当院検査科は神経疾患専門病院の検査部門として神経疾患に特化した検査体制を取っております。特に、生理検査部門と病理検査部門は当院の開設以来、それぞれ神経生理と神経病理の特殊検査を行える検査施設です。
1主な設備



2業務内容
検体検査室
血液検査、生化学検査、免疫・血清検査、一般検査、輸血検査など多岐にわたる検査を、4人の技師で行っています。細菌検査は外注ですが、インフルエンザやRSウイルス、CDトキシンなど院内感染対策として院内で実施しています。ICUの検査機器や血液保冷庫の管理も担当しております。また、日常の精度管理の実施の他に、日本医師会や日本臨床衛生検査技師会のほか、試薬メーカーのコントロールサーベイなどの外部精度管理にも参加して、精度の高い検査結果を提供しています。さらに、NSTやICTなどのチーム医療にも積極的に参加しています。
生理検査室
神経筋疾患やてんかんなどの中枢性疾患の診断や病状評価,治療効果の判定において,神経生理学的検査は欠かすことのできないものです。通常の神経生理学的検査は簡便に行うことができる一方,その方法や結果の解釈には熟練した技術が必要です。当院では,日本臨床神経生理学会の認定医が3名,同学会認定技師が2名在籍しており,豊富な経験をベースに日々研鑽を積み重ねております。
一般に行われる神経生理検査には以下のようなものがあります。
(1)脳波
頭皮上に記録電極をおいて測定します。通常は後頭葉優位に8~13Hzのα波が記録されますが,意識障害や認知機能の低下などに伴い,θ波(4~7Hz)やδ波(1~3Hz)などの徐波が記録されるようになります。またてんかんにおいて脳波検査は必須であり,棘波や鋭波などのてんかん源性の電位が記録されます。側頭葉てんかんにおいては蝶形骨誘導にて側頭葉近傍の電位を確認します。ナルコレプシーなどの疾患においては,MSLT検査を行うこともあります。
(2)誘発脳波
おもに短潜時体性感覚誘発電位(SEP),聴性脳幹反応(ABR),視覚誘発電位(VEP)を行っています。SEPは,上肢(正中神経)または下肢(脛骨神経)を頻回電気刺激し,頸部や頭皮においた電極から電位を記録し500~1000回加算平均するというものです。加算平均することによって通常の脳波では記録できない中枢感覚路が発生する電位を記録することができます。脊髄や脳幹,大脳皮質などの中枢感覚路に異常がある場合,この検査で検出できます。
ABR,VEPもSEPと同じ原理を使い,中枢神経機能を調べるために利用されます。ABRは左右の耳からクリック音を聞かせ,VEPは視野にモニターを使って視覚刺激をいれたのち,頭皮上の電位を加算平均して記録します。SEPと同様に,聴覚路や視覚路に病変がある場合,異常が検出されます。
SEP,ABR,VEPが最もその効果を発揮する疾患は,中枢神経の脱髄性疾患です。脊髄や脳幹,視神経に脱随巣があった場合,客観的な機能障害の証明になるだけでなく,症状がなくても異常を検出できるため,診断率の向上にも寄与します。またABRは脳幹の機能を反映させるため,脳死判定には欠かすことのできない検査です。
(3)神経伝導検査
末梢運動神経,感覚神経を体表から電気刺激し,表皮上の筋腹や感覚神経の走行部位においた電極から複合性筋活動電位,感覚神経活動電位を記録します。絞扼性ニューロパチー(手根管症候群など),多発性単神経炎,多発ニューロパチー,運動ニューロン疾患など末梢神経障害の診断に用いられます。活動電位の振幅や伝導速度を評価し,病状の進行状況の把握,再発の有無,治療の効果判定などにも有用です。またF波は,四肢遠位部の刺激により発生したインパルスが逆行性に脊髄に戻り,また遠位部に帰ってくる反応を見るもので,運動神経の近位部病変や,脊髄運動ニューロンの興奮性の評価に有用です。F波と同じ脊髄を介する反応としてH反射を使って病状を評価したり,また大脳を介する反射としてC反応を調べたりすることもあります。
(4)針筋電図
神経伝導検査が末梢神経そのものの機能評価をするのに対し,針筋電図は骨格筋自体の活動性や運動単位の評価に有用です。表皮上より針電極を筋肉に刺入し,筋が発生する自発電位や,随意収縮にともなう筋活動を記録します。筋力低下や筋萎縮の原因が,末梢神経障害によるものなのか,筋障害(ミオパチー)によるものなのかを判定することができ,筋萎縮を示している患者の診断には必須な検査です。一回の検査で4~6筋程度を検査しますが,針の刺入という侵襲性があり痛みを伴いますので,診断に必要な最小限の数の筋を調べることになります。
(5)脳幹反射
