抗菌薬適正使用小委員会の取組

抗菌薬適正使用に関するリーフレット

薬剤耐性(AMR)対策アクションプランについて(PDF 734.1KB)

抗菌薬適正使用啓発ポスター その1(PDF 223.4KB)その2(PDF 370.9KB)その3(PDF 300.5KB)
(注)印刷してご自由にお使いください。

小児に対する内服抗菌薬適正使用のための手引き(PDF 1MB)
外来ASPの手引き(PDF 2.6MB)

抗菌薬適正使用プログラム(Antimicrobial Stewardship Program, ASP)の取り組み

 薬剤耐性の問題は細菌やウイルスなど様々な微生物でみられます。近年、抗菌薬の効きにくい「耐性菌」が起こす感染症が問題となっています。ウイルス性の風邪などに対して抗菌薬が不適切に使用されると、投与された抗菌薬に感受性のある細菌が体内でいなくなり耐性菌が生き残ります。耐性菌は、ヒトや環境を通じて周囲に拡がっていきます。耐性菌には効果のある抗菌薬が限られているため、感染症を起こした場合には治療が困難なものになります。
 2015年5月の世界保健機関(WHO)総会で、薬剤耐性に関するグローバル・アクション・プランが採択され、加盟各国は2年以内に自国の行動計画を策定するように要請しました。それを受けて、2016年4月には日本で初めての薬剤耐性対策アクションプランが発表されました。2018年度には「小児抗菌薬適正使用支援加算」と「抗菌薬適正使用支援加算」が新設され、抗菌薬適正使用へのさらなる後押しとなっています。耐性菌への取り組みは医療界だけではなく、国を巻き込んだ大きな取り組みです。
 薬物耐性の問題に対し、このまま何も対策を取らなければ、2050年には年間1000万人が薬物耐性感染症のために死亡すると推定されています。将来的には感染症で苦しむ子供たちに有効な抗菌薬を使用できないかもしれません。日ごろから抗菌薬を適切に使って耐性菌を作らないようすることが大切です。
 しかし、実際の臨床現場では「抗菌薬投与が必要な場面」での「適切な抗菌薬の選択」や「適切な投与期間」の決定が困難な場合もあり、適切な治療に悩むことがあります。厚生労働省は適正な感染症診療の指針となるように2017年6月に「抗微生物薬適正使用の手引き 第一版」を作成しました。ウイルス性の感冒や胃腸炎などでは抗菌薬を使用しない指針を示した画期的な内容です。
 耐性菌への対策は国、医療機関、個人と色々なレベルでおこなわれます。医療機関レベルの対策として「ICT(Infection Control Team、感染対策チーム)」と「ASP(Antimicrobial Stewardship Program 抗微生物薬の適正使用推進プログラム)」が重要となります。耐性菌を持つ患者から、持たない患者へ拡げない対策をICTが行い、ASPが適切な抗菌薬使用を推進し耐性菌の発生を防ぐ役割を担っています。当院では、病院全体で2011年9月よりASPを導入し、抗微生物薬の全てを組織的に適正に使用しようとする取り組みを開始しました。ASP小委員会を定期的に開き、医師・薬剤師・看護師・臨床検査技師・事務職員が協力し、抗菌薬の適正使用に向けて様々な介入を行っています。

