腎移植について

大久保病院 腎センター(腎内科、泌尿器科・移植外科)

当院の腎移植は東京女子医科大学泌尿器科と連携して実施しています。また、腎移植の長期生着に強く影響する内科的合併症の管理は移植内科(腎内科)と協力して行い、質の高い移植医療を提供しています。

皆さんは腎移植という医療について、なんとなくは知ってはいるけど、実際はわからないことが多いのではないでしょうか。
「腎移植は誰でも受けられるのか?」、「移植した腎臓はどのくらい持つのか?」、「手術はたいへんなのか?」、「医療費は高額なのか?」など。このホームページでは、皆さんの腎移植に関するこれらの疑問を解消し、末期腎不全の治療として腎移植を検討する手助けになればと思います。
腎移植は難易度の高い特殊な医療であり、誰もが簡単に受けることはできない特別な治療というイメージが強いかもしれません。確かに以前は限られた病院でしか行われていませんでしたが、今では日本中の病院で行われている健康保険も適応される医療です。また、医学の進歩により治療成績も昔と比べると格段に向上しています。もちろん、患者さんによっては種々の合併症や拒絶反応が起こってしまい治療に難渋する場合もありますが、全体的には多くの患者さんが元気になって退院されています。そして、腎移植後は拒絶反応を抑えるための免疫抑制剤という薬を内服する必要がありますが、ほぼ健常人と同じような日常生活を送ることができます。

当院の腎移植の特徴は、移植手術や移植手術後の術後管理は移植外科(泌尿器科医)が中心になって行いますが、移植手術直前の透析療法や、移植後の免疫抑制療法や内科的合併症の管理は移植内科医(腎内科医)と協力しながら行っている点です。
現在、日本の多くの施設においては、腎移植の手術および移植後の管理は泌尿器科あるいは外科といった、手術を行った科が単独で行うケースが一般的です。しかし、腎移植後の管理において、高血圧、心疾患、糖尿病などの内科的な合併症の管理が、移植した腎臓の長期治療成績の向上(移植した腎臓の長持ち)に強く影響してきます。
そこで、当院は欧米のように移植後の管理に移植内科医(腎臓内医)が積極的に参加することで、質の高い移植医療の提供が可能となっています。

1.末期腎不全

腎臓は体の背中側に左右に1個ずつ、合計2個あります。腎臓の主な働きは、①老廃物を体外に捨てる、②体内の水分や電解質(ナトリウムやカリウムなど)の調整、③血圧の調整、④赤血球産生に関係するホルモンの産生、⑤ビタミンDの活性化、などがあります。
腎臓の働きが低下した状態を腎不全といいます。腎不全の原因として現在、最も多いのが糖尿病性腎症です。次いで慢性糸球体腎炎、高血圧による腎硬化症となっています。その他、先天性疾患が原因の場合もありますし、原因不明の場合も10%程度あります。

この腎不全が徐々に進行して末期状態になった場合を末期腎不全といいます。末期腎不全になると、さまざまな症状が出現します。最初は倦怠感、嘔気・嘔吐、食欲低下などが生じ、その後、全身浮腫、意識障害、呼吸困難などが出現し、放置すれば生命に危険な状態となります。そのため、末期腎不全になると生命を維持することができなくなるため、腎臓の代わりをする治療を受けなくてはなりません(腎代替療法)。
現在、腎代替療法としては、①腎移植、②血液透析、③腹膜透析の3つの治療法があります。

2.腎移植とは

腎移植は、末期腎不全の患者さんに、元気な腎臓を手術で移植する治療方法です。自らの意思で申し出てくれるドナー(親族に限る)から腎臓の提供を受ける『生体腎移植』と、亡くなった方から腎臓の提供を受ける『献腎移植』があります。
当院では2009年から、東京女子医科大学泌尿器科と協力して『生体腎移植』を実施しています。生体腎移は、腎移植を受けるレシピエント、腎臓を提供するドナーともに、手術の前に十分に検査を行い、安全に生体腎移植を行うことが可能と判断された後に手術となります。

