腎臓・リウマチ膠原病科 高血圧

高血圧

2018年10月26日 1.1版

病気について

 小児の高血圧は健診などで偶然発見されることが多く、ほとんどは無症状です。小児の高血圧の背景には、別の病気が隠れていることが多い(二次性高血圧)と言われていますが、実は本態性高血圧(原因のはっきりしない高血圧)が増加しています。小児の高血圧が成人の高血圧へ進展し、脳卒中(脳出血、脳梗塞)、心筋梗塞などの重要な原因となりうるため早期発見、治療を行うことが大切です。また、二次性高血圧に対する治療は原疾患に対して潜在的に利益となります。

疫学

 健診の結果から、日本人小児の高血圧の頻度は1~2%と推測されています。小学校高学年から中学生は0.1-1%、高校生は3%と報告されています1)。肥満がある場合はさらに高くなり、小学校高学年から中学生の肥満者の3-5%が高血圧を発症すると報告されています2)

診断

測定方法

 血圧は、泣いたり、あばれたり、緊張したりすると高くなるため、静かな環境で安静時に測定します。マンシェットのサイズは、年齢や腕の太さから適切なサイズを選んで使用する必要があります。目安としては3~6歳未満は7cm幅、6~9歳未満は9cm幅、9歳以上は12cm幅(成人用)を用います。
 診断のために、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)という測定方法を用いる場合があります。血圧計と小さなモニターを装着したまま、30分から1時間おきに24時間の血圧を調べます。白衣高血圧(病院でのみ血圧が高い場合)、仮面高血圧(病院では正常で院外で高い場合)の診断や、1日の血圧の変動を把握する場合に有用です。

高血圧の基準値

年齢、体格によって基準値が定められています。下の簡易血圧表で基準を越えた場合には追加の評価が必要となります(注:表の基準値はスクリーニング用の値であり、この基準値を満たしただけでは高血圧の「診断」には必ずしもなりません)。複数回持続的に高い血圧が続いた場合に高血圧の診断となります。

表 高血圧のスクリーニングに用いる簡易血圧表

年齢(年)血圧(mmHg)
男児女児
収縮期拡張期収縮期拡張期
198529854
21005510158
31015810260
41026010362
51036310464
61056610567
71066810668
81076910769
91077010871
101087210972
111107411174
121137511475
13以上1208012080

問診

以下の点が問診として重要です。

  • 出生歴(在胎週数、出生体重、新生児期に行った治療など)
  • 生活歴(食事、嗜好、運動、睡眠)
  • 既往歴
  • 服薬歴
  • 家族歴(高血圧、糖尿病、心血管疾患の家族歴、健診の結果、その他の病気)
  • 身長、体重の推移(これまでの身長や体重の記録も重要です。)

検査

高血圧の原因と合併症について検査を進めます。

原因の検査:
・血液検査、尿検査、超音波、胸部レントゲン検査
血圧を調整するホルモンの値を調べたり、超音波で腎臓の形や大きさ、血管、体液量のバランスなどを確認したりします。

合併症の検査:
・心臓超音波検査、心電図、眼科受診など 高血圧によって心臓の壁が厚くなったり(心筋肥厚)、眼底の血管が細くなり、出血したりすることがあります。 必要があればさらに詳しい検査に進みます。

高血圧の機序

血圧は、身体の中の水分量(体液量)、血管の収縮・拡張によって決まります。
体液量の増加、レニン-アンジオテンシン系の働き(図1参照)、交感神経の働きが活発になることで血圧が上昇します。

レニン アンジオテンシン系が血圧をあげる仕組み

主な高血圧の原因

高血圧の原因は、
[1]原因が明らかでない本態性高血圧(一次性高血圧)
と、
[2]背景に病気がある二次性高血圧
に分けられます。年齢が低いほど、血圧が高いほど二次性高血圧を考えます。小児の二次性高血圧の原因は腎臓に関係した高血圧が60~80%を占めます。

