東京都立多摩総合医療センター
リウマチ膠原病科臨床研究
Invitation to Rheum TAMA !
リウマチ膠原病診療が熱い!
― 病を診ずして人を診るべし ― 自身の将来にそのような医師像を思い描く医学生や研修医は多いと思います。その視点が特に重視される専門内科がリウマチ膠原病診療です。東京都1300万住民のうち、420万人が暮らす東京都多摩地域。全国的には20年後には医療需要が減る見込みですが多摩地域ではまだまだ増える予想となっています。ここで熱いリウマチ膠原病専門診療を進めているのが、東京都立多摩総合医療センターのリウマチ膠原病科です。固定スタッフの平均年齢は30代と若く、日々活発な議論を交わしながらベストケアを目指して研鑽に励んでいます。
関節リウマチはもちろん、数多くの新規発症の膠原病や血管炎、膠原病類似疾患にも対応
リウマチ膠原病科と聞いて思い浮かべるのはどんな疾患でしょうか。まず挙がるのが関節リウマチでしょう。関節リウマチは人口のおよそ0.5-1%が罹患しているといわれ、いわばcommon diseaseです。当科診療中の患者数とRA症例の割合について図1に示しました。疾患内訳としては関節リウマチが最も多いもののその割合は年々減少しており関節リウマチ以外の疾患、すなわち血管炎症候群や膠原病、膠原病類縁疾患の頻度が高いのが当科の特徴です。
当院には東京ERと呼ばれる救急外来・救命センターがあり、最重症例を含む非常に多くの患者さんが受診・搬送されてくる全国有数の施設です。その中から原因不明の発熱や臓器障害、筋骨格症状などを呈し当科にコンサルトされ、新規にリウマチ膠原病の診断がつくことが多くあります。当科では診断がつく前の段階から患者さんに関わり、診断や治療のプロセスを学ぶ経験が多くできます。また近隣のリウマチ専門医からの紹介も多く、最後の砦であることから、非常に多彩な疾患および合併症を経験できます。
リウマチ膠原病科の雰囲気
<多様なメンバー>
特定の医局に所属していない当科は、様々な大学(海外含む)出身者からなります。バックグラウンドも様々で、初期研修を終えてそのまま当科後期研修を選択したドクターも勿論いますが、これまでには腎臓内科、総合内科/総合診療科、血液内科などの経験を積んでから当科に合流したドクターたちがいます。これまでの経験施設も離島診療所、民間病院、公的病院、大学病院、米海軍病院、海外、と様々な現場を経験した多様な人材により形成されているとても風通しのよい組織です。ポイントは、「内科医ならこれまでの専門経験は問わないこと」および「どんな臨床経験も当科診療で必ず生かすことができること」です。そして、これら全国から集まったメンバーが、自由闊達・相互協力・紳士的well-manneredな雰囲気をモットーに日々研鑽しています。
<病棟診療の体制>
当科の病棟診療は、ゆるやかな主治医制をベースとしたチーム制をとっています。チームは2チームあり、各チーム医師約8名と多いですが、外来や週休の医師を除く約4名で約15人の患者さんを診療します。病棟医は自分の受け持ち患者さんだけでなくチームの全ての患者を把握する必要があり、救急当番および緊急入院の対応があります。朝のカンファランスではまず、前夜からの緊急入院患者さん、翌日当科に入院する患者さんの担当医を決定します。専攻医間で経験症例に大きな差が出ないようにカテゴリー別に順番に受け持ち患者さんが割り振られるシステムとなっています。
当科では、創成期より「レジデントをひとりにしない」ように日々の臨床態勢を構築しています。急に体調を崩した患者さんや他院からの受け入れ要請などに縦横無尽に対応する緊急当番はレジテントと上級医のペアで対応します。しかし、担当医はなるべく自分で判断を行い、指示することが求められます。病態が複雑な患者も多いため、毎朝のチーム回診や毎夕のチームカンファで治療方針は全員で確認します。外来診療や当直明け、週休日など病棟不在となることも多いため、日々患者さんの状態やToDoをチーム内で申し送りし、患者さんの診療が滞らないことが非常に重要です。その結果、各医師が外来診療に専念し、当直明けや週休日を確実に確保することが実現できます。
また週3回は他のチームも合同で全症例の症例提示カンファランスで情報を共有します。


朝カンファランス後の自発的業務分担の話し合い風景
<総合内科・救急の臨床力を重視>
総合内科・救急診療に従事することで得られる内科的医学管理の経験のみならず、マルチプロブレム、高齢、社会的背景といった全人的医療の重要なポイントについて習熟することは、さらに原病という要素が加わり複雑化し得るリウマチ膠原病診療の実践において大きな糧となります。一方でリウマチ膠原病患者さんの複雑な病態管理で培われるノウハウは総合内科診療にも還元されます。このように総合内科診療を並行して担うことで、得難いラーニングサイクルが形成されているといっても過言ではないでしょう。
