神経内科 診療内容

診療科のご紹介

 都立小児総合医療センター神経内科所属の8名の医師と、隣接する都立神経病院神経小児科所属の6名の医師、また、神経外来のみ担当する6名の医師で、神経内科の診療にあたっています。両病院の医師が連携・協力し、患者さんに最も適切な医療を提供できるよう心がけております。

 都立小児総合医療センター神経内科では、急性脳炎・脳症、けいれん性疾患など、主に急性期の神経疾患の患者さんを診療しています。院内の総合診療科救命救急科脳神経外科集中治療科と連携し、患者さんの予後改善のために、迅速な診断と治療開始を実践しています。
また、てんかんをはじめ、精神運動発達遅滞、頭痛、先天異常、染色体異常、脳性麻痺、重症心身障害児、神経皮膚症候群など、子どもの脳・神経や筋肉に関係する病気について、幅広く診療しています。

 隣接する都立神経病院神経小児科では、運動異常症(ジストニアなど)、神経変性疾患、神経筋疾患などを診療しています。MRI・脳血流シンチグラフィーなどの神経画像と、筋電図・誘発電位などの神経生理について、専門的検査を行います。また、都立神経病院脳神経内科・脳神経外科と連携して、運動異常症(ジストニアなど)に対する脳深部刺激療法や、てんかん外科治療を行っています。

こんな症状のお子さんが対象です

  • 「けいれん発作」
  • 「意識障害」
  • 「急に身体の一部の動きが悪くなった、バランスが悪くなった」
  • 「発達が遅い」
  • 「筋肉の力が弱い」
  • 「これまでできたことができなくなった」
  • 「頭痛」

対象としている疾患

てんかん

てんかんの中には、小児期に認められる「中心側頭部に棘波を示すてんかん」「Panayiotopoulosてんかん」「小児欠神てんかん」などをはじめ、症候性てんかんといって、知的障害や精神障害、遺伝子異常などに伴うてんかんがあります。どんな発作であったか、また、脳波検査結果などをもとに治療を行っています。

また、お子さんにみられる症状が、てんかん発作なのか、そうではないものか判断に迷う場合は、入院の上、長時間の持続ビデオ脳波検査を行います。発作を認める時に脳波を記録することで、てんかん発作かどうかの判断が可能です。

West症候群(点頭てんかん)は、通常1歳未満に発症するてんかんで、スパズムと呼ばれる特徴的な発作、ヒプスアリスミアとよばれる脳波異常と、発達の退行を特徴とします。当院では点頭てんかんに有効とされるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)療法と、抗てんかん薬内服による治療を行っています。抗てんかん薬のひとつであるビガバトリンは、進行性の視野狭窄という副作用があるため、網膜電図という専門的な眼科検査を行います。どの治療を行うかは患者さんの背景を考え、最善のものを選択しています。

急性脳症

急性脳症は、多くは発熱を認める感染症に伴って、急激に脳の浮腫などを認める病態です。小児期、特に乳幼児期に多く、インフルエンザや突発性発疹、マイコプラズマ感染症などのありふれた感染症の経過中に、けいれんや意識障害の症状がみられます。感染症以外の様々な要因によっても起こることがあります。当院では集中治療科と連携して、体温・呼吸の管理、けいれんの治療などを行っています。また炎症を抑える特殊な治療を行うことがあります。残念ながら神経学的な後遺症を残してしまうことがありますが、自宅退院に向けてのご家族への指導やサポートを行っています。

神経系感染症(髄膜炎、脳膿瘍)

頭蓋骨と脳の間に存在し、脳を包んでいる髄膜に、ウイルスや細菌などの微生物が感染し、炎症を起こす病気です。発熱や頭痛、吐き気、意識障害などの症状がみられます。脳実質に炎症が及ぶと、脳に膿が貯まり脳膿瘍となることがあります。細菌の感染が原因の場合は抗菌薬による治療を行います。ウイルスの中でもヘルペスウイルスが原因の場合、抗ヘルペス薬による治療を行います。ヘルペスウイルス以外のウイルス性髄膜炎については、多くは数日~2週間以内に自然に治ります。

自己免疫性神経疾患、感染後の神経障害

感染症にかかると身体を防御するために免疫応答が起こりますが、その免疫応答が適切でないために、神経に障害を来すことがあります。

  • 急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis; ADEM):ウイルス感染後やワクチン接種後に、異常に活性化した免疫が、脳や脊髄、視神経の神経線維を覆っている髄鞘(ずいしょう)を攻撃する病気です。けいれんや意識障害、頭痛、身体の麻痺症状などを認めます。ステロイド薬を大量に使うステロイドパルス療法などを行います。
  • 急性小脳失調:ウイルス感染やワクチン接種後に一定の期間をおいて,身体がふらついて座れない/立てない/歩けない、手が震える、うまくしゃべれないなどの小脳症状がみられる病気です。1~4歳児に多くみられます。多くの場合、自然に治ります。
  • ギランバレー症候群:ウイルス感染や腸炎などの感染後に、末梢神経が攻撃される病気です。感染の7から10日後に手や足の動きが悪くなるなどの症状で発症するのが一般的です。呼吸をする筋肉にも麻痺が及ぶことがありますが、症状は 4 週間以内にピークを迎え,その後徐々に回復していきます。免疫グロブリン大量療法(intravenous immunoglobulin therapy:IVIg)などの治療を行います。
  • 小児自己免疫性溶連菌感染関連性精神神経障害(pediatric auto-immune neuropsychiatric disorders associated with streptococcal infections;PANDAS): 溶連菌感染症後にチック様症状と強迫神経症状がみられる病気です。自己免疫疾患やアレルギー性疾患などの遺伝的な素因とも関連があるとされています。一般に抗菌薬による治療を行いますが、症状は自然によくなったり、感染に伴って増悪することがあります。

