患者向け広報誌「OKUBO」
第5号 整形外科

大久保病院
整形外科 部長 中道憲明
自身の血液で関節等の炎症を抑える新しい「PRP療法」
肩や肘、膝や股関節などに、治りにくい痛みや炎症を抱えている患者さんは少なくありません。そんな患者さんの新たな選択肢と期待される治療法が、当院で始まりました。患者さん自身の血液に含まれる血小板や白血球等を活用した、「PRP(多血小板血漿)療法」という再生医療です。
血液に含まれる血小板や一部の白血球などは、体組織の修復や炎症の抑制に必要なタンパク質を豊富に持っています。一方、赤血球や好中球などには、炎症を促進する成分が含まれます。そこで患者さんから30~60ccほどの血液を採血し、専用の機械で分離・凝縮。治療に有効な血小板が多く含まれる製剤(注射液)を作成します。それを患部に直接注射することで、傷ついた組織の修復と炎症・痛みの緩和を目指します。
従来の治療では改善が難しい患者さんの、新しい選択肢に
PRPは比較的新しい治療法で、日本ではまだ健康保険適用外の自由診療となります。しかし国内外で多くの治療実績や論文が続々と発表されており、最近では世界的なトップ・アスリートが採用する例が急増してきました。それらを慎重に検討した結果、当院でも取り組む価値がある療法と判断しました。
関節の専門医として私が注目しているのが、若年性変形性関節症への適用です。人工関節の耐用年数は20年ほどのため、40代以下の患者さんには採用が難しい。そのため、対処的な療法を長く続けざるを得ない患者さんも多く、PRPは朗報となるのではと強く期待しています。また人工関節を望まない患者さんや、運動や事故による半月板、靱帯、関節等の損傷などにも重要な選択肢になると考えられます。
標準的な治療であるヒアルロン酸注射を長く続けながら改善が見られない患者さんも、検討する価値があると思われます。ヒアルロン酸には保水および抗炎症作用があり、短期的には痛みを和らげる効果が確認されています。しかし多くの場合2~3週間で効果が落ちるため、根本的な治療に至らず、数年に渡って注射し続ける方もいます。そんな患者さんの中には、PRP療法が適合するケースもあるのではないでしょうか。
血小板を多く含む「高濃度製剤」が、当院の特徴
当院におけるPRP療法の特色は、注射する製剤の「濃さ」にあります。
現在、世界中の医療機関でさまざまな試みが行われており、数億個の血小板を含む“薄め”の製剤を複数回注射する方法も多数報告されています。そうした報告や論文を精査して濃度の違いによる効果を比較した結果、当院では50億~100億個という大量の血小板が含まれた高濃度製剤を採用することとしました。高濃度製剤では、短期的な改善だけでなく、5年10年経っても症状が進行しにくく、痛みや炎症がぶりかえしにくい、という報告例が多数認められたのです。この方法であれば、1回のみの注射で長期的な効果が期待できます。
採血から注射まで40分程度で終了し、一般的な献血よりもはるかに少ない採血量で済みますので、身体への負担も最小限に抑えられます。患者さんご自身の血液を使用しますので、拒絶反応などもありません。こうしたメリットを、まずは広く知っていただきたいと思います。
今も進化中の自由診療。まずは正しい理解を。
一方で、自由診療なので治療費が高額になることや、注射した部分にズキズキとした痛みや熱を感じる副作用が約半数に起こるなど、デメリットもあります。疼痛には鎮痛剤がよく効き、おおむね3日程度で治まりますが、副作用の出方には個人差があるでしょう。発症から時間が経っている場合は効果が出にくい場合がある、という報告もあります。
個々の症状はもちろん、年齢や仕事、生活状況などによって、PRP療法の適・不適があると考えられます。まずは一度、担当医にご相談ください。詳しい診断と説明を踏まえて、慎重にご判断いただき、一歩を踏み出していただければと思います。
★詳しくは、再生医療外来のウェブページをご覧ください。