肝臓内科 - 専門的治療の解説

肝臓の働きと主な肝疾患

肝臓ってどんな臓器?

肝臓は、人の体内で最も大きな臓器で、右上腹部にあり、肋骨に守られています。成人では約 1,200~1,500g あり、栄養素の代謝、タンパク質の合成、有害物質の解毒、胆汁の生成など、多くの重要な働きを担っています。

肝臓病は初期には自覚症状が乏しいことが多いため、「沈黙の臓器」とも呼ばれます。早期発見には、血液検査や腹部超音波、CT、MRI などの画像検査が重要です。

肝臓に起こる主な病気

ウイルス性肝炎

A型、B型、C型、D型、E型の肝炎ウイルスがあります。B型・C型肝炎では感染が長期間持続し、慢性肝炎、肝硬変、肝がんへ進行することがあります。

脂肪性肝疾患

肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などに関連して肝臓に脂肪が蓄積する代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)が増えています。その一部では炎症や線維化を伴う代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)となり、肝硬変や肝がんへ進行することがあります。

アルコール関連肝疾患

大量の飲酒を続けると、脂肪肝、アルコール性肝炎、肝線維症、肝硬変、肝細胞がんへ進行することがあります。

薬剤性肝障害

処方薬だけでなく、市販薬、サプリメント、健康食品などが肝障害の原因となる場合があります。服用歴を詳しく確認し、原因と考えられる薬剤の中止や治療を行います。

自己免疫や胆汁うっ滞に関連する病気

自己免疫性肝炎(AIH)、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)などがあります。適切な診断と長期的な治療・経過観察が必要です。

その他の肝疾患

特発性門脈圧亢進症、遺伝性・代謝性肝疾患、血管性肝疾患などがあります。原因がはっきりしない肝機能異常でも、専門的な検査によって診断につながることがあります。

ウイルス性肝炎・脂肪性肝疾患

ウイルス性肝炎

急性肝炎

急に発症する肝障害で、A型肝炎、B型肝炎、E型肝炎、薬剤性肝障害などが原因となります。黄疸がある場合、AST・ALT が著しく高い場合、食事が十分に摂れない場合には入院が必要です。意識状態の変化や血液凝固能の低下を伴う場合には急性肝不全への移行が疑われ、血漿交換などの集学的治療が必要となることがあります。

B型慢性肝炎

B型慢性肝炎では、エンテカビルやテノホビルなどの核酸アナログ製剤を用いて、B型肝炎ウイルスの増殖を長期間抑制します。肝炎が落ち着いていても肝がんを発症する可能性があるため、血液検査と画像検査による定期的な経過観察が必要です。

C型慢性肝炎

C型慢性肝炎では、経口の直接作用型抗ウイルス薬(DAA)により、多くの患者さんでウイルス排除が可能です。ウイルスが排除された後も、肝線維化が進んでいる患者さんでは肝がんのリスクが残るため、定期検査を継続します。

脂肪性肝疾患

MASLD は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの代謝異常と関連して起こります。治療の基本は、適正体重の維持、食事内容の改善、運動、糖尿病や脂質異常症などの管理です。炎症や線維化を伴う MASH では、肝硬変や肝がんへ進行する可能性があります。血液検査、腹部超音波、肝硬度測定、CT、MRI などを用いて病状を評価し、必要に応じて専門的な治療を行います。

アルコール関連肝疾患

治療の基本は禁酒または飲酒量の大幅な減量です。重症のアルコール性肝炎では入院治療が必要になることがあります。栄養状態や依存症の有無も評価し、必要に応じて他部門と連携します

肝硬変と合併症

肝硬変とは

慢性肝炎、脂肪性肝疾患、アルコール関連肝疾患などが長期間続くと、肝臓に線維が蓄積して硬くなり、肝硬変へ進行します。肝硬変では、肝臓の働きが低下するだけでなく、門脈圧が上昇し、さまざまな合併症が起こります。

定期的な肝がん検査

肝硬変では肝がんを合併する危険が高くなります。早期発見のため、腫瘍マーカー測定、腹部超音波、CT、MRI などを定期的に行います。

主な合併症

腹水・浮腫

塩分制限や利尿薬で治療します。十分に改善しない場合には、腹水穿刺、CART、腹腔静脈シャント造設術などを検討します。

食道・胃静脈瘤

門脈圧の上昇により食道や胃の静脈が太くなり、破裂すると大量出血を起こすことがあります。内視鏡検査で状態を確認し、出血リスクが高い場合には予防的治療を行います。

肝性脳症

肝機能の低下などにより、意識がぼんやりする、昼夜逆転、性格変化、手の震えなどが起こることがあります。便通の調整や薬物治療を行い、感染症、便秘、脱水、消化管出血などの誘因を治療します。