リウマチ膠原病科の価値観
当たり前のようですが教科書・ガイドライン・最新文献に基づいた診療を目指せる環境はとても重要です。これには、薬剤・検査・医療機器など多面的な環境整備に加えて、実際にそのような診療を目指す同僚やそれを理解しサポートする上級医も必要条件です。多摩総合医療センターには多くの研修医・専攻医がさまざまなキャリアを有する医師とともに研鑽を積んでいることから、より普遍的な診療ノウハウを追究する文化があります。最新の知見を共有して実践方法に落とし込んでいく作業は、若手医師が研鑽する病院が常に進めなければならない課題でしょう。
また、当科は「誰々の患者さん」という概念を排しているため、一人の医師の知識や経験に限られず、当科に内包される知見を広く患者さんのケアに応用できます。そして、当直明けは朝引継ぎを終えたら帰宅するし、外来診療や新入院担当は行いません(受け持ちたくても受け持つことができないルールになっています!)。これにより、個々の患者さんのケアが全面的に一人の医師に依存した脆弱な態勢を回避するとともに、医師個人のワークライフバランスへの配慮もなされます。スタッフの心身の健康は持続可能なベストケアの提供に欠かせません。さらに当科診療を第一線で支える医師たちは、また家庭では出産や育児にも携わります。当科は医師個人に依存しないチーム診療を基盤に産休復帰プログラムや男性医師の育休取得など、家庭人としてのメンバーをサポートしています。
リウマチ膠原病科の臨床研修環境
関節エコー(筋骨格超音波)はリウマチ膠原病診療において必須のツールとなってきています。超音波機器が外来診察室に5台と病棟に1台設置されています。欧州リウマチ学会の筋骨格超音波検査のトレーニングを終了したスペシャリストを中心に生理検査室でも筋骨格超音波検査を行っています。筋骨格超音波検査の習得を目指したい医師にはサポートする体制も整っております。
リウマチ膠原病科はリウマチ外科とリウマチ内科から構成されています。リウマチ外科入院患者さんには当科から内科医が副担当となる制度をとっています。肩・肘・手指・股・膝などの人工関節置換術、手関節・足趾の形成術など種々の手術の目的で入院される患者さんの入院診療に内科副担当として携わることで、患者さんの内科的合併症に対する対応の強化につながるとともに、外科的療法にも習熟できるリウマチ膠原病専門研修となっています。リウマチ内科研修期間中にリウマチ外科手術の見学が可能であることにもグループ診療が生かされています。
各種勉強会も盛んです。自己研鑽とはなりますが当科では「明日からの臨床に役立つ内容」を扱う毎週のリウマチ内科抄読会に加え、米国の標準的な内科テキストであるMKSAPを用いた勉強会、リウマチ外科との合同レントゲンカンファランス、神経内科専門医との症例カンファレンス(東京都立神経病院)、小児リウマチ専門医と症例カンファレンス(東京都立小児総合医療センター)など、多くの枠組みで勉強を続けています。また東京都立病院群のリウマチ膠原病科との合同Webカンファレンスも定期的に行い症例相談や情報共有を行っております。
またリウマチ膠原病診療では外来での管理もとても重要です。初めてリウマチ外来診療を担当する医師には1年間バディ(相談役)がついてわからない点や聞きたい点を相談できる体制となっています。関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの代表的疾患だけでなく多彩な疾患の外来管理を身につけることが可能です。


朝の勉強会
国際的に確立された技術や最新の知見を取り入れた、リウマチ膠原病診療に向けてのさまざまな試み
全身性エリテマトーデスの国際標準薬であるヒドロキシクロロキンは2015年に我が国の日常臨床でも使用可能となりました。当科は未承認薬であった2009年から活動を開始しましたが、治験、上市後を通じて、眼科・皮膚科等とのコラボレーションなど、市中病院ならではの診療科間の垣根の低さが最大限に生かされた活動でした。
日常的に関節液を偏光顕微鏡で検鏡して結晶性関節炎の診断も実際に自ら行っている施設はまだまだ多くないと思われます。当科は外来と病棟に偏光顕微鏡を配置し、関節液を超音波ガイドで一滴でも採取できれば迅速に確定診断をすること可能です。当科は2009年から活動を開始し2022年に関節液検査の保険収載が認められるようになりました。
一般に組織診断が望まれる各疾患では、入院診療において生検実施が律速段階になることも少なくありません。当科では各種生検(小唾液腺生検、皮膚生検、筋生検、側頭動脈生検等)を自科で実施してきました。近年では側頭動脈生検については形成外科医師にも加わって頂き、さらなる低侵襲・短時間の手技を行っております。可能な限り速やかに生検することで治療開始までのタイムラグを最小化して速やかな入院精査の進捗を得るとともに、グルココルチコイドの用量によらない早期退院と組み合わせることで全国最短レベルの平均在院日数を実現しています。
