乳がんの治療

COVID-19と乳癌治療

  • 一般社団法人日本乳癌学会 よりCOVID-19(新型コロナウイルス)流行に伴う乳癌治療のトリアージ(方針、選択肢)が示されました。その原則は「乳癌患者を守ることであり、患者の予後(特に生命予後)に悪影響が出 ないように最大限努力しつつ、さらに今は患者と医療者を感染から守ることとバラ ンスを取りながら診療」とされております。
  • 当院でも この方針を順守しつつ今後の流行の状況に応じて対策を講じてまいります。

COVID-19下での病状緊急度

A)高優先度: 即座に生存に影響するため、迅速な対応を要する

B)中優先度: 治療の遅延が後に生存に影響を与える可能性がある

C)低優先度: 緊急性はなくパンデミックの期間中は、ある程度延期することができる

COVID-19流行評価

1)COVID-19 感染症例がほとんどおらず、医療資源に不足のない状態

2)COVID-19 感染症例が増加しており、緊急時に必要な人員や手術室などの医療資源の制限が生じている状態

3)すべての医療資源を COVID-19 感染症例に費やさなければいけない状態

2020 日本乳癌学会発表 COVID-19 に伴う乳癌診療トリアージから

2020 日本乳癌学会発表 COVID-19 に伴う乳癌診療トリアージから
2020 日本乳癌学会発表 COVID-19 に伴う乳癌診療トリアージから

COVID-19と乳癌診療の参考資料

  1. Recommendations for Prioritization, Treatment and Triage of Breast Cancer Patients, During the COVID-19 Pandemic: Executive Summary, Version 1.0, The COVID-19 Pandemic Breast Cancer Consortium. The American society of Breast Surgeons. https://www.breastsurgeons.org/news/?id=47
  2. COVID 19: Elective Case Triage Guidelines for Surgical Care, Breast Cancer Surgery, American college of Surgeons. https://www.facs.org/covid19/clinical- guidance/elective-case/breast-cancer
  3. ESMO Management and Treatment Adapted Recommendations in the COVID-19 Era: Breast Cancer.https://www.esmo.org/guidelines/cancer-patient-managementduring-the-covid-19-pandemic/breast-cancer-in-the-covid-19- era?fbclid=IwAR1TtE8imWbtz-0-nXkSLjaKrevB0oZt1- GZuSvHmtTuluWQJNXBWQbrlBU
  4. Recommendations for Prioritization, Treatment and Triage of Breast CancerPatients during the COVID-19 Pandemic. The COVID-19 Pandemic Breast Cancer Consortium. https://www.nccn.org/covid-19/pdf/The_COVID19_Pandemic_Breast_Cancer_Consortium_Recommendations.pdf
  5. COVID-19: clinical issues from the Japan Surgical Society. https://link.springer.com/article/10.1007/s00595-020-02047-x

乳房再建について

乳がんの手術によって失ってしまう乳房を、新たにつくりなおす手術です。
インプラント(人工乳房)を筋肉の下に埋め込む方法(人工乳房再建)と背中やお腹の脂肪や筋肉の一部を胸に移植する方法(自家組織再建)の2種類があります。

再建時期

  • 一次再建:乳房切除術と同時に再建手術を行う方法
  • 二次再建:乳房切除術後、時期をおいて行う(術後何年経過しても施行可能)

人工乳房再建

自家組織

手術侵襲(体への刺激)

小さい

大きい

入院期間

日帰り〜数日

2週間程度

手術跡

乳房切除の傷

乳房切除と皮弁採取部位

  • 一期再建:シリコンインプラントをダイレクト挿入、または筋皮弁再建
  • 二期再建:エキスパンダーを挿入後にシリコンインプラントに入れ替え、または筋皮弁再建
再建時期一次再建:乳房切除と同時二次再建:術後、時期を空けて行う
手術方法一期再建:シリコンインプラントをダイレクト挿入、または筋皮弁再建二期再建:エキスパンダーを挿入後にシリコンインプラントに入れ替え、または筋皮弁再建

人工乳房

エキスパンダーによる乳房切除術
人工乳房

画像 アストラゼネカ社医療用イラストバンクより

組織を用いる方法(自家組織再建)

