腎臓・リウマチ膠原病科 ネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群

1. ネフローゼ症候群 初発

ネフローゼ症候群は、血液中の蛋白が尿中に大量に漏れ、血液中の蛋白が低下する病気です。その結果、顔や全身にむくみ(浮腫)が生じることで気がつかれます。一部には学校検尿の尿蛋白がきっかけで診断される子どもたちや、むくみがはっきりしない子どもたちもいます。

小児のネフローゼ症候群では、成人の場合と異なり、ネフローゼ症候群を引き起こすような別の病気が存在しない“特発性”ネフローゼ症候群が多いこと、また、ステロイド(プレドニゾロン)治療により尿蛋白が消失(寛解)する頻度が高い(90%)ことが特徴です。そしてステロイド感受性の特発性ネフローゼ症候群では、将来の腎機能(老廃物を捨てる能力)は良好であることが知られています。

ネフローゼ症候群の治療の中心は、ステロイドになります。5~7日ぐらいで尿蛋白が消失し、数kg増えていた体重もすっきりします。感受性の確認、再発の予防などのためから、4週間毎日内服した後、4週間1日おき(隔日)に内服する国際法(小児国際腎臓病学会、ISKDC)に準じた治療を当院では行っています。

ステロイドによる副作用は多岐にわたりますが、現時点ではステロイドに勝る薬剤は開発されていません。そのため、副作用の出現を予測して血圧・眼科合併症・骨密度などを検査し、対処するようにしています。

ネフローゼ症候群の特徴の一つとして、一度寛解した後に再発することがあります。再発しない子どもたちが20~25%であり、ネフローゼ症候群とは基本的に“再発する病気”と考えています。

再発の頻度が低ければ、再発時の量・方法に変更したステロイド治療を行います。再発の頻度が高い場合には、ステロイドの副作用が強くなりますので、免疫抑制薬を併用する治療に移ります。

2. ネフローゼ症候群、頻回再発型

頻回再発型ネフローゼ症候群は、ステロイドによって寛解するにもかかわらず、再発を繰り返すタイプのネフローゼ症候群です。発症(初発)から半年以内に2回、もしくは任意の1年間に4回以上の再発を繰り返した場合とISKDCでは定義されています。

ステロイド治療中や終了から2週間以内の再発を2回繰り返した場合には、ステロイド依存性ネフローゼ症候群としています。ネフローゼ症候群全体の30-40%が頻回再発型(ステロイド依存性を含む)とされています。

頻回再発型ネフローゼ症候群では、ステロイド治療期間が長期にわたるため、ステロイドの副作用が高頻度に、また強く生じる可能性があります。そのため、ステロイド治療を軽減するための免疫抑制薬を併用します。現在、本邦のガイドラインではシクロスポリン(ネオーラル)とシクロホスファミド(エンドキサン)、ミゾリビン(ブレディニン)が推奨されています。

頻回再発型ネフローゼ症候群に関係する臨床試験では、頻回再発型への進行抑制(JSKDC05)と頻回再発型に対する免疫抑制薬(JSKDC06)の臨床試験を行っております。

3. ネフローゼ症候群、ステロイド抵抗性

ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群は、4週間のステロイド治療にも関わらず尿蛋白が消失しないタイプで、10%位の頻度です。初発時から抵抗性の場合もありますが、何回目かの再発時に抵抗性になる場合もあります。

抵抗性が10年以上続いた子どもたちの半分が腎不全(透析を必要とする)になると報告されていること、むくみなどにより通常の生活を送ることができないなどから、早期に免疫抑制薬を開始して、ネフローゼ状態からの離脱を目指します。

ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に対する臨床試験として、ステロイド大量療法の必要性の検討(JSKDC02)に参加しています。

4. IgA腎症

IgA腎症は、小学校高学年から中学生時期に発症する慢性糸球体腎炎の中で最も頻度の高い疾患です。学校検尿異常で発見されることが多いですが、発熱に伴って生じる真っ赤(真っ黒)な尿で気づかれることもあります。

IgA腎症の一部には自然と尿所見が改善することもあり、また、20年以上の経過で腎機能が悪化することも知られています。そのため疾患の重症度をしっかり見極めて、必要に応じて腎生検(腎臓の一部を針で採取する検査)を行い、糸球体腎炎の分類と炎症の強さを判定し、治療方針を決めています。

IgA腎症の治療は、炎症が強い場合はステロイドを中心とした多剤併用療法、弱い場合には降圧薬を内服します。

5. 紫斑病性腎炎

紫斑病性腎炎は、血管性紫斑病に伴って生じる慢性糸球体腎炎です。多くの場合、紫斑病発症から半年までの間に発症します。初期は血尿蛋白尿が強くても、IgA腎症に比べると自然と消失する頻度が高いため、尿・血液所見の程度に合わせて注意深く経過を観察し、改善傾向が認められない場合に腎生検を行って治療方針を決めます。

6. 慢性腎不全

慢性腎不全は、腎臓の働きのなかでも老廃物を尿として廃棄する能力が不可逆的に低下した状態を示します。透析が必要なまでに低下した状態を末期腎不全、それ以前を保存期腎不全と区別しています。

最近は、検尿異常が持続する段階から末期腎不全までの各段階を慢性腎臓病(CKD, chronic kidney disease)とまとめ、末期腎不全への進行を阻止することを世界レベルで取り組んでいます。

小児期の末期腎不全の原因は、生まれつきに腎臓尿路に問題のある先天性腎尿路異常が最も多く、時に0歳から透析が必要になります。

小児期の透析の主体は腹膜透析と言って、おなかに透析を行うためのカテーテルを挿入して行います。全身状態が安定し、ご家族・本人が透析を安全・確実にできるようになったら、退院して自宅での透析を継続します。具体的な方法は省略いたしますが、下記のHPが利用できます。

腎不全の治療には、透析(腹膜透析血液透析)とともに腎移植(生体腎移植献腎移植)があります。発達・学校生活などさまざまな小児の特性、家族の生活の質などを考慮すると、腎移植の方が透析より治療法として優れていると考えられます。したがって、腎移植に備えながら保存期・末期腎不全の管理を行います。