医療の質(クオリティ・インディケーター)について
クオリティ・インディケーター(QI)とは医療の質に着目した臨床評価指標です。
医療の質とは、「根拠に基づいた医療」の実践度合いや、患者に望ましい健康状態をもたらす可能性の高さです。
医療の質を高めることは、病院の治療水準の向上はもとより、患者さん・医療従事者双方にとって望ましい医療環境を提供することにもつながります。
さらに、医療の質を可視化するとともに、わかりやすく発信することで「病院の状況の見える化」が促進されます。
当院では医療の質を測定・分析し、PDCAサイクルに基づいた継続的な質改善運動を実施し、「質の高い医療を提供」してまいります。
(主な指標)
患者満足度、I/Aレポートの医師による提出割合、救急車・ホットライン応需率 等
当院のQI活動について
当院では医療の質向上のため、以下の取組を実施しています。
1 QI(クオリティ・インディケーター)委員会の設置
当院が、恒常的かつ効果的に医療の質向上の取組を実施するための体制として、院長以下各部門の責任者をメンバーとしたQI委員会を設置しました。
2 医療の質を振り返るための新たなQI指標の設定
当院の医療の質を「見える化」させ、提供する医療の過程と結果を振り返るため、医療の質に着目した新たな臨床評価指標を導入しました。
3 患者さんにとってわかりやすい形での情報発信
患者さんが医療機関を選択しやすくなるよう、医療の質向上の取組状況等について、適時情報発信を行っています。また、情報発信にあたっては、指標のみを公表するのではなく、取組の概要なども掲載し、患者さんに伝わりやすい形で実施しております。
4 今後の進め方
当院で設定した各QI指標の実績や取組内容に基づき、QI委員会や関係部署で検討を行い、質向上のための改善策を実施してまいります。
QI指標
01 患者満足度(外来患者)
02 患者満足度(入院患者)
03 I/Aレポートの医師による提出割合
04 救急車・ホットライン応需率
05 18歳以上の身体拘束率(精神科以外)
06 1か月間の100床当たりのインシデント・アクシデント報告件数
07 クリニカルパスにおける負のバリアンスの発生率
08 新規褥瘡発生率(MDRPI含む)
09 転倒・転落 ①転倒・転落発生率②損傷発生率(レベル2以上)③損傷発生率(レベル4以上)
10 血液培養2セット実施率
11 特別食加算比率
12 PXサーベイ:PSスコア
13 手術開始前1時間以内の予防的抗菌薬投与率
14 2週間以内の退院時サマリー作成率
15 画像診断の読影レポート確認率
01 患者満足度(外来患者)
<指標の説明・意義>
病院における施設・療養環境、接遇、診療、サービス体制の各面に対する患者さんの満足度を把握することは、医療の質を図るうえで、重要かつ直接的な評価指標の一つとなる。
<定義・計算方法>
※「不満/やや不満/どちらともいえない/やや満足/満足」の5段階の合計数
【分子】分母のうち「満足」または「やや満足」と回答した外来患者数
【分母】外来(入院)患者への満足度調査指標「全体としてこの病院に満足していますか。」の設問有効回答数
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
83.2% | 81.8% | 92.6% |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
当院では退院時アンケートや患者満足度調査等により、患者さんの声を収集し、患者サービス委員会等で頂いた意見の検討・活用を行っています。回答は院内掲示板等に掲載し、患者さんへのフィードバックを実施しています。
直近では要望の高かったWiFiの設置が完了しました。また、妊産婦特別食の改善や産婦人科病棟へのヘアドライヤー設置などを実施しました。
今後も引き続き患者さんの要望を反映できるよう努めてまいります。
02 患者満足度(入院患者)
<指標の説明・意義>
病院における施設・療養環境、接遇、診療、サービス体制の各面に対する患者さんの満足度を把握することは、医療の質を図るうえで、重要かつ直接的な評価指標の一つとなる。
<定義・計算方法>
※「不満/やや不満/どちらともいえない/やや満足/満足」の5段階の合計数
【分子】分母のうち「満足」または「やや満足」と回答した外来患者数
【分母】外来(入院)患者への満足度調査指標「全体としてこの病院に満足していますか。」の設問有効回答数
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
90.5% | 92.1% | 97.3% |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
項番1「患者満足度(入院患者)」参照
03 I/Aレポートの医師による提出割合
<指標の説明・意義>
