日本語版MDHAQ

多忙な日常診療でのリウマチ性疾患の評価

Patient reported outcomeやQoLがリウマチ膠原病診療でも注目されています。それに従い、多忙な日常診療でできる疾患活動性指標RAPID3とQoL評価MDHAQの使用が少しずつ広まってきています。Pincus先生とCorporate Translationsの協力によりMDHAQ日本語版(公認版)が完成しました。

旧版よりPatient & Physician-friendly formatの仕上がりになっています。日常診療・臨床研究では自由に使用していただいて構いません。

具体的な使用の方法についてはリンク先の英語のホームページをご覧ください。

日本語版に関する問い合わせ先はこちら(外部リンク)

製薬企業による試験や電子カルテなど営利目的と考えられる場合は開発者の許可が必要です。

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関節リウマチ患者もスポーツやレクリエーションも可能な時代へ

関節リウマチ患者のQoLは近年格段に向上し、仕事はもちろん、スポーツやレクリエーションも可能な時代となりました。その背景には治療薬と治療戦略の進歩があります。

特に疾患活動性指標を算出しその値を寛解の値にまで近づけるTreat to Target の治療戦略は、関節リウマチの基本的な戦略として位置づけられています。特に近年の関節リウマチの治療薬の進歩はこの戦略を実現可能なものにしました。そして、近年の国内外のエビデンスを含む関節リウマチ診療ガイドラインが発表され、日本での標準的治療ができる体制が整いつつあります。しかし、エビデンスをどのように目の前の患者に適応できるかどうかは、個々の症例を適切に評価したうえで患者とともに決断をしなければなりません。

疾患活動性指標

「CRP」「腫脹関節数・圧痛関節数」「患者による全般評価」「医師による全般評価」はそれぞれ長所と短所を兼ね備えているが、それらを合算することにより長所をうまく引き出したのが疾患活動性指標といえます。習慣になると実は簡単ですが、指標によっては時間もかかるためT2Tの実践の障壁となっています。なお診察後に算出しても意味がないので、検査値を含まない指標(CDAIやRAPID3)の使用が増加している印象です。

DAS28

疾患活動性指標の代表であるDisease activity score 28 (DAS28)は国内外で最も使用されている指標です。きちんと理論に基づいてスコアを作成された優れた指標で、臨床試験の主要評価でも用いられます。「CRPあるいは血沈」「腫脹関節数・圧痛関節数」「患者による全般評価」の各要素に重みをつけて加算して評点します。最近はタブレットなどの端末の進歩で計算が容易となりました。寛解基準に用いることができないのが最大の弱点です。また検査値が計算に必要であることが難点です。

DAS28-ESR = 0.56×√(圧痛関節数)+0.28×√(腫脹関節数)+0.7×LN(血沈)+0.014×(患者全般評価)

DAS28-CRP = 0.56×√(圧痛関節数)+0.28×√(腫脹関節数)+0.36×LN( (CRP)×10 +1)+0.014×(VAS)+0.96

LN: 自然対数、CRP (mg/dl)、VAS (患者全般評価: 0-100mm)

CDAI/SDAI

Simplified disease activity indexは上記の各要素を単純に足した数値で、Clinical disease activity index (CDAI)は、SDAIから「CRP」を除いた数値です。

SDAI=腫脹関節痛+圧痛関節数+患者全般+医師全般+CRP CDAI=腫脹関節痛+圧痛関節数+患者全般+医師全般

DAS28と異なり、SDAI 3.3以下あるいはCDAI 2.8以下は寛解基準として用いることができます。特にCDAIは検査値も不要かつ簡単に計算できるため多忙な日常診療にも適しています。

RAPID3

Routine Assessment of Patient Index3 (RAPID3)は問診だけで得られる疾患活動性指標で、「身体機能評価」(FN:1 a-jの合計スコア÷3)と「疼痛評価」と「患者全般評価」を加算した数値(0-30)です。

