ヘルニア(そけい・腹壁)外科

ヘルニア(そけい・腹壁)外科

ヘルニアとは?

ヘルニアとは、もともと「なだらか」なお腹の壁の一部が突出した状態のことをいいます。突出した部分に腸などのお腹の中の臓器が入り込むと、様々な日常生活を妨げる原因となります(腹痛や違和感など)。放置すると通常は徐々に大きくなり、一度突出すると、(成人は)自然に治ることや薬にて治ることは無く、手術のみが唯一の治療法です。

1.そけい(鼠径)ヘルニア

(1)そけいヘルニアとは?

そけいヘルニアとは
両足の付け根(そけい部(鼠径部)といいます)のお腹の壁を構成する組織が弱くなってふくらみ、お腹の中の腸などの臓器が飛び出してしまう病気です(俗に「脱腸」とも呼ばれています)。まっすぐ立つ姿勢をとっていたり、力んだりしてお腹に圧がかかると腸が出てくるので違和感痛みがあり、日常生活に支障をきたすことがあるために治療が必要です。時に飛び出した部分からはまり込んで戻らなくなり、ひどい腹痛を起こして救急外来(ER)を受診される方がいらっしゃいます(この状態を嵌頓(かんとん)といい、緊急手術が必要な場合があります)。

そけいヘルニアとは(情報サイト「そけいヘルニアノート」より)

(2)そけいヘルニアの治療

お腹のなだらかな壁の構造が破綻(はたん)しているために起きています。一度ヘルニアになると(成人であれば)自然に治ることや、薬により治ることは無く、手術によりお腹の壁を修復することが必要です。恥ずかしい部分なので受診をためらわれるかもしれませんが、日本で年間約10万人以上(注)の方が受けられている手術なので、少しでも症状があれば是非ご相談ください。「持病があるから」、「たくさん薬を飲んでいるから」などとあきらめないで(むしろその様な患者さんが多く、当院は総合病院ですのでほとんどの状態に対応可能です)、お困りの際は是非受診をご検討ください。

(注)(2017年現在)National Clinical Database(NCD)における鼠径部ヘルニア手術件数より

鼠径部ヘルニア手術件数グラフ(情報サイト「そけいヘルニアノート」より)

(3)手術までの流れ

1.初診外来受診(水曜日または木曜日(隔週))にて診察
 (他の平日を受診された場合は改めて担当医の外来を受診していただくことがあります)

診察

 (もともと飲まれているお薬の確認をします、お薬手帳を必ずご持参ください)

矢印

2.手術に必要な検査をします(初診の日だけで検査は終わることがほとんどです)

 ≪必ず行う検査≫
    採血、レントゲン、心電図

必ず行う検査

 ≪行うことが多い検査≫
    腹部/そけい部の超音波検査、CT検査

行うことが多い検査

 ≪その他必要に応じて行う検査≫
    心臓超音波検査、呼吸機能検査など(持病や内服薬によって担当医が判断します)

矢印

3.再診(検査結果や手術内容の説明、相談)、麻酔科の受診、入院サポートセンター(または日帰り手術センター)にてオリエンテーション
 (*入院サポートセンター、日帰り手術センターのページもご覧ください。)

再診

矢印

4.手術(前日または当日来院)

手術

(4)手術方法について

・当科では第1選択として、創が小さく痛みの少ない腹腔鏡下修復術をお勧めしています。これは、お腹を3か所小さく切開してお腹の中からメッシュを用いてお腹の壁を修復する方法です。当科では2013年から腹腔鏡下修復術を導入、多数の治療実績があり実際に手術を受けられた患者さんからも高評価をいただいております。脱出している(ヘルニアの)部位の確認、診断が容易なために確実な修復が可能で、左右両方にヘルニアがあっても同じ皮膚の傷で同時に修復が出来るメリットがあります。手術は全身麻酔で行い、手術に要する時間は1-2時間程度です。

手術位置
術後の創部状態
術後の創部

・前立腺がんの手術後の患者さんや、他手術にて下腹部に高度の癒着(腸などのお腹の中の臓器がくっついていること)が予想される場合は鼠径部切開法(前方アプローチ)という、そけい部の皮膚を5cm程度切開して行う手術法をお勧めしています。こちらもメッシュを用いて修復します。手術時間は全身麻酔または脊椎くも膜下麻酔(下半身の麻酔)で1-2時間です。

鼠径部切開法の創部
鼠径部切開法(前方アプローチ)の創部

1人1人の患者さんにもっとも良いと思われる手術方法を相談します。

(5)当院での手術を希望される方に

そけいヘルニアの治療に関しては他院からの紹介状なしでも毎週水曜日か隔週木曜日の担当医の外来を受診していただけます。お電話にてご予約ください。
(紹介状無しで受診される場合は規定の初診料をお支払いいただきます、なるべくかかりつけの先生に紹介状を記載してもらってください、手術後の経過もご報告しています)