一次性高血圧(本態性高血圧)

 本態性高血圧のほとんどは健診でみつかります。本態性高血圧と診断された中学生は、20年後も20%が高血圧であったという報告があり、放置せずに小児期のうちに改善すべきと考えられています3)。肥満や、食塩過剰摂取、家族歴(家族の高血圧)が関連しています。

  • 肥満
     最も重要なリスクファクターです。肥満を来す食生活の場合、同時に食塩過剰摂取であることが多いです。
  • 食塩過剰摂取
     塩分を摂り過ぎると、体の中に水が貯留して体液量が過剰になり、高血圧をもたらします。日本人の塩分摂取は欧米より多く、本邦の高血圧の発生には食塩過剰摂取の関連が強いとされています。
  • 遺伝要因
    小児の高血圧の50%に、高血圧の家族歴がみられます。血圧が高くなりやすい体質をもたらす遺伝子は複数発見されていますが、必ず小さい頃から血圧が上昇するわけではありません。
  • 早産(<在胎37週)、低出生体重児(<2500g)
    早産、低出生体重のお子さんでは腎臓の中のネフロンという構造が少なく、塩分と水を排泄する能力に障害が認められたり、ネフロン数が少ないため1つのネフロンに負担がかかったり、腎臓への血流を保つためにレニン-アンジオテンシン経路が活性化されたりすることで血圧が高くなることがあります。

二次性高血圧

腎臓に関連した高血圧、腎血管性高血圧、薬剤性高血圧について解説します。

[1] 腎臓に関連した高血圧
<代表疾患と病態>
急性腎炎、慢性腎炎、先天性腎尿路異常、さまざまな原因による慢性腎不全など腎臓の病気が高血圧の原因になることがあります。それぞれの病気の詳細については、当科のホームページの各項目を参照してください。

  • 急性糸球体腎炎では、尿が少なくなり水・塩分がたまることが血圧を上昇する一番の原因です。急性糸球体腎炎の50~90%で高血圧を合併したと報告されていますが、頻度には幅があります4)。高血圧のため頭痛や意識障害を起こしたり、高血圧緊急症(後述)で発症することもあり注意が必要です。
  • 慢性腎炎では、水・塩分がたまったり、レニン-アンジオテンシン系の異常な亢進が起こることで血圧が上昇する場合と、腎臓の機能が低下して腎臓の血流が低下することで高血圧を発症する場合があります。小児は学校検尿で慢性腎炎が発見されることが多く、診断時に高血圧を合併していることは少ないですが、治療の経過中、約1/3~1/2の症例で高血圧を合併します。
  • 先天性腎尿路異常では、初期は尿中に塩分を失うことが多く高血圧が目立たないタイプの方もいますが、腎臓の機能が低下して血流が低下し、水や塩分がたまるようになると、高血圧を認めます。

[2] 腎血管性高血圧
<代表疾患と病態>
腎動脈が細くなる(狭窄する)ことで、腎臓への血流が低下し、レニン産生が増加して血圧が上昇します。小児で腎血管の狭窄を起こす病気として頻度が高いのは、「線維筋性異形成」、「神経線維腫症」です。画像検査(超音波検査、血管MRI検査、造影CT検査)で腎動脈が細くなっている部分を見つけます。腎血管性高血圧では、血液検査でレニン、アルドステロン値の高値が認められます。診断のために腎動脈造影や、選択的腎静脈レニンサンプリングを行うことがあります。腎動脈狭窄を合併しやすい病気(神経線維腫症、結節性硬化症)を持っているお子さんは、定期的に血圧をフォローすることが大切です。

