造血器腫瘍におけるがんゲノム医療

1. がんゲノム医療

遺伝子と染色体は合わせてゲノムと言われ、遺伝情報を含んでいます。がんの発症にはこのゲノムの異常が密接に関係しています。血液のがんでも同様にゲノムの異常が認められ、その異常は患者さんごとに異なっています。近年、次世代シークエンサー (NGS) という装置を用いて短時間に多くのゲノム異常を同時に調べることが可能になりました。得られたゲノム情報をもとに、患者さん一人一人に最適な治療を選択することをがんゲノム医療 (precision medicine) といいます。

血液以外のがん (固形腫瘍) ではすでにがんゲノム医療は医療保険の適応となっており、当院でもがんゲノム医療外来を窓口として診療を行っています。しかしながら、血液のがんにおけるゲノム異常は他のがんと異なることが多く、治療法の選択だけでなく診断や予後予測にも有効なことがあります。こうした特殊性もあり、血液のがん患者さんを対象としたがんゲノム医療は保険診療となっていません。

当院では院内の臨床研究支援室と共同で血液のがんを対象としたがんゲノム医療の体制を構築し、倫理審査委員会の承認を受けて2018年2月から実施しています。

2. 当院における造血器腫瘍を対象としたがんゲノム医療体制

造血器腫瘍を対象としたがんゲノム医療体制

対象となる患者さんに十分な説明を行い、同意をいただきます。骨髄異形成症候群 (MDS) 外来を受診していただいた方など、他院から紹介いただいた患者さんも対象となります。

血液検査や骨髄検査、リンパ節などの生検検査の残余検体を用いて次世代シークエンサー (NGS) により解析を行います。通常の保険診療では調べられないものも含めてゲノムの異常がないか調べます。

解析結果を専門スタッフや医師など多職種で協議し、造血幹細胞移植療法の施行の判断など診療に役立てます。

3. 新たなエビデンスの創出

新たなエビデンスの創出

当院では、これまでに900件以上の解析を行っています(2023年4月現在)。今後の診療に役立てるべく、得られたデータを用いて様々な研究を行っています。

急性骨髄性白血病 (AML) の患者さんでは、寛解期に比べて非寛解期に造血幹細胞移植を受けた場合に治療効果が低下しています。ゲノム情報を加えることで、非寛解期に移植療法を受けた患者さんの治療効果をさらに予測することができました。