原発不明がんについて

原発不明がんとは

がんには、必ず最初に発生した臓器(原発巣)が存在するはずです。検査によって、その原発巣がわかることがほとんどですが、十分な精密検査をしても原発巣がはっきりせず、転移病巣だけが判明するがんが存在し、それを原発不明がんと呼んでいます。原発不明がんは成人固形がんの1~5%を占めるとされています。

原発巣を検索するための検査

検査の主な目的は原発巣を探すことであり、原発不明がんと診断することではありません。原発巣が判明すると、より適切で効果的な治療法を選択することができます。

①問診
検査を行う前に、症状の発生から受診時点までの経過や、体の症状、これまでの病気の既往歴や家族の病気の既往歴などの問診、体の診察などから、原発巣の手がかりとなる情報を得ます。

②原発巣を検索するための検査
その後、腫瘍マ-カ-を含む血液検査や尿検査、および全身のスクリ-ニング検査として超音波(エコ-)、胸部X線、胸腹部骨盤CTやMRIなどの画像検査、必要に応じて乳房・婦人科・泌尿器科領域の診察や肛門付近の診察(直腸診)、内視鏡検査、PET検査などを実施していきます。
腫瘍マ-カ-とは、腫瘍細胞から出てくる物質を血液で検出するものです。ただし、体の中にがんがあっても高値を示さないこともありますし、逆にがん以外の原因でも高値になることがあります。 

③病理検査
がんであることの確定診断のためには病理検査(組織診断)が必要です。病理検査では、がん細胞や組織の形態を観察し、免疫染色と呼ばれる検査法を用いてがん細胞に存在する特定のタンパク質の有無を検索することなどを通して、がん細胞がどこの臓器に由来するかについて推定していきます。また、最近は遺伝子検査により発がんに関与する特異的な遺伝子異常が原発巣の診断に有用であることが知られています。
この組織診断を実施するために、腫瘍の一部を採取する方法を、生検といいます。生検には、外科的に腫瘍の一部を切除する切除生検や針を用いて組織を採取する針生検などがあります。病気の部位によっては、内視鏡や超音波検査、CT検査を用いて行われることがあります。
なお、痰や尿、胸水、腹水などにがん細胞が含まれていないかどうかを調べるために細胞診が行われますが、十分な診断が得られない場合があります。 

注目情報このような十分な検査によっても原発巣が診断できない場合には、原発不明がんの診断となります。

治療

①特定の治療方法が推奨される原発不明がん
原発不明がんのなかには、特徴的な病変の分布や組織型の組み合わせをもつ病態があり、「特定の原発巣のがんと非常に近い病態」である可能性があります。その場合には、「特定の原発巣のがん」と同様の治療方法を行うことで、そのがんと同等の治療成績が得られることが報告されています。こういった、特定の治療方法が推奨される原発不明がんの例を表にお示し致します。

表

②特定の治療方法のない原発不明がん
しかし、大部分の原発不明がんでは、病態に応じた特定の治療方法がないのが現状です。また、原発不明がんの場合にはすでに進行・転移している病態のため手術で病巣を完全に取り去ることは困難であり、病気を根治させることが難しい病態であると考えます。そのため、病気の進行を遅くすることや、がんによる病状を和らげることが治療の目標となります。
進行を遅くするために薬物療法が行われますが、原発不明がんに対する最適な薬物療法はいまだ確立されていません。これまで多く使用されている薬剤としてシスプラチンやカルボプラチンというプラチナ系薬剤があり、いろいろな抗がん剤と組み合わせて治療が行われています。それらの代表として、カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法があります。また2021年12月には、免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(オプジ-ボ®)が保険適応されました。それ以外の薬剤の組み合わせについては、現在も臨床試験を行って検討を続けており、ゲノム医療の応用も試みられています。
以上に加えて症状を軽減するために、その症状に応じて最も効果的な方法(薬物療法や放射線治療など)が用いられます。

 

参考:国立がん研究センタ-中央病院ホームペ-ジ>さまざまな希少がんの解説>原発不明がん(外部リンク)

