ジストニア(含DBS)

患者さんへ

疾患概要

ジストニアとは、筋肉が自分の意志とは無関係に収縮を起こし、そのために体の捻れを伴うような異常な姿勢や異常な運動を生じる病気です。脳の基底核という部分の異常のために生じるとされ、遺伝的な原因により生じることや、出産前後の障害・脳梗塞・脳炎・頭部外傷などの後遺症として生じることがあります。

症状

全身に症状の出る全身性ジストニアと、首・手・足など体の一部にのみ症状の出る局所性ジストニアがあります。お子さんに多いのは全身性ジストニアで、通常は一方の足や手から発症し、進行性に体の他の部位に広がっていきます。症状としては、足が突っ張り歩きにくい、手を動かそうとすると余計な力が入って思い通りに動かせない、体が捻れる、首が曲がる、声が出しにくい、顔がゆがむ、口が勝手に大きく開いてしまう、などがあります。また手足や体が、勝手にぴくぴく動いてしまうこともあります。症状が進むと日常生活が大きく制約されます。また、まれに症状が急激に悪化し、全身が緊張して呼吸がうまくできなくなり、生命が脅かされることもあります。ジストニアは精神的に緊張すると悪化します。また朝は比較的症状の軽いことが多いです。病気によってはこれが顕著で、朝は症状が軽く、午後から悪化する日内変動を認めます。

治療法・対処法

薬物療法としては、レボドパ、抗コリン薬、ベンゾジアゼピン系薬剤などが使用されます。一部の病気ではレボドパが著明な効果を示しますので、診断をきちんとする必要があります。その他の病気では薬剤の効果は乏しいですが、ボツリヌス毒素療法、脳深部刺激療法、髄腔内バクロフェン療法などを行うことで症状の軽減を得られる可能性があります。
当院では、脳神経内科・脳神経外科・神経小児科がチームを組んで、ジストニアの患者さんの診断を的確にするとともに、最適な治療を行うよう努めています。特にジストニアのお子さんに対する脳深部刺激療法(DBS)を積極的に行っています。
DBSは、脳に細い電極を留置して電気刺激を行い、脳の機能の正常化を図る治療法です(図1)。元はパーキンソン病の治療として行われていましたが、最近ジストニアに対しても効果のあることが示されました。特に遺伝的な原因によるジストニアの患者さんに有効です。図2に当院小児科で診ている遺伝性ジストニアの患者さんのDBS治療後の経過を示します。ジストニアの重症度がおおよそ半減していることが分かります。治療は入院で行い、電極を留置する手術の後、約1ヶ月間入院していただいて刺激を調整します。

脳深部刺激療法(Deep brain stimulation;DBS)
遺伝性ジストニアにおけるDBSの効果 (小児科例)

患者さんへのワンポイントアドバイス

ジストニアの症状改善のためには、正確な診断と、これに基づく的確な治療が必要です。専門医の受診をお勧めします。

当科の専門医

熊田聡子

その他、脳神経内科のページにも関連情報があります。

医療関係者へ

疾患概要・病態

不随意運動とは、「本人の意志とは無関係に、体の一部または全体が過剰に動いてしまう症候」の総称です。臨床症状や病態を元に、振戦・舞踏運動・バリズム・ミオクローヌス・チック・ジストニアなどに分類されます。当科は小児期発症の不随意運動症、なかでもジストニアに対する先進的な治療に取り組んでいます。ジストニアとは、持続性の筋収縮による異常運動(ジストニア運動)または異常姿勢(ジストニア姿勢)をきたす不随意運動症です。患者さん毎に一定のパターンを示し、捻転の要素を伴うことが特徴です。随意運動により誘発ないし増悪し、その運動に関係の無い筋群にまで筋収縮が波及するオーバーフロー現象を認めます。また拮抗筋間に同期性の筋収縮を認めることを特徴とします。大脳基底核の異常により生じ、その原因により、器質的異常を伴わずジストニアを唯一の症状とする一次性ジストニア、周産期障害・脳炎・外傷などの器質的疾患や抗精神病薬の副作用により生じる二次性ジストニア、神経変性疾患や代謝異常症に伴う遺伝性変性ジストニア、に大別されます。また出現部位により、全身性と局所性に分類されます。厚生労働省研究班の全国調査では、本邦の一次性ジストニアの有病率は10万人あたり7.38と報告されていますが、二次性ジストニアを含む実際の患者数はこれよりはるかに多く、不随意運動症の中では振戦に次いで二番目に多いと考えられています。他の疾患、特に精神疾患として見逃されている症例も多いとされます。また最近は楽器演奏者やスポーツ選手に生じる職業性ジストニアが注目されています。小児では全身性ジストニアが多く、原因としては周産期障害による異常運動型(dyskinetic)脳性麻痺が最も多いです。日常生活に大きな障害をもたらす症候であり、また後に述べますように最近治療が飛躍的に進歩していることから、適切な診断と治療が非常に重要です。