関節リウマチ診療においては国立病院機構大阪南医療センターとタキオン株式会社が開発したMiRAiを用いて毎回の受診時に包括的疾患活動性のリアルタイムな算出を行い、Treat-to-Targetを実践できる環境を整えています。患者さんはあらかじめ受付に設置されたタッチパネルで患者記録アウトカム (patient-reported outcomes) を入力します。これだけでも診察室開始時に既にRAPID3が患者さんとの間で共有されます。さらに関節所見や医師総合評価を入力すると、検査科二次システムから自動抽出された検査値とともに自動計算され、電子カルテ画面上でDAS28-CRP、CDAI、SDAIが算出され、病勢の総合的把握をその日の診療に反映させることができるのです。
全身性強皮症の分類基準には爪郭毛細血管異常が項目として設けられています。当科各診察室にはビデオキャピラロスコピーを輸入・配備し、レイノー外来で活用するとともに、全身性強皮症スペクトラムの患者さんの診療にも生かしています。レンズによるハンディな拡大鏡では検出できないさまざまな爪郭の血管異常をとらえることにより、全身性強皮症の正確な診断をいち早く行って早期治療介入につなげたいと考えております。
また、当科では関節リウマチをはじめとした膠原病・類縁疾患の治験を受託しています。新薬が世の中で使われるようになるために必要な科学的ステップである治験の実施を通して、いまだ治癒の難しいリウマチ膠原病に対する最新治療の臨床経験を積むことが可能です。
海外との交流も積極的に行っています。



臨床研究
臨床研究は自己研鑽ですが充実した臨床研究のサポート体制を行っています。
科内では定期的に臨床研究カンファを開催し各々の構想や進捗に合わせた相談を行えるようになっています。
また、当院には臨床研究部という部署が設けられており、科研費の取得から各種研修案内まで臨床研究活動を支えてくれています。主なサポートリソースを以下に記します。
- 英文校閲:ネイティブの言語学者が定期的に来院してサポートしてくれています。医局内で作業をされていますので、細かいニュアンスの確認など直接のやりとりももちろん可能です。
- 臨床研究指導:クリニカルクエスチョンから研究計画の作成、統計解析手法のちょっとした相談まで、医局内で個別相談を行うことができます。
- 統計解析ソフト:メジャーな統計ソフトであるSPSSを都立病院ライセンスとして院内LAN接続PCで常時使用可能です。医局の自席PCで解析ができますのでとても快適です。
- ポスタープリンタ:医局内にポスタープリンタを設置しています。A0サイズの一枚刷りポスターを24時間印刷可能ですから、研究成果を最大限視覚的にアピールできます。
リウマチ膠原病科では、次のような試みを通じて日本リウマチ学会学術総会や欧州・米国の国際学会等における情報発信を進めています。
- NinJa:国立病院機構相模原病院リウマチ性疾患研究部が統べる国立病院機構免疫異常ネットワークリウマチ部門(NinJa)に参加し、わが国最大の関節リウマチ症例データベース(約2万例、本邦全患者の約2%)にアクセス可能です。
- MiRAi:国立病院機構大阪南医療センターが開発したリウマチ診療支援システムを二次システムとして電子カルテに接続。さらに当科では、関節リウマチ以外の疾患の診療における最適化を目指して独自に改訂を進めている。
他院研修の院外研修制度等の受け入れ実績
現在の所属先に在籍しながら院外研修のできる制度を有する施設から、毎年のように多くのドクターが短期研修にいらしてくださっています。これまでに自治医科大学病院、洛和会音羽病院、飯塚病院、熊本赤十字病院、沖縄県立中部病院、水戸協同病院から受け入れ実績があります。指導医のもとでの外来初診例をはじめとした当科外来/病棟の診療態勢にコミットしていただくとともに、同年代のローテータや固定メンバーとの濃厚な交流が行われています。お問い合わせは当院臨床研修支援室( tm_kenshui@tmhp.jp )までお願いいたします。
当科研修を終えたら
当科研修後の活躍の場についても当科は常に検討しています。人事はいつも「めぐりあわせ」ですが、当科では以下の施設と採用情報等についてやりとりをしています。
<協力している施設>(順不同)
- 東京都立病院機構東京都立多摩北部医療センター リウマチ膠原病科
- 東京都立病院機構東京都立多摩南部地域病院内科(リウマチ膠原病部門)
- 東京都立病院機構東京都立大塚病院 リウマチ膠原病科
- 帝京大学ちば総合医療センター 内科(リウマチ)
- 沼津市立病院リウマチ膠原病科
- 国立病院機構東京病院 リウマチ科
当科関連の書籍の紹介


(左)「病診連携リウマチ膠原病診療ポケットマニュアル」(右)「骨関節内科」