみられる不安・怒りなどの感情や、自分自身を傷つけてしまう自傷行為や、他者を傷つけてしまう他害行為について、私たち看護師は患者さんの思いを捉え、寄り添う姿勢で理解を深め、関係性の構築を図っています。新人看護師からベテラン看護師まで学習する機会を設定しています。

 CVPPPは拘束を無くすことはできません。または無くす技術ではありません。しかし、最も非拘束的な方法を創造しケアすることを基本原則に掲げています。患者さんの危機的状態に対峙する看護師の対応能力が向上することで、患者さんが少しでも「ホッ」と安心できる気持ちになり、安全に治療へ専念できる環境になると考えています。病院で治療を受ける不安感や、思い通りにならない不満―怒りをケアし、安心で安全な治療環境を提供することで、行動制限の最小化につながるものと考えています。

包括的暴力防止プログラム(CVPPP)管理看護部

 医療従事者を対象に院内外で暴力に関するケアの研修開催や研究活動に取り組んでいます。最も非拘束的な方法を考え、常に患者さん中心のケアが実践できるよう取り組んでいます。「ケアとして真剣に患者さんのことを助ける、Person-Centeredにその人とかかわる」ということを基本的理念とし、力対力ではなくケアという視点で、患者さんが安全、安心を感じてもらえるケアを考え続けています。

3.精神科訪問看護

 患者・地域サポートセンターのアウトリーチチーム(訪問看護)です。患者さん、ご家族を中心に病棟や外来、そして地域の支援者とのつながりを大切にし、患者さん自身の希望や楽しみを持った生活実現を目指しています。

 精神疾患をお持ちの方やこころのケアを必要とされている方に、医師の指示のもと看護師や精神保健福祉士がご自宅や施設に伺い、健康状態や症状の観察、日常生活の相談やサポートを受けられるサービスです。

 精神科経験豊富な看護師が一人ひとりに合わせたサポートを行います。入院中から退院後の生活を共に考え、患者さんが家庭や地域社会で安心、安全、快適な生活を送って頂ける訪問看護サービスを提供します。

4.デイケア

 デイケアは、日常生活のリズムを整え、生活場面における苦手を克服したり、新しい趣味を見つけて交流の輪を広げたりするなど、自分らしい生活スタイルを身に着けて社会生活の機能を回復する場です。松沢病院には、ボックリーヌ(思春期・青年期)、くすのっきー(精神科)、ルピナス(依存症)の3つのデイケアがあります。

 それぞれのプログラム内容は、対象者の疾患や年代、関心のあることなどに合わせて、心身のリラックスに加えて楽しい充実した時間を過ごせる内容になっています。いずれも認知機能に働きかけて精神疾患からの回復を促進する工夫がされています。医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理士、作業療法士が協働してプログラムを提供しています。

 集団で行うプログラムもありますが、対人関係が苦手な人には、個別のプログラムもありますので、安心して参加してください。