新生児科 診療内容

診療内容

新生児期のあらゆる疾患に対応します。手術が必要な疾患にも対応が可能です。

§1 高度医療

低体温療法

出生後に酸素欠乏や低血圧となった新生児を生後72時間・33.5℃に冷却する治療で、脳へのダメージを軽くする可能性があります。 冷却期間中は、血圧や脳波をモニタリングします。36週以降で出生し、生後6時間以内の児が対象です。当科では年間約10例行っています。

一酸化窒素吸入療法

重度の肺高血圧のために肺に血液が流れにくくなり、体に十分に酸素を取り込めなくなった新生児に、人工呼吸器を介して肺に一酸化窒素を投与する治療です。 一酸化窒素は、肺の血管を開いて、肺高血圧を軽減させ、血液が肺に流れやすくなります。たくさんの血液が肺に流れることで、肺から体にたくさんの酸素を取り込むことができるようになります。当科では年間約10例行っています。

低酸素療法

先天性心疾患など肺に血液が流れすぎる新生児に、低い酸素濃度(20%以下)の空気で呼吸をしてもらう治療で、肺の血管抵抗が高くなり、肺に血液が流れにくくなります。

高頻度振動換気

炎症の強い肺や壊れやすい肺をもつ新生児、とくに早産児に、少ない換気量で、頻回に呼吸を行う人工呼吸器の治療で、肺の傷害を最小限にする可能性があります。 当科では、高頻度振動換気を含め、気管挿管を伴う人工呼吸器療法を年間200例前後行っています。

体外式膜型人工肺
(ECMO:Extracorporeal membrane oxygenation)  集中治療科

子供の心臓または肺が適切に機能していない場合、または治癒するために時間が必要な場合に、人工の心肺を使用して生命を維持する方法です。 ECMOを使用すると、酸素の少ない血液が機械に引き込まれ、過剰な二酸化炭素が除去されて酸素が追加され、酸素が豊富な血液が体に戻ります。ECMOは、集中治療科の先生と相談し、実際に行う場合は小児集中治療室に移動します。

急性血液浄化療法・腹膜透析 腎臓・リウマチ膠原病科

腎臓の機能が悪化し、水分の過剰貯留、不要成分の蓄積がみられる新生児に、腎臓の代わりとなって行う治療です。急性血液浄化療法は、腎臓内科や集中治療科の先生と相談し、多くは小児集中治療室に移動して行います。

カテーテル検査・治療  循環器科

細い管(カテーテル)を主に足の付け根の血管から入れて心臓まで進めます。カテーテルを心臓や血管の中に入れて、圧力や酸素濃度を測定するなどの検査や、 血管を広げるまたは閉じるなどの治療を行います。循環器科の先生と相談し、検査や治療の前後の管理を新生児科で行います。

ドナー母乳

ドナー母乳は、母乳提供者としての基準を満たした女性から提供された母乳で、検査に合格し、かつ低温殺菌処理をした母乳です。赤ちゃんには出産したお母様の母乳が最適です。 そうはいっても、母乳がなかなか出ないお母様もいらっしゃいます。そのような場合、母乳バンクから提供されたドナー母乳をあげることが一般的になりつつあります。 日本小児科学会は、お母様の病気や状況により自分の母乳をあげられない場合には、人工乳よりも母乳バンクから提供されるドナー母乳を優先して与えるように勧告しています。 その理由は、感染症や未熟な赤ちゃんがかかりやすい腸や眼や肺の病気や感染から赤ちゃんを守ってくれること、人工乳よりも長期的な成長や発達もよいこと、などです。 特に壊死性腸炎は発症すると死亡率の高い腸の病気ですが、母乳栄養児では人工栄養児の半分の発生率であること、そして母乳をあげ始める時期が早いほうが発生率・死亡率が低いことが分かっています。
 お母様の母乳が出るようになるまでの間のつなぎとしてドナー母乳を与えることができます。未知の病原体が入っている可能性は完全には否定できませんが、殺菌処理を行っており、現状ではもっとも安全なミルクと考えています。 ドナー母乳は与えたくないというお母様もいらっしゃることと思います。その場合はこれまで通りの栄養方法で対応します。

