大腸がん治療について

目次

1. 大腸とは

大腸は1.5~2mほどの長さの臓器で、結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸)と直腸(直腸S状部、上部直腸、下部直腸)に分かれます。小腸に続いて右下腹部から始まり時計回りにおなかの中を回って肛門につながります。大腸の壁は内側から順に、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の5つの層で構成されています。大腸の主な役割は、回腸から流入した液状の便から、水分、脂肪酸の一部、ナトリウムなどを吸収し、固形の便にして肛門に運ぶことです。

患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2022版 改変より引用


2. 大腸がんについて

目次
 1.大腸がんが発生するしくみ
 2.大腸がんの患者数
 3.大腸がんの広がり方
 4.がんの広がり具合(進行度)
 5.大腸がんによる症状

2-1. 大腸がんが発生するしくみ

大腸癌が発生するしくみには2つの経路があると考えられています。一つは腺腫という良性のポリープが悪性化して発生する経路と、もう一つは正常粘膜から直接癌が発生する経路で、多くは前者の経路と考えられています。大腸癌発生経路には、多くの遺伝子の異常(変異)が関与しており、発癌を促進する癌遺伝子や、発癌を抑制している癌抑制遺伝子の異常により癌は発生します。

2-2. 大腸がんの患者数

2023年に新たに大腸癌と診断された患者さんの数(罹患数)は154,039人と非常に多く、1975年の罹患数が18,172人と比較しますと約半世紀で8.5倍に増加しています。癌の種類別にみた順位をみますと、女性では乳癌に次いで第2位(68,830人)、男性では前立腺癌に次いで第2位(85,208人)、総数では肺癌、胃癌をおさえ、第1位(154,039人)となっています。年齢別の罹患率では40歳を超えたあたりから上昇し、中高年に多く認められています。

国立がん研究センターがん対策情報センターより引用

国立がん研究センターがん対策情報センターより引用

国立がん研究センターがん対策情報センターより引用

大腸癌の死亡数は年々増加しており、過去との比較では、1974年には男性5,686人、女性5,500人でしたが、2024年には男性28,826人、女性25,590人と、半世紀で約5倍になっています。この理由としては、食生活の欧米化や運動量の減少などが関係していると考えられています。癌の種類別にみてみますと、女性では第1位、男性では肺癌に次いで第2位、男女を合わせると第2位となっています。

国立がん研究センターがん対策情報センターより引用
国立がん研究センターがん対策情報センターより引用
国立がん研究センターがん対策情報センターより引用

2-3.大腸がんの広がり方

大腸癌の広がり方には浸潤と転移があります。大腸の一番内側の粘膜にできた癌は大腸の壁を破壊しながらだんだん大きくなり、最後に壁を突き破って周囲の臓器に広がっていきます。このような癌の広がり方を浸潤といい、浸潤の程度を深達度といいます。

最初に癌が発生したところ(原発巣)から離れた場所に飛び火することを転移といい、転移した場所で増殖した組織を転移巣といいます。転移にはリンパ行性転移、血行性転移、腹膜播種があります。

患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版改変より引用

  • リンパ行性転移
    リンパ管に侵入した癌細胞が途中のリンパ節に流れ着いて増殖することをリンパ行性転移といいます。リンパ節転移の仕方は、一定の規則性があり、近くから遠くのリンパ節に広がっていきます。
    患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年より引用

  • 血行性転移

    癌細胞が腸の細い静脈に侵入し、大腸から離れた臓器に流れついて、そこで増殖することを血行性転移といいます。大腸からの血流は、まず肝臓に集まることから、大腸癌で最も血行性転移の頻度が高いのが肝臓です。次に頻度が高いのは肺転移です。癌が進行すると、骨や脳などの全身の臓器に血行性転移を起こすこともあります。

  • 腹膜播種
    大腸壁を突き破って外側に顔を出した癌から、癌細胞がお腹の中(腹腔内)に種をまくように散らばって生じる転移を腹膜播種といいます。進行すると、腹膜播種がお腹の中全体に広がり、腹水、発熱、嘔吐などの症状がみられる癌性腹膜炎となります。

2-4.がんの広がり具合(進行度)

癌の広がり具合(進行度)をステージ(病期)で表します。ステージは、癌が大腸の壁に入り込んだ深さ(深達度、T)、どのリンパ節までいくつの転移があるか(リンパ節転移の程度、N)、肝臓や肺など大腸以外の臓器や腹膜への転移(遠隔転移)の有無(M)によって決まります。

患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版 改変より引用

もっと知ってほしい大腸がんのこと 2022年版 改変より引用

2-5.大腸がんによる症状

患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版 改変より引用

早期の段階では自覚症状はほとんどありません。進行すると、便に血が混じる(血便や下血)、便の表面に血液が付着するなどの症状があらわれます。また、慢性的に出血することによる貧血や腸が狭くなることによる便秘や下痢、便が細くなる、便が残る感じがする、おなかが張るなどの症状があらわれることもあります。さらに、進行すると腸閉塞となり、便が出なくなって、腹痛や嘔吐などの症状が起こります。しかし、これらの症状は癌の部位によって差があります。右側の大腸癌は大きくなるまで症状がでにくく、しこりや貧血で見つかることが多いです。一方、左側の大腸癌は血便、便秘・下痢、便が細くなるなどの症状をきっかけに診断されることが多いのが特徴です。

3.検査

検診で便潜血検査(便の中に混ざっているわずかな血液を検出する検査)が陽性の場合や、大腸癌を疑う症状がある場合には、大腸内視鏡検査を行います。癌を疑う病変が見つかった場合には、内視鏡の先端から出した鉗子で病変の一部を採取し(生検)、顕微鏡で組織を調べます(病理検査)。大腸癌の診断が確定した後は、CTなどの画像検査や腫瘍マーカー検査(血液検査)を行い、大腸癌の広がりを調べ、進み具合(ステージ)を決定します。

