統合失調症の薬物療法における便秘重症化因子をリサーチ ~ 4,114名の入院患者処方を後方視的にロジスティック解析 ~

統合失調症の薬物療法における便秘重症化因子をリサーチ
~ 4,114名の入院患者処方を後方視的にロジスティック解析 ~

 抗精神病薬服用者の便秘が麻痺性イレウスや巨大結腸などへ重症化するケースは、第二世代薬での治療が主流となった現代もなお軽視できない重要な問題ですが、便秘の重症化に寄与するリスク因子を詳細に検討した研究は限られています。東京都立松沢病院の研究チームは便秘の重症化に及ぼすリスクを、種々の抗精神病薬および抗パーキンソン病薬、ならびにアントラキノン系刺激性下剤を対象に、ロジスティック解析を用いて検討しました。抗精神病薬ではclozapineとhaloperidolの高用量投与に便秘の重症化リスクとの関連が認められ、抗パーキンソン病薬とアントラキノン系刺激性下剤も、高用量投与では便秘の重症化リスクとの関連が認められました。性差においては、女性において便秘の重症化リスクが高い事が示されました。便秘重症化の回避に必要なのは、日常診療における便秘の有無に対する留意と、合理的な処方設計を基盤とした抗精神病薬の選択と用量調整、および必要に応じた薬剤変更です。加えて、抗パーキンソン病薬やアントラキノン系刺激性下剤の使用は頓服あるいは短期間に限定されるべきです。
 本研究成果は、2025年11月21日に国際学術誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」に掲載されました。

発表者名
灘谷 聡昭(東京都立松沢病院  薬剤科 薬剤師)
稲熊 徳也(東京都立松沢病院 精神科 医員)
長尾 知子(東京都立松沢病院 内科 医長)
石田 琢人(東京都立松沢病院 内科 医長)

発表のポイント
●クロザピンは抗コリン作用が強いだけでなく、様々な因子(人種、喫煙、性別、肥満、併用薬)により代謝が影響を受けるため、適切な投与量の設定には血中濃度モニタリングが欠かせない。

●抗コリン作用が弱いとされるハロペリドールだが、クロザピンに次ぐ便秘悪化因子であると認められた。本剤も適切な投与量設定に血中濃度モニタリングを推奨する。

  • ●抗コリン性抗パーキンソン病薬とアントラキノン系刺激性下剤はいずれも便秘悪化因子と認め、臨床使用は頓用に止めるべき。刺激性下剤の使用が必要な場合は、ピコスルファート液剤の適量使用が推奨される。
  • ●女性は便秘及びその悪化における普遍的なリスクファクターであるため、注意が必要である。
    • ◆ 発表内容

       研究チームは、東京都立松沢病院に2014年から2018年までの5年間に統合失調症で入院し便秘を合併した4114名を対象に、年齢・性別・使用薬剤とその量を解析し、便秘の悪化因子を探索しました。
       精神科処方薬についてはクロザピンとハロペリドールおよび抗パーキンソン病薬とアントラキノン系刺激性下剤の高用量が悪化因子であることが分かり、一方でリスペリドンの高用量は便秘悪化を回避する保護因子と認めました。 女性であることは便秘悪化因子として認めました(表1)

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  • ◆発表雑誌
    雑誌名:「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」(2025年11月21日)
    論文タイトル:Impact of antipsychotics, antiparkinsonian drugs, and
                      anthraquinone stimulant laxatives on severe constipation in
                      patients with schizophrenia
    著者:Toshiaki Nadaya, Tokuya Inaguma*, Tomoko Nagao, Takuto Ishida
           (*責任著者)
    DOI番号:10.1002/pcn5.70255
    論文URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pcn5.70255(外部リンク)
  • ◆お問い合わせ先
    本発表資料のお問い合わせ先
    東京都立松沢病院 精神科
    稲熊 徳也 医師
    〒156-0057 世田谷区上北沢2-1-1
    TEL: 03-3303-7211(代表)
    URL: https://www.tmhp.jp/matsuzawa/index.html