§2 特殊な検査

気管支ファイバースコピー 呼吸器科

声門から肺にかけての空気の通り道を気管・気管支といいます。赤ちゃんの呼吸が苦しく気管・気管支の通り道が狭い(気管・気管支狭窄、気管・気管支軟化、気道異物)と考えられるときに、太さや形がどのようになっているのか、異物が入っていないかを直接観察します。 ファイバースコープという太さ2mm程度のカメラを使います。検査中に嘔吐する危険があるので、検査の3時間前から絶食にして胃を空にして検査をします。検査結果はビデオで記録し、保護者の方にお見せします。呼吸器科や小児外科の先生と協力して行います。

喉頭ファイバー 耳鼻いんこう科

呼吸をするときにヒーヒー苦しそうな音がする(上気道狭窄)、ミルクをうまく飲めない(哺乳困難)、飲むときにむせる(嚥下障害、誤嚥)、などのときに、鼻や喉の奥がどのようになっているのかを直接観察します。 ファイバースコープという太さ2mm程度のカメラを使います。検査中に嘔吐する危険があるので、検査の3時間前から絶食にして胃を空にして検査をします。 検査結果はビデオで記録し、保護者の方にお見せします。当院では呼吸器科や耳鼻咽喉科の先生と協力して行います。

aEEG

aEEG(amplitude-integrated EEG)は、脳の機能をみる脳波の振幅の変化を圧縮して表示したもので、新生児けいれんや脳障害の早期診断、早期治療に役立ちます。

内視鏡

成人と同様に、細い管を胃や腸に入れて、直接腸の中を観察します。新生児の内視鏡検査をするときは、麻酔科の先生に全身麻酔をかけてもらい、消化器科の先生が行います。内視鏡前後の管理を新生児科で行います。

§3 新生児搬送

私たちの新生児搬送チームは、重症新生児も安全に搬送するために、専門的な新生児の知識と技術をもっています。当院への搬送中は、新生児科医師と看護師が協力して、新生児を綿密に監視しながら最良の新生児治療を提供します。 新生児搬送は、24時間365日いつでも可能です。新生児救急車には、高頻度振動換気が可能な人工呼吸器など新生児用の医療機器が完備されており、一酸化窒素吸入療法などの特殊な治療も可能です。 また、新生児搬送が2件以上重なった場合は、必要に応じて、小児用の救急車で行います。

小児用の救急車

§4 主な疾患

早産児、低出生体重児

生まれてくる赤ちゃんは、生まれたときの妊娠週数と体重で大きく分類されます。 早産児とは、正期産より前に生まれた赤ちゃんのことで、妊娠22週0日から36週6日までの間に生まれた場合に早産児となります。
低出生体重児とは、2500g未満で生まれた赤ちゃんのことで、その中でも1500g未満を極低出生体重児、1000g未満を超低出生体重児といいます。
日本では生まれてくる赤ちゃんの約5%が早産児、約10%が低出生体重児です。 早産児、低出生体重児は、各臓器(脳、眼、肺、腸、腎臓、骨など)が十分に成熟する前に生まれてくるため、出生直後から治療が必要となる場合があります。 また、退院後も成長、発達などを個々の状況に応じてフォローしていく必要があります。

無呼吸発作

早産児では、脳にある呼吸中枢が未熟なため、呼吸を止めてしまうことがあります。 早く生まれた赤ちゃんほど頻度は多く、在胎週数35週以上になると頻度が少なくなりますが、修正42週頃まで続くこともあり個人差があります。 治療としては、呼吸中枢を促す薬(カフェインなど)や酸素投与、鼻から持続的に圧をかけて呼吸をサポートする機械などを用います。

