乳がんの放射線治療のご紹介

乳癌の放射線治療

乳癌の患者さんのうち多くの方が経過中に放射線治療を受けられます。乳癌の手術後の再発予防の目的*、または転移した病変に対する症状改善を目的にした治療です。
ここでは、主に乳癌の術後の放射線治療について説明いたします。

目次

長く続く治療のため、ご自宅や職場の都合により、他の病院で手術を受け当院で放射線治療を行う方も多くいらっしゃいます。随時紹介を受け付けておりますので、その場合は予約を取得の上、紹介状、手術前の画像検査、病理検査報告書、手術記録などをご持参ください。

*当院では手術を行わずに(手術の代わりとして)放射線治療を行うことはありません。

術後放射線治療の目的

手術で十分に腫瘍を切除したつもりでも、わずかな病変が残存し局所再発する可能性があります。そのような目には見えない病変に対して、再発のリスクが高い部位に絞って放射線治療を行うことで局所再発が大幅に減り、その結果治療を受けた人の方が治療成績が良くなる(長生きする)ことが示されています。治療期間は1か月以上に及び、副作用もある治療ですが、乳癌の手術を担当した医師から提示された際にはぜひ治療を受けるようおすすめしています。
乳房全摘出術を受け、再発のリスクが低いと判断された患者さんはこれには当てはまらず、放射線治療の必要はありません。

治療の方法

斜め前とうしろから乳房、または乳房があった胸壁に放射線を照射します(接線照射)。
必要に応じてリンパ節がある部位にも照射範囲を広げることがあります。
当院では各種ガイドラインに従い、照射範囲を設定しています。また、放射線が治療すべき部位に均一に照射されるようにField in fieldという手法を用いるなど工夫して治療計画を行っています。

東京都立駒込病院 - 乳がんの放射線治療
乳房温存手術後の一般的な放射線治療の線量分布と照射野

治療は月-金曜日の週5日、治療に先立ってシミュレーション(放射線治療を行う範囲の場所決めと計算)を午前中に行います。慎重に位置合わせを行い、計画した通りの治療が行われるように気を付けています。体につけるインクの印は位置合わせに非常に重要ですので、消えないよう注意してください。

放射線治療のスケジュール(仕事や家事との両立)

月曜日から金曜日の週5日(祝日や機械のメンテナンス日は除く)、16回から最大30回の治療を行いますので、3~6週間の治療期間になります。
一般に治療を休むと治療の効果が低下するといわれていますので治療開始後はやむを得ない場合を除き、毎日治療ができるように日程の調整をお願いいたします。
乳癌の治療後の患者さんの中には仕事や家事をしながら治療を行っている方もいらっしゃいます。当院での治療までのスケジュールは以下の通りですので、スケジュール調整の参考にしてください。

当院の治療スケジュール例(下の1-3に対応しています。)

カレンダー

1.放射線科初診

放射線治療の初診の日には治療や治療の準備は行いません。診察と治療の説明を受けていただきます。

2.放射線治療計画(シミュレーション)

初診日の翌日以降、予約が空いているときに行います*。治療計画は午前中に行います。位置合わせのためにCTを撮影し体に印をつけます。着替えと説明の時間を含めて所要時間は1-2時間です。
それから医師、医学物理士、技師などがコンピューター上で治療の範囲の設定や線量の計算を行います。
実際の治療は、乳房温存術後の場合は治療計画の2日後、乳房全摘術後の場合は約1週間後から始まります。(土日を除く)

*手術の創の具合や、併用する治療のスケジュールによってはすぐに治療計画を行わないこともあります。

3.治療開始

初回の治療は15時ごろから行います。祝日と機器のメンテナンス日を除いて、平日は毎日治療を行います。
2回目以降、治療終了までは毎日決まった時間に来院していただきます。照射室の技師と相談して、おおむね10時から15時までの間に設定していただきます。用事や診察等がある場合はご相談ください。治療中は毎週1回放射線治療担当医の診察があります。

放射線治療の主な副作用

重篤な副作用が出ることはまれで、ほとんどの方は日常生活に支障をきたすことなく治療を続けられます。代表的な副作用には以下のようなものがあります。疑問点は放射線治療担当医師にご相談ください。

急性期障害(治療中から治療直後の副作用)