現在、日本の腎移植件数は、
2017年度は1,742件(生体腎移植:1,544件、献腎移植:198件)、
2018年度は1,865件(生体腎移植:1,683件、献腎移植:182件)、
2019年度は2,037件(生体腎移植:1,807件、献腎移植:230件)、
と年々増加していますが、まだまだ少なく、多くの患者さんが血液透析を受けています。
現在、日本の透析患者さんは全国で約33万人います。そのうちの約12,000人の透析患者さんが献腎移植を希望され登録していますが、献腎の提供者が少ないため、1年間に行われる献腎移植は約200件と少なく、腎移植を受けたい患者さんの多く(ドナー候補がいる場合)は生体腎移植を選択されるのが日本の特徴です。
腎移植の推移

腎移植の推移
日本移植学会:2019臓器移植ファクトブック

3.腎移植の実際

では、実際の腎移植とはどのようなものなのでしょうか?ドナーの腎臓は、レシピエントの下腹部(骨盤内)に移植されます。ドナーの腎臓の血管(腎動脈および腎静脈)をレシピエントの骨盤内の血管(内腸骨動脈および外腸骨静脈)と吻合します(下図1、2参照)。

手術で移植された腎臓は、たとえ血の繋がった親族から提供されたものであっても、自分とは異なる他者の腎臓なので、体内に侵入した異物(細菌やウィルスなど)を排除する「免疫システム」が、移植された腎臓を排除しようと反応します。これが拒絶反応です。拒絶反応が生じてしまうと、せっかく移植した腎臓が機能しなくなってしまいます。そのため、「免疫システム」の機能を抑制して拒絶反応が起こらないようにするために免疫抑制剤を内服します。従って移植腎が働いている限りは、免疫抑制剤を内服し続ける必要があります。拒絶反応は移植手術後早期(術直後~半年くらい)に起こる急性拒絶反応と、それ以降に起こる慢性拒絶反応があります。現在は移植前の免疫検査(拒絶反応を起こすリスクの評価)の進歩と優れた免疫抑制剤により、移植後早期の急性拒絶反応の発症は少なく、また発症しても早期に診断治療ができれば、ほとんどの急性拒絶反応は乗り越えることができます。しかし、移植後何年も経過して生じる慢性拒絶反応は、現在でも有効な治療法がなく、何年もかけて徐々に移植腎機能が悪化していきます。移植した腎臓が永久に機能しない最大の原因になっています。

では、移植した腎臓はどのくらいの期間、有効に機能するのでしょうか?移植後の腎臓がどのくらいの期間、機能しているかを示すデータを生着率と言います。これは腎移植後何年か経過した時点で、まだ移植腎が機能している患者さんの割合を表したものです。たとえば、同じ年に腎移植を受けた100人のうち、10年後に80人の移植腎が問題なく機能していれば(20人は移植腎機能が喪失)、生着率は80/100で80%となります。
生着率は、新しい免疫抑制剤の登場により、2000年以降、劇的に改善しています。2000年代以降の生着率は、生体腎移植で5年94%、10年86%、15年76%、献腎移植で5年83%、10年71%、15年48%となっており、多くの患者さんが10年以上、移植腎が有効に機能する時代になりました。
移植腎の長期生着を妨げるのは、先に述べた慢性拒絶反応や、原疾患(腎炎)の再発以外に、肥満、高血圧、糖尿病などのメタボリック症候群が重要と考えられており、移植後もバランスのとれた食生活と適度の運動が重要となります。

腎移植

4.腎移植のメリット、デメリット

腎移植を行うことで得られるメリットは、まずは透析(血液または腹膜)が不要になることで、病院への頻回の通院が必要なくなり、時間を自由に使えるようになることです。
また水分、食事の制限が緩やかになります。ただし、肥満、高脂血症、高尿酸血症、高血圧、糖尿病などに注意が必要です。女性であれば妊娠、出産の可能性が高まります。
そして、何より最大のメリットは、長期間透析を継続することで生じる合併症の進行を抑えることです(すでに生じてしまった合併症が元に戻るわけではありません)。その結果、腎移植を受けることで長生きできる可能性が高くなります。
一般的に透析導入後の10年生存率(10年後に生きている人の割合)は36%、15年生存率は24%とかなり低い数値です。これは、最近の透析患者さんは高齢者が多いことも影響していますが、透析を長期間続けることで合併症(主に動脈硬化や心機能低下)が進行し、全身状態が悪化していくことに起因しています。一方で腎移植を受けた患者さんの生存率ですが、透析患者さんとは年齢分布が異なるため(平均年齢が低い)、単純に比較することはできませんが、生体腎移植で10年生存率92%、15年生存率88%と、透析患者さんよりも良好な生存率が報告されています。