未熟児貧血

早産児は、[1]エリスロポエチン(赤血球を作るように命令するたんぱく質)の産生能力が乏しいため赤血球をたくさん作ることができない、[2]赤血球の寿命が短い、[3]採血が多い、 などの理由から、出生後しばらくして貧血がみられるようになります。この貧血のことを未熟児貧血と言います。 症状として、脈が速い、体重が増えない、無呼吸発作、などがみられることがあります。治療は、高度な貧血や症状がみられる場合には、赤血球の輸血をします。 しかし、できる限り輸血を避けるために、貧血の進行が見られたら予防的に、エリスロポエチン製剤の皮下注射や血液の材料となる鉄の補充を行います。

未熟児骨減少症

以前は未熟児くる病と言われていました。早産児は骨の主な成分であるCa(カルシウム)やP(リン)の不足が起こりやすく、それにより骨塩量が低下し、骨が弱く折れやすくなったり変形したりします。 これを防ぐために、生後早期からCaやPの入った輸液をしたり、通常の母乳や人工乳よりも多くのCaやPが含まれている母乳強化パウダーや低出生体重児用ミルクを用いたりします。 それでも不足してしまう場合には、CaやP、ビタミンDの内服をします。

呼吸窮迫症候群

早産児の赤ちゃんで最も多い呼吸障害です。赤ちゃんの肺は生まれてくるまでしぼんだ風船のようになっていますが、呼吸が始まると空気を取り込んで膨らみます。 その膨らんだ状態を維持するのがサーファクタントという物質の役割です。サーファクタントは妊娠24週頃から肺で作られ始めますが。妊娠34週頃までは不十分です。 サーファクタントが不足した状態では、肺を十分に膨らませることができず、呼吸が苦しくなります。治療としては、気管挿管を行い、人工肺サーファクタントを投与します。 その後、人工呼吸器管理が必要となることがあります。

新生児一過性多呼吸

赤ちゃんに最も多い呼吸障害です。赤ちゃんの肺は生まれてくるまで肺水という液体で満たされています。 陣痛、分娩に伴い肺水は排出、吸収され、呼吸が始まると肺水はどんどん吸収され、空気と入れ替わります。 この肺水の排出、吸収が遅れると、肺での酸素と二酸化炭素の交換が十分にできず呼吸が苦しくなります。 早産児や陣痛のない予定帝王切開ではこのような状況が起こりえます。治療としては、数日の酸素投与で呼吸状態は良くなりますが、人工呼吸器管理が必要なこともあります。

胎便吸引症候群

赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるときに、低酸素状態にさらされると、腸の運動が活発になり、羊水内に胎便を排泄することがあります。 赤ちゃんが胎便を吸い込んだ場合、胎便が空気の通り道をふさいだり、肺に炎症を起こしたりします。それにより肺炎になったり、肺が破れたりして、呼吸が苦しくなります。 胎便吸引症候群は排便反射が確立する妊娠36週以降に発生し、特に妊娠42週以降は起こしやすいとされています。 治療としては、酸素投与や気管挿管、人工呼吸器管理、人工肺サーファクタント投与などがあります。さらに重症度が高くなると人工心肺が必要になることがあります。

気胸・縦隔気腫(空気漏出症候群)

風船を膨らますには最初に高い圧が必要です。赤ちゃんの肺も生まれて初めての呼吸で肺水をどかし空気で膨らませるためには、高い圧が必要です。 そのため出生直後にかかる自発呼吸の圧は高く、肺胞や気管支の壁が破れて空気が外に漏れてしまうことがあります。生直後に呼吸を確立させるための人工呼吸でも破れてしまうことがあります。 何らかの原因で空気の入りやすい肺胞と、入りづらい肺胞ができてしまい、入りやすい肺胞にどんどん空気が入りすぎて破れることもあります。 新生児一過性多呼吸、呼吸窮症候群や胎便吸引症候群に伴うこともあります。肺の外に漏れた空気が肺を圧迫し、さらに進行すると肺が縮んでしまい呼吸が苦しくなることもありますが、多くの場合は自然に治癒します。 空気の漏れる場所により間質性肺気腫、縦隔気腫、気胸、皮下気腫などに分類されます。漏れた空気の量が多ければ胸壁に管を留置し吸引することにより肺を膨らませます(胸腔ドレナージといいます)。人工呼吸器管理や鎮痛鎮静剤も必要な場合があります。