脳幹(延髄,橋,中脳)を介する反射のことを脳幹反射と呼びますが,生理検査としてもっとも簡単に記録できる脳幹反射が瞬目反射です。具体的には,三叉神経第1枝か第2枝を電気刺激することにより反射的に収縮する眼輪筋の筋電図を記録します。この反射はR1とR2という2つのコンポーネントからなっており,左右のR1,R2のどれが障害されているかを調べることにより,脳幹のどの部位に伝導障害があるかを推定することができる簡便な検査です。
(6)反復神経刺激検査
別名,Harvey-Masland検査ともいいます。末梢運動神経を頻回に刺激することによって得られる筋の複合運動活動電位の振幅の変化を見る検査で,神経筋接合部の伝達障害がある場合に異常が検出されます。おもに重症筋無力症などの無力症症候群の診断に有用です。重症筋無力症の場合は,3Hzの刺激により振幅は徐々に低下するwaningという現象が見られますが,Lambert-Eaton症候群の場合は,50Hz刺激で振幅が著明に増大するwaxingという現象が見られ,診断や鑑別に用いられます。
(7)大脳磁気刺激検査
大脳運動野や錐体路(一次運動ニューロン)の機能を評価するために行う検査です。大脳は頭蓋骨に覆われているために,通常の電気刺激により刺激を行うのは困難です。その代わりに開発されたのが磁気刺激法です。具体的には絶縁体で覆われたコイルの中に電流を流すことにより磁場を発生させ,その磁場により二次的に脳内に電流を生じさせて脳を刺激する方法で,電気刺激に比べはるかに痛みが少ないのが特徴です。大脳運動野が障害されている場合,また錐体路の障害がある場合,逆に中枢運動伝導路に異常がないことを客観的に確認する場合に検査を行います。脳の中に電気を発生させるため,脳内にクリップがある方や,心臓ペースメーカーを使用している方には検査を行うことができません。
そのほか当院では,表面筋電図検査,Jerk locked averaging,脊髄刺激検査,交感神経皮膚反応など様々な検査を行うことができます。診断がついていない患者さんや生理学的に病状評価を行う必要がある場合は,当院へご紹介いただければ対応いたします。詳しくは、多摩総合医療センター脳神経内科もしくは小児医療センター神経内科にご相談ください。
病理検査室
当院は神経病理の研修が可能な専門病院として日本神経病理学会の認定施設となっており、神経病理を専門とする常勤医師1名、非常医師4名、常勤技師2名、非常勤技師1名の体制で業務を行っております。
1. 術中迅速診断
対象は脳脊髄腫瘍および中枢神経感染症で、年間約50件、切除手術と開頭・針生検に対応しております。脳腫瘍については原則として全例で凍結検体を保存し、必要に応じて大学病院に遺伝子検査を依頼しております。
2. 組織検査
院外からの脳腫瘍、神経筋疾患のコンサルテーションを含めて年間約250件。神経組織に加えて、脊椎手術の対象となる後縦靭帯等の周辺組織も対象となります。てんかん手術検体では大切片による標本を作製、神経膠腫では特殊染色と免疫組織化学染色を併せて7、8種類の染色をルーチンで行っております。筋生検ではパラフインブロック以外に凍結ブロックを作製し、約20種類の組織化学的染色を行っております。全例で電顕ブロックも作製し、必要に応じて超薄切片による電顕的観察も行います。神経生検は近年その適応が大きく減り、電顕ブロックは全例で作製しているものの、とききほぐし標本の作製はほとんど行っておりません。神経筋検体の診断は主に神経内科の医師が担当しております。
3. 細胞診
年間約250件と総数は少ないですが、その約80%が脳脊髄液です。
4. 病理解剖
最近は年間15体前後で、当院の在宅からも受け入れております。全てが神経疾患、特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)が8割以上を占めます(図1)。ALSでは横隔膜を含む呼吸筋と右横隔神経(エポン包埋標本)の採取を行います。ALSを含めた神経変性疾患では、全例で凍結検体を保存し、必要に応じて東京都医学総合研究所でウエスタンブロットを行っております。また、当院の剖検室は感染防止対策剖検室(バイオクリーンルーム)に改修されており、プリオン病の解剖が可能で、全都立病院から受け入れております。剖検例は原則として全例でCPCを行い、脳外科と神経放射線科を主体とした外科病理カンファレンスも開催しております。
そのほか日本神経病理学会、日本脳腫瘍病理学会、日本病理学会などの全国学会に加えて、地域の病理医との交流の場として日本神経病理学会関東地方会、東京脳腫瘍研究会、多摩脳腫瘍研究会に参加しております。

図1孤発性ALSの剖検例。上位下位運動ニューロン変性と共に海馬顆粒細胞や脊髄前角細胞にTDP43陽性封入体を認める。