てんかん(神経小児科)

患者さんへ

疾患概要

てんかんはけいれんや意識障害などの「てんかん発作」を繰り返す病気であり、神経細胞の過剰な興奮が原因とされています。同じけいれんでも、発熱に伴う熱性けいれんとは区別されます。約100人に1人の割合で患者さんがいるといわれ、実はとても身近な病気です。てんかんの原因や症状、治りやすさは様々で、個々の患者さんにあった適切かつ長期間の治療が必要となります。てんかんの治療は主に飲み薬により行われますが、約3割の患者さんは、この薬物治療で発作を抑制することができません。このような難治性てんかんの場合、正しい診断と適切な治療が何よりも大切となります。

症状

当科で担当する小児てんかんは、新生児から思春期までにおこるてんかんで、発症する年齢、それぞれの原因や症状などにより細かく分類されています。思春期ころまでに治ることも多いですが、成人後も残ってしまう場合もあります。小児てんかんを治療する際に重要なことは、小児の脳は発達の過程にあり、発作が脳に与える悪影響を考慮しなければならないことです。頻繁に発作が起こり続けると、発達障害を引き起こすこともあるからです。せっかく習得した言葉や情緒面での成長が失われるというような退行現象を引き起こすことも稀ではありません(図1)。

(1)難治性転換が小児脳に及ぼす影響

治療法・対処法

小児てんかんの主な治療は薬物療法です。そのほか、難治な患者さんには様々な特殊治療(ホルモン療法、外科療法、ケトン食治療など)が行われる場合もあります。発作を長く放置してしまうと、適切な治療を行って発作を抑えても発達の障害を元に戻せなくなります。このため一時的な発作や症状の改善に惑わされず、早めの適切な診断と治療が重要です。しかし最近のヨーロッパの調査では、難治性てんかん患者さんの半数以上が適切な診断や治療を受けられていないことが明らかになりました(図2)。

(図2)治療状態の現状(最近のヨーロッパでの研究より)

都立神経病院は入院専門の病院であり、神経小児科では主に薬物治療に抵抗する難治性てんかんを診療対象としています。適切な治療のためには、先ずは長時間ビデオ脳波モニタリング検査(図3)により正確な診断を行うことが重要です。

(図3)長時間ビデオ脳波モニタリング検査

記録時間が長くなればなるほど、正しい診断ができるとされています。また、CTやMRIなどの画像検査もあわせて行い、正しい診断に基づく薬物治療やケトン食療法を含む特殊療法を行っています。内科的治療では発作抑制が難しい患者さんに対しては、当院てんかん総合診療センターでの外科治療についても検討しています。詳しくは脳神経外科のページを参照してください。

難治性てんかんの適切な治療は患者さんにより様々です。当科ではあらゆる治療選択肢を提示し、ひとりひとりの患者さんに合った最適かつ最新の治療を提供できるよう努めています。

当科の専門医

福田光成 神経小児科部長

石山昭彦 神経小児科医長

医療関係者へ

疾患概要・病態

小児期に発症するてんかんは多彩です。その臨床像や予後は一様ではなく、極めて予後良好なものから難治な経過が予測されるものまであります。従ってその治療は患者個人に特有の配慮が必要となります。小児期発症てんかんの特徴をまとめると以下のようになります。

  • 非常に多くのてんかん症候群がある
  • 『極めて難治』〜『無治療でも治癒可能』と予後にも大きな幅がある
  • 約2割の小児てんかんは、無治療での経過観察も可能な特発性てんかんである。
  • 発作重積や脳波上の電気的重積状態が、発達脳への深刻な悪影響を及ぼす。

難治性の経過となった場合には発達脳への悪影響を避けるため、迅速な再評価や対応が必要となります。

症状

てんかんの診断で最も重要なことは「問診」です。発作に関するあらゆる情報を集めて症状を見極めます。てんかん発作には様々なタイプがあり、大きく分けると2つに分類されます。(図4)

(図4)てんかん発作分類(1981分類)

(1)部分発作

脳の一部分が過剰に興奮することによって起こる発作です。体の一部が勝手に動いたり、異常な感覚を感じたりします。かつての分類では、意識は保たれるものを“単純”部分発作と呼び、発作中に意識がなくなるものを“複雑”部分発作と呼ばれていました。

(2)全般発作

脳全体が過剰興奮しておこる発作です。脳の一部の過剰興奮が脳全体に広がった場合には、部分発作の"二次性"全般化と呼びます。全身がけいれんしたり、意識がなくなったりします。

また、てんかん発作と紛らわしい非てんかん性発作も注意深く鑑別する必要があります。真のてんかん発作と心因性非てんかん性発作は高率に合併するとされており、慎重かつ正確な診断が重要です。

問診からの診療経過に脳波検査や頭部画像検査(MRI等)の情報を加味し、てんかん分類の診断を正確に行う必要があります。(図5)

(図5)正しい診断と治療が何よりも重要!

