悪性リンパ腫を免疫で治す。CAR-T(カーティー)細胞療法とは?

2021年1月27日 腫瘍内科

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投稿者:腫瘍内科 下山 達

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免疫が低下すると「悪性リンパ腫」が発生する

実は私たちの体の中では、日々がん細胞が生まれています。しかし、そのほとんどは、免疫によって駆除されています。それでは、免疫力が低下するとがんの発生は増えるのでしょうか?答えは「増える」です。実際に免疫低下に関連するさまざまな「がん」が報告されています。
例えば、免疫が低下する代表的な病気であるエイズは、がんの発生率が高いことが知られています。エイズの原因となるHIVウイルスはT細胞に感染します。このT細胞は、血液の中を流れるリンパ球の一種で、免疫の中心的な細胞です。このT細胞がHIVウイルスに感染し働けなくなってしまうと、いわゆる免疫不全という状態になってしまいます。2018年に大ヒットした映画、『ボヘミアン・ラプソディ』の中でも、クィーンのボーカル、フレディ・マーキュリーがエイズにより感染症にかかっているシーンがあります。現在は医学の進歩でHIVに感染しても感染症の発症を抑えられるようになりました。その一方で、免疫が低下した状態が続くと、がんの発生率が高くなることがわかってきました。T細胞の働きが弱まると、がんが発症しやすくなるのです。
悪性リンパ腫は、免疫細胞であるリンパ球ががんになった病気です。なので、もともと免疫との関わりが深いがんです。実際、HIVに限らず、免疫抑制剤を長期に使用している患者など、免疫が低下した状態が続くと悪性リンパ腫が発生しやすくなります。このことから、免疫を高める事で悪性リンパ腫を治すことが出来るようになるのでは、というアイデアが生まれ、研究が行われてきました。

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免疫を高めれば、悪性リンパ腫は治る?

実は、悪性リンパ腫は自然に小さくなることがあります。にわかに信じられない事ですが、何らかのきっかけで悪性リンパ腫に対する免疫が働くようになって、自然縮小が起きると考えられています。滅多に起きる事ではありませんが、実際の診療でも経験した事があります。特に悪性リンパ腫の「濾胞(ろほう)性リンパ腫」というタイプは、1割ぐらいの患者さんに自然縮小がおきます。自然に小さくなるのなら、抗がん剤治療をする必要はないので、症状がない場合はあえて治療をしません。この現象は免疫によるものと考えられています。

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医学の力でがんに対する免疫を高めることが出来れば、悪性リンパ腫は治せるかもしれません。例えば膀胱がんでは、BCGは、がんの再発予防効果が認められています。BCG は結核予防のワクチンです。なぜ結核のワクチンががんに効くのかはよくわかっていませんが、がんの免疫療法として標準治療と認められています。実際に、感染症にかかった後に、がんが縮小したという報告はあります。一方で、昔有名だった丸山ワクチンは同じく結核のワクチンですが、明らかな治療成績を示せず保険適応にはなりませんでした。過去、多くの免疫療法がうたわれてきましたが、ほとんどが成功しませんでした。

免疫のスイッチは簡単には入らない

どうして、これまでの免疫療法は上手くいかなかったのでしょうか。免疫には安全装置がついていて、簡単に攻撃のスイッチが入らないようになっています。もし簡単にスイッチが入ってしまうと、自分の体に対しても攻撃を行ってしまうからです。例として、小麦などの食物アレルギーがあります。食事に小麦が入っていると全身にアレルギー反応が起きる人がいて、重症化すると亡くなることもあります。小麦は体にとっては異物ですが、無害なので普通は免疫のスイッチが入らないようになっています。ところが何かしらの理由で免疫のスイッチが入ってしまう人がいて、免疫が暴走してしまうのです。
私たちの体は異物であふれています。皮膚や腸には様々な細菌が共生していますし、毎日、食事をして異物を体に取り込んでいます。こうした体に役立つ異物に対しては、免疫は攻撃をしません。この免疫の働きを調整しているのは、T細胞というリンパ球です。T細胞の免疫のスイッチは簡単に入らないようになっていて、免疫が暴走しないよう体を守っています。
一方で、病原菌やがんに対しては、免疫のスイッチが入ることで体の健康は守られています。
がんが発症するのは、このT細胞のスイッチが入らなくなってしまった状態と考えられています。今までの免疫治療は、このT細胞のスイッチを入れる事が出来なかったため成功しなかったとも言えます。これをバイオテクノロジーの力でできるようにしたのが、CAR-T細胞療法です。

