頭頸部がんの放射線治療

頭頸部がんとは

頭頸部とは顔面から頸部までの範囲を指します。この範囲に含まれる、鼻、口、のど、耳などの部分に出来るがんが頭頸部がんです。

治療の選択に関して

頭頸部がん治療の選択肢として手術もしくは放射線治療(+抗がん剤)があります。一般的には食べる、話す、聞く、嗅ぐといった日常生活で大切な機能や形態の保持を考え、加えてがんの放射線感受性を考慮しながら治療方針を決めていきます。早期がんでは放射線治療もしくは機能温存が可能な場合に手術が選択され、進行がんでは手術が困難である場合もしくは機能温存の希望がある場合は放射線治療+抗がん剤の併用療法である化学放射線治療、機能温存の希望がない場合は手術を行うことが多いです。また早期の口腔がんの場合に機能・形態温存できる治療法としてがんの内部に線源を刺入する組織内照射をはじめとする小線源治療を選択することも可能ですが、その場合は他院へ紹介となり、他院での治療となります。
放射線治療の目的としては2種類あり、一つ目は他の臓器に転移のない頭頸部がんに対してがんを根本から治す放射線治療(根治照射)を行います。もう一つは遠隔転移のあるがんでも疼痛、出血、摂食の妨げなどがんによる症状を和らげる照射(緩和照射)を行うことがあります。
標準的な治療を考慮した上での当院での部位、ステージ別の治療概要は以下の通りになります。(図1)

(図1)
ステージ別の治療概要

(早期がん)

(早期がん)

Ⅲ/Ⅳ(進行がん)
切除可能切除不能
機能温存
希望なし
機能温存
希望あり
上咽頭放射線治療化学放射線治療化学放射線治療
中咽頭
下咽頭
喉頭
放射線治療もしくは外科切除外科切除±
化学放射線治療
化学放射線治療
口腔外科切除もしくは小線源治療外科切除±化学放射線治療(化学)放射線治療
もしくは化学療法

当院での放射線治療に関して(図2)

以前は左右2方向から照射を行うため、唾液腺などの重要臓器を守って照射することが困難でした。唾液腺に照射されることで唾液の分泌が悪くなり、口の中が乾燥します。ダメージが大きく治療後もその乾燥の回復が見られないことがしばしば見られました。
当院では高精度放射線治療機器を使用して、強度変調放射線治療(IMRT)を用いた治療を行います。IMRTという照射技術を駆使することで、がんに線量を集中させながら唾液腺などの重要臓器を避けた照射が可能となり、その結果、多くの患者さんで口内乾燥の早期改善が認められています。

駒込病院放射線治療部_頭頸部がん1
(図2) IMRTでは、両側の唾液腺(青)を避けながら、がん(赤)に集中した照射がなされています。

治療の流れ(図3)

図式
(図3)

代表的な副作用

急性期:照射期間中〜直後

  • 粘膜炎(口内炎や咽頭炎)
    治療を始めて2-3週間から炎症が現れ、食べ物や飲み物が飲み込みにくくなったり、痛みを感じたり、声がかすれたりします。症状が強い場合は、痛み止めなどを使用します。症状がある間は、刺激のある食べ物を避け、会話を制限するなど、口やのどの安静が大切です。多くの場合、粘膜炎の症状は治療終了してから4-6週間で収まります。
  • 皮膚炎
    治療を始めて2-3週間から炎症が現れ、放射線が当たった皮膚が赤くなったり、かゆくなったりすることがあります。塗り薬、痒み止め、痛み止めなどを使用します。多くの場合、症状は治療終了してから4週間ほどで収まりますが皮膚に軽い色素沈着が残ることもあります。
  • 味覚障害
    苦みなど特定の味だけ強く感じられたり、一時的に全く味覚を感じなくなる場合があります。症状は治療終了してから半年-1年くらいで徐々に改善することが多いのですが、治療前の状態まで戻らずに微妙な味が感じにくくなる方もいます。
  • 口内乾燥
    耳下腺などの唾液腺に放射線が当たると唾液の分泌が悪くなり、口の中が乾燥します。口の湿り気を保つためにこまめに水を飲むあるいは粘膜を潤すうがい薬を使います。症状は治療終了してから半年-1年くらいで徐々に改善することが多いのですが、治療前の状態まで戻らずに口の中の乾燥感が続くことがあります。また唾液分泌の低下によって虫歯が悪化することがありますので、定期的な歯科医受診などの口腔ケアを行います。

晩期:治療数ヶ月〜数年後

  • 頸部のむくみ、嚥下障害
    治療に伴うリンパ節の障害やリンパ管の損傷によって頸部のむくみが生じることがあります。むくみによる影響は外見上の問題だけではなく、顔面や口唇、頸部の腫脹は発声や嚥下に大きな影響を与えることもあります。治療後に定期的に外来で診察させて頂きます。
  • 味覚障害
  • 口内乾燥

2021年6月 小川弘朗 更新