                      多摩総合医療センタ-腫瘍内科外来2025.7

希少がんについて

  • 希少がんとは

  • 2015年の厚生労働省の検討会によって、希少がんとは「人口10万人あたりの年間発生率(罹患率)が6例未満の悪性腫瘍」、「数が少ないがゆえに診療・受療上の課題が他のがん腫に比べて大きいもの」と定義されています。各臓器の肉腫や中皮腫、神経内分泌腫瘍、脳・眼などの腫瘍など200種類近い悪性腫瘍が該当し、個々の希少がんでは全悪性腫瘍の1%にも満たない稀な腫瘍ですが、すべての希少がんを合わせるとがん全体の15~22%にも達します(図1)。
    年齢階級別罹患率は、25歳未満では一般的ながんよりも希少がんの方が多く、25~29歳でほぼ同等、30歳以上では一般的ながんが上回ります。
    これらの腫瘍は患者数が少ないがために治療法に関したデ-タが少ないことから、常に最新のエビデンスを検索し、それに基づいた最適な治療を行うことが求められます。

  • 図1 がん情報センタ-資料

  • 希少がん診療における諸問題

  • 希少がんでは患者数や専門の医師、医療機関が少ないため、診療ガイドラインの整備や有効な診断・治療法を実用化することが難しい状況が継続しています。
    このため、2012年6月に閣議決定された2期目の「がん対策推進基本計画」では、「患者が安心して適切な医療を受けられるよう、専門家による集学的医療の提供などによる適切な標準的治療の提供体制、情報の集約・発信、相談支援、研究開発等のあり方について、希少がんが数多く存在する小児がん対策の進捗等も参考にしながら検討する」という文言が加わり、2015年3月厚生労働省に「希少がん医療・支援のあり方に関する検討会」が設置され、その検討結果が同年8月に報告されています。

     *厚生労働省 ホ-ムペ-ジ(外部リンク)

  • 希少がん診療における対策・支援

  • これらの希少がんを取り巻く数々の問題に取り組むために、2014年6月に国立がん研究センタ-に「希少がんセンタ-」が開設され、①希少がんに関する診療・研究を迅速かつ適切に遂行可能なネットワ-クの確立、②わが国の希少がん医療の望ましい形を検討し、提言・実行する、などの取り組みが行われています。
    さらに、希少がんの患者さんが住み慣れた地域で納得のいく情報や診療にアクセスすることができるよう、東海、関西、九州などにも「希少がんセンタ-」が設置されるなど、現在までに関連情報を集約・発信するシステムや相談支援の実施、診療ネットワ-クの構築が各地域においても進められています。
    「希少がんセンタ-」には「希少がんホットライン」があり、患者さんやご家族、医療者からの希少がんに関する相談に対応しています。

  • 希少がん治療開発のための取り組み

  • 前述のように、希少がんは患者数が非常に少ないために治験・臨床試験の実施が困難であり、有効な治療開発が遅れていることが大きな問題となっています。
    近年、がんの遺伝子を調べることによって個々のがんに合わせた治療を行う「がんゲノム医療」が注目されています。2019年には遺伝子に変異がないかを調べる「がん遺伝子パネル検査」の一部が保険収載されるなど、がんゲノム医療が広がりつつあり、希少がんにおける治療においてもその展開が期待されているところです。
    このため国立がん研究センタ-を中心として「MASTER KEY project」という産学共同のプロジェクトが立ち上げられ、患者さんの臨床情報の蓄積から遺伝子異常を含めた生物学的な評価指標(バイオマ-カ-)など希少がんの特性を明らかにし、それに基づいた臨床試験によって新たな治療の開発が行われており、すでに医療の現場で使用されている薬剤もあります。

参考

国立がん研究センタ-中央病院希少がんセンタ- ホームペ-ジ(外部リンク)
日本希少がん患者会ネットワ-ク ホームペ-ジ(外部リンク)
国立がん研究センタ-MASTER KEY project  ホ-ムペ-ジ(外部リンク)

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