●病院代表:03-3633-6151(内線2740/5286)

(6)手術をすることが決まったら

そけいヘルニアは日帰りまたは1泊での手術(デイ・サージェリー)から前日入院の2泊3日~3泊4日程度の入院治療まで、ご希望に応じて相談しております。全身麻酔手術後当日のご帰宅はご不安と思いますが、日帰りの場合もご帰宅後の相談・連絡先など手術前後のサポート体制も充実しておりますのでご安心ください。
(日帰り手術センターのページもご参照ください、お体の状態によってはご希望に沿えない場合もあります)

入院の場合は原則手術日の夜から食事が可能で、翌日には退院可能です。最低2-3週間は重たい物(20kg以上)を持つなどの腹圧をかけるようなことはなるべく避けていただくようにお願いしていますが、歩行やジョギング、入浴については問題ありません。その後は外来で創部の確認(抜糸は不要の皮膚縫合法で行っています)含めフォローいたします。(回復の程度には個人差がありますので、術後の生活については担当医と相談してください)

2.腹壁ヘルニア(瘢痕ヘルニア、臍ヘルニアなど)

手術の既往がある方などの腹部の開腹した創部がふくれてきてしまう腹壁ヘルニアや臍ヘルニアについてもご希望に応じて手術のリスクをご理解いただいた上で積極的に治療を行っております。腹腔鏡(カメラ)を使用した鏡視下アプローチも可能で、より創が小さく、体に負担の少ない最新の手術手技を積極的に取り入れております。当院ならではの「総合力」を生かして、心肺機能や年齢などで体力に不安がある方にもご希望に応じて積極的に治療を行っておりますので、是非お気軽に担当医外来を受診してください。

腹壁瘢痕ヘルニア状態
腹壁瘢痕ヘルニア
臍ヘルニア状態
臍ヘルニア

腹壁瘢痕ヘルニアの原因

腹壁瘢痕ヘルニアは病気やけがによる腹部の手術後の傷の場所に一致して起こるヘルニアです(下図)。皮膚と皮下脂肪の内側に腸をはじめとする内臓が飛び出すことを防ぐ筋膜という固い組織がありますが、手術後その筋膜がうまく接着せず(一度は接着するものの腹圧によって離開してしまう)ことが原因です。開腹手術を受けた患者さんの約10%以上に起こるといわれています。
飛び出す頻度は年齢や性別、基礎疾患の有無、傷の大きさよって変わりますが、お腹の手術を受けた方は(どんな小さな傷であっても)発症するリスクがあるといえます(お腹の手術の後に重い物を持たない様に指導されるのはこのためです)。

腹壁瘢痕ヘルニアのイメージ

腹壁瘢痕ヘルニアの治療、適応について

自然治癒や薬の治療は無く、手術が唯一の治療法です。

腸が飛び出したまま戻らない嵌頓(かんとん)という状態なると痛みや吐き気、嘔吐の症状があったり放置して悪化すると腹膜炎を起こしたりすることがあるために緊急手術が必要なことがありますが、通常は命に関わるものではありませんので手術が必ず必要というわけではありません。しかし、内臓が出てくる不快感、不安やお腹全体が膨らむ見た目の悪さなど、身体的・精神的な負担になりがちです。当院では、こうした術後の患者さんのお悩みに出来るだけお応えしたいと思っております。ヘルニアや全身の状態よって個人差がありますが概ね手術後1週間程度で退院でき、2-3週間後にはほぼ通常の生活に戻ることが可能です。(生活習慣病や肥満の患者さんは手術のリスクをさげるため病気のコントロールや減量を行ってからの手術をお勧めすることがあります)

腹壁瘢痕ヘルニアの手術

メッシュという人工の膜をお腹の中やお腹の壁の中に入れて穴(飛び出す入口)を塞いで、臓器が出てくるのを防ぐ方法を行います。以前は開腹手術で大きな傷で行うことがほとんどでしたが、技術や器械の進歩により内視鏡下(または内視鏡補助下)に小さな傷で行うことが可能になってきています。(下図は一例)

修復後のイメージ

担当医 外科(消化器・一般外科)医長 那須 啓一(なす けいいち)

担当医

外科(消化器・一般外科)医長 那須 啓一(なす けいいち)

◆初診外来:水曜日/木曜日(隔週)
◆2003年 横浜市立大学医学部卒業

≪所属学会・研究会・資格等≫
日本外科学会専門医、日本消化器外科学会指導医・専門医、日本大腸肛門病学会指導医、大腸肛門病専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本内視鏡外科学会、日本ヘルニア学会、日本短期滞在外科手術研究会ほか

2023年1月25日 最終更新