患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版より引用
患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版より引用
患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版より引用

4.大腸がんの治療

目次

1.大腸がん治療について
2.内視鏡治療
3.手術治療
4.腹腔鏡下手術
5.ロボット支援下手術

4-1.大腸がん治療について

大腸癌の治療には内視鏡治療、手術治療、薬物療法(抗がん剤による治療)、放射線治療などの方法があり、進行度に応じて治療方法が選択されます。癌を完全に治すための治療の原則は、癌を残すことなく完全に切除することです。この際に中心となる治療は内視鏡治療と手術治療です。癌が粘膜にとどまっている場合や、粘膜下層に浸潤していても、浸潤の程度がわずかで、転移の可能性が低いと判断される場合には、内視鏡的に癌だけを完全に切除することができます。癌が大腸の壁により深く浸潤した場合は手術治療が原則です。このような癌では、癌の周囲に存在するリンパ節に転移を起こすことがあるため、腸管とともに、想定される進行度に応じた範囲のリンパ節を郭清します。癌を残すことなく切除する手術を根治手術といいます。  

癌の浸潤程度や、リンパ節に癌細胞があるかどうかの病理検査が行われ、最終的な進行度が決定されます(病理分類ステージ)。病理分類ステージに応じて、補助化学療法の適応が検討されます。手術時にすでに大腸以外の臓器に転移が存在する場合は、大腸にある癌を取り除くだけでは、他の臓器に転移した癌がまだ残っている状態なので、手術以外の治療(薬物療法、放射線療法など)が適応となります。

もっと知ってほしい大腸がんのこと 2022年版より引用

4-2.内視鏡治療

リンパ節転移の可能性がほとんどない粘膜内にとどまっているものと粘膜下層の浅い部分までにとどまっているものが内視鏡治療の適応で、大きさは問いません。切除の方法にはポリペクトミー、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります。切除した検体の病理検査により、リンパ節転移の危険性が高いと判断された場合には、その後に手術治療(リンパ節郭清をともなう腸切除)を行います。

患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版より引用

4-3.手術治療

手術治療では、とり残しのないように、癌が広がっている可能性のある腸管とリンパ節を切除します。リンパ節を切除する範囲(リンパ節郭清)は、癌の部位と手術前に予測した癌の進行度を考慮して決定します。癌の浸潤が周囲臓器にまでおよんでいる場合は可能であればその臓器も一緒に切除します。腸管を切除した後、残った腸管をつなぎあわせます(つなぎあわせることを吻合といいます)。

患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2022版より引用




結腸癌の手術

癌から口側、肛門側にそれぞれ約10cm離して大腸を切除し、転移している可能性のあるリンパ節を腸間膜ごと切除し(リンパ節郭清)、残った腸管を吻合します。

もっと知ってほしい大腸がんのこと 2022年版 改変より引用

直腸癌の手術

直腸癌の手術には、癌の位置により肛門を残す手術(高位・低位前方切除術、括約筋間直腸切除術)と残さない手術(直腸切断術)があります。

  • 高位・低位前方切除術
    お腹からアプローチして直腸を切除します。肛門側の直腸は癌から2~3cm離れた部位で切ります。通常、残った結腸と直腸の吻合は、器械(自動吻合器)を使って行われます。腹膜反転部より上で腸吻合するのが高位前方切除術で、下で吻合するのが低位前方切除術です。
    患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版より引用
  • 括約筋間直腸切除術(ISR)
    肛門の筋肉の一部を切除して根治性を保ちつつ、肛門を温存する手術です。直腸癌とともに内肛門括約筋を切除して肛門を温存します。この手術の問題点は、再発が増えないか、排便障害により日常生活が脅かされないか、という点です。大腸癌研究会では、現時点で大きな問題はないことがわかってきましたが、失禁の増加など排便の様子は手術前と大きく変わります。
    患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版より引用
  • 直腸切断術
    癌が肛門近くにある場合、肛門を含めて癌を切除する必要があり、その場合は人工肛門になります。
    患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版より引用​

4-4.腹腔鏡下手術

腹腔鏡下手術はお腹を大きく切らずに穴をあけて炭酸ガスでお腹をふくらませ(気腹操作)、腹腔鏡というカメラを挿入し、テレビ画面で内部を見ます。手術操作は数カ所の小さな創から器具(鉗子)を入れて行います。手術の創が小さいため外見上目立たないこと、痛みが少ないこと、腸の運動低下が少ないため手術後の回復が早く入院期間や休職期間が短いことが長所です。

患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版より引用

4-5.ロボット支援下手術

大腸癌に対するロボット支援下手術は、2018年4月に直腸癌に対する術式として、2022年4月から結腸癌に対する術式として保険適用となりました。ロボット支援下手術とは、腹腔鏡下直腸切除術をロボット支援下に行うものです。術者は操作部に座り、患者さんの体の近くにおいたロボット本体を遠隔で操作します。腹腔鏡下手術と異なる点として、より高性能な3Dカメラを使用していること、鉗子に関節があり自由に曲がること、カメラも鉗子も手振れがしないことなどから、より繊細で精密な手術を行うことができます。結果として、癌をしっかり取り切ること(癌の根治性)とともに直腸の周囲に存在する神経を確実に温存することで、排尿・性機能障害を回避することが期待されています。

患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版より引用

豊島病院では2021年に大腸癌に対しロボット支援下手術を導入し、その件数は年々増えてきております。2025年度では、大腸癌に対する手術の約8割をロボット支援下に行っております。