症状

ジストニアの出現部位により様々な症状を生じます。痙性斜頸や書痙が有名ですが、その他に、眼瞼けいれんによる開眼障害、喉頭ジストニアによる発声障害、下顎ジストニアによる開口・閉口障害、上肢ジストニアによる上肢の巧緻運動障害、下肢ジストニアによる歩行障害などがあります。小児では、ジストニアは通常一側の上肢ないし下肢から発症して進行性に体の他の部位に広がり、体軸の捻転を伴う全身性ジストニアに進展します。ジストニアの特徴として、特定の動作をするときに症状が出現する「動作特異性」と、どこかに触るなどの感覚刺激により症状が軽減する「感覚トリック」が見られます。また症状が起床時には軽く、午後から悪化する「早朝効果」もしばしば見られますが、症状の日内変動が顕著な場合には、瀬川病などのモノアミン代謝異常症を考える必要があります。またジストニアは精神的な緊張により増悪します。症状が進行すると日常生活が大きく制約されます。また、全身性ジストニアでは、まれに急激な症状の増悪により、呼吸不全・全身の消耗・横紋筋融解などを生じて、生命が脅かされることもあります(dystonic storm)。

治療・最近の動向

ジストニアに対する薬物療法の効果は一般に乏しいですが、瀬川病をはじめとするモノアミン代謝異常症ではレボドパが著効を示すので、日内変動などに注意して早期に診断する必要があります。当院では、瀬川病とチロシン水酸化酵素異常症の患者さんを診療し、いずれもレボドパにて症状はほぼ消失しました。その他の薬剤として、抗コリン薬やベンゾジアゼピン系薬剤が使用されます。最近非ベンゾジアゼピン系睡眠薬であるソルピデムの有効性が報告され、当科の患者さんにおいても効果が得られています。
近年、薬剤抵抗性のジストニアに対する治療として、ボツリヌス毒素療法・脳深部刺激療法 (DBS)・髄腔内バクロフェン療法が発展しています。当科では脳神経内科および脳神経外科とチームを組み、ジストニアのお子さんに対するDBSを積極的に行っています。
DBSは、脳内の標的部位に電極を留置し、ここを選択的に電気刺激することによって脳神経回路の機能修正を図る治療法です。MRIと脳深部活動電位記録をもとにDBS電極リードを標的部位に留置し、これを前胸部あるいは腹部の皮下に設置した体内埋め込み型パルス発信器(IPG)と接続して、持続的に高頻度刺激を行います。刺激条件は体外よりプログラマーにて調整します(図1)。パーキンソン病、ジストニア、難治性疼痛の他、海外では強迫性障害などの精神疾患にも適応が拡大しています。ジストニアでは、淡蒼球内節(GPi)や視床を標的としたDBSが行われ、特に両側GPi-DBSは一次性全身性ジストニアに著効を示し、現在では第一選択の治療とされるようになりました。図2に当院小児科で診ている一次性ジストニア症例のDBS治療後の経過を示します。ジストニアの重症度が半減以上の軽減を示していることが分かります。これに伴い生活の質も大きく改善しています。DBSの作用機序は未だ明らかではありませんが、基底核神経細胞の異常な活動パターンや反応を修正する、というneuromodulation仮説が注目されています。治療は入院で行い、電極を留置する手術の後、約1ヶ月入院していただいて刺激を調整、退院後にも症状に応じて外来で刺激を調整していきます。治療の合併症としては、電極リード留置に関連した頭蓋内出血や感染が数%未満に生じると報告されていますが、重篤な問題を生じることはまれです。IPGのバッテリーには寿命があるので、数年に1回入れ替える必要がありましたが、最近充電可能なIPGが使用可能となり、入れ替えまでの期間が延長されました。当科では最近、一次性ジストニアに加え、器質的脳疾患に伴う二次性ジストニアや遺伝性変性ジストニアの小児例に対するDBSも行っています。二次性ジストニアでは有効率は一次性に比して低く、適応も基底核に病変が限局しジストニア以外の神経学的異常が軽微な患者さんに限られますが、施行した全例で生活の質の改善が見られています。また遺伝性変性ジストニアの中ではパントテン酸キナーゼ関連神経変性など一部の疾患におけるDBSの有効性が報告されています。当院でも同疾患を一例経験し、有効でした。また、白質と基底核の変性する疾患(TUBB4A異常症)に対してDBSを行い、症状の改善を認めています。

脳深部刺激療法(Deep brain stimulation;DBS)
遺伝性ジストニアにおけるDBSの効果 (小児科例)

当院で行っている臨床研究・実績など

当院では、月1回程度、脳神経内科・脳神経外科・神経小児科合同で、不随意運動症の患者さんの診断・治療に関するカンファレンスを行い、DBSの適応についても検討しています。診療成果に関する学会発表や、不随意運動症ならびにDBSに関する講演活動も、精力的に行ってきました。2021年度の不随意運動症ならびにDBSに関する学会発表・講演・論文を示します。

2021年度の不随意運動症、DBSに関する発表(PDF 375.6KB)