では、腎移植のデメリットとはなんでしょうか?まず手術を受けなければいけないこと、頻度は少ないですが手術による合併症が生じる可能性があること、さらに拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤をずっと内服する必要があり、そのための免疫力低下による感染症に注意しなければならないことなどがあります。生活が自由になる代わりにしっかりとした自己管理ができないと、移植した腎臓の機能にも影響します。また、現在の医学では移植した腎臓を永久に機能させることはできません。いずれは機能が廃絶し透析に戻る可能性はあります(それでも、多くの患者さんにおいて10年以上、移植腎が有効に機能する時代になりました)。

《腎不全治療の比較》

『腎不全 治療選択とその実際』監修:日本腎臓学会、日本透析医学会、日本移植学会、日本臨床腎移植学会を一部改編

腎移植のメリット、デメリットのまとめ

《腎移植のメリット》
①透析合併症の進行を遅らせる→生命予後の延長(動脈硬化、心・血管疾患のリスク軽減)
②透析療法からの解放(時間的、空間的、精神的な自由)
③社会復帰しやすくなる
③食事・生活制限の緩和
④女性では妊娠・出産の可能性

《腎移植のデメリット》
①腎移植の手術が必要、生体腎移植の場合はドナーも手術が必要
②免疫抑制剤の副作用
③感染症のリスク
④自己管理の徹底(薬の内服、食生活など)
⑤精神的不安定(透析に戻ることへの漠然とした不安感)
⑥移植腎が永久に機能することを保証できない

腎移植がうまくいくと、多くの人においてデメリットよりもメリットが上回り、健常者の方とほぼ同じ程度の生活が送れます。しかし、何も気にせず生活出来るわけではありません。いくつかの注意すべきことがあります。その多くは一般的な健康管理上必要なこと(健康に留意した生活習慣、食事など)で特別なことはあまりありません。

感染症に関しては、以前から腎移植後の手洗い、マスク、積極的なワクチン接種(インフルエンザのシーズン)、食事などの指導を行っております。移植後早期の免疫抑制剤の投与量の多い時期は感染症発症のリスクが高く、より注意が必要ですが、それ以降は、健常者の方とほぼ同じ程度の生活様式で行動していただいています。ただし、発熱などの症状があれば、早めに受診していただくように指導しています。そして、最近は新型コロナウイルスの蔓延が問題となっており、臓器移植を受けた患者さんはハイリスクグループに属しますので、ここしばらくは新型コロナウイルス感染症に対する対策(手洗い、マスク、三密回避など)をしっかりと行うように指導しています。
高血圧や糖尿病などの合併症の治療を行い、移植した腎臓に優しい生活環境を心がけて、できるだけ長い期間、移植腎の機能を維持出来れば、人生の大半を透析なしで元気に過ごすことができます。

5.免疫抑制剤

免疫抑制剤は、免疫細胞の働きを弱めることにより、移植した腎臓が拒絶されないようにするための大切な薬剤です。しかし、免疫細胞の働きを弱めることで、細菌やウイルスなどの病原体に対する抵抗力も落ちてしまい、移植後の生活においては感染症に対する注意が必要となります。

免疫抑制剤は拒絶反応を抑えようとしてたくさん飲み過ぎてしまうと、免疫細胞の機能が過剰に抑制されてしまい、細菌やウイルスに対する抵抗力が弱くなり感染症に罹るリスクがより高まります。また、その他の副作用も出やすくなります。逆に内服量が少なすぎると、免疫細胞の働きにより拒絶反応が起こってしまいます。したがって、内服量は移植専門医が経験に基づき拒絶反応にも副作用にも配慮した最も適切な量で薬を処方します。自己判断せず用法用量、服薬時間を守って内服することがとても重要となります。