慢性肺障害(気管支肺異形成症)

早産・低出生体重児において、酸素投与を必要とするような呼吸窮迫症状(低酸素、多呼吸、呼吸苦、など)が日齢28を超えて続くものを慢性肺疾患と言います。 子宮内感染、長期間の人工換気、高い濃度の酸素投与、などがリスク因子です。退院した後も自宅で酸素を必要とする在宅酸素療法を必要とする場合もありますが、それでも多くの児は1歳までに酸素を中止できます。 退院後は肺炎や気管支炎を繰り返したり、気管支喘息になりやすかったり、など呼吸器系に影響があります。また、発達に影響を与えることもあります。 中でも修正36週になったときに高い濃度の酸素が必要な重症慢性肺疾患では、それらの可能性がさらに高くなります。

頭蓋内出血

主に早産児に起こる脳の中の出血です。超音波検査やCT、MRI検査で診断します。脳の中には脳脊髄液という液体がたまっている「脳室」があります。 早産児の脳室周囲には上衣下胚層という血管がたくさんある未熟な組織があります。この上衣下胚層はストレスや循環動態の変動などにより出血しやすく、その結果脳室内に血液が貯まります。 症状は、出血の程度により様々です。無症状から、けいれんや意識障害を起こすものもあります。多量の出血の場合は生命にかかわることもあります。 出血の50%は生後24時間以内に起こり、90%は生後72時間以内に発症しています。軽度の出血であれば予後に影響はありませんが、重度の場合は後遺症につながることがあります。 また、重度の脳室内出血の場合には、脳脊髄液の流れに影響をきたし、出血後水頭症(脳室に液体がたまり周囲の脳を圧迫する状態)を合併することがあります。 出血後水頭症を発症すると、脳室シャント術などの脳神経外科による手術が必要となる場合があります。

脳室周囲白質軟化症

主に早産児に起こる脳の病気です。超音波検査やMRI検査で診断されます。脳の中には脳脊髄液という液体がたまっている「脳室」があり、その周囲には「白質」という組織があります。 この白質には、主に手足を動かす神経が通っています。早産児では脳の中でも特にこの部位がダメージを受けやすくなっています。 軟化症とは、脳の組織がダメージを受けた結果、溶けてなくなってしまう状態を指しますが、程度としてはより軽い白質の障害までも含みます。 脳室周囲白質軟化症では、脳室周囲の白質がダメージを受けることにより、運動機能の障害(重度の場合は麻痺)を起こす可能性があります。 特に脳室に近い部位には下肢に行く神経が通っているため、運動機能の障害は下肢に多くみられます。そのほか知的障害やてんかん(けいれん)を合併することもあります。
脳室周囲白質軟化症に関しては、様々なリスク因子は分かってきていますが、発症を予測することは困難です。そのため、早産児では定期的に超音波検査を行い早期発見に努めています。 また、現在のところ有効な治療法はありませんので、早期に発見し、運動療法などのリハビリテーションを行うことにより発達を促します。

新生児仮死

出生後に、呼吸や循環が不十分で、低酸素や低血圧となった新生児を新生児仮死といいます。呼吸や循環をサポートするために、人工呼吸器、酸素、心臓の動きをよくする薬、などの治療を必要とします。 中等度から重症の新生児仮死には、低体温療法(33.5℃、72時間)を行うことで、脳へのダメージが軽減される可能性があります。