[3] 薬剤性高血圧
<代表薬剤>
最も多く認められる原因薬剤は、ステロイド薬(プレドニン®、コートリル®など)です。副腎皮質ステロイドホルモンによる水・塩分の貯留作用で体液量が増加したり、レニン産生が増加してレニン-アンジオテンシン系の亢進が起こります。シクロスポリン(ネオーラル®)、タクロリムス(プログラフ®)の服用では、腎細動脈の収縮が起こり、レニン-アンジオテンシン系の亢進によって高血圧が認められることがあります。
当院の調査では、ネフローゼ症候群患者の約66%に高血圧が合併していました。ネフローゼ症候群における高血圧の原因は、体液バランスの異常(水・塩分の貯留 or 血管内の脱水)と、治療薬剤(ステロイド薬、シクロスポリン)の影響が考えられます。当院ではネフローゼ症候群で使用する降圧薬について、今後臨床研究を行う予定です。

高血圧緊急症

 著明な高血圧で、生命の危険、臓器障害の原因となるような重症な状態を高血圧緊急症といいます。安全かつ速やかに治療を行う必要があります。

PRES(Posterior reversible encephalopathy syndrome)とネフローゼ症候群:
 高血圧とともに頭痛、視覚障害、けいれん、意識障害を呈する合併症をPRESと呼びます。正確な頻度は不明です。急激な血圧上昇と、シクロスポリン(ネオーラル®)、タクロリムス(プログラフ®)やステロイド薬の使用が危険因子です。また多量の尿蛋白が認められている時(ネフローゼ状態)はPRES発症のリスクが高まると言われています。4)頭部MRIで血管浮腫を示す変化が認められます。MRI検査の変化や症状は数週間で改善することが多いですが、まれに後遺症を残す場合もあると報告されています。

高血圧の治療

  • 食事療法
    食塩の摂りすぎは高血圧に関連します。肥満は摂取エネルギーの制限、適切な栄養配分、誤った食事パターンの修正が基本で、減塩食が勧められます。病院で栄養指導を受けることができます。
  • 運動療法
    継続できる運動が基本で、運動強度よりも一日の運動量が大切です。水泳、ジョギングなどの有酸素運動が適しているといわれます。
  • 薬物療法
    食事、運動を改善しても、高血圧基準を超えている場合や、高血圧の合併症が認められている場合は、薬物療法を推奨します。小児の高血圧では、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬が第一選択となることが多く、少量から開始し血圧を確認しながら内服量の調整を行います。高血圧緊急症では、速やかに効果が得られるニフェジピン(セパミット®、アダラート®)を内服したり、点滴でニカルジピンの持続静注を行ったりする場合があります。体に水分や塩分を貯めこむタイプの高血圧には、利尿薬を使用する場合があります。薬剤性高血圧では高用量のステロイド薬やシクロスポリンを減量・中止することが第一ですが、減量できない場合には、降圧薬(カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)を併用します。
  • 外科治療
    腎血管性高血圧に対して、複数の薬剤治療で改善しない場合は、細い腎動脈を広げる目的でカテーテルによる血管の拡張やステントの挿入術を行うことがあります。カテーテル拡張やステント挿入が困難な場合は、腎動脈バイパス術を行います。

降圧薬作用のある薬剤

降圧薬作用のある薬剤

注意点

(注)ACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は、腎機能を悪化させ、血液中のKの値が上昇することがあります。下痢、嘔吐、体調不良による飲水量低下の際は、必ずご連絡ください。

参考

Clinical Practice Guideline for Screening and Management of High Blood Pressure in Children and Adolescents. Joseph T. Flynn, et al. Pediatrics. 2017; 140(3): e20171904
高血圧治療ガイドライン2009,2014
小児腎疾患の臨床 五十嵐隆 診断と治療社
小児腎臓病学 日本小児腎臓病学会2014 診断と治療社
IgA腎症診療ガイドライン2014
1) Uchiyama M, et al.Public Hralth1985;99:18-22.
2) 菊池透.肥満研究 2004;1012-17.
3) Uchiyama M,et al. J Hum Hypertens 1994;8:323-5.
4) Ishikura K, et al. Neprotic Dial Transplant 2008;23:2531-36.