腎臓・リウマチ膠原病科 全身性エリテマトーデス

全身性エリテマトーデス Systemic Lupus Erythematosus (SLE)

2018年10月26日 1.1版

病気について

 全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus: SLE)を発症する原因は、はっきりとはわかっていません。遺伝的な要因に、性ホルモン、薬物、ウイルス感染、紫外線暴露などが加わって「免疫」の異常が起こる病気とされています。自分の体を攻撃する物質(自己抗体)がつくられ、様々な症状をきたします。

疫学

 SLE患者の約20%が16歳以下に発症していると推測されています。小児では、成人と同様に、女児に多く(男女比1:4.5~5.5)、平均発症年齢は11~12歳で、5~7%が家族歴を有するといわれています。

症状・診断

 SLEは様々な症状をきたす病気です。発熱、食欲低下、体重減少、関節痛、リンパ節腫脹、皮膚症状(頬の紅斑、手足の指先の色調変化)や口内炎を伴うことがあります。また、貧血、白血球減少、血小板減少、腎炎症状(血尿、蛋白尿)も特徴的な症状です。脳(痙攣、意識障害)、心臓(胸膜炎、心膜炎)、肺(肺出血)に症状をきたすことがあり、命にかかわる危険もあります。
 必要に応じて、脳(頭部MRI、髄液検査)、眼(眼科診察)、心臓(エコー、心電図)、肺(レントゲン、呼吸機能検査、CT検査)、腹部(エコー、CT検査)、腎・泌尿器(エコー、尿検査、腎生検)、皮膚(皮膚科診察)等、全身の検査を行います。
 SLEは診断基準に照らし合わせて診断しますが、一度の検査では診断が難しいことがあり、はっきりと診断ができるまでには少し時間がかかる場合があります。

治療

 副腎皮質ホルモン薬(ステロイド)と免疫抑制薬による治療が主体となります。治療は、速やかに炎症を鎮静化するための「寛解導入療法」、免疫反応の再燃を抑制するための「寛解維持療法」の2つに分けて考えます。

「寛解導入療法」

 ステロイド薬を高用量で点滴から投与する「ステロイドパルス療法」をはじめとして、ステロイド薬(プレドニゾロン;PSL)の内服を軸に、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)という免疫抑制薬の内服を一緒に行います。症状に応じてシクロフォスファミド点滴静注を行うこともあります。
 治療初期は、ステロイド薬の投与量が多く、様々な副作用(高血圧、眼合併症など)に注意する必要があるため、1か月間程度は入院で治療を行います。

「寛解維持療法」

 寛解導入療法に続いて、ステロイド薬の減量を目標に、免疫抑制薬を積極的に使用します。ミコフェノール酸モフェチル(MMF)を寛解維持療法でも使用しますが、その他の免疫抑制薬として、ミゾリビン、アザチオプリン、タクロリムス等を使用することもあります。
 「ヒドロキシクロロキン(HCQ)」の内服も併用します。HCQは、わが国では2015年7月にSLEに適応が承認された薬で、海外では以前より使用され、ガイドラインでも推奨されています。HCQは、特に皮膚症状の改善、血栓形成の予防、SLEの再燃の予防などが期待されています。長期の内服により網膜症の副作用があるため、近隣の眼科と連携を組んで、内服中も定期的に眼科診察を行うようにします。

*日常生活での一般的な注意
 SLEの患者さんでは、紫外線で再燃することが知られています。日焼け止めのクリーム、帽子や日傘、長袖の衣類で、紫外線を避けるようにします。寝不足や過労も原因になることがあるため、規則正しく生活することも大切です。
 小児SLEは思春期に発症することが多く、その後長期に亘り、病気と向き合っていく必要があります。成人になっても治療を継続していくため、患者さん個人が病気を理解し、薬を管理し、定期的に受診することが大切です。当院では、「子ども・家族支援部門」による心理面のサポートや、薬剤師や栄養士による内服・栄養指導も行っております。多摩総合医療センターのリウマチ膠原病科と連携しながら、成人医療への移行も円滑に行えるように治療します。

予後

 わが国では、1980年代初めまでは、小児SLEの5年生存率は55.7%でしたが、1995~2006年の調査では、10年生存率が98.7%と、ステロイド薬や免疫抑制薬の積極的な使用により大幅に改善しました。しかし一方で、腎不全、ステロイド薬による大腿骨頭壊死などの問題もあり、今後、SLE患者さんのQOL(生活の質)の改善が重要な課題です。

診療実績

現在、当院で約30名のSLE患者さんの治療を行っております。
昨年(令和4年4月1日~令和5年3月31日)の新規SLE患者さんは8名でした。

参考文献

  • Takei S, et al.: Clinical features of Japanese children and adolescents with systemic lupus erythematosus: results of 1980-1994 survey. Acta Pediatr Jpn 1997; 39: 250-256.
  • 武井修治:小児全身性エリテマトーデス(SLE)の難治性病態と治療に関する研究.厚労省科研費報告書2011; 74-78.
  • 伊藤秀一:小児SLEとループス腎炎―診断と治療戦略―.日児腎誌2016; 29: 1-7

参考資料

SLEの診断基準

アメリカリウマチ学会の診断基準

SLICCの診断基準

当院でのSLE治療の概要

当院でのSLE治療の概要

右図のように、ステロイドパルス療法(MPT)、プレドニゾロン(PSL)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)を用いた治療を行います。
治療初期4週間は,プレドニゾロンの量が多く、副作用を注意するため、入院で治療を行います。 その後、徐々に症状や検査値を確認しながら、減量していきます。退院後、眼科診察を行い、その後からヒドロキシクロロキンを追加します。