新生児遷延性肺高血圧症

赤ちゃんがお腹の中にいるときは生理的に肺高血圧の状態で、肺に血液が流れにくくなっています。出生後、強く泣いたり、たくさん酸素を吸ったりすることで、肺高血圧は改善して、肺に血液が流れていきます。 しかし、泣かなかったり、低酸素の状態が続いたりすることで、肺高血圧が改善せず、おなかの中の時と同じ肺高血圧の状態が続いて(遷延)、低酸素になることを新生児遷延性肺高血圧症と言います。 高濃度の酸素、人工呼吸器、鎮静剤を使うことでほとんどが改善します。これらの治療で効果がないときは、一酸化窒素吸入療法を、それでも効果がないときは、体外式膜型人工肺 (ECMO)を行います。

動脈管開存症

動脈管開存症とは、生後数日で閉鎖するはずの動脈管が開いたままになり、心不全を来たす病気です。動脈管は全身に血液を送り出す大動脈と、肺に血液を送り出す肺動脈をつなぐ血管です。 胎盤から酸素を受け取る胎児にとっては大切な血管ですが、出生後は肺で酸素を受け取るため不要になり、自然に閉鎖します。 出生後も動脈管が大きく開いていると、多量の血液が肺に流れるため呼吸困難や肺出血を起こします。また全身に十分な血液を送りにくくなるため、心臓は疲れて心不全となります。 在胎週数が短いほど発症率は高くなります。また早産児では一度動脈管が閉じても、感染症や呼吸不全などで再開通することがあります。治療にはインドメタシンやイブプロフェンなどの薬物療法を行います。 薬物療法で効果が得られなければ手術になります。

晩期循環不全

晩期循環不全とは、出生直後の呼吸循環が不安定な時期を過ぎた後に、感染症や動脈管開存症などの明らかな原因はないのに突然発症する、早産児に特有の循環不全です。 血圧の低下、尿量の減少、浮腫、低ナトリウム血症などをきたします。在胎週数が短く、出生体重が小さいほど発症率は高くなります。 晩期循環不全の病態はまだ解明されていませんが、何らかの原因で相対的に副腎ステロイドホルモンが不足することが一因と言われています。 治療にはステロイドホルモン投与、容量負荷、カテコラミンなど昇圧薬投与を行います。

GBS(B群溶血性連鎖球菌)感染症

GBS(B群溶血性連鎖球菌)は、生後早期に多く見られる、赤ちゃんに感染する細菌の1つです。
いくつかのタイプがあり、そのタイプによって重症度が変わってっきます。 主には、肺炎、菌血症(血液の中に菌が侵入した状態)を発症しますが、抗菌薬でしっかり治療をすればほとんど問題ありません。 しかし、髄膜炎(脳や脊髄の周囲にある髄液に菌が侵入した状態)や水頭症を発症すると、後遺症が残ることがあります。 また、あまり多くはありませんが、生後数週間でGBS感染症を発症することもあります。このときも同様に抗菌薬による適切な治療を必要とします。

先天性サイトメガロウイルス感染症

多くが妊娠中のサイトメガロウイルス初感染が原因と言われています。胎児発育遅延にともなう低出生体重、肝脾腫、脳室内石灰化、脳室拡大、肝機能異常、血小板減少、網膜炎、けいれんなどがみられます。 出生時に症状がなくても、その後、難聴や発達の遅れ、てんかんなど、後から症状は出現することがあります。主に、生後3週間までの出生児の尿からサイトメガロウイルスが検出(PCR法陽性)されることで診断されます。 抗ウイルス剤の注射や内服で治療が行われますが、治療効果があまりないこともあります。

先天性トキソプラズマ感染症

多くが妊娠中のトキソプラズマ初感染が原因と言われています。胎児発育遅延にともなう低出生体重、肝脾腫、脳内石灰化、水頭症、肝機能異常、血小板減少、網脈絡膜炎、てんかんなどの症状があり、 出生時に症状がなくても、その後視力障害や発達の遅れが出現することがあります。トキソプラズマ治療薬を内服することもありますが、その効果は一定ではありません。

