多系統萎縮症(MSA)

患者さんへ

疾患概要

多系統萎縮症は、孤発性(非遺伝性)の脊髄小脳変性症に対する総称です。脊髄小脳変性症は、中枢神経系(大脳、小脳、脳幹、脊髄)が広く障害され、緩徐に進行する、いわゆる神経変性疾患と呼ばれる病気の1つです。脊髄小脳変性症の有病率は10万人あたり18人程度と考えられています。脊髄小脳変性症の約70%が孤発性で、孤発性の約65%が多系統萎縮症と考えられています。残りの約35%は皮質性小脳萎縮症と呼ばれています。人種、性別、職業、生活習慣などとの関連性は特にないと考えられています。
小脳失調症(起立歩行時のふらつきなど)を主な症状とするオリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン症状(動作が遅くなる、手足が固くこわばる、転びやすいなど)を主な症状とする線条体黒質変性症、自律神経障害(立ちくらみ、失神、尿失禁など)を主な症状とするシャイ・ドレーガー症候群、これらはかつて異なる病気であると考えられていました。しかし進行に伴い各症状が重複し、最終的には渾然一体となることが認識され、また神経病理学的な検討により、神経細胞に共通の病変が見いだされました。原因は同じですが、神経の障害が異なった場所で起こりうること、また異なった順序で進行しうることがわかりました。その結果、3つの病気を1つにまとめて多系統萎縮症と呼ぶようになりました。

症状

多系統萎縮症の症状には、小脳失調症(起立歩行時のふらつきなど)、パーキンソン症状(動作が遅くなる、手足が固くこわばる、転びやすいなど)、痙縮(手足がつっぱる)といった「運動症状」と「非運動症状」があります。非運動症状は、起立性・食事性低血圧(立ちくらみや失神を起こす)、排尿障害(頻尿, 排尿困難)、消化管機能障害(便秘症)、体温調節障害(発汗障害)、呼吸障害(上気道の閉塞, 無呼吸)、性機能障害(男性の勃起障害など)、睡眠障害(睡眠中の異常行動など)、高次機能障害(認知症)などが挙げられます。運動症状で発症し、その後非運動症状が加わる場合や、非運動症状が先行する場合もあります。症状によっては、起こっていても本人や周囲が気づかないこともあります。多系統萎縮症では、運動症状と非運動症状の各々が緩徐に進行し、患者さんの生活に影響を及ぼします。各々の症状に対する理解が療養生活を続ける上で必要となります。
診断のために、病歴聴取や神経学的診察に加えて、画像検査(頭部CT・MRI、脳血流検査など)、血液検査、遺伝子検査などが行われています。初回の評価で診断が確定するとは限らず、症状や検査の経過を追って診断に至る場合もあります。

治療法・対処法

原因不明の病気であるため、現在根治的治療法はなく、対症療法(薬物療法や生活指導)とリハビリテーションが中心となります。症状が多岐にわたりますが、多くの症状が緩徐に進行します。進行に伴い各治療に限界を来す場合が多く、病状に応じて治療を組み合わせていきます。四肢体幹の運動機能や構音嚥下機能などの維持・改善を目的に、また廃用症候群(活動性低下による筋萎縮や関節拘縮など)を予防するために、リハビリテーションを行います。

患者さんへのワンポイントアドバイス

現在の症状、今後起こりうる症状、可能な医療処置、病気の全体像などについて、医師や看護師などの説明を通じて、理解を深めていくことが非常に大切です。病状をよく理解し、転倒予防などの対策を講じることで、より安全な療養生活を送ることができます。当院の脊髄小脳変性症グループが中心となってパンフレット「脊髄小脳変性症の理解のために」をまとめました。症状、治療、リハビリテーション、福祉に関することなど、脊髄小脳変性症に関する様々な情報をわかりやすくお伝えできるよう努めましたので、ご参照下さい。

脊髄小脳変性症の理解のために(PDF 7MB)

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疾患概要・病態

多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)は、孤発性脊髄小脳変性症に対する総称であり、小脳失調を主徴とするオリーブ橋小脳萎縮症(olivopontocerebellar atrophy:OPCA)、パーキンソニズムを主徴とする線条体黒質変性症(striatonigral degeneration:SND)、自律神経障害を主徴とするShy-Drager症候群(Shy-Drager syndrome:SDS)の臨床症状および病理所見を包括する疾患概念です。OPCA、SND、SDSにおいてオリゴデンドログリア内に嗜銀性封入体(glial cytoplasmic inclusion:GCI)が共通して観察され、MSAが単一の疾患概念として認識されると共にOPCA、SND、SDSはMSAの表現型として考えられています。GCIはα-synuclein染色に陽性であり、Lewy小体病(パーキンソン病、びまん性Lewy小体病)やHallervorden-Statz病と共にSynucleinopathyという新たな疾患概念が生まれています。1998年の米国自律神経学会および神経学会によるMSAの診断に関する合意声明では、小脳失調優位な病型をMSA-C、パーキンソニズム優位な病型をMSA-Pと分類しています。MSAでは、下オリーブ核-橋核-小脳皮質、黒質-被殻背外側部、自律神経系(迷走神経背側核、脊髄中間質外側核、Onuf核)において高度の神経細胞脱落とグリオーシスが認められます。更に錐体路系の変性(大脳運動野、脊髄前角)、前頭葉や側頭葉の高度萎縮、大脳白質の広範な変性を呈した例も報告されています。

症状

運動症状と非運動症状に大別できます。運動症状は小脳失調症、錐体外路症状(パーキンソニズム)、錐体路症状(痙縮)があります。非運動症状は、起立性・食事性低血圧、排尿障害、消化管機能障害(便秘症など)、体温調節障害(発汗障害など)、呼吸障害(上気道閉塞、中枢性無呼吸)、性機能障害(男性の勃起障害など)、睡眠障害(REM睡眠行動異常症など)、高次脳機能障害(認知症)などが挙げられます。運動症状で発症し、その後非運動症状が加わる場合や、非運動症状が先行する場合もあります。

治療・最近の動向

脊髄小脳変性症に対して、孤発性・遺伝性ともに、現在根治的治療法はありません。症状に応じて症状軽減や機能維持を目的とした対症療法とリハビリテーションが中心となります。多くの症状が緩徐進行性であり、進行に伴い各治療に限界を来す場合が多く、病期に応じて治療や生活指導、療養環境整備等を組み合わせながら、患者のADL維持に努めます。四肢体幹の運動機能や構音嚥下機能などの維持・改善、廃用・拘縮予防のため、リハビリテーションを行います。

当院で行っている臨床研究・実績など

当院の脊髄小脳変性症グループでは、多系統萎縮症に見られる呼吸障害、高次機能障害、栄養障害などの種々の臨床症状に関する分析を行っています。他施設との共同研究も行っています。
当院の脊髄小脳変性症グループが中心となりパンフレット「脊髄小脳変性症の理解のために」をまとめました。症状、治療、リハビリテーション、福祉に関することなど、脊髄小脳変性症に関する様々な情報をわかりやすくお伝えできるよう努めましたので、ご参照下さい。

脊髄小脳変性症の理解のために(PDF 7MB)