低栄養・筋肉量の低下

肝硬変では低栄養やサルコペニアを伴うことがあります。食事内容や摂取量を評価し、必要に応じて栄養指導を行います。

肝がんの治療

本ページでは、原発性肝がんの大部分を占める肝細胞がんを中心に説明します。肝内胆管がんや転移性肝がんでは治療方針が異なります。

肝細胞がんの治療は、腫瘍の大きさ、個数、場所、血管への広がり、肝外転移の有無、肝機能、全身状態を総合的に評価して選択します。当科では肝胆膵外科、放射線科と連携して治療方針を検討します。

ラジオ波焼灼療法(RFA)

ラジオ波焼灼療法は、比較的小さな肝がんに対して、身体への負担を抑えながら根治を目指す局所治療です。超音波で腫瘍の位置を確認し、皮膚を通して電極針を刺し、熱で腫瘍を凝固壊死させます。

最も大きい病変が3cm以下で、個数が3個以内であることを一つの目安としますが、肝機能、腫瘍の位置、他の治療選択肢などを総合的に判断します。局所麻酔に加えて鎮痛薬や鎮静薬を使用し、痛みや不安の軽減に努めます。

通常は治療前日に入院し、治療後にCTなどで治療効果と合併症の有無を確認します。入院期間はおおむね6~8日程度ですが、病状や治療内容によって異なります。

ラジオ波焼灼療法(RFA)治療前後画像

治療前後のCT画像を並べて示しています。矢印は病変部位を示します。

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注:代表症例の匿名化画像です。実際の適応は腫瘍の大きさ・個数・位置、肝機能、合併症などを総合的に判断します。

RFA治療件数の推移

当科における年度別のRFA実施件数です。縦軸:治療件数、横軸:年度。

RFA後生存率:全体

初発肝がんに対するRFA後の全生存率を示しています。

03RFA
注:2009年から2019年に初発肝がんに対してRFAを施行した262例について2026年7月に解析。

RFA後生存率:ステージ1・2別

早期発見・早期治療の重要性がわかる生存曲線です。

04RFA
注:2009年から2019年に初発肝がんに対してRFAを施行したステージ1症例(121例)とステージ2症例(106例)について2026年7月に解析。

肝動脈塞栓術(TACE)

肝がんに栄養を送る血管にカテーテルを進め、抗がん薬などを腫瘍の近くから注入し、さらに血流を遮断する治療です。腫瘍の数が多い、またはサイズが大きいなどの理由でラジオ波焼灼療法が難しい場合に検討します。

従来のリピオドールを用いる肝動脈化学塞栓療法(conventional TACE)と、薬剤溶出性ビーズを用いるDEB-TACEなどがあり、腫瘍の状態、肝機能、治療歴に応じて方法を選択します。

肝動脈塞栓術(TACE)治療画像

血管造影により腫瘍を栄養する血管を確認し、選択的に治療します。

05肝動脈
注:代表症例の匿名化画像です。治療範囲は肝機能や腫瘍分布を踏まえて慎重に決定します。

TACE治療前後CT

治療後CTでリピオドール沈着などを確認し、治療効果と合併症の有無を評価します。

06肝動脈
注:代表症例を示す匿名化画像です。治療効果は画像所見、腫瘍マーカー、全身状態を総合して判定します。

TACE治療件数の推移

当科における年度別のTACE実施件数です。縦軸:治療件数、横軸:年度。

07肝動脈
注:当科集計。全身薬物療法の進歩に伴い、TACEの適応は病状に応じて個別に判断しています。

全身薬物療法

切除や局所治療が難しい肝細胞がんでは、免疫チェックポイント阻害薬を中心とした併用療法や分子標的薬などの全身薬物療法を行います。病状、肝機能、出血リスク、自己免疫疾患の有無、合併症、これまでの治療歴を考慮して治療法を選択します。

治療中は、肝機能障害、高血圧、皮膚症状、出血、免疫関連有害事象などに注意し、定期的に治療効果と副作用を確認します。進行した肝がんでも、腫瘍が大きく縮小したり、長期間病勢をコントロールできたりする患者さんが増えています。