先天性風疹症候群

風疹ウイルスに免疫のない女性が妊娠初期に初感染して、母体血液や胎盤を通じて胎児にも感染しておこります。 心臓病、難聴、白内障が3大症状ですが、その他に、肝脾腫、血小板減少、発達や発育の遅れがみられることがあります。 出生児の唾液や喉、血液から風疹ウイルスが検出(PCR法陽性)されることで診断されます。心臓病や白内障の治療、難聴に対する補聴器装着など、出現した症状に対して治療を行っていきます。

先天性結核

妊娠末期に結核に感染した母体から、血液または羊水を介して結核菌が胎児に移行することで発症します。 先天性結核が疑われる新生児は、空気感染対策として陰圧個室管理をおこない、胃液の塗抹と抗酸菌培養3日間などの結核に対する検査をします。 検査終了後、イソニアジドなどの内服を開始します。保健所と連携しながら治療や隔離管理を進めていきます。

ビタミンK欠乏症出血症

発症する時期によって、出生後 24 時間以内、24 時間から7日まで、2週から6か月までの3タイプがあります。 「24 時間から 7 日まで」、とくに生後2~4日で起こることが多いですが、妊娠中にワルファリンや抗てんかん薬などのお薬を内服していた母親から生まれた新生児では、 「出生後 24 時間以内」に発症することもあります。皮膚と消化管から出血することが多く、出血のあと、注射・採血などで皮膚を刺した部分の止血困難、血を吐く、血便、などもみられます。 ]「2 週から 6 か月まで」にみられるビタミン欠乏性出血症は、8割以上に頭蓋内出血がみられ大きな後遺症を残します。 その予防として、当科では生後3か月まで1週間に1回ケイツーシロップを予防的に内服してもらっています。

胎便関連性腸閉塞症

赤ちゃんは、お母さんのお腹の中にいる胎児期には、胎便(胎児期の便)が腸管内に貯まっています。 赤ちゃんの多くは、出生後24時間以内に胎便が出ますが、低出生体重児や子宮内胎児発育遅延のお子さんは腸管機能が未熟なため、胎便が出るのに時間がかかることがあります。 生まれてから胎便が長時間腸管内に残っていると、胎便はどんどん硬くなり、より出にくくなってしまいます。それと同時に、硬くなった胎便が腸管を塞いでしまい、胎便関連性腸閉塞という状態を引き起こします。 腸閉塞になると、腸管内のガスや便が通過できなくなるため、お腹が張ったり、腸液が逆流して緑色のものを吐いたりします。 診断には、肛門から造影剤を注入してレントゲン検査を行い、腸管内に胎便が貯留していることを確認する注腸造影検査が有効です。 注腸造影検査は治療効果もあり、注腸造影により便が軟らかくなり、詰まっていた胎便が出ます。胎便が出れば症状は消失して治ります。 しかし、お腹の張りが強い場合は、腸管に穴があいて腸管穿孔を起こすことがあります。また、腸の未熟性が強い場合は、注腸造影によっても腸穿孔を起こすことがあります。症状が改善するまで注意が必要です。

黄疸

新生児黄疸はほとんどすべての新生児に起こります。生理的黄疸であれば、新生児にとって害になることはありません。 しかし、生後24時間以内に出現する黄疸(早発黄疸)や生後2週間以降に出現する黄疸(遷延性黄疸)、黄疸の原因である血液中のビリルビン値が異常に高い場合は、治療を行う必要があります。 過剰なビリルビンには毒性があり、無治療で放置すると「核黄疸」という病気に移行する危険性があります。 核黄疸は、アテトーゼ型脳性麻痺、難聴、知的障害などの神経学的後障害を起こす可能性があります。治療には、光療法、交換輸血、アルブミンや免疫グロブリンの静注などがあります。