身体への侵襲を伴う医療行為は常にインシデント・アクシデントが発生する危険がある。その発生をできる限り防ぐことは医療安全の基本であり、仮に生じてしまった場合、原因を調査し、防止策を講じることが求められる。
一般に医師からの報告が少ないことが知られており、この値が高いことは医師の医療安全意識が高い組織の可能性がある。
<定義・計算方法>
【分子】分母のうち医師が提出したインシデント・アクシデント報告総件数
【分母】入院患者におけるインシデント・アクシデント報告総件数
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
4.0% | 4.2% | 6.1% |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
医療安全医師分科会で課題を共有し、提出の取り組みを行う。
①診療科毎の報告件数をモニタリングし、毎月の分科会で検討。
②研修医育成のため、研修医全員が年間3件以上/Aレポートを提出する目標を設定。
04 救急車・ホットライン応需率
<指標の説明・意義>
救急医療の機能を測る指標であり、救急車受け入れ要請のうち、何台受け入れができたのかを表している。
本指標の向上は、救命救急に関連する部署だけの努力では改善できず、救急診療を担当する医療者の人数、診療の効率化、入院を受け入れる病棟看護師や各診療科の協力など、さまざまな要素がかかわる。
<定義・計算方法>
【分子】受け入れ件数(救急車で来院した患者数)
【分母】救急搬送依頼件数(ホットラインでの受入要請患者数)
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
49.3% | 71.4% | 70.5% |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
・救命救急士の採用による救急受入体制の強化
・ホットラインの増設
・不応需理由の分析
・効率的な病床運用 等
05 18歳以上の身体拘束率(精神科以外)
<指標の説明・意義>
身体の自由を身体的拘束によって妨げることは、患者の尊厳を損なう行為である。また、拘束による二次的な身体的障害が生じる可能性もあるため、代替方法が見出されるまでのやむを得ない処置として行われる行動の制限であり、できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならない。
「患者の行動の自由を制限しているかどうか」と患者に向き合い、アセスメントを十分に行い、患者・家族・関係者等で協議し、身体拘束廃止・防止に向けた取り組みを定期的に見直し、改善していくことが医療の質向上につながる。
<定義・計算方法>
【分子】精神科病棟以外で身体拘束*1を実施した患者延数(延日数)
【分母】精神科病棟以外の18歳以上の入院患者延数
*1:厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」の11行為
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
ー | ー | 15.5% |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
・身体的拘束解除シートでの拘束実施状況や減少・解除の把握
・身体拘束実施率の周知(4回/年)
・身体拘束最小化チームでの病棟ラウンド(各病棟 1回/月)
・ラウンド結果の共有(行動制限最小化委員会、看護部運営会議・RN会/各会開催日)
・認知症リンクナース会での身体的拘束代替案の取り組み(病棟レクリエーション等)
06 1か月間の100床当たりのインシデント・アクシデント報告件数
<指標の説明・意義>
一般的に、「インシデント・アクシデントレポートの報告件数が病床数の5倍,そのうち1割が医師からの報告であること」が、医療安全活動の透明性の目安と言われている。
報告する文化を醸成し、報告件数を増加させることで、事象の共有、透明性確保、システム改善を行い、患者の医療安全の向上につなげることが可能となる。
<定義・計算方法>
【分子】月毎のインシデント・アクシデント報告件数
【分母】運用病床数
【単位】件(100病床あたり)
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
59.5件 | 60.8件 | 93.7件 |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
ゼロレベルインシデント報告の推進
研修医3件/年・看護師5件/年提出
I/Aレポート集計報告周知
事象レベル分類の職種別集計周知
07 クリニカルパスにおける負のバリアンスの発生率
<指標の説明・意義>
パス展開日から退院日までが,パスの日程通りになっているか。
標準化された治療計画に基づいて治療が行われることで、医療のプロセスが一貫性を持ち、ばらつきを減らすことにつながる。
