二分脊椎の排便管理について(小児外科領域)

二分脊椎と排便障害

二分脊椎は先天的に脊椎骨が形成不全となって起こる神経管閉鎖障害のひとつです。脊髄が脊椎の外に出て癒着や損傷を来すことにより、下肢の麻痺や変形、直腸膀胱障害などが症状として見られます。
二分脊椎に伴う排便障害は脊髄性神経に問題があります。図1のように仙骨から出る神経には肛門周囲の感覚・運動を司る神経が集中しており、神経障害によって尿意・便意の感覚が鈍くなったり、肛門括約筋を締めたり緩めたりが難しくなり、便秘や便失禁などの症状が出現します。
便秘や便失禁などの症状が増悪し、排泄の自立が困難になると、精神面の発達や社会生活に悪影響を及ぼします。しかし、排便治療の介入により排泄が自立し社会生活上の不安を解消させることで、精神的にも自立できる事例も経験します。成長・発達を考慮した排便管理が大切であり、二部脊椎に伴う排便障害に対しての排便管理は、Quality of Lifeを考えたうえで積極的に取り組んでいく必要があります。

図1:二分脊椎に伴う排便障害は脊髄性神経に問題がある
図1:二分脊椎に伴う排便障害は脊髄性神経に問題がある

排便管理の方法

二分脊椎での排便管理の目的は浣腸で便を完全排泄させ、失禁を減らすことです。
適切な排便管理のためには規則正しい生活や食事に気をつけて、日頃から排便日誌を付けるなど自分自身の体について知ることも必要となってきます。
しかし、二分脊椎の患者さんの中には排便管理に対する意識不足の方や満足できる排便を得ることができず意欲不足に陥ってしまう方、下半身麻痺などのために自立が難しい方もいらっしゃいます。そのような患者さんには現在の自分にあった排便管理法を理解し選択していただくことが、正しい排便管理につながります。

以下で、具体的な排便管理方法についてご説明します。

摘便

患者さん・ご家族が肛門から指を挿入して、腸管内に溜まった便を用手的に取り除く方法です。指の届く範囲であれば便の摘出が可能ですが、範囲は限られており、無理に摘便をすると出血、裂肛、脱肛の原因となるので注意して行います。

摘便イラスト

グリセリン浣腸

毎日、定時で浣腸を行い、まとまって排便することで失禁を防止します。患者さんの時間に合わせて施行できる点も優れています。しかし、二分脊椎の患者さんでは神経障害により肛門括約筋の収縮障害を有し、浣腸液が漏れやすい患者さんもいらっしゃいます。そのような患者さんには肛門ストッパーを用いて浣腸液が漏れないようにするなどの工夫が必要となってきます。

グリセリン浣腸イラスト

下剤

下剤にも種類があり、便そのものを柔らかくして排泄しやすくするお薬もあれば、腸管の運動を調整して排便を促すお薬もあります。お薬の量の調整やこのお薬は体に合う・合わないなど個人差があるため、患者さん・ご家族がいろいろと試してコツをつかむことが重要です。

下剤を飲むイラスト

Anal Plug

Anal plug は肛門管に挿入することで、便失禁を防止する目的で用います。素材は多孔性ポリウレタンで、直腸の体温と水分によって溶ける水溶性フィルムで覆われています。肛門内に挿入するとフィルムが溶け、plug が膨らみ肛門にフィットするような構造になっています。また、plug には疎水性のガーゼが紐状に付着しており、紐を牽引することにより肛門から容易に抜去することが可能です。 挿入後の違和感や、運動時、坐位から立位に体位変換した時などに自然滑脱することもあるので、注意が必要です。

逆行性洗腸療法

患者さんの成長に伴い、食事量・運動量が増加していくと浣腸のみでは失禁しやすくなります。そのため、より強力な強制は家便法である洗腸法を導入することがあります。人肌程度に温めた水道水を500-1000ml程度、肛門から注入します。肛門から注入した水は盲腸付近まで到達し、結腸全体の便を泥状にして一気に排泄します。施行頻度は2日に1回が多く、1回の洗腸に30分程度要します。洗腸により多くの患者さんでは便失禁が解消されますが、一人で自立して行える患者さんは少なく、下半身麻痺などの身体的理由のため一人でできない患者さんもいらっしゃいます。

順行性禁制洗腸法(MACE法:Malone antegrade continence enema)

虫垂先端を臍部に縫合して、瘻孔を作りカテーテルを挿入して洗腸を行います。瘻孔の位置も臍部なので外観的にもあまり目立ちません。臍部での瘻孔形成が難しい場合には右側腹部に瘻孔瘻孔形成を行うことがあります。また、虫垂が利用できない場合には盲腸を用いて瘻孔形成を行います。
MACE法の利点として、下半身麻痺があっても一人で洗腸を行うことができ、排便が自立することです。また、洗腸方向も順行性(口側から肛門側に向かう自然な流れ)で効率よく洗腸を行えます。欠点としては手術が必要なこと、臍部の狭窄や便漏れが起きることがあることです。
手術は腹腔鏡併用による手術が可能ですが、膀胱拡大術と同時に行うような場合は開腹手術となります。

順行性禁制浣腸法イラスト
PEDIATRIC SURGERY SEVENTH EDITION p,1309より引用

臍stoma外観

まとめ

二分脊椎の排便管理は患者さんの状態によって様々であり、効果的な排便管理を目指すために患者さん・ご家族・医療者が協力して治療を行うことが重要となってきます。何か気になる点や不明点がありましたらお気軽にお声掛けください。