膵臓がんの放射線治療

はじめに

膵臓がん(膵がん)は、近年では手術・抗がん剤・放射線治療を組み合わせることで治療成績は改善しつつあります
当院では外科・内科・放射線診療科の3科で毎週キャンサーボード(多職種合同カンファレンス)を行って患者さん毎に最適な治療について議論を重ねています。

膵がんの治療

膵がんは診断の時点から遠隔転移(肝臓や肺などの遠くの臓器に転移すること)や播種を来たしていることがあるため、治療に入る前に癌の広がりをCTやMRIなどの画像検査・内視鏡検査・場合によっては腹腔鏡による検査を行ってよく調べることが必要です。以下におおまかな治療の説明をお示しします。なお、癌やそれぞれ個人の状況によって以下の限りではないことをあらかじめご了承ください。

①切除可能膵がん

現在の日本の標準的な治療としては、手術の前に化学療法(抗がん剤治療)を行ってから手術を行うことが一般的です。当院では、これまで化学放射線療法(放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせた治療)を手術前に行う治療法で良好な成績が得られていることから、がんの状態によって手術前に化学放射線療法・化学療法のどちらを行うか判断しています。
手術前に化学放射線療法をやることで3つの利点が期待されています。1つめはあらかじめ癌を縮小させることにより手術で癌を取りきれる確率をあげること、2つめは抗がん剤を同時に使用することで画像に写らない微小な転移が治療できること、3つめは化学放射線療法後の画像検査で遠隔転移や腫瘍の増大があるような場合は先に手術を行っても早期に再発する可能性が極めて高いためもともと手術を行うメリットは少ないと考えられ、そのような患者さんはむしろ手術を避けることができます。
化学放射線療法終了後約1ヶ月で再度検査を行って、根治的手術(癌を取り去る手術)が可能な場合にはそのさらに約2~4週後に手術を行います。手術の後には標準治療に準じてさらに化学療法を半年程度行うことが一般的です。

②切除不能膵がん(遠隔転移がない場合)

治療前の検査で、癌の広がりによって手術は難しいと判断され、遠隔転移がない場合には、癌を抑えることと遠隔転移を起こさないことを期待して化学放射線療法を行っています。その後は化学療法を継続することが一般的です。化学療法を先に行ってから化学放射線療法を行うことや、化学療法だけを行うこともあります。

③切除不能膵がん(遠隔転移がある場合)

遠隔転移がある場合には、全身的な治療が必要ですので化学療法が勧められます。腫瘍によって痛みや黄疸などがある場合に、症状緩和を目的として放射線治療を行うこともあります。

膵がんの放射線治療

①②に対する化学放射線治療を行う場合には、50Gy / 25回で治療を行っています。1日1回治療を行うので、約5週間の治療期間になります。強度変調放射線治療(IMRT)の技術を用いて、腫瘍には線量を集中し、正常臓器には線量を低減した治療を行います。
治療の前に治療計画を立てるためのCT(シミュレーションCT)を撮影します。呼吸や食事の量で膵臓の位置は動くので、その対策として呼吸による腫瘍の動きを画像で確認して腫瘍が確実に照射されるように計画することと、治療の時間には空腹になるように条件を揃えて治療しています。
照射時には、CTをとって計画通りの位置に腫瘍があることを確かめてから治療しています。治療室のベッドに横になってから、治療が終了するまでは15分程度です。

代表的な副作用

膵臓は上腹部の中央付近に存在し、近くには胃・十二指腸などの腸管、肝臓、腎臓、脊髄などの重要な臓器が位置しています。

図1:膵がんのCT画像

有害事象の出現の仕方は各個人でばらつきが大きく、また、化学療法や手術による影響もございます。ご不明な点や心配な点があるときは放射線治療担当医にご気軽にご相談ください。以下に代表的な有害事象をお示しします。

  • 急性期の副作用
    胃炎・腸炎…吐き気、食欲不振などの消化器症状
    胃・十二指腸潰瘍
  • 晩期の副作用
    胃・十二指腸潰瘍
    肝機能・腎機能の低下

2021年7月 更新 早川沙羅