免疫抑制剤内服による感染症のリスクは、移植後1年も経過すると拒絶反応が起こる可能性がかなり減少するため免疫抑制剤の内服量を減らすことが可能となります。そうなると感染症のリスクも低下します。
また、それぞれの免疫抑制剤には様々な副作用がありますが、その副作用のほとんどは内服量の調節により予防可能であり、日常生活においてそれほど問題になるものではありません。
ただし、移植腎が機能している間は、5年、10年たっても免疫抑制剤を飲み続けないといけないので定期的な通院が必要になります。

6.レシピエントの術前検査、入院から退院について。

末期腎不全の患者さんは全員が腎移植の候補者と考えることができますが、悪性腫瘍、活動性の感染症などがある場合、また重度の心疾患がある場合は、移植手術を受けられないことがあります。そのため、手術前の検査では、心臓の機能評価やCT検査、胃カメラ、大腸カメラ、女性であれば乳癌検診、子宮癌検診を行い、十分な全身評価を行います。その結果、大きな問題がないと判断されれば、移植手術を受けることが可能となります。レシピエントの年齢の上限ですが、高齢になるほど合併症も増加し、体力も低下していきますが、手術前の十分な検査で、手術実施可能と判断すれば、70歳代までは実施しております。手術のための入院期間は約3~4週間です。退院後しばらく(手術後約3ヵ月間)は、週に1回の外来通院が必要ですが、手術後4ヶ月以降には月に2回程度、6ヶ月以降には1ヶ月に1回の通院でよくなります。

7.ドナーの術前検査、入院から退院について。

日本では生体腎移植のドナーは親族に限定されています(下図参照)。血液型が異なっていても腎移植は可能です。

生体ドナー適応条件

ドナーは自分の腎臓を1個提供した後も、残った1個の腎臓の働きで、以前と同等の日常生活が送れるであろうと判断されなければ、腎臓を提供することはできません。また、レシピエントと同様に悪性腫瘍、活動性の感染症などがある場合、また重度の心疾患がある場合は、ドナーの手術を受けられないことがあります。そのため、レシピエントと同じように手術前の検査では、心臓の機能評価やCT検査、胃カメラ、大腸カメラ、女性であれば乳癌検診、子宮癌検診を行い、十分な全身評価を行います。ドナーの年齢の上限に関しては、上記の条件を満たせば、70歳代までは腎提供は可能と考えます。最近は60歳代、70歳代の御夫婦間の生体腎移植も増加しています。

ドナーの手術のための入院期間は約1週間です。手術は、体に負担の少ない内視鏡手術ですので、早期の社会復帰が可能です。ドナーは退院後、当院の腎臓内科のドナー外来を定期的(最初の1年間は3ヵ月間隔、以後は半年から1年に1回程度)に受診していただき、残った腎臓の状態、健康状態を管理させていただきます。

8.費用、公的補助について

日本の病院で腎移植を行う場合、生体でも献腎でも保険診療となります。腎移植に関する医療費は健康保険や各種医療保障制度が利用できるので、自己負担額は低額で済みます。術前に透析を行っている方の場合、ほとんどが腎臓機能障害1級の身体障害者手帳を持っており、自立支援医療(更生医療)の助成が受けられます。また移植後も1級の等級は継続されますし、術前3-4級で認定されている場合でも移植後は1級になります。

ドナーについては、移植のための手術の費用は全てレシピエントの医療費に含まれますので、ドナーに直接、手術の医療費が請求されることはありません。ただし、手術を行うまでの様々な外来での検査(胃カメラ、大腸カメラなど)の多くは、別途ドナーに請求されます。
術前検査および手術・入院等の医療費や制度のことに関しては、当院の医療相談室で詳しく説明させていただきます。

9.外来予約方法

当院の腎移植の初診外来(腎移植術前相談外来)は、第1、第3週の金曜日の午前となります。
事前に予約をとって受診してください。
腎移植の話を聞いてみたいというだけの方でも構いません。
外来には移植の知識を有する専任看護師もおりますので、何でも気軽に聞いてみてください。

どうしても金曜日が都合の悪い場合は、月~木の通常の腎移植外来の予約でも構いませんが、腎移植後の患者さんの通常診療枠のため、十分に時間をかけての説明が困難です。可能であれば第1、第3週の金曜日の腎移植術前相談外来をご予約されることをお薦めいたします。

腎移植 術前相談外来

第1、第3週の金曜日9時00分~12時00分

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