治療・最近の動向

てんかんの主な治療法は薬物療法です。適切な薬物治療により約7割の患者で発作抑制が可能となりますが、残りの約3割は薬剤に抵抗する難治性てんかんです。神経小児科では、この薬剤抵抗性てんかんを主な診療対象としています。このような患者さんに対して、当院では脳神経外科と連携して外科治療を行ったり、ACTH療法や食事療法(ケトン食)などの特殊療法を含めて、あらゆる選択肢を候補とした包括的診療を行っています。

治療経過が思わしくない場合には、入院での評価が必須となります。入院にて数日間、ビデオで発作症状を観察しながら脳波を記録する長時間ビデオ脳波モニタリング検査を行います。発作時の症候(ビデオ記録)と脳波から、先ずは真のてんかんかどうか、また発作型やてんかんのタイプなどの診断を再確認します。また薬を増量する前に様々な基本的事項のチェックも必要となります。(図6)

(図6)発作コントロールが不安定な時のチェック事項 薬剤を調整する前に

最近のヨーロッパでの調査では、多くの難治性てんかんの患者が適切な診断や治療を受けられていないことが明らかとなりました。(図7)

(図7)多くの難治性てんかんの患者さんは潜在化している

難治性てんかんでは早期の評価と治療介入が重要であり、薬剤抵抗性のてんかん患者さんがおられましたら是非ともご紹介を頂ければ幸いです。入院精査の上、薬剤調整や外科治療等の適応についてご相談させて頂きます。

診療実績(2021年度・神経小児科)

  • 東京都立神経病院は入院専門病院であり、てんかん診療に関しては難治性の患者に対して入院での診療を行っています。精査や治療を必要とする難治性てんかんの入院患者数は年間350名(延べ数)でした。この他、入院治療まで至らない多くの軽症てんかん患者は、都立小児総合医療センターにて外来診療を行っています。
  • 長時間ビデオ脳波モニタリング検査は年間324件行いました。その他、通常の脳波検査は外来(都立小児総合医療センター)を合わせ多数行なっています。
  • 脳神経外科てんかんチームと治療方針を共有し、外科治療に至った難治性てんかんの症例数は年間14名でした。

研修・カンファレンス

脳神経内科、脳神経外科、臨床検査科と合同で、月1回のてんかん外科カンファレンス、脳波カンファレンス、週1回の脳波判読基礎カンファレンスなどを行なっています。また当院は日本てんかん学会により「包括的てんかん専門医療施設」に認定されています(2022年10月現在、全国で21施設が認定)。てんかん専門医だけではなく、てんかんに関する知識を豊富にもつ看護師、薬剤師、検査技師、臨床心理士、ソーシャルワーカー等が密に連携したチーム医療を行なっています。

患者紹介を希望される先生方へ

都立神経病院は入院専門病院ですので、外来は同じキャンパス内にある小児総合医療センターの神経内科外来で行っています。また神経救急の患者さんの診療は、小児総合医療センターの救急(ER)において、総合診療科や救命救急科と連携して行っています。小児総合医療センターは救急(ER)受診以外は原則紹介・予約制ですので、患者さんに紹介状をお渡しいただき、予約センターにお電話下さるようお伝え下さい(予約センター:042-312-8200)。神経病院の医師の診察をご希望の場合には、予約時にその旨をお伝えいただけましたらお受け致します。また至急のご紹介をご希望の場合には、福田または当日の当直医へのお電話でもお受け致します(都立神経病院:042-323-5110)。

都立神経病院では、特に抗てんかん薬の投与では発作抑制が困難な難治性てんかん患者さんの治療が中心ですが、初発のてんかん発作で診断にお困りの場合も遠慮なく、ご相談いただければ幸いです。

〒183-0042
東京都府中市武蔵台2-6-1 東京都立神経病院 神経小児科
福田 光成
TEL:042-323-5110