RAPID3=身体機能+疼痛+患者全般

受付で(あるいは前回受診時に)問診票を手渡し待ち時間の間に記入してもらいます。診察前に疾患活動性を含めた患者の状態を把握できることが最大の特徴で、米国で頻用されています。RAPID3と腫脹関節数を評価することにより時間をかけずに患者の状態を把握することができます。

代表的な疾患活動性指標

DAS28SDAICDAIRAPID3
検査炎症反応ESR/CRPCRPなしなし
医師腫脹関節数0-280-280-28なし
圧痛関節数0-280-280-28なし
医師全般0-100-100-10なし
患者患者全般0-100-100-100-10
疼痛なしなしなし0-10
身体機能なしなしなし0-10
計算式
(スコア)

(算出時間の目安)
下記
(0-10)

(約120秒)
合計
(CDAI+CRP)

(約90秒)
合計
(0-76)

(約90秒)
合計
(0-30)

(10秒)
寛解<2.6~3.3~2.8~3
低疾患活動性2.6~3.2(3.3)~11(2.8)~10(3)~6
中疾患活動性(3.2)~5.1(11)~26(10)~22(6)~12
高疾患活動性(5.1)~(26)~(22)~(12)~

QOLの評価

SF36

RA患者ではQoLを多面的に考える必要があります。そこで最近の臨床試験では、包括的尺度であるSF-36が最もよく使用されています。RA患者では身体的な項目が著明に低下するだけでなく、精神的な項目も低下しています。一方、うつ患者では精神的な項目が著明に低下するだけでなく身体的な項目も低下しています。RA患者でうつは合併しやすいですが、その場合は相乗的にQoLが損なわれている可能性があります。
損なわれたQOLはRAの治療により改善します。RA治療前のRA患者のSF-36は健康なコントロール例と比べ全体的に低下していますが、RAの治療により身体的・精神的項目共に改善が認められます。

MDHAQ

SF-36は評価が煩雑であり、実臨床での使用は不可能です。MDHAQは外来の待ち時間で患者が記入をしてもらえば、多忙な外来であっても、身体機能はもちろん、精神機能、多彩な愁訴、倦怠感、労働の状況など総合的にQoLを評価できます。

身体機能の評価

mHAQの8項目に「歩こうと思えば、3キロメートル歩けますか?」と「好きなようにスポーツやレクレーションはできますか?」が加えられています。
本邦RA患者の多施設共同疫学研究(NinJa)の2015年度のデータで、HAQスコアとMDHAQスコアとMHAQスコアの違いを検討した結果、MHAQはHAQよりも0.23低い結果で、MDHAQではHAQの差は0.12と縮小しました。(この床効果のため米国ではMHAQでなくMDHAQの使用が推奨されています。)また、HAQスコアが0であったRA患者(登録患者の35%)のうち、MDHAQの追加項目「歩こうと思えば、~略~」、「好きなようにスポーツや~略~」で問題を感じる患者がそれぞれ12%、21%に認められ、「HAQスコア=0」でもQoL評価が不十分である可能性が示唆されました。日本リウマチ友の会が会員を対象に行ったRA患者の調査では、「今したいこと」として「温泉など旅行に行きたい」が69.3%と最も多く、次いで「外出したい」が24.4%でした。これらの希望を、MDHAQの「好きなようにスポーツや~略~」や「歩こうと思えば、~略~」が反映しているともいえます。

精神機能の評価

「夜は十分に眠れますか?」、「不安や神経質な気持ちに対処できますか?」、「落ちこみや憂うつな気持ちに対処できますか?」が加わることにより、不眠、不安、鬱が簡単にスクリーニングできます。

  • R808-NP2(2013年版)からR923-NP2R(2016年版)に改訂
    (2016/4) 主な変更として
    (旧バージョン)R808-NP2
    “Participate in recreational activities and sports as you would like, if you wish?”
    やる気になれば、スポーツやレクリエーションはできますか?
    (新バージョン)R923-NP2R
    “Participate in recreational activities and sports as you wish?”
    好きなようにスポーツやレクリエーションはできますか?

RAPID3のValidationのプロセスについては以下を参照ください。 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25156777(外部リンク)