初めてのプレコンセプションケア ~未来のために、いまできること~

プレコンセプションケア、通称「プレコン」。この言葉聞いたことはありますか? 

妊娠・出産を中心に考え、未来の健康と幸福の実現のために、いまのからだの状態に気を配り、健康的な生活を送ることの大切さを気づかせてくれる考え方です。
プレコンってどんなことなのか、東京都立墨東病院 産婦人科部長の兵藤博信先生にお話をききました。

東京都立墨東病院
産婦人科 部長 / 遺伝子診療科 部長
兵藤 博信

兵藤先生の顔写真

プレコンセプションケアとは!?

プレコンセプションケア(プレコン)とは、妊娠前からの健康管理をいいます。
WHO(世界保健機関)では、「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」と定義しています。
WHOの定義では妊娠を具体的に考える世代に限定せず、生殖世代の人たちに向けての健康として思春期からの介入を目指しています。

実際に私たちが行っているプレコンでは、具体的に妊娠・出産を考えている人に対することが多いです。

たとえば、糖尿病や心疾患などの病気をもった人が、妊娠・出産を望んだときに、どのようなリスクが考えられるか、どのような状態だったらより安全に出産ができるかなどを、患者さんとその病気の主治医、そして私たち産婦人科の医師で検討します。
患者さんの病状や体調によって、プレコンの内容は一人ひとり異なります。

プレコンセプションケアの内容は一人ひとり異なる。体重管理、禁煙、食生活、服薬管理など様々である

このように何らかの病気をもっている人の妊娠・出産を支えるというプレコンばかりではありません。

とくに健康上の問題がない人にも、将来、安心して妊娠・出産に臨むために日ごろから健康に十分な配慮をお勧めするプレコンもあります。
むしろ、こちらの「プレコン」のほうが一般的かもしれません。

将来の妊娠・出産のために気をつけたいポイント

  • 体重管理 → BMI(注)18.5以上25.0未満
  • 食事 → バランスのよい食事
  • タバコ → 禁煙
  • アルコール → 節酒
  • 感染症 → 抗体検査とワクチン接種 など

(注)BMI(Body Mass Index)は、肥満度の判定に用いられる体格指数。
指数の求め方は、体重kg ÷ (身長m)2

母体がやせ状態(BMI18.5未満)であると赤ちゃんも低体重であることが多く、逆に肥満(BMI25.0以上)ですと妊娠合併症のリスクが高くなります。
食事は基本的にはバランスのよい食事を摂っていればよいのですが、日本人に足りないといわれているいくつかのビタミン、とくに葉酸は積極的に摂取することが推奨されています。葉酸が不足することで赤ちゃんに悪い影響が及ぶことがあります。

タバコは禁煙、アルコールも節酒を心がけましょう。

感染症は、B型肝炎や風疹については、ワクチン接種をしているかを確認し、あいまいな場合は一度抗体検査を受けて、抗体がない場合にはワクチンを打っておくと安心です。

また、トキソプラズマという寄生虫による感染症がありますが、この感染症に対応するワクチンがないので、抗体検査で陰性の人は妊娠中の感染に注意が必要です。感染予防としては生焼けの肉(とくに豚肉)を食べない、屋外にいる時間の長い猫との濃厚接触を避けるなどです。

また、性感染症については、近年、梅毒の感染者が増えてきていますので、パートナーと一緒に感染予防を心がけてください。
だからといって、あまり難しく考えすぎないで、学校や会社で健康診断を受けていたら、その結果で治療や改善が必要なものがあれば取り組む、といったスタンスでよいでしょう。

女性の方は、自分の月経についても気を配ってみてください。
経血量が多い、月経痛が重い、月経不順など気になることがあれば、婦人科を受診してみてください。日ごろから月経不順の人では、3カ月くらい月経がなくても「健康に問題はない」と考えてしまうかもしれませんが、なぜ月経不順なのか、その原因を調べてもらうことで、現在の健康状態を把握できますし、必要な治療を行うことで将来の健康にも影響を与えます。

いざ、子どもを望んだときに婦人科の病気が原因で妊娠しづらいことがないように、何か気になることがあれば医師に相談してください。

プレコンの開始適齢期は?

プレコンをいくつから始めるのか、WHOでは思春期からといい、日本でもその必要性を指摘する声が上がっています。思春期からプレコンを始める場合、性教育が関わってきます。性教育を授業に導入するか否かといった議論も含めて、さまざまな考えの方がいらっしゃるので学校教育でプレコンを実施するのは難しい面もありますね。

ただ、医療現場では、思春期からプレコンについて話を聞きたいという人は珍しくありません。その子たちが特別ませているわけではなく、自分のからだや健康、将来についてしっかり考えようとしているのです。当院ではプレコンセプションケア外来は設けていませんが、お話をいただいたら個別に対応をしています。

たとえば、心疾患の患者さんでは、病気の状況にもよりますけれど、妊娠したことによるからだの変化や病気への影響が無視できないことがあります。緊急性があるわけではないのでプレコンについて話すタイミングを見極めるのは難しいです。しかし、早いに越したことはないと私は思っています。病気のある女性が安全に妊娠・出産するために、すべきこと、してはならないことなどを若いうちから理解しておくことは重要です。

病気のない人に対しても、妊娠・出産の安全性に影響を及ぼすことを事前に知っていたら、妊娠が視野に入ってきた段階で、感染症のワクチンを打っておくなど行動に変化があるのではないかと思います。

未来の不安、自分たちだけで悩まないで

日本の出生数は長期的に減少傾向にあります。妊娠・出産に消極的な理由は、社会的なこと、経済的なこと、健康上のことなど一つではありません。健康上の問題を解決しただけで、少子化傾向に歯止めをかけることはできませんが、プレコンがもっと周知されるようになれば、妊娠そのものをもっと温かい気持ちで迎えられる社会に近づくかもしれません。

私たち医療者からは、正しい医療情報を伝え、適切にサポートをして、不安を解消していけたらと思います。

せめて健康だけでも不安のない社会を作っておけば、今よりは妊娠に対してポジティブに向き合えるようになるのではないかと思います。『人生を共に歩むパートナーがいて、子どもがいる』という未来を、楽しいことだと想像が膨らむようになればよいと思います。
とはいえ、先々の不安や専門的な知識が必要なことを自分たちだけで解決しようとしても、ますます不安が募ることがあります。

少なくとも健康面に関しては、私たち医師に相談して、不安という重い荷をおろしてください。病院は病気を治すとともに不安を解消するためにある、未来の妊娠・出産に関しても遠慮なく相談してほしいと思います。


最終更新日:令和8年6月12日