胆膵疾患の診断・治療
胆膵疾患
総胆管結石や膵がん、胆道がんに対する診断・治療を目的として、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)、EUS(超音波内視鏡検査)、EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)などに積極的に取り組んでおります。急性胆管炎や急性膵炎などの救急疾患に対して、可能な限り迅速に対応できる体制を整えています。2020~2022年はコロナ禍の影響により内視鏡件数が減少していましたが、ようやく元の水準に戻ってきました。2017年に超音波内視鏡装置とスコープを導入以来、EUS、EUS-FNAの件数が飛躍的に増加しており、2024年度の施行件数は超音波内視鏡検査:717件、EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診):96件、でした。
急性膵炎後の膵周囲液体貯留(膵被包化壊死:walled-off necrosis [WON]、膵仮性嚢胞:pancreatic pseudocyst [PPC] )に対するEUSガイド下ドレナージ(EUS-TD)をはじめ、EUS-HGS(EUS-guided hepaticogastrostomy)やEUS-CDS(EUS-guided choledochoduodenostomy)などinterventional EUSも施行しています。
表1) ERCP施行件数(年度別)
2022年 | 2023年 | 2024年 | |
ERCP(関連処置含む) | 432 | 606 | 575 |
超音波内視鏡検査(EUS) | 635 | 713 | 717 |
EUS-FNA | 53 | 85 | 96 |
2020年より新型の胆道鏡(胆管内を直接観察する内視鏡)であるSpyGlass™DSを導入しました。SpyGlass™DSは、従来の胆道鏡に比べて操作性が向上、デジタル化による画質の向上が特徴であり、また、ディスポーザブル(使い捨て)で簡便に使用可能のため、より実用的になっています。SpyGlass™DSを胆管・膵管内に直接挿入することにより、これまで直接見る事の出来なかった胆管や膵管を高精細なデジタル映像で観察でき、胆管・膵管腫瘍の精密検査が可能となります。また、巨大な結石は電気水圧衝撃波胆管結石破砕装置(EHL)と呼ばれるデバイスを用いて、衝撃波により結石を砕いて治療することが可能となりました。難易度の高いとされる胆道・膵管病変の検査・治療を、これまで以上に高いレベルで行えることが期待されます。
EUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引法)
EUS-FNAとは、先端に超音波発生装置を取り付けた内視鏡(超音波内視鏡)を用い、病変組織を採取する検査方法です。画像検査で膵臓や胆道、リンパ節などに腫瘍の存在を疑ったり、消化管粘膜下腫瘍を認めた際などに、組織や細胞を採取して詳しく調べる目的で行います。内視鏡の先端に超音波の装置がついており、胃や十二指腸の内側から超音波で病変の位置を詳しく確認します。そして、そこに向かって細い針を刺し、検体を吸引して採取します。この検査により、がんかどうかを調べたり、治療方針を決めるための重要な情報を得ることができます。EUS-FNAは、体にメスを入れずに行える低侵襲の検査であり、当院では検査のみを目的とする場合、通常1泊2日のスケジュールでおこなっています。検査中は鎮静剤を使用し、ほとんど眠ったような状態で受けていただけますので、苦痛は最小限に抑えられます。
ダブルバルーン内視鏡によるERCP(DB-ERC)
過去に胃や腸の手術を受けられた患者さんは、腸のつなぎ方(再建方法)によって、通常の内視鏡では胆管や膵管に到達することが難しくなることがあります。当院では、このような再建術後の方にも対応できるダブルバルーン内視鏡(EI-580BT、富士フィルム)という特殊な内視鏡を用いて、胆管や膵管の検査・治療(DB-ERCP)を行っています。この内視鏡には2つのバルーンがついており、それを使って腸を少しずつたぐり寄せながら、深い位置にある胆管や膵管まで安全にアプローチすることが可能です。胆管結石に対する結石治療、閉塞性黄疸に対するステント留置など、通常では難しい症例でも治療可能なことが大きな特徴です。2024年度、術後再建腸管症例に対するDB-ERCPの施行件数は40件でした。
膵がん・胆道がんについて
膵臓がんや胆道がんは、他のがんと比べて診断が難しく、症状が出にくいまま進行してしまうことが多いため、早期発見が難しいとされています。また、治療も難しく、あらゆるがんの中でも最も治療成績が厳しいとされているのが現状です。そのため、チーム一丸となって、早期発見や治療成績の向上を目指しています。
<当科の取り組み>
■ 早期発見をめざして
・超音波内視鏡(EUS)やMRI、CTなどの高度な画像検査を組み合わせて、がんの早期発見につなげます。
・特に、IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)などの膵嚢胞性病変については、膵がんの前段階となることがあるため、EUSやMRI検査などで厳重に経過観察・評価を行っています。必要に応じて更なる精密検査を行い、がん化の兆候を見逃さないよう努めています。
■ 正確な診断・治療選択、高度な内視鏡治療
・EUS、CT、MRIなどの詳細な画像診断により、病変の位置・大きさ・周囲への広がり(進行度)を正確に把握します。
・超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-FNA)やERCPなどの検査により、がんの種類や悪性度を正確に診断します。
・当院では、外科と密に連携し、手術の可否を含めた最適な治療方針の検討を行っています。カンファレンスを通じて、患者さん一人ひとりに合わせた治療戦略を立てています。
・がんによる胆管の閉塞や消化管の狭窄に対しては、内視鏡(ERCP)によるステント治療やEUSガイド下治療(EUS-BD)、など低侵襲で効果的な治療を行っています。これらには高度な内視鏡技術を要しますが、当院では積極的に行っています。
■ がん薬物療法(化学療法)
- ・手術が難しい進行がんや再発例に対して、がん薬物療法(化学療法)を積極的に実施しています。膵がんに対する手術前の抗がん剤治療(術前化学療法)も当科で対応しています。
・最新のガイドラインに基づく治療レジメンを導入し、副作用の管理にも細心の注意を払いながら、治療の効果と患者さんの生活の質(QOL)の両立を目指しています。
・当院はがんゲノム医療連携病院であり、「がん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)」を行うことが可能です。遺伝子診療科と連携し、がん遺伝子パネル検査の結果に応じて遺伝子情報に基づくがん個別化治療へ繋げることが可能です。
・必要に応じて、緩和ケアや栄養管理、がん相談支援なども組み合わせて、患者さんとご家族を支える体制を整えています。
関連診療科・部門
2025年9月24日 最終更新