ALS患者が入院から在宅療養に移行する場合の地域医療連携クリティカルパスと「地域医療連携手帳」の作成

2016年2月18日
副院長 川田 明広

神経筋疾患患者の診療において、これまで診断や治療(気管切開、胃ろう造設等)に関するクリティカルパスが作成され活用されてきたが、地域連携クリニカルパスは、まだ全国的にも普及していません。
当院は1980年の開設以来、通院が不能となった進行期神経筋難病患者の継続診療の目的で、東京都西部の多摩地区を中心に長期在宅訪問診療を行ってきました。その実績やノウハウを生かしながら、院内クリティカルパス委員会の各部門代表者とともに、人工呼吸器・胃ろう等の高度の医療処置を要する筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者が、入院から在宅療養に移行し、在宅療養を維持する上で、地域医療連携が円滑にいくための「地域医療連携クリティカルパス」を作成しました。また関係者と情報を共有するため、地域支援者用と患者家族用のA4版「ALS患者の地域医療連携手帳 」を作成し、それに綴じ込む各種情報の書式を作成しました。

図1 プロセス図
図2 ALS患者の地域連携導入・調整用クリティカルパス

このパスの達成目標は、(1)家族介護者による在宅療養に必要な看護・介護知識と技術の習得、(2)地域支援ネットワークの構築と調整としました。パスは、気管切開を行い退院後在宅で陽圧人工呼吸療法(TIV)を行うことを決定したALS患者に対して適応するプロセスA-1と、退院日が決定した時に退院前一週間前から使用するプロセスA-2、および退院して2週間の在宅療養を行った後の評価までのプロセスA-3からなっています(図1)。プロセス4-1は、当院の過去の平均必要期間として43日に設定していますが、より短期間で出来れば適宜短縮出来るように流動性を持たせました。A-1のプロセス中には、TIVを導入した在宅呼吸療養の適応を決定し、その後の退院前準備を話し合う在宅療養支援検討会議(C-1)と、退院前に地域支援スタッフ(地域主治医、訪問看護師、介護職、保健所保健師、ケアーマネージャー等)と当院の多職種の関係者が一同に会し、患者の情報共有と役割分担、緊急時対応等を話し合う地域カンファレンス(C-2)の開催も含まれます。当院では電子カルテシステムに「エクセルチャート」の形でパス文書を保存し、退院時までの間各職種が評価・指導内容等達成事項を順次チェックし、文書類を一括して登録していく方式としました。また退院後2週間目に、家族や主たる介護者が入院中に指導された看護介護技術を適切に実践出来ているかを地域療養支援者がチェックし、問題点をフィードバックしていく内容としました。このパスの書式は、当院ホームページからダウンロード可能です。

図3

患者・家族と地域療養支援者との間で情報を共有するための各種書式を統一化し、退院前までに各職種が作製した情報書類を綴じ込んだ患者家族用と地域支援スタッフ用「ALS患者の地域医療連携手帳」も作成しました(図3)。退院後6ヵ月後、1年後と継続して患者・家族と多職種の地域支援者が情報を書き込めるような診療記録・通信欄も設けました。今回作成したパスと「ALS患者の地域医療連携手帳 」の導入と適切な運用によって、退院前準備期間が短縮され、病院患者家族、在宅療養支援スタッフとの間で双方向性の情報交換が行われることにより、円滑な地域医療連携の維持が期待されます。