DPCIIとは必ずしも一致しない。医療の質だけでなく、病院経営の健全化にもつながる。
<定義・計算方法>
【分子】パス設定日数より1日以上遅く退院した患者数
【分母】退院患者のうち、パス進捗区分が「終了」「中止」のみ、同一入院期間に重複している場合は削除
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
20.8% | 20.2% | 22.8% |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
年度毎に各パスにおける負のバリアンスの発生率を算出し、各診療科へ報告。
傾向等を確認し、見直しや未使用のパスの整理を促す。
08 新規褥瘡発生率(MDRPI含む)
<指標の説明・意義>
褥瘡予防対策は、提供されるべき医療の重要な項目であり、栄養管理、ケアの質評価にかかわる。また褥瘡発生により患者のQOLの低下をきたすとともに、在院日数の長期化や医療費の増大につながる。
<定義・計算方法>
【分子】当月の新規褥瘡発生数
【分母】当月の新入院患者数+前月終日日在院患者数
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
0.64% | 0.58% | 0.63% |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
褥瘡発生率低下に向けた取組み
【予防管理】
・体圧分散寝具の適切な管理、配置(適宜)
・褥瘡予防に関する学習会の実施(3回/年)
・褥瘡ハイリスク加算の取得
【記録・データ管理】
・褥瘡発生率の算出・報告・周知(毎月)
【チーム介入・会議】
・褥瘡回診の実施(1回/週)
・褥瘡対策委員会の開催(1回/月)
・褥瘡対策委員会主導のポスターによる院内周知、啓発(2回/年)
09 転倒・転落 ①転倒・転落発生率②損傷発生率(レベル2以上)③損傷発生率(レベル4以上)
<指標の説明・意義>
転倒・転落を予防し、外傷を軽減するための指標。
転倒転落は「起こりうる事」として、その要因を取り除くことが基本的な課題である。また報告する文化が大切であり、報告することでリスク評価や対策が取られ有害事象や重大事象が減る事は期待ができる。
転倒・転落による損傷レベルの高いものの発生は、病状の回復遅延や入院日数の延長により、患者のその後の生活にも大きく影響する。
<定義・計算方法>
【分子】①転倒転落件数②損傷レベル2以上の件数③損傷レベル4以上の件数
【分母】①②③期間中の入院延べ患者数
【単位】‰(×1000)
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
①2.48 ②0.53 ③0.08 | ①3.03 ②0.76 ③0.06 | ①3.12 ②0.74 ③0.03 |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
KYTトレーニング
事象レベル3b以上の事例分析・共有
10 血液培養2セット実施率
<指標の説明・意義>
厚生労働省補助事業 医療の質可視化プロジェクト 令和6年度診療報酬改定「医療の質指標(3テーマ9指標)」のうち1指標:
広域抗菌薬を投与する際、血液培養検査を行うことは、望ましいプラクティスである。血液培養は1セットのみの場合の偽陽性による過剰治療を防ぐため、2セット以上行うことが推奨されている。
<定義・計算方法>
【分子】血液培養オーダーが1日に2件以上ある日数(人日)
【分母】血液培養オーダー日数(人日)
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
ー | 55.8% | ー |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
・令和6年度のDPCデータが確定次第、定義・計算式によりDPCデータから抽出する
・血液培養2セット実施できなかった理由について考察する
・個別の事情にもとづき、主治医・診療科に改善策を提案する
11 特別食加算比率
<指標の説明・意義>
特別食加算とは、患者の病状等に対応して医師の発行する食事箋に基づき、患者個人の疾病治療の手段として治療食を提供することを評価したものである。入院中に適切な治療食を提供することで、治療に貢献し退院後の患者の食事療法の参考となる。
<定義・計算方法>
【分子】特別食加算を算定した食数
【分母】調定食数
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
26.4% | 25.5% | 27.1% |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
・啓蒙ポスターの掲示
・診療科ごとに実績(R6)を分析
