筋萎縮性側索硬化症(ALS)における栄養療法

2016年2月4日
脳神経内科部長 清水 俊夫

筋萎縮性側索硬化症(ALS)においては、病初期の体重減少が、その後の生命予後を予測する因子だということが言われています。その原因はまだ明らかではありませんが、これまでの臨床知見や動物実験から、背景に異常な基礎代謝の亢進状態が存在すると言われています。この体重減少をいかにくい止めるかが、臨床上の大きな課題となりますが、どのような栄養療法が適切なのかはまだエビデンスが不足しています。

2014年にはじめて、患者さんにおける高カロリー療法の有効性を示唆する論文が発表されました(Lancet 2014;383:2075-72)。2009年12月から2014年11月までに米国マサチューセッツ総合病院が主体となって行われた無作為第2相二重盲検臨床試験です。参加した患者さんの数は少ないものの、高炭水化物高エネルギー食が、通常のカロリー摂取群よりも有意に生命予後を改善したという結果でした(図1)。まだ確定的な結果ではありませんが、高カロリー療法に、リルゾールと同等の効果があるかもしれないという画期的な結果です。ALSは、治療としてまず体重を落とさないように食事をしっかりととるということが重要であることをあらためて認識させられました。

図1:高カロリー療法の第2相臨床試験
図1:高カロリー療法の第2相臨床試験

またALSにおいては、経口摂取ができなくなるときを見越して早めに胃瘻を造設する必要がありますが、呼吸機能と胃瘻造設のタイミングとの関連の報告が最近当院から論文化されました(Bokuda et al., Muscle Nerve 2015, early online)。肺活量は40%程度まで低くなっても胃瘻造設は可能ですが、動脈血二酸化炭素分圧が上昇する前に造設すべきだという結果です(図2)。肺活量の定期的チェックはもちろん必須ですが、動脈血二酸化炭素分圧を適宜測定することが、胃瘻造設のタイミングを遅らせないようにするポイントだと言えます。

図2:胃瘻造設時の呼吸機能とその後の生命予後