先天異常

生まれる前や生まれたときから見られる異常のことを先天異常といいます。染色体や遺伝子の異常などの遺伝要因によるものと、妊娠中の母体の特定の感染や有害物質への暴露などの環境要因によるものがあります。身体や内臓、脳の形や働きに異常を認めるため、成長や発達がゆっくりであったり、特殊な治療を必要とする場合があります。てんかんがみられることも多いです。関連する各科と連携し、原因解明のための様々な検査を行ったり、必要な治療を行っています。また地域医療と連携して必要なサポートを提供しています。

精神運動発達遅滞

首が座ったり、立って歩いたりなどの運動の機能や、考えたり、話したりなどの知的な機能の発達が、同年齢のお子さんに比べて明らかに遅れがあるものです。染色体や遺伝子異常、胎児期の感染症などに伴う場合や、原因不明の場合があります。発達レベルの評価を行ったり、原因解明のために様々な検査を行います。定期的に発達の様子を確認したり、てんかんがある場合は治療を行うなど、お子さんの症状に合わせたサポートを行います。

脳性麻痺

脳性麻痺は、妊娠中から生後1カ月の間に赤ちゃんに起こった脳への損傷のために、運動に麻痺を認めるものです。出産時に何らかの原因で、赤ちゃんの脳に酸素が十分に供給されなかったことなどが原因の一つです。症状の程度は軽度から重度まで様々で、麻痺のある手足がつっぱるなどの症状があります。脳の障害が進むことはないですが、年齢とともに症状は変化する場合があります。頭部MRI検査などによる評価を行ったり、筋緊張やてんかんの治療など、お子さんの症状に応じた治療を行っています。

頭痛

お子さんにも幼児期から頭痛がみられることはあります。まずは症状に応じて、頭痛を引き起こすような副鼻腔炎や虫歯、また脳腫瘍や水頭症などのその他の原因がないかを評価します。特に家族に片頭痛の方いる場合には、片頭痛の場合が多いです。典型的には片側だけの頭痛であったり、吐き気を伴ったり、視覚的な前兆を認めますが、お子さんの場合は当てはまらないこともあります。軽い場合には休息や睡眠、規則正しい生活で改善しますが、頭痛のために日常生活に支障をきたす場合には、鎮痛薬や予防薬を使用します。

神経筋疾患
(脊髄性筋萎縮症(SMA)、重症筋無力症、筋ジストロフィー、ミオパチー)

神経筋疾患は、脊髄、末梢神経、筋肉の異常によって、筋力が低下したり、身体の動きに障害がみられる病気の総称です。

  • 脊髄筋委縮症(spinal muscular atrophy; SMA):脊髄にある運動神経細胞の変性がおこり、進行性に筋力が低下する遺伝性の病気です。乳児期早期に発症する重症型から、成人期に発症する型まで多岐にわたります。近年、病型によっては遺伝子に対する治療薬が出てきており、症状が大きく改善する例があります。
  • 重症筋無力症:末梢神経と筋肉の接合部で、自己免疫学的な機序によって筋肉側の受容体が攻撃される病気です。眼瞼が下がる、ものが二重に見えるなどの眼の症状を起こしやすいのが特徴ですが、全身の筋肉の症状を認める場合があります。また症状は朝に軽く、夕方以降に増悪する日内変動があるのが特徴です。症状に応じて、コリンエステラーゼ阻害薬やステロイド薬などの内服治療や、炎症を抑える特殊な治療を行います。
  • 筋ジストロフィー:筋肉が正常に働くために必要な蛋白を設計する遺伝子に異常があるために、進行性に筋力低下を引き起こす、遺伝性の筋肉の病気の総称です。小児期にみられるデュシェンヌ型筋ジストロフィーは2、3歳ころに発症し、ベッカー型筋ジストロフィーは12歳前後で発症します。いずれも男児に発症する場合がほとんどです。現在、遺伝子に対する治療薬など、新しい薬の開発が進められています。
  • ミオパチー:先天性ミオパチーも筋ジストロフィーと同様に遺伝的な原因で起こる筋肉の病気ですが、筋ジストロフィーよりもゆっくりと症状が進行します。

神経皮膚症候群

神経と皮膚の両方に生まれつき異常を持つ体質・病気の総称です。症状は病気によって多様ですが、神経、皮膚以外にも肺や腎臓、骨など全身で見られ、年齢によって新たに症状が出現したり、進行したりする場合もあります。このため、どの疾患でも定期的な医療機関への通院が必要です。

  • 結節性硬化症:葉様白斑と呼ばれる皮膚症状、鼻の周りの血管線維腫、脳の結節、心臓の横紋筋腫、網膜過誤腫、腎臓の血管筋脂肪腫、てんかんや精神遅滞を認めます。
  • 神経線維腫症:皮膚のカフェオレ斑、神経線維腫、虹彩過誤腫、骨病変など、眼や神経系、皮膚などに多彩な症状を認めます。
  • スタージウェーバー症候群:顔面のポートワイン色の血管腫、脳内の軟膜血管腫、眼の緑内障を特徴とします。てんかん、精神発達遅滞、運動麻痺、脳虚血症状などを認めます。

その他

末梢神経障害(顔面神経麻痺など)、自律神経障害、脊髄疾患(炎症性疾患、免疫性疾患、血管障害、外傷)、睡眠障害、熱性けいれん、憤怒けいれんなど。