腹直筋皮弁

腹部の皮膚・脂肪・筋肉の一部を胸部に移動します。大きなボリュームを移植することができます。

縦方向
横方向

広背筋皮弁

広背筋皮弁

背中の皮膚・脂肪・筋肉の一部を胸部に移動します。
ボリュームが小さいため乳房の大きな方には向きません。

二次再建に関して

  • 過去に乳房切除を行われた方で、乳房再建手術をご希望の際はご連絡ください。当院でもご対応しております

遺伝性乳がん卵巣がん症候群に関して

日本では年間10万人を超える方が乳がんと診断されています。
その一部の方(数パーセント)は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer syndrome: HBOC)といわれております。
体質(遺伝)的に乳がんや卵巣がん、もしくは卵管がん、腹膜がん(以下、卵巣がんと総称します)を発症しやすい方が含まれています。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群は HBOC(エイチボックまたはエイチビーオーシー)と称され、BRCA1(ビーアールシーエー1)と BRCA2(ビーアールシーエー2)の 2 つの遺伝子がその原因として知られています。

グラフ
遺伝子図

BRCAの働きと発がん

  • 日々さまざまな原因(例えば紫外線、化学物質など)でDNAには変化が起きます。DNAにはタンパク質の設計図である遺伝子の情報が書かれていますので、こうしたDNA の変化を修復することは極めて重要です。
  • BRCA1とBRCA2は DNAに変化が生じた時に、これを修復する過程で重要な役割を果たしています。
  • BRCA遺伝子が正常に働かなくなると、DNAの変化が適切に修復できず、これが発がんにつながると考えられています。

BRCA検査の保険適応

  • 2020年4月から下記該当者は保険にてBRCA検査が保険適応となりました。外来にて担当医師へご相談ください。
  • [1] 45歳以下で乳がんと診断された方
  • [2] 複数回乳がんと診断された方(同じ側の乳房、または両側の乳房が含まれます)
  • [3] 60歳以下でトリプルネガティブ*乳がんと診断された方(*女性ホルモンとがん 遺伝子 HER2 に対する薬物療法が効かない乳がんです)
  • [4] 卵巣がん、卵管がんや腹膜がんと診断された方
  • [5] 血縁関係にある方に乳がんや卵巣がんの家族歴を持つ方(姉妹や兄弟、子供、両 親、祖父母とその姉妹と兄弟、従姉妹、従兄弟まで含まれます)
  • [6] 血縁関係にある方に BRCA1 または BRCA2 遺伝子に変異があると知らされている方
  • [7] 本人や血縁関係にある方が男性乳がんと診断された方
  • 採血イラスト
  • リスク低減手術

    当院では未実施です(今後、実施へ準備中です)

  • 2020年4月診療報酬改定によって、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome、HBOC)に対するリスク低減乳房切除術(Risk-Reducing Mastectomy、RRM)・乳房再建術ならびにリスク低減卵管卵巣摘出術(Risk-Reducing Salpingo-Oophorectomy、RRSO)が保険適用となりました。

    乳癌既発症者にBRCA1/2 遺伝子変異が判明した場合、リスク低減手術などにより、健側の乳癌の発症と卵巣癌の発症のリスクを下げることが可能となります。乳癌は30歳頃から、卵巣癌は40歳頃から発症率が上昇するため、RRM は40歳までに、RRSO は50歳までに実施することが勧められております。

    (注)詳細は、日本乳癌学会WEB サイトを参照。

  • 乳癌の発生

  • 乳癌は乳腺組織の乳管細胞あるいは小葉細胞から発生する悪性腫瘍であります。

    乳癌の発生部位:乳癌の多くは乳管(母乳が通る管)から発生します(乳管癌、約90%)。また、母乳を生成する小葉から発生することもあります(小葉癌、数%)。

    非浸潤癌と浸潤癌:乳癌が乳管内の壁内にとどまっている状態が非浸潤癌(非浸潤性乳管癌、非浸潤性小葉癌:早期癌)であり、乳管の壁外に浸潤した状態が浸潤癌である。したがって、乳管内にとどまったまま広範囲に広がる非浸潤癌もあれば、径1mmの乳癌でも壁を貫いた浸潤癌もある。

