患者向け広報誌「OKUBO」
第7号 内分泌代謝内科

大久保病院
内分泌代謝内科 福田達也 医長
過度の肥満は、治療対象となる「病気」である
メタボという言葉が広く知られるようになり、ウエストのサイズや体重を気にする方が増えています。メタボリックシンドロームとは、内臓に脂肪がたまり腹囲が大きくなる「内臓脂肪型肥満(内臓肥満)」に加え、高血圧・高血糖・脂質代謝異常などが組み合わさって心臓病や脳卒中などの発症リスクが高まる状態を指します。健康診断では脂肪量を推定する目的で腹囲を計測し、男性は85cm、女性は90cm以上の場合に「メタボリックシンドロームの疑い」と判定されます。
一方、肥満はBMI※の数値で評価されます。日本人の場合、BMIが25を超えると肥満とされ、生活習慣病などの疾患リスクが高まることが知られています。35以上は高度肥満と分類され、肥満状態に加えて糖尿病、冠動脈疾患、脂質異常症、高尿酸血症・痛風、月経異常・女性不妊、関節症などの運動器疾患といった健康障害(合併症)を伴う場合を「肥満症」と呼びます。肥満症と診断された場合には、医師の管理のもとで減量を含む治療を検討することが推奨されます。
※BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)。身長170cm体重75kgの場合、BMIは75÷1.7÷1.7≒26となる。
肥満症外来を開設。体重減に専門的に取り組む
たとえば膝関節を痛めている肥満症の患者さんに手術を行っても、肥満そのものが改善されなければ、体重負荷による再発などが懸念されます。高血圧・高血糖・脂質異常なども同様で、薬を服用するだけでなく、体重管理を徹底することも治療の重要な要素となります。
これまで、こうした病気に対しては運動指導や食事療法が行われてきましたが、生活習慣改善に加え、医師の判断のもとで薬物療法などの選択肢が検討されます。「食べ過ぎ」「運動不足」といった個人の努力不足が原因とされがちです。しかし現代の肥満には、多くのケースで社会的要因が大きく関与しているとされます。長時間のデスクワーク、慢性的なストレス、24時間利用可能な店舗や配達といった食品環境、あるいは家庭環境や遺伝的要因など、個人の意思だけでは修正が難しい要因が多々あります。2023年、体重減少にかんして豊富なエビデンス(根拠)※を持つGLP-1受容体作動薬が、日本でも肥満症治療に対して一定の条件下で保険適用となりました。当院でも2024年度に肥満症外来を開設し、一定の条件下でこの薬を活用した内分泌専門医による治療を開始しました。
※
1. Aronne LJ, Horn DB, le Roux CW, Ho W, Falcon BL, Gomez Valderas E, Das S, Lee CJ, Glass LC, Senyucel C, Dunn JP; SURMOUNT-5 Trial Investigators. Tirzepatide as Compared with Semaglutide for the Treatment of Obesity. N Engl J Med. 2025 Jul 3;393(1):26-36. doi: 10.1056/NEJMoa2416394. Epub 2025 May 11. PMID: 40353578.
2. Jastreboff AM, Aronne LJ, Ahmad NN, Wharton S, Connery L, Alves B, Kiyosue A, Zhang S, Liu B, Bunck MC, Stefanski A; SURMOUNT-1 Investigators. Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity. N Engl J Med. 2022 Jul 21;387(3):205-216. doi: 10.1056/NEJMoa2206038. Epub 2022 Jun 4. PMID: 35658024.
肥満症治療における新たな薬物療法
肥満症外来の開設以来、一定期間の治療継続により、改善が認められた症例も見られます。生活習慣改善だけでは十分な結果が得られない場合もありますが、その場合は医師の管理のもとで、治療の選択肢が検討されるようになりました。
ただし、体重の変化には個人差が大きく、治療効果や経過については引き続き慎重な評価が必要です。今後は学会発表や医療機関同士の情報共有を通じて、医学的知見の蓄積を積極的に進めたいと考えています。
本薬剤は自由診療で痩身目的に使用される例も見受けられますが、本来は肥満症という疾患に対して医師が適応を判断し、厳密な管理のもとで使用されるべき治療薬です。副作用は比較的頻度が低いとされていますが、低血糖や消化器症状、体重減少に伴う筋力低下などが報告されており、適切な経過観察が欠かせません。
当院では1~2か月に1回の通院・検査を行い、関連する診療科や管理栄養士とも連携しながら、体重減少だけでなく全身の健康状態の改善を目指した治療を行っています。
働き盛りこそ「肥満」に目を向けることが大切
肥満症は40~50歳代の働き盛り世代に多く見られます。忙しい日常の中で健康管理が後回しになりがちですが、体重増加を放置すると、将来的に生活習慣病を発症するリスクが高まることがあります。
肥満症の難しい点は、短期間で症状が現れるのではなく、長年にわたり健康に影響を及ぼす点にあります。海外の大規模疫学研究では、高度肥満の方は糖尿病などの合併症がなくても、平均寿命が短くなる傾向が示されています。また、心血管疾患、呼吸器疾患、がんなどの発症リスクが上昇することも報告されています。「いつか痩せればいい」と考えているうちに、10年20年後に思いがけない病気を発症することがあるのが、肥満症なのです。
糖尿病や高血圧、脂質異常症などの合併症は、治療に長期間を要し、生活の質(QOL)を低下させることがあります。就業が困難になったり、高額な医療費がかかったりと、社会的な損失という観点からも看過できないものです。結果には個人差がありますが、当院でも、肥満症の改善により血糖値や脂肪肝、あるいは不妊症などが改善した症例を経験しています。「たかが肥満」と考えず、早めに医療機関へ相談することが重要です。
日本内分泌学会内分泌代謝科専門医による診療体制
内分泌代謝内科では、糖尿病を中心に、甲状腺や副腎などホルモン異常に関連する疾患の診療を行っています。日本内分泌学会内分泌代謝科専門医は全国的にも数が限られており、その大部分が大学病院や基幹病院に所属していると推察されます。当院には内分泌の専門医3名(2026年1月現在)による診療体制となっております。
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(2016年)によると、日本国内の糖尿病およびその予備軍は約2,000万人に達するとされています。糖尿病は多くの合併症を持ち、実は日本人が亡くなる死因のほとんどに関連する「影の死因」のような存在でもあります。がん、心疾患、老衰、脳血管疾患の遠因となるだけでなく、情動障害やうつ病などの精神疾患も発症しやすいため、事故死や自殺にもつながっています。肥満と糖尿病は密接に関連しており、肥満症の適切な管理は、将来的な合併症リスクの低減につながる可能性があります。
「肥満症外来」の存在を、ぜひ多くの方に知っていただきたいと思います。そして過度の肥満は治療対象となる病気であると認識いただき、早期に医療機関へ相談するきっかけとなれば幸いです。
★詳しくは、内分泌代謝内科のウェブページをご覧ください。

