患者向け広報誌「OHKUBO」
第4号 リハビリテーション科

大久保病院
リハビリテーション科 部長 三澤朋子
健康寿命を延ばすカギは、要介護手前の「フレイル」
2023年における日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳です。しかし、心身ともに自立して健康的に生活できる健康寿命は、男性72歳、女性74歳。つまり、70代前半から亡くなるまでの約10年間、多くの人に何らかの介護や介助が必要となっています。要介護状態になると、本人はもちろん、ご家族の負担も非常に大きくなります。いかに健康寿命を延ばすかが、これからの日本の医療の重要な課題となっています。
そこで注目されているのが、加齢に伴って心身の機能が衰えた「要介護一歩手前の状態」を指す「フレイル」への対応です。年齢を重ねると、わずかなストレスや病気などで心身が衰弱し、誰もがフレイルに陥る可能性を抱えています。ご自身がフレイルになっていないか、身体機能を定期的に確認することが健やかな生活につながり、健康寿命を延ばすことにもなります。
当院では2024年からフレイル状態の患者さんへの評価・指導を行う「フレイル入院」を開始しました。
フレイル入院で「サルコペニア」を入念にチェック
フレイルを心配される場合、当院に通院している方であれば担当医の紹介、に相談してください。そうでない方はかかりつけ医師からの紹介を受けて、まずは「フレイル外来」を受診していただきます。そこでフレイル状態と判断されれば、2泊3日のフレイル入院をお勧めし、外来では難しい検査や指導を行います。特に重点を置くのが「サルコペニア」のチェックです。筋力量が低下した状態を「サルコペニア」と呼びます。ギリシャ語の「サルコ (筋肉)」と「ぺニア(喪失)」を組み合わせた造語で、身体機能の低下を筋肉量に注目して判断するものです。実際、加齢や病気などで活動が低下するとエネルギー消費量が減少し、そのため食欲がなくなり、さらに筋力が減少するという悪循環に陥りがちです。サルコペニアはフレイルに直結するため、十分な筋肉量があるかを、国際的な基準に沿って判定します。さらに様々な運動能力の測定を行い、日常生活を送る基礎力を評価します。
口腔内環境や栄養状態を見て、「食べる力」を確認
フレイル入院では、入院時だからこそ可能な多面的な評価と指導を行います。
- 作業療法士による認知機能評価
- 言語聴覚療法士による嚥下能力評価確認
- 管理栄養士による栄養状態評価
- 歯科口腔外科にて口腔内状況の評価
- (腎疾患のある方)24時間の尿をすべて調べる蓄尿検査
食物を噛む力や飲み込む力は、食べる力そのものです。歯の本数や、歯磨きを含めた口腔内の衛生環境も、「おいしく食事できるかどうか」に強く関係しています。こうした結果を総合的に踏まえ、適切なリハビリや運動、食事の指導を実施します。それぞれの患者さんの状態を詳細に評価することで、その方に合った、退院後も無理なく継続できるプログラムが提供できます。
腎臓病でも「タンパク質と運動は不可欠」が新常識
腎臓に疾患のある方は、これまでは運動してはいけない、タンパク質の摂取も控えなければいけないと言われてきましたが、このような生活はフレイルになる可能性を高めてしまいます。フレイル状態になると体力が低下し、抵抗力が下がることで病状が進行する恐れがあることから、現在では、適切なタンパク質の摂取と運動が腎臓治療の常識になりつつあります。
しかし、そう言われても、患者さんはどれぐらいタンパク質をとっていいのか、どれぐらいの運動ならば許されるのか、自分で判断するのは難しいでしょう。そこで、私たちのようなフレイルの専門家が参加することで、腎臓だけでなく様々な病状や身体状況に合った運動、栄養についての指導が可能になります。
当院は、充実した透析設備を有しており、糖尿病教育入院などにも取り組んでいます。また都立病院では唯一、地域包括ケア病棟を有しており、リハビリテーションと退院調整節(在宅生活を送る上での介護保険サービスなどの手配)にも取り組んでいます。入院中だけでなく、地域での在宅生活をしっかりとサポートすることが、当院の特色であり基本姿勢です。
早めの検査で、「自分で歩き、食べる」生活を続けよう
要介護状態になってからでは、有効な対策を打つことが難しくなります。つまずきやすくなった、歩く速度が遅くなったなど体の変化に気づいた時には、遠慮なく医師に相談してください。
ある程度の年齢になったら、健康診断だけでなく身体状況の検査を定期的に受けて、ご自身の運動能力も確認するよう心がけていただくことをお勧めします。日頃から適切な運動を行い筋肉をつくるのに欠かせないタンパク質やビタミンD、ミネラルを意識して、バランスの良い食事を心がけましょう。自分の足で歩き、自分の口で食べることは、健やかな生活の大切な要素です。いつまでも地域で、健康で自分らしい暮らしを続けられるよう、日常生活に気をつけるのはもちろん、フレイル入院を、ぜひご活用いただければと思います。
★詳しくは、リハビリテーション科のウェブページをご覧ください。