正常圧水頭症について

正常圧水頭症とは?

脳と脊髄は脳脊髄液という無色透明な水様の液体に浸かっています。この脳脊髄液の循環が悪くなり、溜まってきている状態を水頭症と言います。脳脊髄液の循環が脳出血などによって急激に障害されると脳圧の上昇を伴う急性水頭症を起こします。一方、脳脊髄液循環が緩徐に障害されると、脳圧の上昇を示さない正常圧水頭症を生じます。正常圧水頭症にはくも膜下出血や髄膜炎などの合併症として生じる二次性正常圧水頭症と原因の明らかでない特発性正常圧水頭症(Idiopathic normal pressure hydrocephalus: iNPH)があります。正常圧水頭症では歩行困難、認知症、尿失禁などの症状が現れますが、高齢者に多く発生するため「年のせい」として片付けられ、有効な治療法があるにも関わらず、診断に至らないケースも多いのではと危惧されています。

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症状

正常圧水頭症は60才台以降、とくに70~80才台に多い疾患で、男性にやや多いと言われ、歩行障害、認知障害、排尿障害が正常圧水頭症の三大徴候とされています。正常圧水頭症は認知症の5%程度を占めると考えられ、認知症の原因疾患として強調されてきました。しかし、実際には歩行障害が最も初期から生じることが多いため、歩行困難を来す疾患という見方で捉えることが必要です。

歩行障害

  • 足が上げにくい、小刻み
  • 左右の歩隔が広く、前後の歩幅は小さい
  • ふらつく、よたよた
  • 方向転換できない
  • 止まりにくい

認知障害

  • 意欲や自発性が低下する
  • 一日中ボーっとしている
  • 呼びかけても反応が遅い

排尿障害

  • トイレが近い
  • 間に合わない

診断・検査

上記のような症状を確認します。パーキンソン病、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症などすくみ足を生じる疾患、脊柱管狭窄症や慢性動脈閉塞症など歩行困難を来す疾患、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症など認知障害を来す疾患などとの鑑別が必要となります。また、これらの疾患が正常圧水頭症としばしば合併して共存します。

頭部CT・MRI

脳脊髄液が出てくる脳室という部屋が拡大します。また脳脊髄液が流れているくも膜下腔がシルビウス裂以下では拡大しているのに高位円蓋部では縮小しているという不均衡な拡大が特徴とされます。

特発性正常圧水頭症診療ガイドライン2011改訂版より引用

髄液排除試験(タップテスト)

腰に針を刺して腰椎から脳脊髄液を排除して症状が改善するかどうかをみる試験です。正常圧水頭症では髄液排除試験によって歩行状態が良くなったり、反応が素早くなって元気が出たり、尿失禁が減ったりといった変化が現れます。ただし、数回の試験では変化が現れないこともあります。

治療

正常圧水頭症の治療には脳脊髄液の新たな循環路を作る手術が必要となります。頭部の脳室へカテーテルを挿入し、カテーテルを皮下に通して腹腔内に留置する脳室腹腔シャント術と腰から腰椎にカテーテルを挿入して、カテーテルを腹腔内に留置する腰椎腹腔シャント術が一般的に行われています。手術によって何らかの改善が得られる確率は50-90%と報告されています。