患者向け広報誌「OHKUBO」
第3号 泌尿器・腎移植科

大久保病院
泌尿器・腎移植科 部長 白川浩希
専門分野
腎移植・泌尿器科一般
もはや“特別”ではない、生体腎移植という治療方法
腎臓病にはさまざまな種類がありますが、その多くは自覚症状がありません。知らぬ間に病気が進行すると慢性化し、やがて腎機能が著しく低下した末期腎不全となります。そうなると生命維持のために「血液透析」「腹膜透析」「腎移植」いずれかの腎代替療法を選択する必要があります。
日本では、34万人を超える人々が透析治療を受けています。人工透析は1回4時間、週3回のペースで行われるのが一般的です。当院でも透析治療を実施していますが、多くの時間を拘束されるのに加え、長期の透析で合併症の危険性が高まるなど、QOL(生活の質)における影響が少なくありません。
そのため、年々増加しているのが腎移植です。腎移植には、脳死もしくは心停止下のドナーから腎臓が提供される献腎移植と、健康な親族から提供される生体腎移植があります。日本では腎移植の9割近くが生体腎移植で、その4割以上が非血縁者(配偶者)間での移植となっています。「血液型や遺伝子型が一致しないと移植はできない」というのは昔の話で、医療技術の進歩により、移植後の生存率や腎臓が正常に働く生着率は、大きく改善しました。今では生体腎移植の5年生存率・5年生着率ともに93%を超え、腎移植は非常に有効な代替療法となっています。
※数字はいずれも「一般社団法人日本移植学会『2023臓器移植ファクトブック』より
多くの医師と専門家が協力し、治療を後押し
大久保病院では、2009年から東京女子医科大学病院と連携して腎臓移植への取り組みを開始しました。現在も緊密な協力関係のもと、年間10~12件の腎移植手術を実施しています。日本の腎移植では、「手術前は内科、手術以降は外科(泌尿器科)」といった役割分担を行うのが一般的ですが、当院では内科と外科が緊密に協力し、外来時から手術後まで、きめ細かなケアを行っているのが大きな特徴です。
腎移植を受ける方(レシピエント)は、糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病を抱えている場合がほとんどです。移植を受けて腎機能が回復したら、他の病気をしっかりと治療していかないと、せっかくもらった腎臓が悲鳴を上げてしまいます。そのために内科医はもちろん、生活習慣の改善に向けた管理栄養士の助言など、多くの専門家のサポートが必要になります。当院には腎臓の専門医が数多く在籍しており、“都立病院系列の腎センター”としての役割も担っています。病院の総力で治療を支援できるのも、当院の特徴だと考えます。
提供者(ドナー)の安心と健康も、徹底的にサポート
レシピエント以上に重要なのが、腎臓を提供する方(ドナー)へのケアとサポートです。ドナーには、手術のリスクはもちろん、その後の生活や注意点なども丁寧に説明し、十分に納得していただく必要があります。当院では、移植手術に対して精神的な不安がある場合には、レシピエントとドナーが個別に精神科医の診察を受けていただくこともあります。移植コーディネーターや腎臓内科の専門医からも、それぞれの専門的見地から説明を行います。その際ドナーが不安を感じていないか、携わる全員が気にかけ、不安を見逃したまま手術をしないよう細心の注意を払っています。
生体腎移植は、あくまでも自発的な同意が大前提ですので、心の底に「提供したくない」という思いを抱えての移植は避けなければなりません。「迷っているなら、手術直前でも断ることは可能です」と、繰り返しお伝えしています。
2個ある腎臓のうち1つを提供しても、通常の生活にはほぼ支障はありません。しかし過労や暴飲暴食をしないなど、自己管理は不可欠です。10年後、20年後にドナーが腎不全にならないよう当院ではドナー外来を開設し、手術後も定期的に検査を行うことで、残った腎機能の低下を防ぐ長期的サポートを行っています。
ドナーを希望していても、肥満や高血圧など生活習慣病の危険性を抱えている方や、術後の自己管理や摂生が難しいと思われれば、お断りする場合もあります。肥満があれば、管理栄養士や医師の指導で減量していただくこともあります。ドナーの健康を損なうことは絶対に避けなければいけませんので、事前の検査から術後まで、手厚いサポートを用意しています。
レシピエントもドナーも納得する腎臓移植へ
近年は、高齢のご夫婦間での移植も増えています。医療の進歩により、ドナーあるいはレシピエントが高齢であっても、安全に手術ができるようになりました。ドナーの腎摘出手術は内視鏡で行いますので身体への負担も傷も小さく、手術後4日程度で退院が可能です。その後は3カ月~6カ月に一度の定期受診で、健康管理を行っていきます。
70歳代で慢性腎不全と診断されたら、残りの人生は10数年。安全に手術が可能か事前評価することが大前提ですが、透析に貴重な時間を費やすよりも、腎移植によって夫婦や家族で過ごす時間を増やすのは賢明な選択かもしれないと、私個人は考えます。腎臓が正常に機能すれば食事制限も緩和されますから、日々同じものを食べ、外食も可能でしょう。体力が許せば旅行にも行けるかもしれません。透析は、頻繁な送迎や介助など、配偶者や家族にさまざまな負担をかけることがありますが、それも不要となります。レシピエントとドナー、双方のQOLを改善することが、腎移植の大きな目的です。
まずは腎臓病にならないこと、なってしまったらそれを進行させないことが重要です。健康への意識を高め、ぜひ定期的に健康診断を受けて、腎臓に優しい生活を送ってください。
★詳しくは、泌尿器・腎移植科のウェブページをご覧ください。