脳だけでなく「脊髄」も見る―多発性硬化症の進行を見逃さない上で必要な視点

脳だけでなく「脊髄」も見る―多発性硬化症の進行を見逃さない上で必要な視点

多発性硬化症(MS)に対する治療は近年劇的に進化し、最近でははっきりとした「再発」をみることが非常に少なくなりました。人類はMSを克服したのでしょうか?答えはNoです。MSにおいて、「安定して見える患者さん」でも実は病気が静かに進行している可能性があることを過去にご紹介しました(多発性硬化症におけるくすぶり炎症とは?多発性硬化症におけるPIRA研究)。

このたび発表した私たちの研究[1] では、この“見えにくい進行”を捉える手がかりとして、「脊髄の萎縮」に注目しました。脊髄は運動や感覚の情報を伝える重要な構造ですが、MRI撮影における保険適応の問題もあり、脳に比べて評価される機会は多くありません。私たちは、日本の複数施設で診療されている120名のMS患者さんを対象に、約2年間のMRIデータを用いて、脊髄(首の高さにあたるC2–3レベル)の断面積の変化を詳しく解析しました。

講演2

 対象とした120名の患者さんは、その6割超が「病勢が落ち着いた状態」(再発や障害進行、新規MRI病変を認めない状態)でしたが、脊髄は年間約0.8%の割合で萎縮していることが分かりました。さらに、脳MRIでは非常に安定している(=脳萎縮進行がない)と判断される患者さんの中にも、脊髄萎縮が進んでいる例が存在しました。これは、「再発がなく、脳MRIも落ち着いている=病気が進んでいない」とは必ずしも言えないことを意味します。
興味深いことに、これらの患者さんではむしろ脳内のMS病変は少ないことがわかりました。つまり、病勢は落ち着いていてかつ脳内の病変が少ないにもかかわらず脊髄萎縮が進行している例が少なからずあり、脊髄萎縮は「より純粋な神経変性」を反映している可能性が示唆されました。
本研究の結果から、MSの経過を正しく理解するためには、脳だけでなく脊髄にも目を向ける必要がある、という点です。安定していると考えられる患者さんにおいても、脊髄MRIによる萎縮評価により、病気の進行をも逃さず捉えることができる可能性があります。


[1] Yokote H, Miyazaki Y, Fujimori J, Adachi S, Toru S, Niino M, Nakashima I, Miura Y, Nishida Y, Misawa S. Characterizing spinal cord atrophy in multiple sclerosis patients without disease activity or brain atrophy progression. Mult Scler Relat Disord. 2026 Jan 10;107:106990. doi: 10.1016/j.msard.2026.106990. Epub ahead of print. PMID: 41547106.