全身薬物療法導入件数の推移

分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬を含む全身薬物療法の導入件数です。縦軸:導入件数、横軸:年度。

08全身化学

転移性肝がん

転移性肝がんでは、原発巣の種類、肝外病変の有無、腫瘍の大きさや個数、外科的切除や薬物療法の可能性などを総合的に検討します。ラジオ波焼灼療法は、外科的切除や薬物療法が難しい場合など、限られた患者さんで検討します。

食道・胃静脈瘤の治療

静脈瘤とは

肝硬変などで門脈の圧が上昇すると、食道、胃、直腸などの細い静脈が発達して太くなります。これを静脈瘤と呼びます。静脈瘤は破裂すると大量出血を起こす危険があるため、定期的な内視鏡検査などで状態を確認します。

食道静脈瘤の治療

食道静脈瘤に対しては、内視鏡的硬化療法または内視鏡的結紮術を行います。内視鏡的硬化療法は、静脈瘤に細い針を刺して硬化剤を注入する治療です。内視鏡的結紮術は、小さなゴムで静脈瘤を結紮する治療です。静脈瘤の形態、肝機能、出血歴などを考慮して治療法を選択します。

食道静脈瘤の内視鏡治療

内視鏡的硬化療法・結紮術により、出血リスクの低減を目指します。

09食道
注:代表症例の匿名化画像です。治療適応は静脈瘤の大きさ、発赤所見、肝機能などを総合して判断します。

治療前・治療中・治療後の代表画像

出血予防を目的に、定期的な内視鏡検査と必要に応じた治療を行います。

胃静脈瘤の治療

胃静脈瘤に対しては、バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)などを行います。静脈からカテーテルを挿入し、胃静脈瘤の近くまで進め、血流を一時的にせき止めたうえで硬化剤を注入します。血管の走行、肝機能、肝性脳症の有無などを評価し、適応を慎重に判断します。

胃静脈瘤の治療

BRTOなどのカテーテル治療により、胃静脈瘤への血流を遮断します。

10胃静脈
注:代表症例の匿名化画像です。門脈血行動態、肝機能、他の静脈瘤の有無を確認して治療方針を決定します。

内視鏡・CT・血管造影による評価

治療前後の画像を比較し、血流遮断と再発の有無を確認します。

直腸静脈瘤

直腸静脈瘤に対しても、病状に応じて内視鏡的硬化療法やその他の治療を検討します。治療後も再発することがあるため、定期的な経過観察が必要です。

難治性腹水の治療

腹水とは

肝硬変が進行し肝機能が低下すると、お腹の中に水がたまる腹水や、足のむくみが出現することがあります。まずは塩分制限や利尿薬で治療しますが、それでも十分にコントロールできない場合を難治性腹水といいます。

治療法

腹水穿刺

お腹の皮膚に局所麻酔をしたうえで針を刺し、たまった腹水を排出する治療です。腹部膨満感、食欲低下、息苦しさなどの症状を速やかに軽減できます。患者さんの状態により外来または入院で行います。

CART(腹水濾過濃縮再静注法)

腹水穿刺で排出した腹水を回収し、濾過によって細菌やがん細胞などを取り除いたうえで、アルブミンなどの有用なタンパク質を濃縮し、点滴で体内に戻す治療です。当科では患者さんの状態に応じて入院期間を調整します。

腹腔静脈シャント造設術(デンバーシャント造設術)

利尿薬、腹水穿刺、CARTなどで十分にコントロールできない場合に、全身状態や合併症を慎重に評価したうえで検討します。お腹の中と静脈をカテーテルでつなぎ、腹水を持続的に血管内へ戻すことで、腹部膨満感を軽減し、生活の質を改善できる可能性があります。

一方で、播種性血管内凝固症候群(DIC)、感染、心不全、シャント閉塞などの合併症が起こることがあります。また、肝臓自体の機能を改善させる治療ではありません。期待される効果とリスクを十分に説明し、患者さんごとに適応を判断します。

腹腔静脈シャント(デンバーシャント)画像

難治性腹水に対して、生活の質の改善を目的に検討する治療です。

11デンパーシャント

注:代表症例の匿名化画像です。DIC、感染、心不全、シャント閉塞などのリスクを評価し、適応を慎重に判断します。