閉塞性黄疸

黄疸の原因である血液中のビリルビン(間接ビリルビン)は胆汁に出て、胆汁の流れにのって尿や便から体の外に排泄されます。 しかし、この胆汁の排泄が阻害される(閉塞される)と、排泄されるはずであった水溶性のビリルビン(直接ビリルビン)が血液中に再び吸収されて、黄疸が高くなります。 これを閉塞性黄疸と言います。くすんだ黄色の皮膚色、便の色が薄い、などの症状がみられますが、ときに脂肪成分の吸収障害から脂溶性ビタミンであるビタミンK欠乏性の出血が起こることがあり、注意が必要です。 新生児で考えられる原因には、お腹の調子が悪く母乳やミルクが摂取できていない、胆管・胆嚢の生まれつきの病気(胆道閉鎖症、胆管拡張症、など)、生まれつき胆汁の通り道が細い(胆管の低形成や減少)、などがあります。

初期嘔吐

新生児に見られる生理的な嘔吐のことです。一般に生後数時間から24時間以内に始まり2-3日で消失する一時的なもので、全身状態は良好に保たれています。 生後、直接授乳などを早めに行うと消化管運動が促されて初期嘔吐が減るといわれています。初期嘔吐と似たような症状で発症する他の疾患もありますので他に症状がないかを確認するなどの注意は必要です。

低血糖

出生とともに母体からの糖供給がなくなり、新生児は生後2-4時間に急速な血糖値の低下をきたします。 ]同時に血糖値を調節する様々なホルモンが働き、血糖値は生後72時間までに回復します。母が糖尿病である児や早産児、胎児期の発育が悪かった児では生後早期の低血糖が高度となりやすく、また、呼吸障害や感染症などで全身状態が悪い児も低血糖をきたしやすくなります。 一方、持続する低血糖では、先天性高インスリン血症などの基礎疾患を考える必要があります。高度・長時間の低血糖により痙攣や無呼吸発作、永続的な中枢神経障害をきたすことがあり、見つけたらすぐに糖輸液などの治療を行います。

合併症があるまたは内服薬のある母体から出生した新生児・離脱症候群

抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安剤・睡眠導入剤、抗てんかん薬などのお薬を内服していると、出生後の新生児に、呼吸苦、血圧低下、過敏、痙攣、筋緊張低下、無呼吸などの症状が出生直後から数日の間にみられることがあります(離脱症候群)。 薬の種類や内服している量によって違いますが、しばらく経過観察しなければいないことがあります。多くの薬は問題ありませんが、妊娠中の内服薬の継続の有無については、主治医とよく相談しましょう。 全身性エリテマトーデス(SLE)や甲状腺疾患などの自己免疫疾患を合併している母体では、母体にある抗体の胎児への移行や内服薬の影響により、新生児に症状が見られる場合があります。 出生後に、血液検査やモニター管理、治療が必要なこともあります。
遺伝する可能性のある疾患を合併されている場合は、出生前から新生児科、産科、遺伝科などが関わり、情報提供を行なっています。 出生後、新生児にどのようなリスクがあるのか、検査や治療はどのようなものかなど、様々な状況に応じて、ご家族と話し合いをしていきます。

早産児の発達フォロー

当院もしくは他院のNICU/GCUを退院した児を対象とした、発達をフォローアップする外来です。 主に早産児、低出生体重児の発達、発育のフォローアップを就学前後まで継続的に行っています。 胎児期、新生児期に合併症や後遺症のある児に関しては、それぞれの専門科外来と一緒にフォローアップをします。 ]合併症や後遺症をもった児も含め、子どもはみんな発育し、発達していきます。 定期健診では、成長発育の評価、発達障害の評価を行い、適切な時期に介入してアドバイスをしています。 特に、発達障害に関しては、臨床心理士と発達の評価を行いながら必要に応じて療育サポートと連携します。 ]地域の健診は4か月、1歳半、3歳健診があります。当科での発達健診も地域の健診と合わせて行っていきます。 就学前には就学相談に必要な評価を行い、よりよい学校生活が送れるようにサポートします。