ASPの活動内容

 抗菌薬を適正に使用するためには、適切な感染症の診断が重要となります。当院では感染症科医によるコンサルテーション体制を整え、感染症が専門ではない医師からの診療相談にいつでも対応できるようにしています。また、院内での感染症の勉強会や各科とのカンファレンス、院外での講演や勉強会などを定期的に開催し、適正使用に向けた啓発活動にも取り組んでいます。
 細菌検査部では検査情報を適切に臨床現場にフィードバックすることで、治療のために必要な検査は可能な限り迅速にかつ正確に行う一方で、臨床的には不要と思われる細菌検査検体の提出を減らす努力を行っています。治療に不適切、または広域すぎる抗菌薬の感受性結果の電子カルテでの表示を一部制限し、治療の際に適切な第一選択の抗菌薬が選択されるように促しています。
 薬剤部では、電子カルテ端末で確認できる抗菌薬投与量の院内ガイドラインを作成し、各科の医師が適切な投与量で治療を行う手助けを行っています。また、バンコマイシンやアミノグリコシド系抗菌薬などの薬剤は、血中濃度を参考にコンピューターで投与設計をして、安全かつ効果的に治療が行える適切な投与量を主治医に推奨しています。抗菌薬のサーベイランスにも力を入れており、周術期を含めた院内の抗菌薬使用状況を把握し、術後抗菌薬の長期投与や広域抗菌薬の投与は主治医、感染症科とともにその必要性を協議し、また処方制限を設けることで不適切に使用されないように努めています。
 地域の医療機関や地域住民に向けた公開講座の開催、抗菌薬適正使用のポスター作成、配布、展示などの広報活動にも力を入れており、様々な職種が協力し抗菌薬適正使用の啓発活動に取り組んでいます。

点滴の広域抗菌薬の適正使用

 2011年9月までは、特定抗菌薬の届出制を採用していました。広域なカルバペネム系薬剤は、使用する際には届出を行っています。届出制では必要な人員は少なく、簡便な方法ですが、処方されてからの介入になるため、使用量を削減する効果は高くありません。一方、処方許可制では処方する前に感染症科医の介入があり、処方内容がチェックされます。当院では2011年10月から採用しており、抗菌薬の処方量の減少を認めています。

広域抗菌薬の使用状況
広域抗菌薬の使用状況の変化

救急外来での内服の広域抗菌薬の適正使用

 内服の広域抗菌薬(第3世代セフェム、キノロン、テトラサイクリンなど)の処方の際に、感染症科医師への連絡が必要な体制を導入し、内服抗菌薬の使用量も減少しました。経口第3世代セファロスポリンは救急外来での使用量が減少し、2017年から院内採用を中止しました。

救急外来受診1,000件あたりの経口第3世代セファロスポリン系抗菌薬処方件数
救急外来受診1,000件あたりの経口第3世代セファロスポリン系抗菌薬処方件数の比較

抗菌薬使用量と耐性菌の関係

 ASPの活動を通して、メロペネム耐性緑膿菌は72.2%減少し、Cochran-Armitageの傾向検定で有意差を認めました。

緑膿菌のメロペネムに対する感受性率
緑膿菌のメロペネムに対する感受性率の変化

地域診療所へのOASCISの導入

 外来診療レベルで抗菌薬処方を確立してモニタリングする方法が本邦には存在せず、今までの課題でした。しかしAMR臨床リファレンスセンターが診療所の抗菌薬処方を見える化するシステム「OASCIS(Online monitoring system for antimicrobial stewardship at clinics:診療所における抗菌薬適正使用支援システム)」を開発し2022年から運用を開始しています。このシステムを府中地域でいち早く導入を行い、ASP地域連携の輪を全国に広げるべく活動を行っています。
 現在医師会やクリニックに直接働きかけてOASCISの診療所への導入の支援を行っています。OASCISは匿名化したレセプトファイルをWebページにアップロードする、慣れてしまえば非常に簡便に行えるシステムです。各施設の抗菌薬処方をモニタリングすることで地域のASP活動における問題点を抽出できると考え普及に努めております。
https://oascis.ncgm.go.jp/(外部リンク)

ASPの今後の取り組み

 当院でのASPの長年の取り組みが認められ、平成29年度の東京都職員表彰の業務改革部門で表彰されました。17万人いる東京都職員の中で選ばれたことは大変うれしく今後の励みにもなります。
 抗菌薬を適切に使うことで耐性菌を増やさずに、感染症治療がおこなえるよう努めていきます。さらには、地域全体で耐性菌による感染症を減らしていきたいと考えており、近隣のクリニックの先生方や保護者の皆様にもご理解を頂き、地域全体の抗菌薬の適正使用をおこなってきたいと考えておりますので、ご協力のほどよろしくお願いします。

平成29年度 東京都職員表彰 表彰式
平成29年度 東京都職員表彰 表彰式 平成30年2月8日