・各診療科のカンファレンスにおいて、分析結果とそれに基づく提案を実施中
12 PXサーベイ:PSスコア
<指標の説明・意義>
PX(Patient eXperience:患者経験価値)は、患者中心の医療を実現するためにイギリスで生まれた考え方で、「患者が医療サービスを受ける中で経験するすべての事象」といえる。OECDによる医療の質特性の「応答性/患者中心性」を現している。PXサーベイは、一人ひとりの患者の持つゴールや価値に合わせた医療サービス提供がされているかどうかを測る指標であり、医療の質改善行動のアウトカムを示している。
<定義・計算方法>
【分子】PX設問「あなたの入院経験はいかがでしたか」回答点数合計
【分母】PX回答件数
令和7年度から測定 |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
当院では、患者さん中心の医療サービスの更なる向上を目的として、退院時アンケートにPXサーベイを取り入れました。これにより、患者さんの期待と実際のギャップが測られ、課題がより明確になりました。また、患者視点でのジャーニーマップ研修も実施し、職員同士で患者行動の理解を深めました。今後も、患者視点のサービス提供のため、様々な取組を継続してまいります。
13 手術開始前1時間以内の予防的抗菌薬投与率
<指標の説明・意義>
厚生労働省補助事業 医療の質可視化プロジェクト 令和6年度診療報酬改定「医療の質指標(3テーマ9指標)」のうち1指標:
現在、細菌感染を起こしていないが、手術後の感染を防ぐため抗菌薬をあらかじめ投与することを、予防的抗菌薬投与という。手術開始直前に抗菌薬を投与することにより、手術後の感染を抑えることが期待されている。
<定義・計算方法>
【分子】分母のうち、手術開始前1時間以内に予防的抗菌薬が投与開始された手術件数
【分母】全身麻酔手術で、予防的抗菌薬投与が実施された手術件数
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
ー | ー | 99.8% |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
・手術開始直前に予防的抗菌薬投与ができていなかった事例を特定する
・投与できなかった理由について考察する
・個別の事情にもとづき、主治医・診療科に改善策を提案する
14 2週間以内の退院時サマリー作成率
<指標の説明・意義>
退院時サマリーは、単なる入院中のまとめではなく、患者の病歴や、外来・前医での診療の経緯、退院後の留意点など、患者と患者を取り巻く状況・環境を含めて必要なことを簡潔に作成するものである。
退院後に自施設で外来受診を継続する場合や他施設へ転院する場合、訪問看護を受ける場合など、担当医以外の医療者と患者の診療とケアの内容を正確に情報共有しなければならない。ゆえに、退院時サマリーを一定期間内に作成することは、患者の治療効率向上や病院全体のチーム医療の質向上につながる。
<定義・計算方法>
【分子】担当医が2週間以内に退院時サマリーを作成した件数
【分母】退院患者件数
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
98.4% | 97.9% | 99.1% |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
期限内提出の超過サマリーについて督促方法の変更と面談等の対応も検討中
15 画像診断の読影レポート確認率
<指標の説明・意義>
画像診断レポートの見落としにより,診断が遅れ,治療の機会を失った事例がいくつも報告されている。厚生労働省医政局総務課医療安全推進室では,「画像診断報告書等の確認不足に関する医療安全対策について」として繰り返し注意喚起をしている。画像には,主治医の関心領域以外にがんの初期像が描出されていることがあり,画像診断医は,その所見を含めてレポートを作成するが,主治医は,遅れて到着するレポートの確認を忘れてしまう。読影レポート確認率を向上させることにより、重大疾患の見落としにつながると考えられる。
<定義・計算方法>
【分子】読影レポート確認数
【分母】画像診断の読影レポート総数
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|
96.6% | 97.3% | 98.1% |
<改善に向けた具体的取組、今後の予定>
・100%にならない原因
①研修医の指導医選択間違い
②研修医既読後の指導医既読操作漏れ
・現在の対策
①研修医オリエンテーション時の操作説明実施
②研修医が指導医選択間違いの場合直接研修医に連絡
③指導医にも既読依頼の連絡
④上長への未読通知発信
⑤医療安全管理室会議へ既読状況データを提供
⑥医療安全管理室委員長から個別指導
上記のように放射線科と医療安全管理室会議で協力して対応中