皮膚炎 ほとんどの方にみられる副作用です。保湿剤や消炎鎮痛剤を使用して症状が落ち着くのを待ちます。症状があっても、こすったりせずに、担当医や看護師と相談しながら回復を待ちます。一般に終了後1か月程度で軽快していきます。

晩期障害(治療後しばらくしてからの副作用)

皮膚の色調変化、硬化、汗の分泌低下
放射線肺炎
腕のむくみ
心臓への影響 (左側の治療の場合)

放射線治療の回数について

従来の治療と短期照射

乳癌術後の放射線治療は昔から中等度(45~50Gy程度)の線量で25回/5週間程度の期間の治療を行うことが一般的でした。前述のとおり放射線治療を行うことで再発の予防効果はありますが、5週間の治療期間を負担に感じる方は多くいらっしゃいます。できれば短期で治療を済ませたいというニーズから、40Gy程度の線量を15回程度で治療をすることで代用できるのではないか(1回あたりの線量が多くなる分、総線量を抑えても理屈上同等の効果がある)という仮説が出され1990年代に検証されました。
英国(START-A START-B試験)、カナダなどの試験ではそれぞれ1000人以上の患者さんをくじ引きで短期照射(13~16分割)か通常分割(25回程度)のどちらかに振り分け経過を観察しました。その他にも多数の試験がなされ、20年ほどの経過観察期間になっています。
これらの試験を統合してみると

  1. 治療の効果(再発予防効果)に差はない
  2. 晩期反応、治療後の見た目も差はない
  3. 急性期反応は短期照射のほうが軽度である

という結論が得られ、短期照射が標準的な治療と考えられています。
国内でもJCOGという臨床試験グループで2010年ごろから同様の治療を行う試験が(JCOG0906)が実施されました。その結果、安全性が検証され、国内でも短期的には特に副作用の増加なく期間短縮が可能という結論が得られています。

当院での短期照射の導入

当院でも2017年より短期照射を開始しました。日本のJCOG試験で行われた治療に合わせて、1回あたり2.66Gyで治療を行っています。(下表参照)
仕事や家の都合で長い治療期間がネックになることがありましたが、治療期間が2週間ほど短くなるためメリットは大きいとの評判をいただいております。

参考 治療回数と期間

治療治療回数1回の線量総線量期間(目安)
通常分割
従来型
25回2.0Gy50.0Gy5週間
30回2.0Gy60.0Gy6週間
短期照射16回2.66Gy42.56Gy3週間
20回2.66Gy53.20Gy4週間

ブースト治療の要否について

乳房部分切除後に放射線治療を行うことで局所再発のリスクが軽減することを解説いたしました。腫瘍があった部位など、特に再発のリスクがある部位にはさらに治療を追加することで治療成績が上がるのではないかというアイディアが出されました。
そのような仮説のもと1980年代終わりから90年代にかけてヨーロッパでEORTC 22881-10882試験という臨床試験が行われました。この試験では乳房部分切除後の患者さんに、[1]25回の放射線治療をする、[2]25回に加え、腫瘍があった場所に絞って8回の治療を追加する。という2グループに分けて治療を行いました。

その結果、腫瘍があった場所に8回の追加照射を行うことで局所再発のリスクが減少することがわかりました。ただし良いことばかりではなく、治療期間がのび、治療した部位の乳房が固くなりやすいという代償があります。
そのため、当院では特にメリットが多いとされる次のようなグループに属する患者さんを対象に5回(10Gy)のブースト照射を行っています(短期照射の場合は4回)。

  1. 手術のマージンが少ない
  2. 40歳未満

ご紹介いただく先生、受診を希望される患者さんへ

当院では東京都内を中心に、多くの施設からの乳癌術後の患者さんの紹介を受け治療を行っています。
ご紹介いただく際には、患者さんに当院放射線治療部初診の予約を取得するようお伝えいただき、紹介状、手術前の画像検査、病理検査報告書、手術記録を持参いただきますとスムースに治療に取り掛かれます。治療終了後は、お返事、照射記録とともにご紹介いただいた先生の元にお戻りいただきます。
ご不明な点がございましたらお気軽に放射線治療部医師までご連絡ください。

2021年7月更新 清水口卓也