    非浸潤癌と浸潤癌
  • 出典 医学書院 疾患別看護過程2020より

    乳癌の周囲への伸展、転移

  • 局所への進展形式:乳管内や腺葉内に発生した乳癌は乳管内を伝わって(進展して)広がったり、また、乳管壁(基底膜)を破り周囲へ浸潤し、周囲の間質や脂肪組織へ広がって増殖していく場合もある。ある程度の大きさに増殖すると、「腫瘤・腫瘍」として触知するようになる。また、腫瘍が皮下近くに達すると、皮膚を牽引する「えくぼ症状」や乳頭の陥凹を呈するようになる。さらに増殖・増大すると皮膚に及び、皮膚の発赤、浮腫、潰瘍などを形成するようになる。また、腫瘍が背側(胸筋側)に増殖すると胸筋浸潤・皮膚固定(腫瘍が触っても動きが悪くなる)の状態を呈する。

    画像 アストラゼネカ社 医療用イラストバンクより
  • リンパ行性転移

  • 乳癌が局所で増殖・増大していく過程で、乳癌細胞は周囲のリンパ管に波及するようになります。リンパ管に到達した乳癌細胞はリンパ管内に入り込み、リンパ節へ転移を起こします。リンパ節のなかでも最も転移を起こしやすいのは腋窩リンパ節であります。また、そこを起点に鎖骨上リンパ節や頸部リンパ節へ進むこともあります。そのほか、胸骨傍リンパ節に転移をきたすことがあります。

    出典 医学書院 疾患別看護過程2020より
  • 血行性転移

  • 周囲に浸潤をきたした乳癌は、その周辺の血管に直接入り込んだり、また、リンパ管・リンパ節を介して血管内に入り込みます。その血管から血流に乗って他臓器に至り、そこで転移病巣を形成することもあります。転移しやすい臓器は、骨、肺、肝、脳などでありますが、体内であればいかなる場所も、転移する可能性はゼロではありません。

  • 乳癌の疫学(背景データ)

  • 疫学・予後

    疫学調査では、[1]都市部>農村部、[2]高学歴、[3]未婚・未産、[4]初潮年齢の低年齢、[5]閉経時期の遅延、[6]肥満体型(とくに閉経後肥満)などの傾向があげられている。食生活では動物性蛋白を多く摂る傾向や、アルコール摂取との関係などがあるとされております。

    日本:年間約10万人が罹患する(2019)

    35 年前と比べて発生頻度は約3倍以上となり、増加は続いています。
    わが国の女性が罹患する悪性腫瘍では第1位となっております。日本人女性の9人に1人が罹患するデータです。死亡率は第5位であります。

    乳癌と診断された段階(病期、stage)が重要であります。10 年生存率は、病期0:98%、病期1:約90%、病期2:約80%、病期3:約60%、病期4:40% 以下であります。

    出典 医学書院 疾患別看護過程2020より

乳癌の症状

自覚症状:乳癌の自覚症状で最も多いのが腫瘤触知であります。そのほか、乳房痛や皮膚の変化(えくぼ徴候)、乳頭の変化(陥凹、変形)などを契機として受診することもあります。また早期に、乳管の初発症状として乳頭からの血性分泌で発見されるケースもあります。

転移に伴う症状:

  1. 骨転移:転移病変周囲の痛み、転移骨骨折に伴う疼痛や麻痺など
  2. 肺転移・胸膜転移:咳嗽、胸痛、呼吸苦、息切れなど
  3. 脳転移:頭痛、麻痺、めまいなど多彩
  4. 肝転移:鈍痛以外、患者の自覚症状としては訴えは少ない傾向です
  5. 多臓器転移:食欲不振、体重減少、倦怠感などの全身症状を呈します

診断・検査-1

視診・触診:乳房の左右差、乳頭の変形、腫瘤の大きさ・硬さ・可動性、乳頭からの分泌、腋窩リンパ節の腫大などを重点的に診察する。

乳房X 線撮影検査(マンモグラフィ):乳房を圧迫し撮影する。
当院では3Dマンモグラフィーを導入しております。

乳房超音波検査:乳房に直接超音波の探触子を当てて、内部の状況を検査する。

その他:乳房MRI 検査(乳房内の多発病変の有無や、広がり診断、質的診断を行う)、全身検索(骨シンチグラフィ、全身PET 検査など)。

  • 乳癌と診断がついたら、治療に進む前に全身検索を行い、病期を確認し、その病期や病状によって適切な治療方針を決定する(すべての乳癌において初期治療が手術ということではない)。