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リンパ球を改造してスイッチをいれる

遺伝子操作技術の進歩により、体の免疫細胞を人工的に作り替えて、がんへの攻撃スイッチを入れることが出来るようになりました。これをCAR-T細胞といいます。CAR-TのTとは、リンパ球のT細胞の事です。CARは車の事ではありません。Chimeric Antigen Receptor(キメラ抗原受容体)の略です。キメラはギリシャ神話に出てくるライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ怪物のことです。生物の用語では、異なるものが合体した生物を指します。植物の接ぎ木もキメラの一種です。それでは、CAR-T細胞は何をT細胞にくっつけたのでしょうか。
がんに対して免疫が働くには3つのステップが必要です。まず、①センサーを使って攻撃する相手を探す。そして②攻撃する相手を認証してスイッチを入れる。 最後に③がん細胞を攻撃する です。それぞれのステップには、安全装置がついていて暴走しないようになっています。この①と②を同時にやってくれるのがCARです。いうなれば、安全装置が解除された高性能センサーのようなものです。

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日本で現在保険承認されているCAR-T(キムリアⓇ)は、CD19というたんぱく質をセンサーで見つけると攻撃するCAR(センサー)がT細胞に埋め込まれています。CD19が出ている悪性リンパ腫と白血病が対象となる病気です。(詳しくは、CAR-T療法(キムリア)外来をご覧ください)。この治療を受けるためには、まず患者さんの体からリンパ球(T細胞)を取り出し、遺伝子組み換え技術を用いてCARを発現させ体に戻します。キムリアⓇの薬価は約3350万円と承認当時の医薬品としては最高額となりニュースにもなりました。

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CAR-Tはまだ研究途上の治療

これだけ高額な治療ですから、すべての人が治ると期待してしまいますが、悪性リンパ腫の場合は治る人は半分以下です。まだ新しい治療なので、長期的な効果や副作用も十分わかっていません。しかし、従来の抗がん剤治療では治らなかった患者さんに、治る治療法が出てきたことは画期的なことです。
また、解決しなければならない問題も残っています。CAR-Tは自分のリンパ球を改造して作ります。製造期間には6-8週間はかかるため、その間に病気が進行してしまいCAR-Tが出来上がるまでに亡くなってしまう方もおられます。また、自分のリンパ球をもとに作るため、健康なリンパ球が必要です。抗がん剤治療を何度も重ねている患者さんが多いため、リンパ球が疲弊してCAR-Tを作れない場合も起きます。
安全面においても課題が残っています。免疫の暴走です。がん細胞だけを攻撃するようにスイッチを入れたはずなのですが、T細胞は免疫の司令塔の働きもしているため、他の免疫細胞にも攻撃の指令を出してしまうことがあるのです。風邪をひいたのと同じように、発熱、筋肉痛が起きたり、重症化すると血圧が下がってショックを起こしたり、意識がなくなってしまうこともあります。なので、CAR-T投与をした後は少なくとも2-3週間は厳重な管理を行っています。免疫が暴走する兆候があらわれたら、すぐに治療をおこない、重症化したらICUでの治療が必要になる場合もあります。CAR-T治療は、免疫の暴走が起きても耐えられる体力が必要です。大まかには、70才以下で全身状態が良い方が対象となります。

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CAR-T療法は、効果や安全性を向上させるべく現在もさまざまな種類が開発中です。
駒込病院では、CAR-T治療を推進すべく、血液内科、腫瘍内科、輸血科、放射線科のスタッフがチームを組み、循環器内科、神経内科のバックアップをいただいて協力体制をとっています。病棟も移植病棟、がん病棟、高度集中治療室が密接に連携をして、一人でも多くの患者さんがこの治療を安全に受けられるように努力しています。当院は、がん・感染症センターであるため、感染症専門家の応援をいただくことができるので、今後もコロナに負けることなく、最新のがん治療を進めてまいります。

駒込病院 腫瘍内科 下山 達

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