§5 専門診療科が併診する主な疾患

当科で全身管理をおこない、専門診療科と情報を共有しながら診療を進めていきます。以下は、これまで当科と専門診療科と併診で診療した疾患の一部です。

感染症科

細菌感染症(B群溶血性連鎖球菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、多耐性菌、など)、真菌感染症(カンジダ、など)、 先天性感染症(トキソプラズマ、サイトメガロウイルス、風疹、ヘルペス、結核、など)、ウイルス感染症、院内感染対策、など

アレルギー科

ミルクアレルギー

循環器科 心臓血管外科

先天性心疾患(心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、房室中隔欠損症、左心低形成、完全大血管転位、両大血管右室起始症、大動脈縮窄症、総肺静脈還流異常、総動脈幹症、など)、動脈管開存症(結紮術、クリッピング)、不整脈(完全房室ブロック、など)、新生児川崎病、など

内分泌・代謝科

甲状腺疾患(機能亢進症・低下症)、副腎皮質過形成、性分化異常、尿道下裂、高インスリン性低血糖、一過性高血糖、下垂体機能不全、など

血液・腫瘍科

白血病、一過性骨髄異常増殖症、若年性骨髄単球性白血病、同種免疫性血小板減少症、血友病、神経芽細胞腫、仙尾部奇形腫、リンパ管腫、など

腎臓・リウマチ膠原病科

先天性ネフローゼ症候群、ポッター症候群、腎静脈血栓症、など

神経内科

難治性痙攣、低酸素性虚血性脳症、脳形成異常、先天性筋疾患、など

呼吸器科結核科

先天性結核、気管狭窄症、など

消化器科

ヒルシュスプルング病、消化器機能不全、胃潰瘍、内視鏡、など

外科

頸部リンパ管腫、消化器(食道閉鎖、肥厚性幽門狭窄症、胃十二指腸潰瘍、十二指腸狭窄・閉鎖、小腸閉鎖、結腸閉鎖、鎖肛、壊死性腸炎、腸穿孔、限局性腸穿孔、腸回転異常症、腸重積症、胎便関連性腸閉塞症、など)、呼吸(先天性肺気道奇形、気管狭窄、気管切開、など)、横隔膜ヘルニア、食道裂孔ヘルニア、胆道閉鎖症、腹壁破裂、臍帯ヘルニア、尿膜管遺残、先天性仙尾部奇形腫、先天性神経芽腫、など

泌尿器科

先天性水腎症、尿道下裂、総排泄腔遺残、停留精巣、精巣捻転

整形外科

分娩外傷(鎖骨骨折、大腿骨折、Erb麻痺、など)、内反足、多発関節拘縮、多指症・合指症、など

形成外科

口唇口蓋裂、頭蓋骨縫合早期癒合症、多指症・合指症、血管腫、など

脳神経外科

二分脊椎(脊髄髄膜瘤、脊髄脂肪腫、脊髄係留症候群など)、水頭症(先天性水頭症、出血後水頭症、など)、キアリ奇形、脊髄空洞症、先天性脳腫瘍、頭蓋骨縫合早期癒合症、など

眼科

未熟児網膜症、眼瞼下垂、脈絡膜網膜炎、先天無虹彩、先天白内障、網膜芽細胞腫、ぶどう膜欠損、など

耳鼻咽喉科

難聴、喉頭軟化症、後鼻腔狭窄、側頸嚢胞、など

皮膚科(コンテンツは公開終了しました)

血管腫、色素失調症、一過性新生児膿疱黒皮症、先天性皮膚欠損症、など

臨床遺伝科

染色体疾患、単一遺伝子疾患、骨系統疾患、多発形態異常、など

§6 胎児診断

私たち胎児診療チームは、産婦人科(多摩総合医療センター)とともに、関連した専門診療科(外科・脳神経外科・形成外科・臨床遺伝科、など)、放射線科、新生児科、で診療しています。 胎児期にみつかった疾患について、出生前から検査や診断などを専門的な知識を持って話し合いながら進め、ご家族と一緒に赤ちゃんにとって最良の方針を相談して決めていきます。 ご紹介またはセカンドオピニオンは、主に多摩総合医療センターの産婦人科にお願いいたします。