診断・検査-2

穿刺吸引細胞診(FNA):乳房内に腫瘤を認めた場合,良性・悪性の区別のために針を刺入して細胞を採取し、検査を行う。

針生検:細胞診では診断がつかない場合、16 G(ゲージ)程度の太針を用いて組織を採取し(コア針生検,CNB)、病理検査を行う。

吸引式針生検(VAB):マンモグラフィのみで確認できる石灰化病変を的確に穿刺し(吸引式乳房針生検)、組織を採取する方法。

出典 医学書院 疾患別看護過程2020より

治療法

治療法

原発性乳癌では、病期に応じた外科的治療と、再発予防治療としてのホルモン療法、化学療法を行う。

治療方針

原発性乳癌:病期により異なる。また、施設により術前化学療法の適応は若干の違いがある。

病期0、I:手術先行(乳房温存術の場合は、温存乳房放射線治療)、術後は手術標本病理結果によりホルモン療法を行う。また、病期1の浸潤癌でも抗癌剤治療、抗体療法(分子標的治療薬)を施行することがある。

病期II:手術先行もしくは術前化学療法実施(術前化学療法の場合は抗癌剤治療を行い、腫瘍を小さくしてから手術を行う)。術後は必要に応じて温存乳房への放射線治療、ホルモン療法などを行う。

病期III:術前化学療法実施後に外科的治療などを行う。

病期IV:抗癌剤治療もしくはホルモン療法を行う。局所に関しては必要に応じて手術を施行することもある。

外科的治療

乳房温存術(部分切除):主病変を中心に円状あるいは扇状に切除する方法。温存手術に関してはガイドラインが示されており、その適応に従って実施する。また、術後温存乳房への放射線照射を前提とする。

乳房切除術:片方の乳房をすべて切除する方法。

乳房切除後乳房再建術:乳房を切除した直後に乳房を形成する方法。形成方法は筋皮弁を用いる方法とインプラント(人工物)を用いる方法がある(表96–2)。

術後補助薬物療法:乳癌治療において使用する抗癌剤一覧を示す。

乳房温存術
乳房温存術
術後 温存乳房への放射線治療

画像 アストラゼネカ社医療用イラストバンクより

原発性乳がんの方針図

出典 医学書院 疾患別看護過程2020より

術後補助療法-1

  • 1)乳癌術後再発予防治療に対する治療方針
    乳癌術後の補助療法:乳癌手術にて摘出標本を検査し、その乳癌のホルモン感受性の有無を判断する。
    リンパ節転移の有無や他のリスクカテゴリー(脈管侵襲、癌悪性度評価など)を行い、その結果、ホルモン感受性がある症例に関してはホルモン療法を第1選択とする。
    また、ホルモン感受性がない症例に関しては化学療法を第1 選択とする。化学療法とは化学物質による薬物療法で、いわゆる抗癌剤による治療である。抗癌剤は、1つの薬剤を決まった分量で使うことよりも、複数の薬剤を組み合わせて使うことが多く、組み合わせる薬剤の種類と分量、1回の治療の単位(コース、クール、サイクルなどという)の期間、それを何回行うかのパターン(レジメンregimen)が、臨床研究によっていくつか確立されている。

    出典 医学書院 疾患別看護過程2020より
    出典 医学書院 疾患別看護過程2020より

術後補助療法-2

出典 医学書院 疾患別看護過程2020より
抗がん剤の副作用

再発乳癌に対する治療方針

  • 乳癌の再発治療に関しても、患者の乳癌組織のホルモン感受性の有無に従って治療方針を決定する。
  • また、再発部および患者の病状(生命の危機に瀕しているか否か)が重要である。
出典 医学書院 疾患別看護過程2020より
出典 医学書院 疾患別看護過程2020より
出典 医学書院 疾患別看護過程2020より

出典 医学書院 疾患別看護過程2020より

乳腺外科・甲状腺外科のぺージ